柏木奈々緒の診療カルテ



 柏木心療内科クリニック。医師、柏木奈々緒。

 サイコロジーカウンセリング NANAO,K

そのクリニックの事は、噂だけは聞かされていたが、まさか自分がここにくるなんて夢にも思っちゃいなかった。言うまでもないけれど、僕自身は、こんなものに頼らなくてはならないほど、僕の意志は弱くはないんだ。そう、、、婚約者の事さえなかったら、、、婚約者の、、、、いや、なんでもない、、、

このクリニックに来てみたのも、一種の社会勉強みたいなもの・・・そう、、
これは 社会勉強なのさ。

「国島さん、こちらへどうぞ。」

「あ、はい、、、」

「きょうは どうされました?」

 ありふれた白衣の下に、黒いブラウスとベージュのミニスカート姿のその女性は、白衣の胸に「Dr柏木奈々緒}と記載されたネームプレートから、ここの院長である事が すぐに解った。気のせいか、この女医さんの全身からは、ちょっと神秘的でほんの少し危険な香のする・・・・少し神経過敏かな・・・


「あの、、、実は、、僕の婚約者のコトなんですが、香山みどり、と言いますが、」

「あら、、香山さんって、、、たしか、、、ふーん、、それで?」

香山みどり。それは僕の婚約者、ちょっとだけ年上。年上と言っても25歳を少
し過ぎたばかりの、薄い鼻筋が薄幸な美少女のような雰囲気を醸し出して、魅力的なプロポーションと素晴しい脚線を誇っている女性なんだ。

ところが彼女、婚約してからすぐに、態度がおかしくなった。それまでは会社の
帰りに僕が誘えば必ず予定を空けてくれていたのに、婚約後、そのサイクルが変
わって断る事が出て来た。しかも その断わり文句が、


「ごめんなさい、今日は先約があって、あるトコロに予約しちゃったの。。。」

彼女は 僕にそう言うだけで、どこの何に予約したのか、そしてその後の予定
は、、いくら僕が質問しても、笑ってはぐらかすだけ・・・意を決した僕は ある
日、彼女を尾行した・・・

そして今、僕は 彼女が「予約した」場所に来てしまった。。。。

「ふふふ、、あなたね、彼女が話してくれる婚約者さんって。好きなのね、、彼女のコト だから ここに」

「え。あっ、ええ、、、いえ、その」

「隠さなくとも良いですわ。彼女チャーミングな女性だから心配よね、でも残念だけど患者さんのプライバシーは本人の承諾なしに、他の人に教える訳にはいかないの。秘守義務ってご存知よね。」

「、、、はい、、それは」

「そんなにガッカリされちゃうと なんだか可哀相ね。良いわ私があれこれ話す訳に
は いかないけれど、でも、」

「でも?」

「婚約者である あなた自身が直接 知るのなら 何も問題はないの。あなた その勇気が、あるかしら?」

Dr柏木のその質問に 僕は即座にうなづいていた。

その瞬間、とっても不思議なことに、彼女の瞳の色が変わった、なにか、いたず
らを考えついたような コケティッシュな微笑みが Dr柏木の顔いっぱいに広がっ
た。
 
Dr柏木が言うには、僕の精神状態は、子供の頃からの色々なトラウマが入り交
じっているらしい(無自覚らコンプレックスっていうそうだ)そんな心をほって、おくと大人にまともな結婚生活がおくれる保証もないらしい。じゃ、これって僕の治療の一環なんだろうか?

「それじゃあ、明後日の土曜日、3時に、また来てください。準備しておきますからね。」

「はい」


 Dr柏木はベージュのスカートの下から伸びた、黒のストッキングを優雅にまとった脚を組みなおしながら、そう言った。その一瞬、彼女の眼に、肉食獣のように妖しい光りが走ったように見えた

その日、連休だと言うのに、僕の婚約者は例によって「先約」があるから、、と僕の誘いを断った。でも別にいいさ。僕は今日こそ、婚約者の「香山みどり」の秘密を知る事が出来るんだから。


午後3時の少し前、僕は「柏木クリニック」についてしまったが、女医 柏木奈々緒は別段 嫌な顔もせずに僕を診察室に招き入れてくれた。

「ご苦労様、それじゃさっそくですが、シャワーを浴びて下さい。シャワールームは廊下の突き当たり、脱いだものは、ロッカーに保管しておいて下さいね。帰宅までは必要はありませんから。」

