TRAN-DS
The Side Story of Tolled Armor Tran-D
Chapter 2: UES Heinlein
Part 1
部屋に紫の光を出す電灯が付いている。
しかしそれは決して明るくはなく、部屋を不気味な色に包み、ベッドに人がいると言う事を教えた。
彼は、寝ているらしく、寝息を立ていた。
だがその静寂は長くは続かなかった。
ぴぴー!目覚まし時計とは少々異なる合図がベッドの隣の壁に付いているスクリーンからした。
最初の合図では男は起きらなかったのでもう一度、合図がなる。
舌打ちをする音が男から発せられ、彼は目を細くしながら身体をおこした。
音がもう一度なる。
「わかった、わかった」
そういうと彼は、スクリーンに付いてるスイッチをおす。
「私だ」
『あ、艦長、お休みのところ申し訳ありません』
若い女性オペレーターの顔がスクリーンに現れた。
ヘッドセットのマイクロフォンの部分を右手で持ち、髪をポニーテールにしている彼女は少々すまなそうな顔をしながら報告をする。
『定時報告です、リキュールはいまだに到着していません、到着時刻より十時間以上たってます。』
「そうか・・・・・」
彼は少し考え込むようなしぐさをする。
「司令部からはなにか言ってきたか?」
『いえ、何も』
「わかった、司令部から何か言ってくるまでこのままリキュールを待つ」
『わかりました、それとトランゼスSの収納終了しました。パイロットのことで格納庫の皆さんが騒いでます』
くすっとわらいながら彼女はそのことを伝えた。
「ふふ、まあ、無理もないな・・・」
鼻で笑うと彼はベッドから完全に起きる。
『もうよろしいのですか?』
「ああ、目が覚めてしまった」
『す、すみません!』
スクリーンに頭を下げている彼女の姿がある。
「ははは!気にするな、格納庫によってからそちらへ向かう」
『は、はい!』
通信はそれで終わった。
男はそれで簡単に着替え、部屋をあとにした。
○
ヒュー!
格納庫の中で口笛が響いた。
「こいつは美人だ」
一機のTAの前に群れあがっている連中の一人が言う。
その意見に同意する他の人もその機体をなめるように上から下まで目を動かした。
Tran-Dの量産型として開発されたトランゼス、それの宇宙型として同時に開発されたトランゼスSがTA用のベッドに収められ彼らの前に立っていた。
それをみて腕を組みならがらちょっと不満そうな顔をもっていた一人がいた。
「おい、真沙緒どう思う」
真沙緒とよばれた人物はトランゼスSに近付き、あっちこっち見始めた。
スラスターの配置とか機体のバランスを観測しながら彼女は、機体をぐるぐるまわった。
そしてもう一度腕を組み、トランゼスSの顔を見上げた。
Tran-Dと比べて頭部の形は丸くなり二つのセンサーである目が一つのゴーグルにされていた。
「ものたりない・・・・」
自分で言ったと思っていたら違う声であった。
同時にその一言を発した男がいたのである。
「艦長!」
彼女が顔を上げたとき見えた男の事をそう呼んだ。
それに反応して他の人も敬礼をする。
「楽にしていい」
そういうと彼はトランゼスSの方へと歩みだした。
「艦長、物足りないとはどういう事ですか?」
整備員の格好をした男がたずねた。
彼は別に腹立だしく聞いたわけでもないが、「ものたりない・・」という一言が気になった。
当然な反応であった。
Tran-Dの後継機がもの足りないといわれたのである。
「ふむふむ」
艦長と呼ばれた男は、真沙緒と同じようにトランゼスSを回った。
「零少尉、意見を聞かしてくれないかな?」
「はい」
「おいおい、またかよ、いつも新型がくると『ものたりない』と言っているくせに」
「今度はなんだ?スラスターがたりないか?、センサーが足りないか?格好わるいか?」
