TELEX INSIDE STORY by H.HOSONO
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−ベルギーにレコーディングに行ったそうですね? H最初はぼくのLPのレコーディングのつもりだったんですが、作ってる暇がなくなりそうになってきたので、急きょ越美晴のレコ−ディングに切り換えて行ってきたんです。 −どうしてベルギーに? H見聞しに行こうと思ってたんです。軽い遊びのつもりで。以前、ベルギーのテレックスのボーカルの人(注:ミッシェル・モース)がファン・レターをくれたことがあった。テレックスは好きというよりかわいいバンドだと思っていた。それがひとつですね。もうひとつは、最近、好きだなと思うレコードに、ベルギーのクレプスキュール・レーベルのものが多かったりしたんで、ブリュッセルというところに顔をつっこんでみたいと思って。 −クレプスキュールのどんなアーティストが好きになったんですか? Hロスト・ジョッキーやソフト・ヴァーディクト、オムニバスの「ブリュッセルより愛をこめて」とか、わりと暗−い感じの音楽に波長が合ってた。あとミカドというグループもYMOがやり残しているようなノスタルジックなテクノをやっていて、これを聞いてYMOのメンバーが、わぁー、こういうのやりたかった、という感じなんです。 −むこうでは、そのへんのメンバーとも会ったりして? Hいや、テレックスのメンバーだけ。他のアーティストは何処にいるのかわからなかった。テレックスのメンバーは、いままで会った人たちとぜんぜん違うタイプの人たちで....好きですね。 −というと。 H行ったときはすごく暑かったの。30度以上あって。スタジオにクーラーがなくて、小さな扇風機があるだけ。東京でそういう状況だったら、みんな帰っちゃう。彼らにとっても異常な暑さだったと思うけど、物静かに、おとなしくつきあってくれた。ダン・ラックスマンという人がテレックスのリーダーで、コンピューターのプログラムとミキシングをやってて、自分のスタジオを持ってる。キーボードのマルク・ムーランも傍につきっきりで。 |
![]() Hosono@L.D.K.STUDIO |
−越美晴の曲を持って行ってレコーディングしたんですか? Hそうです。テレックスと最高にマッチするんで、ぼくのレコーディングをするよりよかったと思います。それからテレックスと一緒に曲を作ろうという話もしたんだけど、ただもう暑くて作る気が起こんなかった(笑)。東京で彼らのシングルの「ラムール・トゥジュール」を聞いていたので、その曲をやらないかともちかけたところ、彼らの顔がパッと明るくなって(笑)、彼らに新しいアレンジをやってもらった。ところが、リ・アレンジというのはやりにくいらしくて、どうしようかと相談された。それでぼくがいじくって、ちょっとずつ変えてアレンジしたんです。 −彼らが使ってる楽器や機材は東京とよく似たものなんですか? Hほとんど共通。まず真中にMC−4がドカンとあって、となりにローランドのTR808というリズム・ボックスがある。そのセットが常設。ちがうのはぼくがプロフェットを使うところ、彼らはム−グのシンセサイザーとシンクラヴィアを使っていた。リンもあって、すごく安心できた。彼らも東京に来て、同じようにリンがあれば同じようにテクノができる。テープも交換できるしね。たとえば、ぼくがリズム・トラックを作って彼らに渡したら、彼らは違和感なく受け入れて、そこに自分たちでつけ加えていける。テクノに関しては、万国共通の言語があるわけです。リンを使っていて、あぁ、なるほどこうだったのかと思いましたね。スタジオのマルチ・テープレコーダーのメーカーは、YENのスタジオと同じオタリだったのがおもしろかった。テクノやってる人は、好みが同じなんでしょう。コンソールはティアックでした。 −そうすると、いわゆる新しい発見というのはなかったんでしょうか? Hそうとも言えないな。びっくりするものはないけど、じわっとくるようなものがあったんです。たとえば、ブリュッセルは、ヨーロッパの他の大都市よりも新しいものがひとつもない町なの。そういうところからテクノとかクレプスキュール・レーベルが発生してくる感じがなんとなくわかるような気がしてきた。 −街を歩いているとファッショナブルな若い人がいっぱいいるとか? Hそういうわかりやすい国じゃないみたい。誰にきいても、みんなよく知らないし、あんまりいいこと言わない。だからよけい好きになった(笑)。金子光晴もヨーロッパに2年間いたとき、ほとんどブリュッセルにいたらしいんだけど、あんまり書くことがないのでブリュッセルについて書かずにパリのことばかり書いてた。 −これからブリュッセルのミュージッシャンと日本で交流が広がりそうですか? Hいまミカドをプロデュースする話をすすめてるところです。 −クレプスキュールから出ているレコードは静かなものが多いですね。 Hミカドなんかは別にして、環境音楽のような手法をベースに置いているというか、現代音楽的なものと、ヨーロッパのロマンティシズムや暗い部分やいろんなものが入りまじってますね。ブリュッセルは、明るいものと暗いものが極端に存在する町ですね。テレックスやミカドは明るいでしょ。 −ノリのおもしろさはあまりなくて? Hないね。リズムを主体にしたノリはないですね。あるとすれば別のノリね。 −音色や和音がおもしろい? Hその辺の問題じゃないみたいね。何なんだろうね。シンプルなピアノ一台とか。 −でもどこかに新鮮味がある。 Hそうですね。 |
1983年8月23日 聞き手:北中正和 「ミュージック・マガジン」1983年10月号掲載 |