妖魔界の変身美女集団≪WAVE−2≫ (2)
結城聖が次に目覚めた場所、そこはここ数年見慣れた彼の職場、デパート1階の
中央メイン通路だった。
中央玄関から続くデパート自慢のゆったりしたメインストリートの両側には、≪WAVE−2≫の上品なオリーブグリーンの制服に身を包んだ女子社員が整列して、期待をこめた瞳を輝かせながら何かを待っていた。
「おはようございます。これからWAVEの本部から、みなさんに
ご挨拶があります。」
「みなさんおはようございます。当社の研修を受けられたみなさんの成果は、すでに、こちらにいるマネージャー、あっ失礼、マコさんから報告をいただいています。本社が想像していた以上の成果に大変満足しております。」
一瞬、私整列している女子社員は一斉に結城聖に視線を浴びせた。そのあと爆発した様な歓喜を含んだどよめきがおこったのを確かめた本部スタッフは、つづいて、
「ただ残念な事件もおきました。」
突然変貌した口調に水を打ったように静まりかえる会場に、その声がさらに
響く。
「これは何ですか! 本社は研修でこんな処理を教えてはいません!」
彼女は手に持っていた、あの夜結城聖がゴミ袋の中から探し出したマスクを高々と差し上げながら、キヨスエ・ケイコさんを、こちらに”持ってきて”頂戴。」
人間を持ってこい・・・・およそ日本語とは思えない彼女の指示に、結城聖はいぶかりながらも、彼女達の目線を追いかけた。「!」彼女の視線の先からやって来る物。
それは本当に小さな手押し式のアルミ台車で、運ばれて来た1体のマネキン人形だった。
(何?なんだってマネキン人形なんて?)
そう思いながら、結城聖はもう一つの疑問に悩んでいた。
(どうしてボクの身体は動かないんだろう?けっしてあの夜の様に縛られている訳でもないし、ごく自然に立っているだけなのに、指先一本動かせないし、話をする事も出来ないなんて・・・。)
二人の女子社員によって通路の中央に運ばれてきたマネキンを見て、他の女子社員の中には嗚咽の様な小さな悲鳴をあげる者や、視線をそらす者など行動は様々だったが、だれの顔にも恐怖が浮かんでいた。叱咤の言葉はさらに続き、
「みなさん、みなさんがご自分の意志で自己啓発を真剣に考えてくれた事は私にとって最高の喜びです。その結果生まれた優秀な結果にも満足しています。でも、だからと言って基本をおろそかにしても良いんですか?」
その本社役員の美しい顔とプロポーションからは、到底 想像も出来ない雷の様な
激に、居並ぶ女子社員たちは緊張して青くなった。役員のテンションはさらに高まる。
「キヨスエ・ケイコさんは先日、私達の「命」とも言うべきこのマスクを、マニュアル通りに処理しなかっただけでなく、そのまま生活ゴミと一緒に捨ててしまおうとしたんです。そしてタイミングの悪い事に、ここにいる研究熱心なマコさんに発見されてしまいました。」
「おぅ!」
「えぇ?!」
「きゃ!」
小さく立ち上がる非難のこもったどよめきの中、
【みなさんにとってこのマスクは何ですか?】
突然格調高く、そうシュプレヒコールをあげる≪WAVE−2≫役員に続いて、
【命です。】
と会場から次々に声があがる声。納得した様に、さらに役員は言葉を続ける。
【みなさんにとって、この“WAVE−2”は何ですか?】
【私達が自分らしく生きる事が出来る唯一の世界です。】
【その通りです!!!
