1997年春学期履修科目

<プランニングおよび環境法規>

法律を専門としないプランナーを対象に、米国の都市計画および環境法規の基本的概念および制度を学ぶ科目です。それ故に、本科目ではロースクールのような勝敗を競うディベートよりも、より良いプランニングを実現する法規の在り方を考えるディスカッションに重点が置かれました。担当のエリザベス・ディーキン助教授は法律が専門ですが、交通計画や環境問題にも大変造詣が深い方です。

授業では、膨大な量の判例と参考文献も読んだ上で、以下の内容について学習しました。

また、以下の3つの小論文を課せられました。

米国は高度に発達した法治国家であり、プランニングや環境の分野でも実に詳細な法規が整備されています。しかしながら、プランニングとは「公共の利益のための私権への介入」と同義であり、その本質的な矛盾故に、論議が尽きることはありません。判例や行政の取り組みを基に既存の法規の見直しが頻繁に行われています。このことは裏返せば、法規はプランニングを行うための道具に過ぎず、実際の事例に鑑みて行政と市民の合意の下で改訂されていくのが当然とみなされていることを意味します。それ故に、多くの判例や法規は常識に照らして妥当と思われる方向に長い年月を掛けて改善されてきています。とりわけ、市民が訴訟を起こす権利を明確に持つこと、市民が法規の整備や見直しを提案および制定できる仕組が確立されていること、行政、立法と司法の三権の均衡が常に尊重されていること、など米国の民主主義の奥行きの深さには感銘を受けました。

プランナーは基本的には行政に属するため、法規を執行する立場にありますが、現実には専門的な知識や技術を活かし、法規の制定に携わることも珍しくありません。実際、プランニングの実施責任が連邦や州政府ではなく自治体に属する米国では、地域に合わせた法規作成および執行能力が自治体のプランナーに求められます。それ故に、連邦や州の法規よりもはるかに詳細で厳しい法規が、各自治体毎に整備されています。

<土地利用計画とマスタープラン>

カリフォルニアの事例を中心に、自治体のマスタープラン作成の手法を学ぶ科目です。担当のジョン・ランディス助教授は、社会経済動向の予測及びそれを反映した政策立案の分野で、今後のカリフォルニアのプランニングをリードする新進気鋭のプランナーです。また、彼は地理情報システム(GIS: Geographic Information System)にも造詣が深く、演習および課題ではコンピュータが多用されました。

授業は以下の7つの部分から構成されました。

また、以下の4つの課題に取り組みました。

本科目では自治体マスタープランの骨格を成す土地利用計画について、基礎データ分析から法規提案、組織的・経済的実施手法の検討まで、総合的に学習することができました。法的な効力を持つマスタープランの作成には、プランニングに関する広範囲かつ深い知識が不可欠ですが、現実には多くの自治体また民間コンサルタントがそれを遂行するだけの能力を持ち合わせていないことがわかりました。また、本科目では、成果物としてのプランだけではなく、その作成プロセスに大きなな比重が置かれていたことは、米国のプランニングにおけるマスタープランの重要性を物語っています。

計画作成に当たって特に留意すべき点は、長期計画に不可欠の弾力性、法的および経済的な計画実施手法の実効性、公共の利益と私権への介入の調整などが挙げられます。これらの留意点は、民間開発プロジェクトにおける土地利用計画とはかなり異なりますが、民間プロジェクトもマスタープランの枠組みの中でしか実現できないことを踏まえると、応用可能な要素も多分に含まれています。実際、米国でも計画の実施は民間活力に頼るところが大きく、地区計画制度、インフラストラクチャー整備義務づけ制度、開発課徴金(インパクト・フィー)、開発権移転などを通じて官民の関係は大変強固なものとなっています。これらの多くは既に日本にも紹介されている制度ですが、その運用面においては米国の方が数段先を行っているように感じました。

また、地理情報システムが高度に活用されていることも驚きでした。主要な都市においては(カリフォルニアではほぼ全域)各種の土地利用、経済および国勢データが全てデジタル化されており、プランナーはコンピュータの中で幾つもの代案を検討することが一般的です。当科目の演習で用いたソフトはArcViewという米国で最も普及率の高い一般的なものですが、データベースが大変充実していることもあり、手作業とはくらべものにならない精度と作業効率を体験できました。

<修士論文:まちづくりへの市民参加(サンフランシスコケーススタディ)>

修士プロジェクトは、「プランニング・プロセスにおける市民参加」をテーマに、サウス・オブ・マーケット(SOMA)のトランスベイ・エリアの開発コンセプトプランの評価を行いました。当プロジェクトは、先学期にサンフランシスコ市都市計画局においてインターンとして一部携わっていたものです。対象地区は、バスターミナルを中心とした73haの用途混在地区で、オフィス街、ヤーバ・ブエナ・ガーデン(YBG)、マルチ・メディア地区などに囲まれているため、大変高い開発ポテンシャルを持っています。1989年のロマ・プリエタ大地震により一部高速道路が撤去され、バスターミナルも再建が計画されており、そのため投機的なデベロッパーの動きも見え隠れしています。市都市計画局および再開発局は、職、住、商、教育・文化の全てを含んだミクッスド・ユース開発を漸進的に誘導したいと考え、企業・官・市民のパートナーシップを構築しながら計画を進めています。 研究の発意は、米国のプランニングでは市民参加は高度にシステム化されているが、実際にそれによるメリットはあるのかという疑問です。プロジェクトをプラン(成果物)およびプロセスの2面から分析することで、市およびコンサルタントのこれまでの実績を評価し、さらに今後のプランニングへの示唆を得ようというものです。1学期間を通じて、アドバイザーのジェイコブス教授(元サンフランシスコ市都市計画局長)、へスター教授、アルバート氏(市都市計画局プランナー)には大変力強いご指導をいただきました。また、市再開発局、市長室、コンサルタントの方からも多大な協力をいただきました。

結論から述べますと、同プランの作成にあたっては市民参加によりメリットが大変大きかったと言えます。プラン自体は法的な拘束力は無いものの、良好な都市環境を実現するためのガイドラインとしてはかなり細部まで検討されており、その内容は幅広い市民の希望を満たしています。プロセスとしては、計画の節目毎に市民によるレビュー、ワークショップ、承認決議が行われ、その度毎にプランの内容が大幅に改善されています。結果的に、同プランは幅広い市民に支持され、再開発プロジェクトを推進するのに大きく役立っています。 今後のプランニングへの示唆は4点挙げられます。第一に、市民参加によって作成されるプランは、プロジェクトへの支持を獲得すると同時に、次ステップへつながるものでなければならないこと。第二に、できるだけ幅の広い市民をプロセスに参加させることが、より望ましい結果につながること。第三に、市民参加プロセスにおけるプランナーの役割は、技術的支援とプロセスの円滑な運営であること。第四に、市民参加プロセスの枠組みを作成する際には、効率化よりも成果の最大化を心がけること。これらは、米国はもとより日本においても当てはまると思われます。

修士プロジェクトは、2年間の学習の集大成としての満足の行くものとなりました。特に、プランとプロセスの相関について掘り下げて研究出来たことは、これまでのフィジカルな空間に偏重しがちだった自分の視野を拡げ、自分なりの「プランニング観」を確立することにつながりました。アドバイザーの3氏からも、学究的な視点と現実のプロジェクトを効果的に結び付けていると、ねぎらいの言葉をいただくことができました。

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