Tran-DS
The Side Story of Tolled Armor Tran-D
Chapter 4: Ragnus Heavy Industries
part5

「うん・・・・・」
薫は目を固くつむりながら真沙緒にしがみついていた。
二人の口は重なっており、軍の制服を着ている薫の頬には涙が一つ流れていた。
格納庫へと向かうエレベータで二人は強く抱き合っていた。
フェナ達がトリエスタに来てから二週間がたち、ハインラインは次の命令をうけていた。
真沙緒、フェナとフィオの身柄はラグナスに引き取られ、チームサテライトのメンバーとなった。
私情のために薫までラグナスに残すわけにはいかず、薫はハインラインと共にトリエスタを離れることになった。

「いやだ・・・・」

薫は二人の唇が離れたあとそっとその言葉をもらし、真沙緒にさらに強く抱きついてくる。
「わたしもよ」と真沙緒もいいながら薫を力強く抱く。
お互いの髪をぐしゃぐしゃにし再びもういちど口を重ねた。
やがてエレベーターは指定されたフロアについた。
急いで身だしなみを直し、二人はプラットフォームに出た。
ハインラインのエンジンはかかっていた。

「岬少尉!!何をしていた!!!」

フォルスリング大佐がスピーカーでどなる。

「す、すみませーーーーん!」

とあやまりながら薫は急いで飛び乗った。
そしてドアが閉まる前に薫はもう一度真沙緒へと向きかえった。
真沙緒は片手を小さくふりながら見送っている。
口がかすかに動き何かをいう。
扉が閉まる瞬間に見えたものであったが

「すきだよ」

という真沙緒を薫は見ることが出来た。
扉が閉まる瞬間ハインラインは逆噴射をかけ、頭上にある青い空へと飛び立った。



「ゴメンナサーーーイイ!!」

聞きなれないなまりを持った泣き声と共にフィオはあやまった。

「・・・・・・・・・」

フェナは目の前にある染みが付いたシーツを見ていた。
黄色の染みがフィオが寝ていた場所にあった。

「・・・・・・・・・・」

何も言わずにフェナはシーツを外し始めた。
相変わらずの無表情で何も言わない。
それがフィオに取って不満なのか少しむすっとする。
その反応をみてかフェナは側にあるティッシュボックスからちり紙をとり、フィオの涙を吹き始めた。
しかしやっぱりなにも言わず、顔は無表情である。
最近フェナの様子がおかしい。
口数は少なく、前みたいに小さく笑うことも少ない。
フィオの取ってそれは不安を生ませるものであった。
自分の相手をしてくれる時間も少ない。
ほっとらからされていると思ってしまう状態になりつつであった。
涙を十分拭き取った後、フェナは無言にシーツを洗いに部屋を出た。
その冷たさにフィオはまた泣き出してしまった。

「私はなんなのぉ」

とついいってしまう。
それを慰めようとしてか・・・・・くーんと犬の声がする。
おおきな犬が・・いや狼に似た生物がやさしい目でフィオをみつめている。
まるで大丈夫だよと言ってるいるようであった。

「ありがとう・・・・・シルフィード」

フィオはその「狼」をそう呼んだ。
彼こそ・・・フィオのKA(キラーアニマル)の「元」になっていたシルフィードである。
フィオの相手ができなくなったフェナが彼を「殻」から出したのであった。
その証拠に接続端子がシルフィードの体のあっちこっちにある。
フィオは始めは反対したが後にフェナに古い友人とあわせたことに感謝していた。
そしてフィオが行くところにシルフィードがついていった、まるで守るかのように。
たまにシルフィードが話し掛けてきていた。
話し掛けるというより言葉を一ついうだけであったが、それでも彼の中には大きな意志があるということが分かる。
まるで事の進みを監視するかのように。
TAの模擬戦も彼は静かに見つめていた。

「シルフィード、手伝いにいこ!」

フィオはシルフィードに救われたかのようにいつものの元気をとりもどしフェナの後を追った。
少しの間でもいっしょにいられればいいという思いがフィオをそうさせていた。

暑いお湯と洗剤をあわせ、フェナはシーツを手洗いでフィオのおねしょの後を落そうとしていた。
洗濯機を使えばいいのにフェナは手で洗うことにこだわっていた。
ばしゃばしゃという音を立てながら布をこすり合わせながら染みを落そうとする。
時に匂いを嗅ぎ、取れたどうか調べる。
とれていなかったらそのまま洗い続けた。
しばらくすると満足する所まで汚れはとれた。
かんたんに二三回しぼると洗濯ルームにあるドライヤーにほおりこんだ。
一息をいれると自分の服まで濡れていることに気がつきフェナは、シャワールームへと向かった。
服を脱ぎ捨て暑いお湯をかぶり始める。
水滴が頭から彼女の白い肌を伝いやがて足にたどりつく。