 診察室を出て、柔らかな間接照明に照らされた廊下を何歩も歩かない場所に、そのシャワールームはあった。僕はDr柏木に指示された通りに、シャワーを浴びた。しかし、婚約者のプライバシーを知るのに、どうしてシャワーまで浴びる必要があったのか、僕は少し不思議になっていた。


「ピンコーン、、ピンコーン、、国島さん、シャワーが済んだらそこにあるバスローブを着て、隣の部屋へどうぞ。」

ユニットシャワーのどこかに埋め込まれているんだろう マイクから女性の声がそう僕に告げた。僕が言われるままに、隣の部屋に入っていくと、そこはいつもの
診療室と変わらないレイアウトの部屋だった。

落ち着いて室内を見回すと、壁側のパネルに 僕の婚約者の写真が大きなサイズで
何枚か張ってあるじゃないか。そこに貼ってあったのは、僕が見慣れた20歳代後半の魅力的な女性の(婚約者 香山みどり)数枚の大判サイズの写真と・・・レントゲン!写真だった。

 写真の中で微笑む彼女は、やや茶色の豊かな髪を大きいウエーブのパーマで決めている、、、って事は、これは最近撮影したものだ。後ろに流していた。彼女の顔は理知的では あるが けっして冷たい印象ではない、ただ薄幸な印象がただよっているのは仕方がなかった。

中で待っていたDr柏木か゜何かのスイッチを押した。
 
突然、部屋の壁の一部が横にスライドして開き、その中の様子があきらかになっ
た。まるで隠し部屋のような、その内部は埋め込み式のウオークインクローゼットになっていて、片側は、収納クローク、反対側は、壁いっぱいに伸びたカーテンで仕切られていた。


「それでは診察をはじめます。これはあくまでも 貴方のカウンセリングであって、
そのプロセスで、貴方が自分以外の人の何かを知ったとしても、けして他言しない
事。いいですね!」

僕は、Dr柏木のその声に、黙ってうなづいた。
 
Dr柏木は そのクローゼットから、衣装ロッドにかけられている不思議な物を何点か持って来た。彼女は、それを診療ベッドの上に置いた。一見すると、それは最初 なにやら大きなペラペラな半透明の肌色の衣装のように見えた。

それは見方によっては女性の下着の様にも見えたし衣装のようでもあったが、女
性の体型に合わせて立体的に形成された胸のふくらみや 腰のくびれ等は、ボディ
スーツと言うよりは あたかも誰か、実在の女性の皮膚を綺麗に剥がしてきたような
リアルな感じもした。
 
「このラテックススーツはね、最新のテクノロジーでできた高分子化合メモリープラスチックを使った「人工皮膚」なの。怪我をした人の皮膚とか、肉体のパーツなんかを人工的に作り出す時に使う材質の最新タイプってトコロね。ほら!よく出来てるでしょう」

「はい」

「じゃあ、今から、国島さんに、これを着てもらいます。」

「え?ぼ、、僕が、、これを、、ですか、、、」

「国島さんの方が身長は高いのよね、、4センチだけど・・・まあ、一般的な男性と比較したら小柄な方よね。婚約者の香山みどりさんも、スタイルが良いんで背が高く見えるから解らないとは思いますけど。」

「・・・はあ・・・」

「ふふふ、たとえ短時間とは言っても、自分の体になるんですから、良く見ておいたら良いわ。いろんなトコロも・・・・」

人間の皮膚・・・じゃない。それは、ラテックス・・・・・の衣装・・・・。恐
る恐る触れてみると、腰からお尻へのラインのくびれ、背骨のラインや、胴の外側への女性的筋肉、その上に、小さなメロンのように一対の本物そっくりのバストと乳首、おへそ、などそれはどう見ても、まさに生きている女性の皮膚の膚触りと、刻銘に成形された肉のフォルムがあった。

しかも、その股間には、表面からは解らないが、皮膚と同じ素材の、だが厚みと巾を持って交差して編み込まれた繊維によって、生きているようなデンジャラスホールが作られ、その周辺と内部には、柔らかい肉のひだ をリアルに刻印した蜜壷まで持っていた。

 Dr柏木は、卓上のインターコムで看護婦に何かを持ってくるように命じると、僕の方に向き直った。その瞳には、まぎれもなく あの獲物を狙う 肉食獣のような 光りが走っていた。


