妖魔界の変身美女集団≪WAVE−2≫ (3)



妖魔の奸計はまだ始まったばかりだと言う事に結城計が気づくには、もう少し時間が必要だろう。体験、そればかりでいない。結城聖が自分でも自覚すらしていないもう一人の自分が殻を破るまでの つかの間の時が必要だ。

「それにしてもWAVE−2に来店されるお客様は幸せですね。」

結城聖に履かせたストッキングとガーターベルトを調節しながら、イマムラ・リョウコが社長にそう話しかけた。

「あら、どうして。つまらないお世辞なんかイヤよ。」

「お世辞じゃありませよ。だって明日からのお客様には、今までの倍のスタッフが おもてなしするんですから、こんなに贅沢なデパート世界中探したってありません
よ。」

「あら本当ね、うまい事言うわね、リョウコさんって、ほほほっ。なるほどね、たしかにイマムラ・リョウコちゃんも「マネキンさん」と「貴女」と二人いるんですものね。」

「社長、よろしいでしょうか?」

そう話に割り込んで来たのは、ネクタイ売場から研修に行ったタドコロ・クミだ。

「私のマネキンなんですが、研修の時の態度を少し反省させていただいた方がよろしいと思うんですが。」

「報告書は見たわ。そうね、何かにつけて理屈をこねては、マネキンコーティングと研修ストップさせたの、たしか貴女だったわよね。」

「えっ、社長、それはあんまりですう。あれは私じゃなくてマネキンの田所久美
なのに。」

「うふっ、冗談よ。でもあなたのマスク、すごく同化がはやいわねぇ、今、本当に顔を真っ赤にしてたわよ。楽しみね。マネキンかぁ・・・そうね、「開店準中」って事でハダカのまま、しばらく外のショーウインドに転がしてて あげたらいいわ、下半身は外の道路に向けるようにしてね。お客様の眼の前で素っ裸で足を広げるなんて、なかなか出来ない経験だし、マネキンには良い薬じゃないかしら。」

「そうですね。少しはあの性格直しておかないと、売り物にもならないしね。
さっそく そうしてやるように企画部に伝えます。」

耳に流れ込む この会話に秘められた妖毒、真昼のように煌々と輝く照明の下で交わされる女性の、いや妖魔に養殖された人造女性の会話は、それまでの結城聖ならばとても許し難い内容であったはずだ。

だが自分自身、こうして 女體マネキンの被膜にくるまれて、マコと言う女名を与えられてしまった今、マコの心泉から吐き出されて来るのは、指先一本動かす事の出来ない今、その心の中は 娼婦の秘肉で染め上げた様な毒々しいデンジャラスローズに変色した霧におおわれていた。

それは時間の経過とともに、その霧の色はそのまま、マコの心にどんなに洗っても落ちる事のない顔料となって少しずつ浸透していた。

「本当にマコは素敵だわ。一週間たったら、その時には貴女の事、思い切り縛り上げて、このストッキングで猿轡をしてかわいがってあげるわ。マコ、、貴女は そうされるのが大好きな筈よ。大学の時からね。うふふふっ、それまでかんばってね。」

この本社社長はマコ、そしてマコの母胎である結城聖の秘められた過去を知っている。結城聖の大学在学中の武勇伝には一つだけ世間が誤解している事がある。たしかに 下半身に理性のない教授を素っ裸にしてシンボルツリーにつるした事は事実だが、それは決して世間で噂しているような、結城聖の正義感がやった事ではない。

なぜなら事実、理性を失い暴走していた教授の下半身を受け止め独り占めしていたのは、今マネキンの中にいる結城聖本人だったのだから。

* * * * *

当時、結城聖は住まいにしていたアパートで一人暮らしをいいことに、長年の夢だった女装の自由を心ゆくまで享受していたが、やがて室内では飽きたらず、深夜アパートの近所にある公園を徘徊するようになっていた。

そんなある晩の事、結城聖はいつものように外出の準備をしていた。彼の女装には必ずひとつのパターンがあった。それは幼い頃のトラウマからか、まるでこの世の中の全部の女性を辱めるかのような毒々しい化粧と、その化粧に相応しい生々しいエロスを惜しみなくまき散らす、扇情的という言葉すら上品に聞こえるランジェリーを身につける事だった。

事実、結城聖は女装の途中で しばしば下半身の暴発をしては、その白濁した残液を、彼の脚にピッタリと張り付いた妖しい光沢を放つストッキングや、毒蛾が不気味な紋様の羽を広げた様なデザインのショーツで受け止め、そのたびに羽の中心の毒蛾の身体は蠕動運動を繰り返すのだった。

《だれも止めてくれる者のいない破滅への暴走》この 決して人前では見せる事のない結城聖の姿を目撃し受け止めたのが、同じ嗜好に溺れる教授だったのだ。

その もはや日常的にすらなっていた結城聖の深夜の公園徘徊の姿を、教授は同じ公園の植え込みの陰で偶然 発見した。

本当は単位不足の女子大生を相手にして、桃色遊技をしているさなかに偶然目撃したのだ。何の床技もなく、芝生の上で、瀕死の猿の様に ただヒィヒィわめくだけの脳なし娘に辟易していた教授の視界に入った結城聖の姿は、明滅する頼りない照明の中、百戦錬磨の娼婦としても恥ずかしくない容姿を披露していた。

