他の方の作品とあまりにも 違いすぎるギャグですが、良いのでしょうか?
『銀河園児伝説 −序章−』
「シェーンコップ先生、おはようございます」
「先生。うちの子、最近寝付きが悪くて…」
二十代の若奥さんに囲まれた、シェーンコップ。保育園の門前は、彼を取り巻く母親達で封鎖されていた。その足元を、上手く縫って、
「先生、おはよ」「おはよーございまーす」
と、子供達は元気良く走っていく。シェーンコップは片手を上げて、それに答える。母親達は「走ると転ぶわよ」だの「先生の言うことを良く聞くのよ」だのと、子供に声を掛けるが、シェーンコップとの談話は流暢に進んでいる。
「悩み事、相談事など何時でもどうぞ。特に夜は空いていますよ」
人妻相手に臆することなく口説くシェーンコップ。母親達は、
「まあ、どうしましょう」と言い合って喜んでいる。
そこへ、登園してきたカリン。門前で壁を作っている母親達に一瞥をくれてから、
「先生、じゃま」
と、ずんずんシェーンコップへ歩み寄る。彼女は指をピンと彼の鼻先に突き出し、片手は腰に当ててこう言い放った。
「通行人の事を考えたらどう」
シェーンコップはカリンが怒っている理由など分からないかのように、両手を上げている。
「それでは先生。よろしくお願いします」
さすがに、門前での井戸端会議の迷惑さに気付いたのか、母親達は頭を下げ、帰っていった。
「毎朝、毎朝。同じ事をやって。ばっかじゃないの」
怒り爆発のカリン。一方、カリンを不機嫌にした原因者は、「仕方が無い、子供でもからかいに行くか」と、教室へ急ぐ園児の後についていった。
「ヤン先生。おはようございます」
「やあ、おはよう。フレデリカ君」
園児の低い机を机代わりにして、立膝をついて座っているヤン。
彼は列を作って並ぶ園児たちに、登園シールを貼っていた。
「先生…」
フレデリカはヤンの背後に椅子を引きずりながら回り、「襟が曲がってますよ」と、律儀に靴を脱いで椅子に上がると、ヤンの襟元を正していく。
「ああ、ありがとう」
と、微笑むヤン。年のいくらか離れすぎた2人の雰囲気は、
「ヤン先生。早くシールくれよ」
という、ポプランの一言で、脆くも崩れ去ったのだった。
「おはようございます。キルヒアイス先生」
教室の扉のそばで、セーラー服に身を包んだ少女が、弟であろう少年の手を引いて立っている。
「ラインハルトをよろしくお願いします」
彼女は丁寧にお辞儀をし、走り寄ってきたキルヒアイスに微笑みかけた。
「アンネローゼさん、おはようございます。こちらこそ、どうぞ宜しく」
190pの長身が半分になる程の、深いお辞儀を返すキルヒアイス。その横を――と言うより、その足元を二人の園児が通りぬけた。
「毎日同じ挨拶を繰り返して、良く飽きないと思わないか、ロイエンタール」
「ミッターマイヤー。先生にとっては、これはいつでも新鮮なんだろう」
「そういうものなのかぁ」
そんな会話を交わしながら、二人がライオン組の教室へ入ると、「おはよう、ウォルフ」
ミッターマイヤーの顔を見て、一人の少女が駆けてきた。
「おはよう」
彼は満面の笑みをたたえて、少女を迎えた。「エヴァ、元気だったかい」
「ミッターマイヤー、人の事を言う資格はないぞ。毎回、毎回…」
ロイエンタールのつっこみも、幸せ一杯の親友の耳には届いていなかった。
ここは、グリーンヒル前園長によって、創設された緑丘保育園。敷地は膨大とは言えないが、砂場にプールと、子供の遊び場として機能するだけの十分の広さがある。
現在の園長、ヤン・ウェンリーの方針は、「年齢によるクラス編成をなくし、皆で遊び、学び、昼寝をしよう」だった。しかし、予想不可能な出来事を巻き起こす子供達の行動力を把握、処理しきれないという先生方の要望により、クラスを二つに分けることになった。それぞれ「ライオン組」「ほし組」と名付けられた。
