MORELENBAUM2/SAKAMOTO

"CASA"ライブリポート…2001.8.28大阪フェスティバルホール


MORELENBAUM2/SAKAMOTO "CASA"
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大阪はフェスティバルホールに進撃してきました…お目当てはMORELENBAUM2/SAKAMOTOの"CASA"ライブ。

C'etait magnifique, fantastique et excellent !!

メンバーは坂本龍一(Pf)、Jaques Morelenbaum(Cello)、Paula Morelenbaum(Vo)、Luiz Brasil(Gt)の4人。そう、4人だけ。曲によってはギターが抜けたりヴォーカルが抜けたりするから、さらに少なくなる。
そのシンプルな構成ながら、その音楽には果たしてすばらしい奥行きと深みが備わっていたこと。限りなくシンプルなステージから紡ぎだされる、マジカルなまでに豪奢な音楽。
同じジョビンを扱っていながら、例えばBelezaというバンドがボサノヴァを"都会的に・お洒落に"収めた企画CD"TRIBUTE TO ANTONIO CARLOS JOBIM"あたりとは、そのような点で大いに異なる。やはりそれぞれのミュージシャンの厚みというものはあるものですね。

Jaques Morelenbaum, Paula Morelenbaumは、かつてジョビンのバックバンドで活躍していた夫妻。1986年にジョビン自身が大阪に来たときは、まさにこのフェスティバルホールのステージで一緒に演奏をしたのだという。
Jaquesはまた、僕の好きなCaetano Velosoのバンドを率い、ライブ版CDなどは一緒にプロデュースをしていることでも記憶にあるチェリスト。Luiz Brasilもまた、Caetanoのバンドのギタリストである。坂本龍一自身も、Arto Lindsay - CaetanoVelosoを通して彼らと仕事をするようになったのだと僕は推測しています。

演奏はアルバム同様ジョビンの曲がメインだけれども、そのようなわけでCaetanoの曲もひとつ含まれていた…"Coracao Vagabundo"。これは生前のジョビンがとても気に入っていた曲でもあったらしい。
この曲からジョビンの"SABIA"と繋がったあたりは、このコンサートのなかでももっともセンチメンタルな瞬間であったと思う。僕は涙が…ちょちょぎれそうでした。

1994年に亡くなったAntonio Carlos Jobim自身の旧宅で録音されたこのアルバムに収められた、比較的マイナーな曲目のほか、アルバムには収録されていない"A FELICIDADE", "ELA E CARIOCA", "CHEGA DE SAUDADE", "INSENSATEZ","DESAFINADO"といったスタンダードナンバーも後半では演奏され、最後のアンコールでは"SAMBA DE AVIAO"の大団円で幕。

"オペラ"LIFEのときとは異なって、始終リラックスしたムードで演奏された楽しいコンサート。 "INSENSATEZ"の演奏後、この曲がショパンのプレリュードから着想されたことを坂本氏が紹介してくれて、その曲(Chopin: 24 Preludes, No.4 in E minor)をぱらぱらと演奏してくれたあたり、観客は得した気分。
本来ラブ・ソングである"SEM VOCE"(Without You)は、ここではジョビンのことを歌ったものでもあるとのこと。その意味でアルバムでは一番最後に入っているわけですね。

さらに坂本氏が語った、ジョビンの部屋には二台の(ヤマハの)ピアノがあり、一台のピアノにはショパンの譜面が、もう一方にはドビュッシーの譜面が開いて置かれていたという話は、いささか出来過ぎという気もするのだけれど、しかしきっと本当なのでしょう。

シンプルに見えて実は複雑な系をもつボサノヴァの音楽は実はフランス印象派からのエコーがあるという話もある。今世紀初頭の印象派の音楽をブラジルにHeitor Villa-Lobosらが持ち込み、その弟子世代に相当するジョビンらがそれを受け継いだというわけ。
そのような意味で坂本氏自身もかねてより「ボサノヴァは、もっとも進化したポップソングだ」と語っていたことも思い出しておこう。
但し…今回坂本氏はジョビンの音楽を「ボサノヴァではなく、室内楽として」解釈し、演奏したのだとしている。ジャズ系の演奏家によってアメリカに紹介されるボサノヴァの響きとの違いはその言葉で説明ができそう。

アンコールの一曲めにてJaquesと坂本氏のインプロビゼーションで始まった"ZERO LANDMINE"も大変楽しく聴くことができた。この曲も含めて、最近熱心に地球環境について考えている坂本氏だけれど、今回のツアーにおいても、ツアートラックに太陽電池を積み、その電気でステージ上の一部の明かり(蛍光灯、譜面灯)を点けていたのだとか。

閉演後出口に向かおうとすると、すぐ近くに偶然、浅田彰さんがいらして、一言ご挨拶…「『ヘルメスの音楽』以来、いろいろ良い音楽を教えていただいて感謝しています」。

帰りの電車内までずっと余韻の残る、豪奢なひとときでありました。

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最終更新日01/09/16