その教授がいる 植え込みのすぐ近くの木立にしゃがみこんだ結城聖の行動は、それ以後の教授にとってかけがえのない強壮剤となった。うかつにも、まさか目撃者がいるとは思いもしない結城聖は、木立に隠れるとバックの中から布きれを取り出し、窒息死でも望んでいるかのように自分の口に何枚も詰め込んでいた。

次の瞬間、教授は信じられないものを見た。その娼婦は両手で自分の髪を掴むとスポッと持ち上げたのだ。カツラ・・・・驚く教授の眼にカツラの下からリクルートカットに整えられた男の髪が現れたのだ。

その娼婦はカツラを自分の股に挟み込むと、細く引き伸ばしたロープの様な物で、自分で布を詰め込んだ口の上を何度もグルグル巻きにして、カツラを被り直した。

そこには堅く、咬み猿轡を咬まされて うっとりしている娼婦の姿があった。猿轡をした事で興奮したのか、娼婦はバックを植え込みに隠してから両腕を後ろに回すと、別な細い紐で、器用に自分の手首に巻き付けて自縛し、満足したように夜の公園を歩き始めた。

「おっおううううっ」

「えっ、なっ、なにぃ、これっ・・・・・おうんっ・・・・」

結城聖の自縛の光景を目撃した時から教授の下半身は大きく、文字通り「大きく」変化し、さらにそれは教授の下敷きになっていた女子大生にもすぐに伝わった。

事を終えた教授は、芝生の上でなかば放心している女子大生をそのままにして、娼婦が隠したバックを拾いながら娼婦の後をつけ始めた。泳ぐ様に夜の公園をさまよう娼婦の姿を見た時、教授は考えは変わった。

しばらく公園を徘徊していた娼婦が、さっきの場所に戻って隠した筈のバックを後ろ手に縛られたまま必死に探すのを物陰から見て舌なめずりをする教授の姿は、さながら獲物が弱るまで じわじわ追いつめるハイエナにも見えた。罠は仕掛けられた。

いくら探しても見つからないバック。それもその筈、バックはハイエナがしっかりと保管しているのだ。そして、それの「引換券」は娼婦の身体以外にはないのだ。

途方にくれる娼婦に また一つ新しい不安が襲う。東の空が白みかけて来た。娼婦は意を決した。公園の出口に向かって小走りに駆け出す娼婦の姿に教授の眼が光った。娼婦はハイヒールの踵に足を奪われながら必死に人気のない舗装道路を駆けた。

ようやく自分のアパートにたどり着いた娼婦。しかし、彼女はさらに恐ろしい現実と対面する事になった。

・・・・どうやって部屋に入るの?!アパートの鍵は、あのなくなったバックの中に入っているというのに・・・・・

「コールガールの お嬢さん、落とし物はこれかな?」

娼婦・娼婦・しょうふ・しょう・・・・ゆ・う・・・ゆ・う・き・・結城・・・結城聖、心のチャンネルがジェットエンジンのタービンのように急激に回転して、一瞬、気が狂いそうになった結城聖が我に返った時、彼は、教授に抱きかかえられて自分の部屋にいた。

「驚いたなこりゃ、お嬢さんは俺んとこの学生さんかい。イヤこりゃ奇遇だ。これをご縁に是非ひとつよろしくお願いしたいもんだね。」

教授は部屋に座り込むと結城の手首を縛ったパンティストッキングを解こうともせずに舌なめずりを始めた。

「お嬢さん、こんな事されるの好きなんだね。こんな本まで買ってきて、研究熱心なんだね。ほう本格的なロープまであるじゃないか。どれっ。」

狡猾にも、教授は結城聖の女装には一言も触れずに、あくまでも女だと思いこんだフリをしている。その方が 結城聖の心を征服できると読んだからだ。執拗に言葉でなめ回しながら、教授は、ベットの下にしまったロープを見つけて結城聖を縛り上げた。


「大きな声は近所にご迷惑だからね。社会生活には気配りも大切なんだよ。お嬢さんも好きみたいだから、先生がサービスしてあげよう。」

すでに結城聖が自分で咬ませた猿轡の上から、スリップとネッカチーフでさらに執拗な猿轡を填める教授の下半身は油田火災の様に燃え上がり鎮火の可能性は皆無だった。教授の異常なまでの興奮は、結城聖へ猿轡を施す時に容易に知る事ができた。教授は猿轡を結ぶ時に興奮に任せて思い切り絞り上げた為、どこか布の一部がビリビリッと音を立てて破れたのだ。しかも2枚とも。

そんな無慈悲な猿轡を受けながら、結城聖はわずかに残った自分の意志で、教授の胸元に沈み込んでいった・・・・・・

* * * * *

当時の回想は とめどなくあふれ、妖魔のマネキンに閉じこめらた結城聖のわずかに残った理性を押し流すのを手伝っていた。

ここ妖魔の百貨店<WAVE−2>の開店をいよいよ翌日に控えた店内、。【非常口】を示すグリーンの案内ボードの光に浮かび上がる「マネキン」は、どれも まるで生きているような表情をして 開店を待っている。

巡回のガードマンが ふと首をかしげた。すでに照明も落とされ人陰もなくなったそんな店内から、いくつもの、声なき すすり泣きが聞こえたような気がしたからだ。

ガードマンの照らす懐中電灯の光に浮かび上がるのは「マネキン」だけなのに・・・

≪WAVE-2≫開店まで あと数時間・・・・妖魔の宴は アナタが来るのを待っているのかも知れない。
【前へ】 【続く】
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