Tran-DS
The Side Story of Tolled Armor Tran-D
Epilogue 1: A New Beginning

暑い季節がトリエスタを訪れた。
海岸は、日焼けする人、家族で遊びに来る人、ナンパする人でいっぱいになっていた。
そして、この街は急速に成長していた。
丁度一年前に起きた事件。
その記憶が消そうとビルが急激なペースで再建されていく。
その時に起きた傷は人の心から消えることはない。
しかし、人々の傷を癒そうと目に写る傷を治すのが、街というものなのだろうか。
戦争などの傷を消して、街は未来へと大きくなっていく。
それが街というものであり、人間の歴史というものかもしれない。

「調査の結果ができました」

「やっとか…」

「はい、なにしろ、重要な関係者の二人はこの世にはいないんですから」

「そうだな」

トリエスタの少ない超高層ビルの一室。
大きな机に座っている男性はレポートを開くとぱらぱらと中身を見た。

「ふん」

彼の鼻笑いとともにそれはごみ箱へ放りこまれた。

「なにもわからんな」

「その通りです」

「よろしい」

男は席から立つと大きな窓のほうへ歩んだ。
ビルの最上階のそこからは街を見下ろすことができる。
地上で歩いている人々が忙しい蟻のように見える。

「しかし、アレを一つ失ったのは…」

「なに、いくらでも残っているさ」

「おしい男を失いました」

「そうだな。しかし、彼の代わりになるものがいるだろう。しばらくやりにくくなるが、我々の目的は一晩で実現するものではないからな。」

「はい…」

沈黙が部屋を訪れる。
外を眺めていた男はタバコをくわえ、自分で火をつける。
紫色の煙がゆっくりと上がる。
彼の視線は相変わらず、地上へと向けられた。
地上に這う蟻に。

「人間どもが」

彼はいつものの口癖を言い放った。






そのビルと反対の位置に建っているビルからもう一人の男が外を見ていた。
彼の机の上に一つのレポートと手紙がおいてあった。

「よろしいんですか?」

「なにがだ?」

「彼にまた…」

「くどいぞ、エドワード」

「申し訳ありません」

腕を後ろに組み、ラグナス重工エルファ支社長ジックスがゆっくりとエドワードへ向き直った。

「彼を最初に見つけたのは君だ。その後、彼はどれほどの経験をつんだと思う?」

「しかし…」

「まだ、あのことを引きずるつもりか?」

「いえ…」

「ならば問題はないだろう。そこまでいうなら、彼の変わりを探してくればいい」

「は?」

「見つかればの話しだがな」

「……」

エドワードはそれ以上なにも言わなかった。
沈黙が部屋を支配する。

ピーピー!

それを破ったのがジックスの机のラップトップ。

「私だ。…そうか、わかった。すぐにいかせる。エドワード…」

「はい、分かっております。では…」

「頼んだぞ…」

「はい」

エドワードは挨拶すると社長室を出ていった。
しかし、その顔はいまの状態が気に入らないと言っていた。
数分後。
大きな音を立てて、ラグナス・セカンドファクトリーの格納庫のハッチが開いた。

『ハッチオープン!オールクリア!』

「こちら、ライズ。発進許可を願います」

『管制塔よりライズへ、発進を許可します。御武運を!』

「了解!」

その言葉とともに、リックはゆっくりとライズを上昇させた。
コクピットには他に数人の人影があった。

右の窓側にはチーム・サテライトのチームリーダー、フィリス・グリーデンがいた。
彼女はこのままチームリーダーを続けることに決心した。
今回の遠征は彼女の独断の判断によるものだ。
それもTran-Dを使用しない。
Tran-Dは現在開発中ということで、データが必要になったのだ。
だから、Tran-ZSで遠征をすることにしたのである。
彼女の首にはいま、小さなクリスタルのペンダントがかかっていた。
金色の細工が施されたそのペンダントを彼女はいじっていた。
送り主の名前が無かったそのクリスタル。
ラディットが無言に彼女に渡したものだった。
でもフィリスにはそれが誰からのものかは、すぐにわかった。
自分の趣味をわかっている人は親以外に一人しかいない。
肘を立て窓の外を向いている、彼女の目は蒼い空を見ていた。
ある人の瞳みたいな深い蒼の色をした空を。

その隣には小柄なショートカットの女性が座っている。
ミア・ラグフォード。
彼女はこのたび、正式にチーム・サテライトの主任システムエンジニアとして配属された。
最初は断ったのだが、チームリーダーであるフィリス一生懸命推されたことでしぶしぶ受けたのだ。
断った自分ではあったが、どこかどきどきしているところがあることを否定できない。
今回は自分がこの一年習ったことを試すものだ。
あの地下施設は、彼女にどのような影響を与えたのだろうか?
少なくとも、今までセオリーとして覚えてきたものは必ずというものでないということが身にしみた。
それを試すときがきたのである。
そのことを思うとミアの胸は高ぶっていた。
しかし、また、どこかで悲しい気持ちがあるのを否定しない。
約一名覗いて、その場にいる人は全員そう思っているだろう。

ミアと廊下を挟んでもう一人の女性、グレナディア・エルミ―ニャが座っている。
「ガルトスの閃光」と呼ばれた彼女。
彼女はこのチーム・サテライトの一員として在籍を希望したのである。
いいTAが使えるということもあったが、自分は実戦を経験したのだ。
それも一度に大量のキラードールと戦ったのだ。
自分の腕ためし。
ハードに頼らないパイロットとして。
どのような情況に適応できる、どの機体に乗っても自分の腕で戦えるようなパイロットになるために。
だが、それだけではない。
自分は巻き込まれたのだ。
Tran-Dを中心にした戦いに。
義務ではなかったが、最後まで彼女はついていくことにした。
いま、自分が住んでいる世界の真実を見極めるために。

そしてフィリスの反対の席に座り、外を見ている男がいた。
アーリー・ラグフォード。
ラグナス重工エルファ支社のTran-D専用テストパイロットである。
しかし、今度の遠征には彼はTran-Dを操らず、Tran-ZSをあやつることになった。
フィリスの指示があったこと同時に、これは彼が希望したものである。
ハードにたよらないパイロット。
彼は本当の意味でそれを追求するため、あえて量産の機体で遠征に出ることにしたのである。
自分の能力が機体の性能をうわまっているといわれた。
だが、そうであったら、あの戦いの中で自分がなにか出来たはずだった。
しかし、結果は、それを示していない。
これは自分の真実を探すための旅だ。
そして自分にとって大事な物、人達を守るため力を付けるために。
そう自分に言い聞かせる。

上昇を終えたライズはゆっくりとビクトリーロードへと出る。
トリエスタの姿がゆっくりと小さくなっていく。
彼らの前には一本の道しかない。
この先、彼らがこれからどのような機体、人達に出会うのか。
それは、ここで語られるべき物語ではない。


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