Tran-DS
The Side Story of Tolled Armor Tran-D
Final: Please Find Your Own Happiness.....
「ふう・・あついわね」
私は重いボストンバッグを埃まみれの道路の上に下ろし、手に持っている地図を扇子代わりに振った。
バス停で座る私に夏の日差しが容赦なく襲う。
そして、周りにはなにもない。
ただ、緑の草原が時々吹く風でざあっとという音を鳴らしていた。
大きな海に波が走るように見える。
しかし、涼しいはずの風も熱風でしかない。
次のバスがいつ来るのかわからない。
予定表が錆で読めなくなったいた。
一時間おきに、来てくれていると助かるけど。
どうせ、こんな田舎だから、バスにはエアコンがついているわけないだろうなぁ。
「はぁ」
ため息をつくと私はペットボトルをバッグから取り出し、バッグの傍に腰を下ろした。
残り少ない、お湯に近い水を喉を鳴らしながら飲む。
バッグへ戻すとまたため息をついた。
空を見上げると蒼い空のバックに白い雲が流れていた。
その色の組み合わせで私の脳裏にふと、あの機体のイメージが横切る。
「あれから、二年がたっちゃったのかぁ」
何回も思った言葉をまた呟いてしまう。
あれから3年。
エルファのあの夏から3年。
あれから、私はあっちこっち旅をしている。
いや、旅とは正確ではない。
与えられた任務を遂行している。
それも私一人でだ。
あの二人を探す代わりに豚箱に入らなくてもいいということだ。
始めは、そんな命令をきっぱり断るつもりだったけど、結局私はその命令を受けた。
私も知りたかったんだ。
二人がどうなったのかを。
しかし、手がかりはほとんどなし。
徹底的に探せということで、まずエルファを回った。
でも、前の大戦のおかげで人間がいるようなところはそうない。
だから、すぐに終わった。
そのおかげというか、別の二人を偶然見つけた。
いや、三人、三人になった二人。
変な言い方だけど、本当のこと。
可愛かったなぁ、あの女の子。
たしか、エメラルドと名づけたんだっけ。
驚くことに、もう二人目が生まれるという話しだった。
あの男、見かけに寄らずやるわね、と正直思った。
彼は私が、二人のことを軍に知らせると思って私を行かそうとしなかった。
当然なのかもしれない。
でも、彼らは私の任務対象の人物じゃなかったから、報告する気はなかった。
気になっていたことは本当だけど。
やっと説得、いや、奥さんと娘さんが脅したから、やっと開放してくれたのよね。
あいつ、ずっとこれからあの二人、いや、家族に尻敷かれるだろう。
「ぷくくく」
その事を思うとつい笑いが出た。
でも、彼女は本当に幸せそうな顔をしていた。
う〜ん、うらやましい。
私も早く、相手を見つけないと。
薫とは・・・強制的に別れさせられたからなぁ。
実家に連れ戻されて強制的に結婚されたんだよね。
あんなことがあったわけだし、親心もわかるけど。
それにしても相手があいつだとはねぇ。
本当に驚いちゃった。
まあ、あいつなら大事にするだろうけど。
でも、さすがにつらかったなぁ。
艦長はエルファを守れなかったことに責任を取らされて、軍をやめさせられたんだよね。
家族とどこで静かに暮らしているんだろうけど。
あ、なんか泣きたくなっちゃった。
家族がいない私には…。
「あー、もう!」
なにしおらしくなっているんだろう。
と、自分に言い聞かせようと空をまた見上げる。
右腕をかざして、手首をみる。
このブレスレットをはずしたことはない。
もしかしたら、二人に近づいたら何か反応が出るとおもった。
でもそんな気配すら見せてくれない。
もっとも中心にあるクリスタルにひびが入っているなら、当然かもしれないけど。
しばらくすると、道路を走るものが埃を上げながら、近づいてきた。
ブロロロロ・・・キシュン。
バスが止まる。
乗りこみ、適当なところに座ると目を閉じた。
エルファから地球にやってきて、二年。
エルファと違って、地球は広い。
数ヶ月前に旧米国の西海岸のある街でバイオジネティックスの会社があったから立ち寄った。
彼女の母親がそこらへんの出身でラグナス重工本社の近くだったから、なにか分かるかもしれないと思った。
でも手がかりはなかった。
肩を落として去ろうとしたら、ある人が私に今手にある記しがついた地図を渡した。
そこに彼女の母親の所有地があるらしい。
始めてのまともな情報だった。
いてもたっていられず私はそこへ向かった。
そして、ついたのが、この広大な草原がある場所だった。
人の影もありはしない。
うわさを頼りながら、私はあちこちまわったけど、結局なにも見つけられなかった。
「この写真の人達?見たことないねぇ」
「あらぁ、綺麗な人ねぇ。ねえ?だれ?息子の嫁として紹介してよ」
「みたような、みてないような」
「ああ、この二人だったらきたぜ。でもすぐにどっかいっちまってなぁ」
「うん、顔は覚えているけど、どこいったのかは…」
「仲のいい親子だったよ…」
「へへへ、しっているぜ。でもただで教えるわけにはいかんなぁ」