「良く出来ているでしょ、それ。その「女體(おんな)」をこれから 貴方に着ても
らいます貴方は表面上は「女體」になるの。良いわね。」

「お待たせしました。」

「はい、ありがとう、それじゃ貴女も手伝ってちょうだいな。」

「国島さん、じゃあ、まず足からね。穿きやすいように、始めに看護婦さんがパウ
ダーふりますからね。」

「じゃあ、そのバスローブも脱いで下さい。」

「え?」

「あら、何も恥ずかしくはないでしょ、ここは病院なんですよ。それに婚約者さんの事知りたくないんですか?」
 
彼女達の言葉に、僕は一瞬とまどった。でも今、僕がこの手で触れた感触を全身に感じたら、、、僕の下半身にあの蜜壷が、、、僕は婚約者の事などよりも、そちらへの好奇心に強く心をひかれて、バスローブを脱いでいた。

「・・・わかりました・・・」

 僕は急速に、口の中が乾いていく感情を覚えた。なぜだろう、腰のあたりにぞわぞわと走る鳥肌の様な感触・・・予感と不安が入り交じる。なにが起こるのかわからない、いや、わかっている?

 彼女は 無表情な看護婦が、僕の下半身から全身にパウターをふっていくのを横目
で見ながら、そのペラペラな衣装をつまんで僕にかざしてみせた。

それは健康的な肌色をしていて、破れそうな程、薄いながらも、パンティストッ
キングのような透明感はほとんどない。胴体の四隅から、四本の長い筒状の突起が出ているのは手足なのだろう。

髪の毛ほどのラインに、Dr柏木の指先がなぞったと思ったら、そこからスススッと裂けるように開いていく。最初は破いたのかと思ったが、どうやら超小型のフィルムジッパーらしいものが、あるらしく彼女はそのジッパーを開けたにすぎなかった。

「それじゃまず、片方ずつ履きます。片足づつ慌てずにそっと ここに差し込んで下
さい。」

 僕は、看護婦に言われるままに、ラテックススーツの脚らしい突起に爪先を入れ
た。パウダーのお陰で、僕の足は筒状の先端まで苦もなく滑り込み、5本に分かれた指の位置のそれぞれにスムーズに飲み込まれていった。

看護婦は、まったくの無表情で、反対側も同じように僕の脚に丁寧に履かせてい
く。そのラテックススーツの感触は、何か服を着る、と言う感触ではなく、最初は実に頼りな気で、次第に僕の脚に圧着してくる・・・そうまるで 新しい皮膚をもう一枚まとっていくような、そんな感じだった。

そのスーツに使われているメモリープラスチックには、かなりの伸縮性があるらしいけれど、その第二の皮膚は、時間とともに僕の脚をぴったりと包んでいった。最初はヒヤッと冷たく、次第に僕の体温を吸収して、ヌルっとした 生あたたかいような曖昧な感触が僕の下半身を飲み込んでいく。

 僕の両脚と下腹部の下端まで、ラテックススーツに飲み込まれた時、

「はい国島さん、その腰のもの、今、看護婦さんが沈静消毒しますからね。そのままにしていてよ。」
 
Dr柏木のその事務的な言葉は、僕の心をもみくちゃにした。なぜなら僕の性の分身は、かなり、、ううん、このTPOにお構いなく、恥ずかしい程、固く大きくなっていたからだ。


「椅子に腰掛けて下さい。性病などに感染していなければ、染みる事はありませ
ん。」

無表情・・・・ そんな看護婦の対応の方がむしろ 辛い。。。僕は看護婦がプラスチックのケースからピンセットで摘まんで取り出した薬品臭のする脱脂綿で、エレクトした僕の分身を消毒されながら、つくづく そう思った。

「先生、沈静、始まりました。」

「それじゃ 進めて下さい。グズグスしていたら、国島さん、若いからすぐに元どお
りになっちゃうわよ。ふふっ。」

 「沈静消毒」」、、、それは僕の若々しくそそりたった男性部分を瞬時にして、痛い程の充血から解放する効果があった。その体の一部は、使い捨てのゴム手袋を嵌めた看護婦の手で、事務的に、肛門の方に折りたたまれ、その下半身がラテックススーツの股間部の内側に収納され、引き上げられると、外見的は、魅力的で、成熟した女の龍起に 跡形もなく埋もれていた。

  僕の新しい腰はわずかな筋肉の緩みもない、成熟して魅力的な女體を忠実に再現
していた。

「ふう〜先生、下半身、終わりました、点検お願いします。」

「ふふふ、国島さん、大丈夫かしら?まだ半分なのよ。」

「・・・・は、、い、、、、」

 僕の男性的な腰と平らな おなかのあたりで、その女性の胴のラテックススーツを
左右にスライドさせて調節される度に、僕の大人しくなった筈の股間に微妙な刺激が暴れまわる。。。看護婦は今度は、その女體衣装を、調節して、上に動かしながら、スーツに付いている胸の位置を調整している。僕の皮膚は、その上から女性の皮膚をそっくり移植したかのように隠されていく。