「ふう」

何日ぶりだろうか・・・・・・
息をもらしながらフェナはそう思った。
二週間前、自分は一人でラグナス重工の地下深くつれていかれ、ある人型兵器をみせられた。
その機体がTran-Dの原型となっと言われた。
あとは好きにしていいといわれ、自分は取り付かれたかのようにその機体を調べ、新しいTran-DSを作るためのヒント手に入れた。
その後、ミアとフィリスをTran-DSとTAの事を教えながら、二人の考えを取りいれTran-DSの再設計を初めていた。
夜に行われている作業をWillが昼にそれを解析、処理していた。
ラグナス重工のネットに存在するWillはラグナス重工のコンピューターを使いそれを実行していた。
そのため「原因」不明の処理速度のダウンのために皆困っていたことはいうまでもないが。

-You don't look too happy-
(あんまりたのしそうではありませんね)

男に合成声がフェナの頭に響いた。

「・・・・・・・・・・・その通りよ、Calamite」

Calamite、Wileのデータを元に作られたTran-DSのもう一つに意志である。

WillがWileが残したデータを使い新しく誕生させたのである。
いまはWillと共にデータ解析をやっているが新しい「体」に入りたいといつも言っている。

「はあ」

とため息をしながらフェナは頭を壁においた。

「答えがみつからないの」

二週間前に支社長の聞かれた質問・・・自分の目的はなにか、何故生きているのか。
まるで答えを押し出して見たいかのようにフェナは頭を壁に数回当てる。

-I don't think most people have an answer-
(ほとんどの人は自分の答えを持っているとおもいませんが)

Wile と同じのように、哲学的な答えをCalamiteは出してくる。
それを聞くのがフェナには少々つらかった。
なんにためにこの世に連れ戻されたのか・・・・・・なんのために自分は生きているのか、フェナは母親に聞きたかった。
しかし答えをもらうまえに母親は死んでしまった、最後の願いを残して。
フェナは目を閉じしばらく熱いお湯を浴びた。
数分後・・・・・

「あれぇ?寝ちゃってるよ」

フィオの声が側でした。
ゆっくりと目を開けると自分がいつのまにか座り込み眠ってしまったことにフェナは気付いた。
しばらくまともに寝ていないので無理もないことである。
シルフィードがフェナを起こそうとぺロッと頬をなめた。
そして変な匂いが鼻につく。

「うん?」

フィオとシルフィードから匂いがする。

汚れている匂いだ。

「フィオ・・・風呂に入ってないでしょう?・・・・」

「え?」

その言葉を聞くとフィオは一歩下がった。
シルフィードの一歩下がり、逃げ腰になっている。

「シルフィード・・・・・・・・・・逃げるよ!」

「こら!待て!」

お風呂に入れられる事が分かったフィオはフェナの止める言葉を聞かず浴室から逃げだそうとする。
しかし入り口で誰かとぶつかってしまう。
シルフィードはその期にドアを潜り抜けようとするがフィオがぶつかった人物に止められてしまう。
シルフィードはきゃいん、きゃいんと泣きながら暴れるが逃げられない。

「フィオ、シルフィード・・・・・二人とも観念しなさい!!」

真沙緒の凛とした声が浴室に響いた。

「おとなしくお風呂にはいりなさい!!」
追って来たフェナが床に倒れたフィオを抱きかかえ、自分が使っていたシャワールームへと連れていく。

「やだーーーー!!!」

フィオは必死に抵抗するが大人のフェナに勝つ分けがなかった。
フィオが来ていた服は投げ捨てられ、

「うきょあああああ!!!」

という悲鳴が響く。
それを聞いてくすっと笑う真沙緒からシルフィードが逃げようとするが真沙緒は腕の力をゆるめない。
フェナがフィオを抱えたように真沙緒はシルフィードを抱えフェナの所へとつれていく。
まるで死刑されることかのようにシルフィードは抵抗するが逃げられず、フィオと共に洗われる。
しばらくの間、浴室では子どもと犬の泣き声と共にそれを必死に押え込み洗おうとする二人の女性の声が響いた。
時間は昼過ぎで寮の方ではだれもいなかった事がせめての救いだったかもしれない。

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