見たという情報はいっぱいあったけど、二人についての正確なことは分からなかった。
幽霊を追っているような感覚を私は覚えていた。
姿は見たけど、痕跡はなに一つ残ってない。
街から離れた民家をまわったけど、いない。
正直、あきらめようと何回おもったのかわからない。
生きているってことがある意味証明されたのだから、それでいいとおもった。
でも、私の中にいるもう一人がそれだけでは納得いかないらしい。
ふと思いあたり、私は運転手に聞くことにした。
「あの、この二人ご存知ありませんか?」
運転手は無言に写真をとるとしばらくみた。
しかし、頭を左右に振った。
「そうですか…すみません」
「なんで探しているんだ?」
「え?」
「だから、なんで探しているんだ?」
いままでそんなことを聞かれたことはない。
私はとっさの質問にしばらく沈黙してしまった。
「理由もなく探しているのか?」
運転手はそういいながら、ふと私のほうへ見た。
髭をそらず、汗で制服があちこちぬれている、小汚い男だ。
こんな人に話してもしょうがない。
でも、目的地にはまだ時間がある。
ひまつぶしにでもとおもったけど、詳細を教えるわけにはいかなった。
だから、私はこう答えた。
「友達だから」
「友達?」
「ええ…。なにもいわずに勝手にいなくなって、心配を掛けさせる大切な友達です」
「あはははは!そりゃいいや!」
彼は大声で笑うと再び視線を道路へと戻した。
しばらく沈黙が続いた。
でもそれを割ったのが彼だった。
「いなくなったのはなにか理由があってのことだろう?」
「…」
「もしかしたら、見つけてほしくないかも知れない。そっとしておいてほしいと思っているかもしれない。そう考えたことはあるか?」
「え?」
そんなこと考えたことがなかった。
そうなの?私は答えるはずのない、彼女に問うた。
でも…。
「でも、でも、そうだとしても私は彼女達に会いたいんです」
「何故?」
きつい質問をしてくる男だ。
「深い理由は…。ただ、彼女の無事を確認したいんです」
「それは彼女のためか?それともあんた自信のためか?」
「あ・・・・」
またしても一本取られた気分だ。
自分のために探している?
そうかもしれない。
私の中にあるもやもやを消したい。
そうすることによって私は新しい道に踏み出せるかもしれない。
でもそれだけじゃない。
「そうかもしれません。私が勝手に探しているということは事実です。でも・・・。それだけではないんです」
「ほほう?」
運転手は再び私の方へ振り向いた。
「無事を確かめたいのはありますが。その…。彼女達が幸せにしているか知りたいんです…。彼女達にはその権利がありましたから…」
あれだけ、苦しんだ二人だ、彼女達にはその権利があると私は思った。
そして、自分でそれを確かめたかった。
「…」
運転手は私の答えに納得したのか、視線を再び道路に向けた。
「そっか」
納得したように彼は運転を続けた。
再びの沈黙が訪れたが…。
ガタ「ガタン!!もいい友達をもったもんだ」
バスが突然揺れたせいで彼の最後の言葉は聞きとれなかった。
それっきり二人の間に会話は無かった。
長いバスの旅と二人を探している疲れが出たのか、私はいつのまにか眠ってしまった。
気が付いた時には、外は真っ暗だった。
そしてバスはやっと目的地についたのだった。
運転手にお礼をいって私は目をこすりながら降りた。
そこでだれかとすれちがった。
「パパ!おそい!!」
「ああ、すまん」
「もう何時間待たせるつもり?」
あれ?
「すまんすまん」
「あなたのその言葉は聞き飽きました!」
「早く帰ろ!もうフィオおなかぺこぺこ」
「わかった、わかった」
「早くしてくださいね。『彼』も待っているんですから」
「了解」
ちょ、ちょっと!!
私は慌ててバスに戻ろうとした。
しかし、そのドアは閉められ、エンジンがかかる。
そして、バスはゆっくりと出はじめた。
なんとしても止めようと私は頑張ったけど、バスは止まらなかった。
バスの中をみようと窓を覗く。
そしてそこにある人が現れた。
オレンジ色の髪をお下げにした女の子が。
向こうも私に気が付いたらしく、目を丸くした。
そして誰かを呼ぶように中へ顔を回した。
それに答え、もう一人の顔が現れた。
その女性は私を見るとちょっと驚いた顔をすした。
しかし、それは一瞬にして笑顔になる。
バスが遠ざかる。
私は必死にそれを追う。
しかし、到底追いつけない。
テールランプが小さくなっていく。
でも、私にははっきりとあるものが見えた。
3年前始めて会ったときよりちょっと大きくなったフィオ。
そして、ちょっと歳をとったフェナ。
彼女達が大きく私へ腕を振っているところを。
それは私にこういっているように見えた。
『私達は大丈夫。今度はあなたが幸せを見つけて』
と。
Tran-DS: The Side Story of Tolle Armor Tran-D
Fin
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