ライオン組は担任にキルヒアイス、副担にメックリンガーが就き、ほし組はヤンが担任を園長と兼任し、副担がシェーンコップとなった。用務兼事務員として、キャゼルヌに保育園の運営が任されていた。彼がいなければ、伝票からセロハンテープの置き場所さえもわからなくなると言われている。キャゼルヌの妻であるオルタンスは、子供達に好評の給食やおやつを作っていた。
園児のクラスの振り分けはヤン自身が行い、皆で仲良くという彼の意図とは裏腹に、両組の仲はあまり良いものではなかった。
ライオン組では、カタカナが書け、漢字も少しだけ読める点で、同クラスの園児の羨望を集めたラインハルトが中心的人物となった。
一方ほし組では、長い間大将を務める子供はいなかった。だが、よからぬ事を企てる時、事前に発覚しない壁となるために、男子の中で最年少のユリアンが無理矢理祭り上げられた。隠れ蓑の役割として、大人しく信頼のあるユリアンにした。が、人をまとめ引っ張っていくだけの人格があったと、ユリアンを選んだ首謀者達は思わぬ誤算に喜んでいた。
この緑丘保育園と大通りを挟み、嫌がらせとしか思えない位置に、新設の私立保育園ができた。莫大な資金と敷地を誇るこの保育園は、トリューニヒト園長の手腕とルビンスキー副園長の策謀で、保育園経営界のダークホースとなっていた。彼の保育園経営の目的は政界、財政面へのコネを得ること。『将を射んと欲すれば先ず馬を射よ』の言葉を守り、年間200万円以上の学費を払う能力のある、高額納税者の親を持つ子供専門の保育園をつくりだした。
園児の送り迎えは個人のハイヤーで、バスの存在はない。他の保育園では敬遠される宗教関係者も受け入れていた。そのため、現在異様な勢いで信者を増加させている、地球教の信者の子供も多く通っている。
規定の園児の制服は高額なもので、大きなフリルが付いているのが特徴。
「私のために作られた服だ」
「すぐにやぶけるではないか。もろすぎる」
以上は制服に対する園児のアンケートのコメントで、前者がフォーク、後者がオフレッサーという園児のもの。しかし、地球教の信者の園児は黒いフードを着用のため、制服は免れたが、フリルだけは付けるように義務付けられていた。
保育園の設備は全て殺菌消毒され、最新コンピュータによるセキュリティーシステムや学習システムが完備されている。園児達は常に無菌保護室で奴隷のように従順な保母、保父と遊んでいた。
そんな保育園経営業界トップを目指すトリューニヒトにも、頭痛の種はあった。豪華な設備で整えられた園長室で、ルビンスキー副園長と『緑丘保育園の入園者数の増加理由』について、議論していた.
「たいした設備もなく、優秀な先生を揃えているわけでもない。なぜ、緑丘保育園に…」
トリューニヒトは全国保育園データ資料を見ながら唸った。
「人気があるのも、気に入らない」
斜め前に座るルビンスキー副園長の顔を見るが、彼は終始黙っていた。
「我が保育園が業界一位になるには、邪魔な存在だな」
彼はルビンスキーの返事を期待せずに、独演を始める。延々と続く園長の演説に、ルビンスキーは慣れているのか、別段気にも留めていない。
「…緑丘保育園は彼等に相応しい評価を受けるべきだ」
自分の結論に一人で納得し、トリューニヒトは満足気に園長室をあとにした。
「何を始めるつもりか知らないが…。まあ、好きにやらせておくか…」
初めて口を開いたルビンスキーは口端を僅かに上げて笑った。
トリューニヒトやルビンスキーの策略を知らないヤン園長と緑丘保育園に何が起きるのか…。
…それは、作者にもわからない。
−完−
日向 みずち
第一章へ