だからこそ、どんな些細な失敗も油断も許されないのです。まだこのWAVE−2は全部のシステムが完成している訳ではありません。完成するまでの間に、たった1人の一人の油断や「一人よがりの嘘」で M−PLみたいに壊れてしまってもいいんですか!!】
【厭でーす。】
【許せませーん。】
【ここがなかったら明日から生きて行けませーん。】
【その通り、私自身もこのWAVE−2がなくなったら、その夜からゲイバーの
従業員になるしかありません。それも雇ってくれたらの話です。それはみなさんも同じ筈ですね。】
黙り込んでしまった《女子社員》を前に、
【このマスクは、最初は暑苦しいだけかも知れませんが、注入されている薬品の
効果でみなさんの皮膚に同化した後、少しずつ吸収されて、約1ヶ月ほどでみなさんの新しい顔になります。今みなさんが身体に着けているボディスーツも同じ原理です。その事をみなさん自身が納得した上でWAVE−2に入社されたんじゃないんですか?
もし無理矢理、生活の為にしていると言うなら、今すぐ退社してかまわないのよ!】
【許してください。】
【WAVE−2だけが私の住む場所です。】
【私も!】
【ワタシもっ!】
半狂乱になって、口々に自分の思いのたけをぶつける彼女達の姿は、まるで黒ミサの祭壇にぬかずく信者の様にも見える、異様なだが真摯な光景だった。すべてが得体の知れない興奮と連帯感で堅く結ばれている。それをつなぎ止めている何かを、今、結城聖は理解する事が出来た。
(ここにいる女性達はすべて女を装っている者・・・「女装者」なんだ。
それも・・・・実在する、本物の女性のコピー。)
ようやく、そう理解した結城聖の頭の中に恐ろしい想像がひらめいた。
(それじゃ、元々いた彼女達はいったい・・・・・)
結城聖はその答えと出会いたくて、自分から進んで、話を聞き始めた。
「私は一度だけキヨスエ・ケイコさんを許す事にしました。でもその代わり、彼女にはペナルティを与えます。朝日さん、みなさんに説明してあげて頂戴。」
「このシステムは、マネキンと言う「販売補助器具」の素材に生きたままの人間を、そう文字通り、「骨組み」に使って、「人形的」だったマネキンを、生きた人間の様に、生き生きとした質感あふれるようにと、開発されたものです。今回、さらに、一歩改良したシステムをキヨスエケイコさんに施しています。」
「今、彼女は、私達の会話もみなさんの熱気もすべて手に取るように伝わっている筈ですが、指一本動かす事も、無論しゃべる事も出来ません。呼吸に関しては通気性の高い特殊樹脂ですので、ごく普通の呼吸も皮膚呼吸も問題なくできますが、排泄は不可能です。」
本部からのスタッフが後を続けた。
「彼女を一週間「販売補助器具」として、3階の婦人服売場のアイランド(マネキンなどを飾る装飾台)に貸し出しますので、担当者は責任を持って管理して下さい。」
(なんて事するの。生きたままの人間をマネキンの中に閉じこめてしまうなんて、なんてひどい。)
その結城聖の驚きは、だが すぐに自分自身に跳ね返ってきた。
「それからもう一つ、WAVE−2の最新作ですが、これはコーティングに使用する樹脂の中に動物性ホルモンや栄養分を含ませる事で、このままで女性化を進行させながら、これまでの様にいちいち栄養分を補給してくてもすむように改良してあります。今、こちらでマネージャーが着用してくれていますが・・・」
結城聖はやっと自分の動けない理由を理解する事が出来た。彼女(いやまだ意識は彼のまま、)自身も自分で気が付かない間にマネキンとして加工されていたのだ。
「マネージャーには、その、お役目上、この1階のメイン通路正面が良いでしょう。それではフロアー責任者は、この振り替え伝票にサインして、責任をもって「器具」の管理をお願いします。
あっ、それからみなさんの原型となってくれた女子社員についてですが、本日より「研修器具」と呼び方を統一します。今までは自分の原型への世話だけすれば良い、と言う本社の考えでしたが個人差が激しいので、今後は「研修器具」への養分補給と振り替え日時は各フロアーで責任をもって行って下さいね。先日の様にうっかりして「研修備品」が死んだり・・・・失礼、「破損」したら、後の処理が厄介ですから。」
