私とダーリンの出会いは、今から7年前にさかのぼる(「さかのぼる」なんて、何百年も前の話のように聞こえる...)。 当時、20歳になったばかりの私(若い....)は、オレゴン州はユージンという町のカレッジに通う学生だった。オレゴン州というだけあって、ユージンは州内で2番目に大きな町と言われながらも、実はかなりこじんまりしてて、豊かな自然に囲まれた町である。
そんな町にホストファミリーと住みながら、学校へは40分もかけてバスで通学していた。それまで私は、バス通学や電車通学などとはまったく無縁の人だったから、片道40分のバス通学もそれなりに楽しいものだった。特に、朝乗っていた行きのバスの思い出は強烈である。毎日同じ時間のそのバスに乗ると、ドライバーをはじめおなじみの面々が、それぞれいつもの座席に腰をおろしている。あのバスの空間の中に、「みんな、いつもの場所に座るんだぜー」っていう暗黙の了解みたいな空気が流れているのである。お互いにとりたてて話したりはしないのだが、なんとなくみんな顔なじみになっていて、いつものメンバーが1人でも乗ってこないと、『あれー、あそこに座るはずのおじちゃんが、今日は乗ってこなかった...』ってちょっと心配したりもしてね。ん? そんなことを思ってたのは、君だけだ? そうかも。やーん、でもなんだかとっても懐かしい。ユージンは変わちゃったのかなー? ホストファミリーのテッド、シンディー、タイラ、ブリアン、犬のセーラ、みんな元気にしているかなぁ。いつか、近いうちに車とばしてみんなに会いに行きたいですっ。
おっと、話がそれました。
さて、9月に始まった新学期のある日のこと。授業を終えて、いつものようにバスに乗って帰宅する途中、私は、とあるサビレたショッピングセンターに立ち寄った。通学途中にバスの中から、いつも目にしていたショッピングセンターで、何てことない普通のスーパーと隣接している。そのショッピングセンター、何だかちょっと怪しげで、実はずっーと気になっていたのだが、家路に向かうバスがそこに近付いてくると、『今度また』、『明日こそ』と、いつもバスを降りる決心がつかないでいた。そしてその日、ついにバスを降り、サビレたショッピングセンターに向かったのである。
勇気を振り絞って向かったショッピングセンターだったが、さすがにサビレているだけあって(笑)、お店の数も数えるほどしかない。とにかくがらーんとしたところだった。さらに、音楽も流れてないから、自分の足音だけがみょーに響いてさびしい....。ぐるっとセンター内を一回りしたところで見るものもなくなって、とっととお隣のスーパーに行くことにした。『なーんだ。勇気を振り絞って来ることもなかったじゃん』
隣のスーパーで、適当にお買い物をして出入り口に向かった。と、擦れ違いで入ってきた若い男の人が私に声をかけてきた。『エクスキューズミー? ねー、君、もしかしてマイヤー先生の数学のクラス取ってるんじゃない? 僕もそのクラスにいるんだけど...。』
マイヤー先生というのは、今でも鮮明に覚えているのだが、私達の通っていたカレッジで数学を教えていた教授で、細身の体にいつも必ず開襟シャツを着ていた。シャツのボタンは、なぜかぜったい第3ボタンまで開けたままで、私たちはイヤでもモジャモジャの胸毛を見ることになっていた。ギャルの目を引くようなクールガイでもこんな手は使わないだろうに、40過ぎたオジさまに胸毛を見せられてもねぇ。...マイヤー先生、今でもまだあのカレッジにいるのかなー?? まさか、今だに胸毛見せてるんじゃないでしょうね?
当然、私は、声をかけてきたその人が同じクラスにいるなんて知るはずもなかった。だいたいマイヤー先生の名前だってあやふやだったほどなんだもの。実にいい加減なヤツである。自分の取っているクラスの教授の名前くらい、ちゃんと覚えておかないと、ったく! でも、カレッジに通い始めたばかりのタームだったから、いろんなことに追い付いていくのにとにかく一生懸命だったんです。
『マイヤーせんせ? 同じ数学のクラス? あ、そ、そうなんだぁ。』何の前触れもなく、突然擦れ違いざまに話しかけられてしまい、とりあえずとっさにこのくらいしか答えることができなかった。だって、まず同じクラスにいるアメリカ人のクラスメートの顔なんて、慣れるまではみんなおんなじに見えるじゃないですかぁ。それに周りの人達の顔を、授業中にしげしげ眺めてるわけでもないし。
実は、この声をかけてきた人物がダーリンだった。ダーリンは、このスーパーの近くに住んでいて、たまたまお買い物にやってきたとこだったらしいのだが、これからの人生を共にしてゆく人と、まさかスーパーの出入り口でお互いばったり会うことになるなんて、いったい誰が予想できたでしょう? しかもこの絶妙のタイミング。
こうして彼とは、「ミスター胸毛」のマイヤー先生のクラスで顔を合わせると話をするようになり、そして数学のクラスのホームワークを一緒にするようになり、と、だんだんと一緒に過ごす時間が増えてゆくことになった。7年たって、今、こうして隣にいるダーリンを見ながら、とても不思議な気持ちになる。いろんな運や偶然が重なって、今の私たちがいるんだなーって。神様、私たちを引き合わせてくれてありがとう! ちなみに私達が出会いを果たしたあのスーパー、その後まもなく移転してしまい、もうあそこにはないんです。ぐすん...。
4回目の結婚記念日を迎え、改めてこれまで私たちを支えてくださった皆さんに感謝します。これからも、どうぞ未熟な私たちを見守っていてください。そして最後に、間接的ながら2人の縁を取り持ってくれたマイヤー先生にも(おそらくご本人は、そんなこととはつゆとも知らないでしょうが....)、いちお感謝したい(笑)と思います。