他のパイロットや整備員が文句や批判をする。
それを受ける中彼女の拳に力がこもった。
「正直にいいますと、いい機体です。バランスも取れてますし、今、軍の中心となっている、RA社のハイ・ランツよりはいいかもしれません。スラスターの配置もよく、オプションを増やし機体の凡用性をあげてます。しかし・・」
「しかし?」
聞いている連中が耳を勝て向けてるようなしぐさをする。
その態度にたいしての怒りを押さえながら真沙緒は続けた。
「これでは敵の意表を突く動きができません。回避、攻撃パターンが前とあまり変わらないのです」
「なるほど・・・・では少尉が完璧と言える機体はなにかな?」
彼女は少し考えてから答えた。
「そうですね、噂で聞いたTVSが搭載されてる機体があれば・・・・」
その答えにまた反応がでる。
「TVS?あの死人がでたあれか?」
「そうそう!なんか機体が崩壊したんだよな、システムが要求する出力に付いていけなくて。それであぶなっかしいといわれて放棄されたんだよな。ええと、だれだっけ?開発者は、たしかすごい美人だったんだが」
「おまえそれでおぼえていたのか?」
「わるいかよ」
そんな会話のなか苦笑しながら答えを出したのが艦長とよばれる男だった。
「フェリス・フェアランス・・・・」
○
-Captain on the Bridge-
コンピューターの声が艦長到着の事をブリッジクルーに知らせた。
「どうでした?」
「うむ、零少尉に講義を受けた」
彼は格納庫でおきた事を話した。
「ふふふ、彼女らしいですね」
そのことを聞いた彼女はくすくすとわらった。
「しかし、あのTVSとかいうシステムは本当に使えるのですか?」
索敵に座っているもう一人のオペレーター、サモン軍曹が聞いて来る。
「無理だって話はきいたが?」
戦術席座っているキエフ大尉が答えた。
「理論的には問題ないはずだよ、戦闘機には付いているわけだし・・」
もう一人、航行席に座っているヒュート中尉が意見をのべた。
「しかしよく発表前に導入しましたね、あの機体」
「そうだな、ラグナスも商売の事を考えてのこと思うが・・・」
意見を言い終わらせる前に通信の合図がなった、
「艦長、司令部の中村准将です」
「わかった、スクリーンへ」
「了解」
すぐにスクリーンへ中年の男の顔があらわれた。
『リキュールはまだ到着してないようだな、フォルスリング大佐』
「はい、予定より十時間すぎています、わたしとしては後五時間・・・」
「すぐに帰還したまえ」
いきなりの命令にフォルスリングはあっけにとられ、答えるのにとまどった。
「いや、しかし中村准将、「あれ」はどうするんですか?」
『そのことについてはもうこちらですました』
「はあ?」
またもあっけにとられたフォルスリングはその驚きを口に出してしまった。
それを聞いた通信オペレーターの女性が笑うのを我慢するところが彼に見えた。
『なにか不服でもあるのかね?』
「い、いえ、あまりにも急なことで」
『とにかく、君たちがそこにいる理由がなくなった、すぐに帰還しろ』
「・・・・・・・・・わかりました」
少し考えてからフォルスリングは答えた。
『じゃ、後程』
「はい」
それで通信はおわった。
「・・・・・・・」
再び考えるしぐさをフォルスリングがする。
「ほんとうに帰還するんですか?」
航行席についているヒュート中尉がたずねる。
「ヒュート中尉、たしか我々は少しエンジンのトラブルで困っているのだったな」
いきなり妙なことをきかれたヒュート中尉は、一瞬とまどったが、すぐに艦長が何を考えているのか気付いた。
そして苦笑をしながら
「はい、エルファ星に帰還可能まであと五時間必要かとおもいます」
「そうか・・・・そのことを司令部に伝えてくれ岬少尉」
岬少尉とよばれた女性通信オペレーターはにこやかに微笑むとうなずき司令部へと「状況」を説明すべく通信回線をひらいた。