戦慄すべき妖魔からの回答はあまりに衝撃的に唐突に告げられた。
結城聖は自分の耳を疑った。マネキンは私達2体だけじゃない・・・・
もう こうなると、彼にもすっかりWAVE−2の事情が解った。あのゴミの中にあったゼリーの様なマスクの持ち主・・・・今マネキンにされいてる女性・・・女性?の顔も思い出していた。
名前から配属部署まで。たしか婦人下着売り場に配属されている入社7年のベテラン社員、清末慶子だ。それじゃ、「本物の方の」彼女も今頃は自分の様に。。。。
だが結城聖には、あわれな彼女の身の上を案じているだけの余裕はない。
これは・・・・結城聖は自分もアルミ製の小さな手押し台車に載せられているのに気が付いたのは、本部役員みずから「マネキン」を1階のフロアーに設置した時だった。
「アウターもドレッシーにしてあげたけど、感触は解らないかしら。ほらこんなに可愛いのよ。まあ感触は後のお楽しみにしましょうね。ねっ、マネージャー・・・じゃなかったわ、マコさん・・・・昔・・・夜の公園で、お楽しみになってた時の事を思い出しながら過ごしたら良いわよ。ふふふふ」
(え!・・・夜の公園・・・・知っている・・・この人は何もかも・・・)
愕然とする、結城聖の眼の前、女子社員達の手で立てかけられ試着用の姿見の中に、妖魔の手で作られた「マネキンの結城聖」が映し出された。
たしかに、それまで結城聖の見たことがあるマネキンとはよく見るとかなり違う。マネキン特有のいかにもペンキ色の肌ではない。肉色のボディは、今にも歩き出しそうにリアルで、顔のメイクも工場でペイントしたものではない。そして、そのマネキンは、さっき≪WAVE-2≫の役員が言っていた様に、上品が売り物のデパートのマネキンにはあまり相応しいとは思えない売春婦を連想させるアダルティーなランジェリーに包まれている。
「朝日さん、この素材、正解よ。マコさんの顔に施してあげたメイクが、ホラっ、
そのまま樹脂を通して浮き上がって、まるでティシュで拭いたらすぐに落ちちゃいそうじゃない。素敵!」
「それじゃ次からマネキンの樹脂は全部これに変更ですね。最高のデーターが
取れてよかったわ。」
鏡の中のマネキンは微動だにせずに静かにそこに立って、上機嫌なスタッフ達の話を黙って聞いているだけしかない・・・・夜の公園・・・・彼はマネキンの中であの日の事を思い出していた・・・・・
=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=
「お嬢さん、こんな事されるの好きなんだね。こんな本まで買ってきて、研究熱心なんだね。ほう本格的なロープまであるじゃないか。どれっ。」
男は彼の通う大学の教授、、、教授は結城聖の女装には一言も触れずに、あくまでも女だと思いこんだフリをして、執拗に言葉でなめ回すとベットの下にしまったロープを見つけて結城聖を縛り上げた、
あっおふっ、、ふごっ
「大きな声は近所にご迷惑だからね。社会生活には気配りも大切なんだよ。お嬢さんも、かなり好きみたいだから先生がサービスしてあげよう。」
すでに結城聖が自分で咬ませた猿轡の上から、スリップとネッカチーフでさらに執拗な猿轡を填める教授の下半身は油田火災の様に燃え上がり鎮火の可能性は皆無だった。教授の異常なまでの興奮は、結城聖へ猿轡を施す時に容易に知る事ができた。教授は猿轡を結ぶ時に興奮に任せて思い切り絞り上げた為、どこか布の一部がビリビリッと音を立てて破れたのだ。しかも2枚とも。
そんな無慈悲な猿轡を受けながら、結城聖はわずかに残った自分の意志で教授の胸元に沈み込んでいった・・・・・・
=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-
その妖魔の被膜に覆われ、淫乱な衣装を纏ったマネキンの中で、結城聖には微妙な変化が始まっていた。
「怒り」・・・、「屈辱」・・・「哀しみ」、、、その他、もろもろの攻撃的な感情が春の残雪の様に溶けだし、身体の芯からベルベットピンクの霧が静かに、わき上がるのをどうする事もできなくなっていたのだ。
【前へ】
【続く】
【戻る】