万国人形大博覧会:皮膚の慟哭(3)
少年にまとわりつく乳色の霧は、次第に熟しきった桃の果肉色から妖桃色へと変化し、少年の下半身は生暖かいぬめらかな感触に包まれていった。やがて 気だるいような快感がほとばしり、少年は足元が崩れたように妖桃色の霧に飲み込まれていった。
いやゃああぁぁぁぁぁぁ、、、、
淫猥な雰囲気がべったりと沁み付いた娼婦に添い寝されて、真っ赤な布団に下半身をさらけだして横たわる男性の股間には天を仰いでそそり立つべき”肉棒”がなかった、、そこから溢れる一部は布団に吸込まれながらも、血の海を作る大量の鮮血に浸りながら、男の股間から切断したばかりの肉棒の充血をすする娼婦の眼は、その脇で逃げられない様に全身を拘束されて、仁王立ちする恋敵の娼婦に
蛇のような視線を送っていた。
{ いやゃああぁぁぁぁぁぁ、、、、残酷な[お人形]〜}
{ 趣味悪いわあぁぁぁぁ、、、}
{ ありや!俺のよりデカイな。}
様々な反響はだが、その非難のようなセリフとは裏腹に展示された[人形]に釘付けになっているではないか、、、そう、ここは あの【万国人形大博覧会】の会場なのだ。
人々が嬌声をあげて食い入るように見つめる、そのディスプレイに付けられたタイトルプレートは
【 乳 霧 の 淫 乱 鬼 】・・・・・・・
今[人形]に封じ込められた少年は、多くの見物客の視線のシャワーを全身に浴びながら 乳夢から眼を覚ました。
人生と言う、自分でゴールを創る不思議なマラソンは、ある時は平坦で、時として
色々なハプニングと言う 障害物を走者の前に用意している。
少年の場合もそれは例外ではなく、今日と言う時間が少なくなるに つれて想像もし
ていなかったハプニングが用意され、これまでの自分と言う物がほとんど無くなっ
てしまった。だが偶然の悪戯によって再会できた 奥底から涌き上がる得体の知れない何かに 少年の心は魅入られていた。
「異装願望」と言う表面的な願望は、メンタルティックな深層心理願望が発する心のSOSだという事を証明した 昨夜の少年の生理はさらに、少年自身が自覚すらしていなかったサヂスチィン・マゾッホと言う特殊性癖をも暴いてしまったのだ
肌にピッタリと圧着したドールスキンの被膜の下で 少年は汗にまみれてビッショリになっていたが、完璧なドールスキンの被膜のどこを探しても、そんな汗の出口など どこにもない。
健康な肉体の発汗作用は、特にドールスキンの肉厚な部分、[胸]と[お尻]、そして厳重な猿轡と純毛ウイッグに包まれた[頭部]に集中して汗の流れを作っていた。
その魅力的な胸のラインの下では、乳房の辺りから染み出した汗は冷めることなく、少年のおなかから下腹部に毛細現象の原理で張り付き、いかに体温の変化が少ないとはいっても、その丸ろかなヒップラインから流れるようにしてヴィーナスラインに連続する、ちょうどパンティを穿いたようなエリアはベチャベチャな大洪水となって、両足左右の内側を伝って脚全体に染み渡っている。
でも、、一番最悪なのは頭部ではないだろうか、少年の元々の髪の毛を押し固めるようにしてコーティングされたドールスキンのフルフェイスマスクの上から、被らせられた純毛のウイッグ、、さらにフルフェスマスクの上と下に嵌められた厳重な猿轡のお陰で少年の頭部で、露出しているのは わずかに前髪の下と、被せ猿轡の上端、鼻から少し上の部分しかなかった。
しかも、そのわずかな部分にしてもドールスキンの被膜に覆われて知る・・・今や少年の頭部は 煮えくり返る程の高温で暖められ、そこから沸き上がる大量の汗に、少年はスキンマスクの中で溺れそうな錯覚すら感じていたのだから。
ヌルヌルヌメヌメと少年の肌にまとわりつく汗は、どこにも吸収される事もなく 少年への責めとなって、その若い肉体を覆い、たたでさえ困難な皮膚呼吸をよけいに苦しくしていくが、その汗を拭おうとしても定着してしまった[人形]の被膜は、指一本動かす自由すら少年に与えることはない。
だが、そんな地獄のような状況に対して 少年の脳中枢は[嗜好の開花]と言う精神のチャンネルの切り替えによって その身の「苦痛と不快」を見事に「感動と喜び」に変換していた。それは あれほど願望していた女體を我が物にした何よりのたしかな[証し]なのだから・・・苦痛でもなんでもなくなっているのは、当然と言えば当然の事なのだが。
【 乳 霧 の 淫 乱 鬼 】
そのディスプレイを観る多くの来場客は、目の前の[緊縛人形]の中で愉悦の汗に溺れる少年の存在を知ることはない。
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会場入り口はまだ午前中にも関わらず、おうぜいの人がチケットセンターに列を
創り始めていた。そんな人垣をかきわけて受付にやってきたのは、あの馬鹿オンナのカレシではないか。
「あの?、、カノジョがここでバイトしてるって、、オレ、、」
「はい、、うかがってますよ。こちらにどうぞ。可愛いガールフレンドだから彼氏としては ご心配ですよね、うふふふふ、、、」
「あっ、ええ、そうなんっすよねぇ、なんかオレ、、あいつになんか言われると何にも言えなくって、、、」
こいつ、、少しは謙遜してみようって気持ちはないのか?ガイドコンパニオンだって商売だから、かなり無理して言ってるって野に、、真に受けるバカがどこにいる・・・
魅力的なコンパニオンのヒップに眼を奪われながら、テントの中に入ったカレシが曲がりくねった迷路のようなイベントコースを通って、あの[女囚人形]の展示ブースの前までたどり付いた時、
【おっせーよ、何してたのさぁ?待ちくたびれたよ、もう、、】
「おう、ゴメンゴメン、、だけどオレだってマジで探したんだぜ。ウソじゃないって。」
【 いいよ、許してやるよ。ただし今度だけだかんな。それより ここの[人形]って やっぱり良く出来てるよね、こいつなんて 生きてるみたいじゃん。】
【 女囚拷問 】
あの馬鹿オンナが指をさして見上げた場所には、ディスプレイの上で縛り上げられて、梁から吊り上げられた[女囚人形]が猿轡を噛み締めながら、めらめらと炎をあげる松明型のランプに照らし出されるヒンシュク カップルを静かに見下ろしていた。
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[女囚人形]の夢想
鼻と口に麻酔みたいなモンを押し付けらたのは覚えてる・・・気が付くと、薄闇いテントの中で、太めの縄で縛られて、両手もがっちりと後ろのトコロで一つに縛られてる。脚も足首を縛られてて、全然うごけないようにされて、痛くて気を失った・・・・なんて夢を見てたんだと思ってたのに?・・・・・全身が痛いより痺れてて、、何も感じない・・・・
ちょっと!ナニこれ?ザケンジャネーヨ!!