くにゃくにゃとした頼りない感じ。肩にかかる質感と重さ、僕の胸の上には今、そんな飽満な女性の胸に変身していた。そのイミテーションの乳房の中には、ゲル状のものでも注入されているだろう 僕がわずかに身悶えするだけで柔らかくゆれる。

「次は 手ね、サイズはこれでいいでしょ」
 
Dr柏木は次に、女性の手そっくりに形成された一組の薄いラテックス手袋を取り出すと、それを僕の両手にはめた。 まるで生きているような女性の手が、僕の意志でヒラヒラと舞い踊り、爪の先に着色されたマニキュアが鮮やかだった。僕の手は、完全に女性のしなやかな手に変わってしまった。

「ふふふっ どう?自分の全身が女體になっていく感想は?」

「えっ、、その こんなこと どうして・・・」

「嫌なら無理にしなくても結構よ!わたしは治療の一環として やっているだけで、
そんな変態みたいな恰好している男性なんか 仕事でなかったら誰がみたいもんです
か!」

「ひっ!うっうう」

「そんなにお嫌なら ハイ、脱ぎましょう!そんな物、さっさと全部 脱ぎ捨ててし
まったら良いわ。あくまで 自分の意志なんですもの。看護婦さん、国島さんのスー
ツ脱がせてあげてください。カウンセリングは今日で打ちきりです。」

「そ、、そんな、、、ごめんなさい、、」

「おや?国島さん、急にどうしたのかしら?無理しなくて良いんですよ。そんなダッチワイフみたいな恰好をさせられたら、普通の男性なら怒って当然なんですから。」

「い、、、いいえ、、、そ、、そんなこと、、ないです、、」

「ええっ!嘘でしょう?だって、、イヤだわぁ、国島さん まさか そんなダッチワイフみたいな恰好が 本気でしたいんですか。。。わたし、信じられないわ。はっきりなさい!ダッチワイフになりたいのね!?」


「は、はい ダッチワイフになりたい です。。。」

「よろしいでしょ。貴方がそこまで望むなら治療をつづけましょう、ふふふ」

Dr柏木は、壁面キャビネットの一つを開いて、縦長のひとつの箱を取り出した。
彼女はそれをテーブルに載せてから、おもむろにふたを開けると、その中から何かを取り出した。現れたものは、頭部!、、、だけど 何か変だ・・そう その頭部には髪の毛がまったく生えていない、禿げた女性の頭部から首 そして肩甲骨の一部までモールドされた肩口だった。

 彼女は、その頭部に手を伸ばし、そこの頭部から後ろについていたプラスチックジッパーのタブを掴んで下から上に引き上げた。彼女はジッパーを全開にし
てから、台から取ると

「良いわね。もう 後戻り出来ないかも知れなくてよ。」

彼女は、そう僕に宣告すると、マスクのジッパーを両手でつかみ、それを大きく開けてから僕の頭にそれをかぶせはじめた。彼女は僕の髪の毛をマスクの空洞に、ぐいぐいっと押し込んでから、マスクにくっついている両耳をつかむと、ズイっと全体的に引っ張りマスクを僕の顔にぴったりと貼り付けた。

Dr柏木は、最後にそのラテックスマスクの肩を完全に僕の肩までフィットさせてから、彼女はシューーッと音を立てて、一気にジッパーを引き下げた。


僕の顔は とたんにピッタリとした圧迫感に包まれて、何か窮屈になったような気がした。もうこれで僕の全身で僕 本来の皮膚が露出している部分はほとんどなくなってしまった。

 それから彼女は、看護婦にいいつけてキャビネットから茶色のウイッグを受け取るとマスクを被った僕の頭にそれを被せた。
 
Dr柏木はそのウイッグを固定してから 楽しそうな表情で丹念にブラッシングを
ほどこすと、看護婦にむかって言った。

「メイクは貴女がしてあげて下さる?」

「・・・・はい、、、」

「目のまわりをメイクアップするのに、特殊メイクを応用してね。。瞳の周りの、マスクの途切れた輪郭の所で、そのラテックスマスクの色と僕自分の皮膚の色のバランスをコントロールしてあげるのがポイントよ。それをキチンと考慮したメイクが、どこでマスクが終わっていて、どこからが彼の本物の皮膚なのか見分けるのが、不可能になるの。」

