98年7月26日

ポートランド最後の晩、アパートを引き払ってダウンタウンのホテルに泊まっているのだが、「もうアメリカには帰る家が無い」というのは奇妙な感覚。この1ヶ月はどたばたと過ぎてしまったけれど、ふと時間にゆとりができると、やはり離米する寂しさを感じてしまう。別に帰国するのが嫌な訳ではないのだけれど。

ワールドカップ決勝を病んだ体で見てからは、引越し準備を本格的に開始。まずは、要らないものの整理から。CDや本は中古屋が意外と良い値段で買ってくれた。車を個人売買し損ねたのは痛いが、ディーラーがそこそこの値段をつけてくれたし、円安の昨今だから我慢しよう。 家具や食器などは先週の日曜日にガレージセールをやってほとんど売り切ったのだが、これがものすごく面白い体験。近所のAと一緒に家のアパートの前、すなわちスーパーマーケットの真ん前という最高の場所でやったのだけれど、本当に飛ぶように売れる!大きい「SALE」のはり紙を見て、スーパーの買い物客が次々と覗きに来る。「はろー!」「はーい!」「これいくら?」「$1.50でどう?」「う〜ん…」「じゃ$1丁度」「よし買った!」アメリカ人はガレージセール慣れしているから上手に値切られてしまう。でも、「どこに引っ越すんだ?」「TOKYO」「あそこは最高だ!」とか会話ができたり、横に座ってコーヒーを飲みながら「俺はハワイの3世なんだけど…」と話し込んでいくスーパーの店員がいたり、満面の笑みで「お得な買い物したわ。ありがと!」と可愛い子に言われたりすると、何だか凄く得した気がする。

仕事の方は最後にGISのプレゼンテーションを用意して完了。後は送別会モードである。 上司がペルシャ料理レストランを予約し、オフィスのスタッフ一同でくり出すと、メトロで一緒だったM, R, C, B, Jも駆け付けてくれて嬉しさ2倍。プレゼントとカードをもらった後、お礼に(?)ヨーロッパ視察調査のスライドショーを行うと、周囲の席の他の客まで乗り出して来る。来週から生まれて初めての海外旅行でヨーロッパに行くCは、目を輝かせている。 一旦解散後、上司夫婦などと4人でゆっくり話す。マルガリータの酔いも手伝って、ずばずばとプライベートな質問まで飛んで来る。一番盛り上がったのは、「日本の職場では上司が部下にお見合いを勧めることもある(←実話)」と話した時。一同、「おー、それはセクシャル・ハラスメント!!」そう言われてみれば、そうかもしれない。

職場以外でも名残りを惜しむ。旅行社のM、ガレージセールを一緒にやったA、そこに来たAの友人Cとは食事。サッカーチームのBさんは、家まで来てTVの「ワールドカップ総集編」を見て盛り上がる。K夫妻とSさんとはテニスをし、焼肉を食べた後、Sさんのアパートで1amまでワインを楽しむ(ちなみにSさんが絵を集める趣味があるとは驚いた)。メトロの同僚Sからは「帰国までに2人でビールを飲みたいワ」という嬉しい誘いを受け、いそいそと出かけて話し込む。「年末に彼と別れてからブルーだった…」ああ、もっと早く言って! 激励の電話をくれた外国のYとP、ありがとう。 それから、突然、御近所さんにも親しくされる。同じ階に住む黒人の兄ちゃんとエレベーターに乗り合わせたら、「Bob(管理人)から聞いたけど出ていくんだって?このアパートには良い奴に住んで欲しいんだ。お前はナイスガイだったから、寂しいぜ。」挨拶をするだけの仲でも、底抜けのフレンドリーさでこう言われると嬉しい。その後、近所の床屋に行ったら、魔女のような厚化粧のおばさん(理髪師さん)に、「あなたはすごくエキゾチックで魅力的。楽しいからもっと話したいワ。」うーん、嬉しいけどかなり恐い。

月火と1泊2日でカリフォルニア州境に近い小都市Ashlandへ。ここはボスのジョンがかつて都市計画局長をしていたところで、同僚Sの故郷でもある。Sの計らいで彼女の両親が経営するコテージに泊めてもらう。彼女のお母さんは町議会議員なのだが、トラック(←「マジソン郡の橋」に出て来るボンネット型!)で町中を案内してくれた上に、翌日には市役所の中も回ってくれて職員を紹介してくれる。素朴で親切な人が多いのは、小都市ならではの魅力である。豊かな自然と農地、生き生きとした商店街、野外バレエまで見れて満足。さすがに「オレゴンで一番素晴らしい小都市」と呼ばれるだけのことはある。 帰途にはクレーターレークに立ち寄り、万年雪とカルデラ湖ならではの水の深い青さに息を飲んだ後、オレゴン中部をドライブ。地平線まで一直線に伸びる道、カリフォルニアのようなはげ山と砂漠、そして雄大な農地とカスケード山脈。こういうスケールの大きい景色は目に焼きつけておきたい。

久しぶりに見たミュージカル「シカゴ」はテンポ良く心底笑える素晴らしいショー。バークレーのMと見た「古代エジプト展」もポートランドとは思えない充実ぶり。そして、久しぶりの映画「The Truman Show」もいろいろ考えさせられて良かった。娯楽も充実。爽やかな夏の天気が恨めしいが、一応満足してポートランドを離れられそう。 明日から5日間、私の人生を変えた町バークレーで、最後のアメリカ三昧だ。

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