こんな事したヤツを怒鳴ってやったつもりなのに、アタシの口にはザラザラした布切れで幾重にもマスクみたいに覆われてて、口の中に詰められてる物が吐き出せなくって、鼻までかぶってる猿轡は超最悪、怒鳴ったり喋るどころか、息をするのがやっと・・・・
アタシの服、どうしたのさ?こんな葬式の死人みたいな・・・第一 ココはいったいどこなのよ?カレシはどうしたんだよ?・・・・下の方でたくさんの知らない奴等がアタシを見てる・・・見てんじゃねーよ、、、、、夢ならさめろよな、、こんなダッセー夢なんかよー。
そんな[女囚人形]目の前に、いきなり現われたカップル・・・・
( うむむううっっっすっすすすうう!!)
猿轡は驚きの声を微かな空気漏れにもならない音に変えてテント内のBGMに解かしてしまう。誰もその[女囚人形]が必死に助けをもとめているなんて夢にも思わずに楽しそうに眺めているだけだ。そのカップルも、周りの客と同じように、[女囚人形]を見て指をさし、楽しそうに話している。
「おう、まるで生きてるみたいだよな。昨日オマエが 煙草の吸い殻 押付けた足んトコも カンペキ直してあんじゃん。もう あんな事なんかすんなよなぁ。祟りかなんかあったら オマエがこんな目に合うかも知れないだからよ。」
馬鹿なオンナも さすがに自分の状況が理解できた。自分が[人形]にされている事。そしてイベントテントの出し物として、縛られて吊下げられた[女囚]を見て楽しんでいる。。。。
( 違うんだよ!アタシは生きている人間なんだよ!知らない間に、こんな[人形]にされちゃったんだよ、カレシ!そのオンナ、、アタシじゃないんだって!アタシはここにいるんだってえぇぇぇぇぇ!!!)
【え?タタリ?、、お前ってジィサンみたいな事言うんだぁ。だけどそうだよな、、タタリなんかに合って、この[人形]とおんなじ目にあったら、ヤダもんな、、もうしないよ。、、、 心配、、かけて ゴメン、、、、】
「おお!なんかオマエ やけに物分かりが良くなったじゃねえの?オレは嬉しいけどよ。なんか別人みたいじゃん?」
(バカヤロウゥゥ、、お前ダレなのよ?、アタシの服、着てアタシに成りすましてんじゃねぇよ!!、、、)
【ばぁっか!変なドラマの見過ぎなんじゃないの?それよりさ お腹空いたよ。何か美味しいもんでも食べにつれてってよぅ、、】
「賛成っ!行くべ行くべ、、オレもはらぺこだったんだ、、それにしても、よくできてるよなあ、、又ゆっくり来ようぜ。」
【 ほんと、まるで生きているみたい、、ね、、、、ふふふふふ、、さ、行こう?】
(行くなようぅぅ!!アタシ生きているんだよ、助けてよ−! )
「ううっっっっうーうーうううっっ!!」
すでにそこから離れて、人込みに紛れる あのカップルの女性がチラッと振り向いて[女囚人形]の目を見てウインクを送りながらにんまりと笑った。
「ううっっっっうーうーうううっっ!!」
「ねえねえ、あのお人形、なにか喋ってるよ、よくできてるねぇ。」
「あらほんとだわ、コンピューターで操作してるんでしょうけど、なんだか気味悪いくらいリアルね。まさか中に人間が入ってるんじゃないでしょうね?」
「おいおい、あんな恰好でかよ。よせやい、生身の人間だったら死んじまうよ。」
そんなカップルの話声は もう[女囚人形]の耳には届いていないかも知れない・・・
≪万国人形大博覧会:皮膚の慟哭(3)≫
<完>
本当に怖い事・・・・・・・・・・・
ただ、ひとつ当時、「絶対にあり得ない空想・妄想」として描かれた様々な情景
描写や事件は、「現代」において、その描写を上回る現実として私たちの眼の前
で無造作に転がっている事、そして心に何の痛痒も覚える事なく、それを受け入
れてしまっている私達自身にこそ新しい時代の恐怖を禁じ得ないのです。
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