「わかりました。特種メイクは「ラテックス770(ななお)仕様」でよろしいですね。」

無口でも、さすが女性だけあると僕は思った。看護婦の彼女は、あざやかでよどみない 手つきで、パテ状のファンデーションを伸ばすと、アイシャドー、ウエットタイプのアイライナーとマスカラ、そしてチークと、次々に僕の被るマスクの上に、実際の女性がするのと同じ手際で入念なメイクをほどこしてくれた。

仕上げの口紅の時、ルージュをすくった紅筆の先端が、僕の唇に近づいた時、思
わずキスを求める女性のように、自分から唇を突き出している事に気がついて、顔が真っ赤に火照っているのが自分で解った。

「思った通りね。それなら 完璧よ。はい、自分で見てごらんなさい。」

Dr柏木は、そう言って、僕に手鏡を差し出した。その鏡の中を覗き込んだ僕は声も出なかった。鏡のむこうからはラテックスのマスクとは思えない程の、、僕の良く知ってる女性、、、香山みどり、、、の顔が僕を不安そうに見つめていたんだ。

そんな僕に向かってDr柏木はイタズラっほく ほほ笑んだ。

「ほら、思った通りよ。良く似合っているわ。」

僕のまだ若々しい男の顔と輪郭は完全にラテックスマスクに隠されて見えなくなってしまっているが、落ち着いて良く見ると、それは僕の瞳以外を完璧に覆っていた。ただし瞳の部分だけは、やや大き目な穴を残されていたので、僕はマスクを被っているにもかかわらずいつもと同じように周りを見る事ができた。
 
でも、この柏木奈々緒って言う女医は、いったいどうやって このマスク、、いいやこのラテックススーツを手に入れたんだろう?僕はとんでもない事を想像していた。顔ですら、こんなに精密って事は・・・

そう!もしかしたら僕が今、身に付けている女體は、すべて実在する女性・・・香山みどりをコピーしたものだとしたら・・・あのリアルな女性自身も、このたおやかな胸もすべて・・・

 現実に、このマスクは、僕の婚約者の刻印を、僕の唇と鼻の上にもぴったりと隙なくフィットさせている。全体に薄い被膜だが、特に 瞳の周りはサランラップよりも薄いが弾力ある薄いラテックスでできており、僕の若い男性の顔を婚約者の香山みどりの顔に、そっくり取り替えてしまったんだから。

 細部にしても、驚く事ばかりだった。その肩部分の先端は、全身スーツにぴったりと重なりながら、違和感も不自然な段差もなく密着し、胴体とマスクの肩の部分の輪郭の境目は ほとんど分からない。

 少し高い鼻や年齢を反映した、わずかな脂肪もない ユデタマゴの様な肌の艶など
もすっかりコピーされ、婚約者の魅力的な特徴を完全に再現していた。


「ところで、いくらダッチワイフになりたいって言っても 素っ裸じゃねえ」

「え、きゃ!いやっ」

 僕、、いや、今はもう婚約者の 香山みどり に変装させられた僕は、急に恥ずかしくなって とっさに両手で胸を抱え込むと、無意識にそう叫んでいた。

「きゃ!は良かったわね。これは かなり重傷だわ。用意した物をこちらに。さぁ
ここはストリップ劇場じゃないんだから、それを身に着けて下さいな。」

看護婦は無言で、駕籠を抱えて来た。それは女性の衣類が入っていた

カタチばかりにデルタゾーンを隠すだけのビキニショーツ、女性の水蜜桃のような乳房をささえるブラジャー・・・・僕はそれを身に着けた。濃いブラウンのパンティストッキングに脚を通すと、そのパンティ部分をお腹の上まで引っ張り上げた。

黒いブラウスに手を通してボタンを留める時、胸の膨らみが嬉しかった。ブラウスのすそを、膝上丈のスカートの中に押し込んで調えると、足元に一足のハイヒールが用意された。

 僕はスカートとペアになったジャケットを着込んでから、ヒールに爪先を入れた。

「どうかしら?チャーミングな お嬢さん、ふふっ」


Dr柏木が、柔らかい声で話しかけてくれた。


僕は 少し照れながら 自分の穿いたスカートをちょっとずり上げてみた。婚約者の長い奇麗な脚があらわになった。


「先生、なんだか、全身が窮屈になって来たみたい・・・少し息が苦しいみたい・・・」

Dr柏木は、いたずらっぽく ほほ笑んで首を振った。



今日はここまで。

 
【続く】
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