<ポートランド・センター(Portland Center)>--(1)
1960年代から1970年代前半にかけて、アメリカ全土において都市再開発(urban renewal)が大きく展開されました。スラム解消を題目に掲げて、古い住宅や工場などを取り壊して大規模な街区を編成し、立体交差や人口地盤で繋がれた墓石の様な建物を並べる、という当時の「現代的な」まちづくりは、近年では非人間的であると批判の的とされています(日本では、新宿新都心などを想像してください)。
こういった開発はサンフランシスコ、ボストン、ニューヨークなどでも強力に推進されましたが、当時の市民が根強い再開発反対運動を行なったポートランドでは、殆ど行なわれませんでした。そのおかげで、ポートランドの都心では今でも歴史的な街並みが良く保存されています。
その数少ない都市再開発の実施例がポートランド・センターです。高層住宅と箱型のオフィスビルが並ぶこの地区は他の都心街区とは明らかに異質であり、日本人には違和感の無い「現代的な」空間と表現できるかも知れません。
しかし、ポートランド・センターが他都市の都市再開発地区と比べて優れているのは、ふんだんな樹木が無機質な空間にうるおいを与えていることでしょう。また、有名なランドスケープ・アーキテクトであるローレンス・ハルプリン(Lawrence Halprin)の設計によって1967年に造られた、噴水のあるラブジョイ広場(Lovejoy Plaza)(2)や、森林のようなペティグローブ公園(Pettygrove Park)(3)なども、住民に利用されています。ポートランド・センターの空間構成の根本的な問題点と、それを補っている潤いの要素からは、依然として「現代的な」まちづくりが強く志向されている日本に様々な示唆を投げかけてくれます。
<アイラ・ケラー噴水(Ira C. Keller Fountain)>--(4)
ポートランド・センターに隣接するこの噴水は、子供が水遊びをする場所として1970年に造られました。設計はラブジョイ広場(Lovejoy Plaza)と同じローレンス・ハルプリン(Lawrence Halprin)であり、都市公園ランドスケープの代表例として有名です。当初の設計目的どおり、夏には大勢の老若男女が水遊びをしています。また、夜になると、向かいにある市民公会堂(Civic Auditorium)(5)の前庭として美しくライトアップされ、幕間の紳士淑女の目を休めてくれます。
<市民公会堂(Civic Auditorium)とコイン・センター(KOIN Center)>
写真右下に見える市民公会堂(5)はポートランド・オペラの拠点であり、その他ミュージカルなどの演劇が行なわる近代的な公会堂です。
ペンを逆さにしたような形のコイン・センター(6)は、1980年代に大流行りした高層複合開発の典型ですが、今日でもポートランドの平凡なスカイラインのアクセントとして市民に親しまれています。建物の名前はビルオーナーであるテレビ局(KOIN TV Station)にちなんだもので、下部には6つの映画館、中間部にはオフィス、そして高層部には住宅が入っています。映画館では1997年夏から秋にかけて日本映画「Shall we ダンス?」が長期上映され、ポートランド市民に一大ブームを巻き起こしました。
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