『池田大作 金脈の研究』

野田峯雄
三一書房 2200円+税
ISBN4-380-97211-9 C0036

 創価学会はトヨタ自動車にははるかに及ばない。しかし、約百七十万法人のうちの二百八十二位である。ズバ抜けた体力をもっていることは間違いない。いや……トヨタ自動車に「及ばない」のだろうか?
 彼らは毎年、宗教法人であるがゆえにいっさい無税の、しかもその収支を公表する義務のない、広布基金とか財務とか会館建設資金と称する巨額な金を学会員たちから吸収し、抱え込んでもいる。これらの総額は二千億円とも二千五百億円ともいわれるけれど、それは企業の損益計算書における最終純利益に相当する。では、トヨタ自動車の、たとえば九六年三月期のそれはいくらなのだろうか。千八百二十五億円である。
 じつは、創価学会はトヨタ自動車の一・四〜二倍の超・高収益法人なのだ。

(「第3章 墓苑ビジネス」p64)
 
「君島家の人びと」の著者、谷崎晃氏より推薦されたので読んでみた一冊。創価学会名誉会長・池田大作を、数千億の「ぶっとい」金脈から分析した傑作ノンフィクション作品である。

「池田大作 金脈の研究」を読むと、信仰というものの持つ危うい性質を知ってか知らずか、「信じきっちゃってる人々」がこれほど多いのかということに気付かされてしまう。それはほとんど絶望でもある。なにせオウムやエホバどころの規模ではない。超巨大宗教法人・創価学会の名誉会長池田大作を「信じきっちゃってる」人々が学会に払っている(“財務”している)カネが毎年2000億円にも達するほどの規模なのだ。

 これでは、世の中には「いい人」が多いけれど、「おつむの弱い人」も多い、ということなんだろうなぁとしみじみ思ってしまう。創価学会や公明や新進や池田大作や聖教新聞や三菱グループやうんざりするほどの金の流れについては、ただここに書いてあるから読めばいい(話半分、いや十分の一としたって相当なもんだ)。
 問題の本質は、慫慂と「信仰」しちゃってる人々の絶対数と、かれらの影響力/被影響力の強さだ。

 私の母方の祖母は、そういえば創価学会員だった。もう何年も会っていないからいまはどうか知らないが、祖母は私が小学生の時分には「人間革命」を買い与えるような「おばあちゃん」だった。「おばあちゃんち」に泊まりにいけば朝は読経からはじまり、テレビ番組表を探してめくるのは聖教新聞だった。
 高校生のときだろうか、泊まりにいっているとき、一度だけ消費者金融から電話があった。生活成り立っているの?と私はすごく心配したものだけれど、思えば「おばあちゃん」も「財務」=寄付をしていたのだろうか。何万円も。
 いま、仕事の関係で年金の手続きをすることが多いからわかるのだけど、老齢基礎年金に遺族年金を足したってとうてい「裕福」なんてことばには程遠い収入だ。精々がとこ「かつかつ」ぐらいのはずだ。そこから絞り出すように幾許かを、自分の「信心」の証明のために差し出しているのだろうか。それで、「おばあちゃん」は幸福なんだろうか。

「搾取」という言葉は持ち出したくない。いや、持ち出せないのだ。社会の構造として、必然として下層階級が上層の犠牲になるのが「搾取」の状態だとすれば、信じる・信じないを自己で決定しうる宗教の現場にあるのは「搾取」ではない。
 宗教団体への寄付をあらわす言葉に「喜捨」というものがある。喜んで捨てるのだ、かれらは。「洗脳」「マインドコントロール」という言葉も正確ではないのかもしれない。「信じる・信じないを自己で決定しうる」のであれば、結局導火線に火をつけたのは、信仰者であることを選択した者自身なのだから。
 だから、私はこのような構造が存在するということそのもの、この本がテーマとし、また暴き出している事実そのものもさることながら…いや、それ以上に、このような事実をむざむざ存在させてしまう「民衆」とか「大衆」とかいったものに、心底絶望してしまう。池田大作に流れ込む金脈の太さは、いくら「教育」し「啓蒙」しても、人間の惰弱と思考力の弱さは克服しきれないという証明でもあるからだ。

 もちろん「事実」としての学会のやり口と、その影響力には心胆をさむからしめるものがある。金の流れ、政治への影響。(いかに名目上のものが多かろうと)じつに全日本人の7人に1人が創価学会員である、という浸透力。42人のクラスに6人である。700人の企業に100人である。7万人の市民に1万人である。そして「創価学会」は、ただの、宗教それ自体、信仰それ自体を目的とした組織ではない…のかもしれない。
 その頂点に立つのは、日本の国父を目指すと公言してはばからない池田大作であるのだから。

 これは重大な事態なのかどうかを私は判断する立場にはない。この本の内容を一片たりとも検証できたわけでもないし、また身近に創価学会員もいない(祖母は断じて「身近」ではない)。彼らの「脅威」と私はすれ違っている。
 しかしここにある内容、「池田大作」という「怪物」の暴走の様態は、それが身近な問題として生起しかねないだけに、捨ておけるものではない。いつすれ違いが衝突に変わるか、わからないのだ。

 ……すでに、現代日本人の「基礎文献」といっていいかもしれない。
 読んでおいて損はない一作である。

Grade [ B+ ]
version.1.2.97.12.14.


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