ソマリア、モガディシュ空港
ハイジャック事件

■ 1977年10月17日 ルフトハンザ航空機(ドイツ)ハイジャック

■ ハイジャック発生
スペイン発のドイツ航空会社ルフトハンザ機が、銃で武装したパレスチナアラブ人のオハー・アカチェ(男)をリーダーとする男2人、女2人のテロリストに離陸45分後に乗っ取られました。

犯人は、乗客乗員87名(ほとんどがドイツ人)を機体の後部へ移動させ、無線を通じてドイツ政府に要求を伝えます。犯人の要求は、ドイツの刑務所に収監されているバーダーマインホフのリーダー、アンドレアス・バーダーを含むテロリスト13人の釈放と1500万ドルの要求でした。

西ドイツ政府は犯人を要求の内容からかんがみて、バーダー・マインホフではないかと考えますが、実際にはまだ犯人が何者か分かっていませんでした。

■ ハイジャック機の迷走
実はこの犯人はアラブ人ゲリラのPFLPとバーダー・マインホフの共同作戦でした。犯人は要求がのまれた場合、レバノンへの亡命を計画していました。

このころの中東ではPFLPを支持している国はたくさんあり、当然亡命を受け入れてくれるものと思っていました。そして、飛行機はレバノン上空に向かいます。

レバノンは飛行場上空に到達したハイジャック機に対し、着陸を拒否します。犯人達はレバノンが味方をしてくれないと悟りました。亡命が受け入れられないのであればレバノンへ着陸しても意味がありません。

ハイジャック機はそのまま隣のシリアに向かいます。しかし、なんと言う事でしょう、シリアも受け入れを拒否したのです。この後、犯人は次々に周辺の国と交渉しますが、イラク、クウェート、バーレーンすべてに拒否されてしまいます。

そして、最後にUAEのドゥバイ空港上空まできたルフトハンザ機でしたが、コントロールからは着陸拒否の声。実はこのとき飛行機の燃料は残りわずかとなっており、ここに着陸できなければ飛行機は墜落してしまいます。犯人はやむなくパイロットに強硬着陸を命じます。そして、飛行機はドゥバイ空港に着陸しました。

■ GSG−9出動
ハイジャック機が迷走を続けている頃、実はひそかに尾行していた、西ドイツの特殊部隊GSG−9を乗せた飛行機もドゥバイ上空にいました。

ドイツはUAEにGSG−9をハイジャック機に突入させ人質を救出させてくれるよう要求しますが、UAEはこれを拒否します。理由は簡単かつ当然の事”異教徒の軍隊を自国で行動させるわけにはいかない”でした。GSG−9すなわちグレン・シュルツ・グルッペ(国境警備隊)は警察ではなく軍隊だったのです。

しかし、UAEも積極的にハイジャックの解決を計るわけでもありません。そして、ハイジャック機は燃料が無くなり機内のエアコンが停止します。

UAEはハイジャック機を追い出すため、燃料の補給を開始します。こうして再び、ハイジッャク機は離陸します。犯人たちが次に目をつけたのは、南イエメンでした。

南イエメン上空に到着した犯人は驚愕します。なんと滑走路に着陸防止のため障害物が設置されていたのです。そして、コントロールからは、またも着陸拒否の無線が入ります。

これに憤った犯人は、パイロットに銃をつきつけ滑走路脇に強硬着陸するよう要求します。そして、飛行機は滑走路から外れた未舗装地へどうにか着陸します。

この時、パイロットは不正地に着陸したためランディングギアの異常に気づき、犯人に機体のチェックをさせてくれるよう頼みます。犯人はこれを聞き、機長1人で機外に出る事を許可しました。

しかし、機長は期待のチェックに時間がかかりすぎ、30分後機内に帰ってきたときに犯人に”裏切ったな!”とののしられ、そのまま射殺されてしまいました。

そして、犯人は要求の期限を24時間後とし、要求がのまれない場合は乗客もろとも飛行機を爆破するとドイツ政府に宣告します。

ドイツ政府は最初から特殊部隊GSG−9を突入させ人質を救出する計画だったので、GSG−9の行動を許可してもらえる国を探していました。

■ 飛行機はソマリアへ
交渉の結果、アフリカのソマリアがドイツ政府の要望を聞いてくれました。これで攻撃を仕掛ける場所はソマリアのモガディシュ空港と決定します。場所が決まったので、今度はそこへハイジャック機を誘導しなくてはなりません。

ドイツは犯人に要求をのむと伝え、人質解放の場所をモガディシュ空港にするよう伝えます。犯人はこれを聞き入れ、飛行機をソマリアへと向かわせます。パイロットは射殺されていたので、副操縦士が操縦しました。

そして、ソマリアのモガディシュ空港に着陸したハイジャック機の中では、犯人たちが機体に爆弾を仕掛けていきました。乗客たちにはアルコールを浴びせ、ドイツの裏切りに備えます。犯人達は油断してはいません。

■ GSG−9作戦開始
1977年10月23日、日が暮れたモガディシュ空港でGSG−9の隊員がうごめいていました。ハイジャック犯に悟られないよう、機体の後方から近づいて待機した突入部隊は指揮官ウーリッヒ・ベゲナーに突入準備完了と伝えます。

ベゲナー指揮官は作戦開始の合図を出します。それを受けた囮部隊が、飛行機の前方でトラックを爆破します。犯人達の目は当然このトラックに注がれます。

そして、コックピットからこれを見ている犯人達の目の前でフラッシュ爆弾が炸裂します。それを合図に突入部隊がはしごを上って機内に突入。目がくらんでいる犯人を射殺しました。

作戦は突入から10秒で終了し、人質に怪我はありませんでした。犯人は3人死亡、1人逮捕となりました。こうして、PFLPとバーダーマインホフの共同作戦によるハイジャックは失敗に終わり、GSG−9は完璧な作戦によって勝利し、ミュンヘンオリンピック事件でのパレスチナゲリラに対する借りを返したのです。

この功績でウーリッヒ・ベゲナー指揮官はドイツ功労十字章を授与されました。いわば、ドイツ帝国で言う”ダイヤモンド剣付き柏葉騎士鉄十字章”と言ったところでしょうか・・・。

toranosukeandumanosuke