「エルファ本部、こちらハインライン応答ねがいます・・・」
○
三時間後・格納庫
「はあ」
ため息をしながら白い機体の前に立つ女性がいた。
リフトに乗り、スイッチを押すとそれは彼女をコクピットの側まで運んだ。
そこには整備士のランがトランゼスSの頭部センサーを整備していた。
「ちょっといいかな?」
「あ、どうぞ、少尉の機体整備は済んだのですか?」
「うん、まあね」
「では、どうぞ」
彼に断っとくとコクピットのハッチを開き、滑り込んだ。
「レイアウトが違うでしょう?」
ランがたずねてきた。
たしかに、見ればそうであった、コントロールステッキは一目瞭然だが、ほかのモニターの役割が不明であった。
真沙緒はすぐ席の隣にあった、マニュアルを開いた。
簡単に目を通しながら何がどこにあるかを確認した。
そしてある程度感心もした。
彼女の希望のTVSはなかったが彼女にとって扱いやすい機体になっている。
「すぐに動かせるかな?」
「動かす事はできますが・・・・」
「が、何?」
「あ、BIOSがいつも使っているENIACのものではなく、ラグナス重工が独自に出したもので、ハイ・ランツのパターンとかコンバートしなければなりません。少し時間かかりそうです」
「・・・・・しかしコクピットがこう変わってるんじゃ、それも無意味に近いかな?」
「そうかもしれませんね」
「ちょっとメンテナンツモードで起動します」
「え?あ!ちょっと少尉、困ります!後で整備長になぐられるのはぼくなんですよ!」
慌ててコクピットの中に突っ込んだランの顔に一枚の紙が突きつけれられた。
同時にリアクターの起動音が響く。
「あ、これは少尉の物になったんですか・・・ならいいかな・・」
辞令を読み理解したランが安心し、トランゼスSの起動シークエンスを見た。
女性のコンピューター声が、システムの起動ならびに正常である事二人に伝える。
「こらーー!だれがトランゼスSを起動していいといった!」
スクリーンにこちらへ走ってくる男が写しだされてる。
「げ!やばい!」
ランは、その男をみるとすぐに持ち場へ戻ろうとするが、慌てたせいで手が滑り、真沙緒の上に落下した。
「きゃ!」
「す、すみません!」
体制を直そうとするラン、それを早く済ませようとする真沙桜、その動きでランの腕があるスイッチをおした・・・・外部スピーカー用のマイクとマニュアルに書いてある。
『ちょっと!そんなとこ・・・・・!』
『す、すみません!で、でも零少尉って、』
『何を言って・・・!あ!どこに顔をいれてるのよ!!』
『ご、ごめん!』
『こ、こら!胸を触わるな!』
『すみません!』
アダルト・ビデオみたいなせりふが格納庫に響き渡り、ほかの整備員とパイロットはそれを聞いて硬直した。
「あの野郎いい思いをしやがって」
「あとで簀巻きにして宇宙に放り出してやる!」
「しかし、あいつも女だったんだなー、たしか19だっけ?」
「おまえ、またそういうことをいう!」
しかしその次の瞬間ばき!という骨が折れるような音が響き、ショウはおわった。
「コホン!」
と咳払いをして真沙緒は頬を押さえ苦痛に苦しむランをコクピットから押し上げていた。
「いててて」
といいながら這い登ろうとするランであがったが彼は、すぐにまた真沙桜の上に落下してきた。
「いっ!」
真沙緒の顔が苦痛でゆがむ。
船が激しくゆれはじめた。
「な、なんだ?!]
格納庫にいる者がこの揺れ方が以上だと気が付いたとき艦内放送で恐怖にまみれた岬少尉の声が響いた。
『総員、直ちに対ショック体制をとってください!早く!』
ハインラインが巨大な衝撃を食らったのはその数秒後であった。
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