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友情警報発令中
[中編1]


 着地は苦手だ。
 地上から約二メートル程にある木の枝に、頭から突っ込んで、俺は憮然と思う。昔から、こういう微妙なコントロールを必要とするものは苦手だった。まともに使えるものといえば、水鏡ぐらいだろう。
 ふと地上を見下ろすと、木の陰に隠れるようにして、どこかを伺うシャルの姿が飛び込んできた。
 俺は、シャルのところへすぐにでも降りたい気持ちを押さえ込んで、辺りをうかがった。
 どうやら、ここは王城の目の前らしい。強固そうな城門が見える。シャルの視線の先がそこであるという事に気が付いて、俺はようやく地面にとびおりた。
「よっ」
 軽く声をかけると、シャルはちらりと俺に目を向けて、わざとらしくため息をついた。
「僕は男だって言ったよね。……わかってる?」
 俺は満面の笑みで頷く。そんなことは承知だ。そもそも、俺はシャルと厚い友情を築き上げたいだけなのだから。
 さあ、友人宣言だ、と意気込んで口を開いたと同時に、ぽこりと後頭部を殴られた。一瞬シャルがやったのかとも思ったのだが、目の前にいるシャルが俺に気付かれる事なく俺を殴ることが出来るはずがない。
 とすれば、トーゼン、俺を殴ったのは……
「貴様か、キール」
 俺がくるりと振り向いてキールをにらみつけると、キールはもう一度俺の後頭部を殴りつけてきた。
「貴方様でしたか、キール様、の間違いだろ?影珠ちゃん」
 こいつ……いつか、殺る……。
 俺の心の声が聞こえたのか、キールは不敵ににやりと笑った。……妙にむかつく笑い方だ。尚もにらみつけると、キールはふと真面目な顔を俺に向けてきた。
「影珠、お前、空間移動魔法使ったな?」
 その真面目な顔に、俺は素直に頷いてしまう。
「あっちでは普通の事なのかもしれないが、ここでは使うな。一応、街中では空間移動は使ってはいけない事になっている」
 どうやら冗談を言っている様子ではなかったので、俺は一つ頷いた。
 基本的に、俺は魔精だから、人の規則に縛られる必要などない。でも、そういった子供の理論を使うつもりはなかった。
 いくら、魔精であろうと、人の世界にいる以上、人のルールに従う必要があるのではないか、と俺は考えるわけだ。
 それにしても、空間移動魔法を使うな……とは。
「規則なら従いはするけど、何で?」
 魔法使い、という存在はいるのだから、魔法というものが珍しいわけではないのだろう。なのに、空間移動魔法を使うな、とは矛盾している。
「結界があるらしいよ」
 城門を見つめたまま、ぽそりとシャルが呟いた。
「結界?」
 俺はオウム返しに問い掛ける。そんなものの存在、感じ取れなかった。
「この国の中って、ほとんど魔法力を感じないだろ?」
 こくりと俺は頷いた。
 言われてみれば、魔法というものが珍しいわけではないのに、魔法力というものを感じ取ることができない。それは、キールにしても同じで、筆頭の魔法使いだというのだから、もっと魔法力を感じさせてもいいのではないか、と思うぐらい、彼からは何も感じないのだ。
「エイジュが感じ取れないのも無理ないと思うけどね。なんか、そういう結界らしいし」
「そういう結界って?」
 俺が尋ねかけると、シャルはかぶりを振った。
「さあ、僕はあんまり詳しくないから」
「俺もあんまり知らんなぁ」
 訊いてもいないのに、キールがシャルの後をとった。
「そもそも、結界はったのは、俺側ではなくて、シャルズ側の先祖らしいからな」
 ふうん、と納得しかけて、俺は唖然とした。
 シャルズ側の先祖って事は……シャルが魔法使いって事か?
 俺はてっきり、シャルがこの国の王子様なのだと思っていたのだが……どうやら、事はそう単純ではないらしい。
 俺の顔には、思いっきり疑問符が浮かんでいたらしく、シャルはその指先を城門に向けた。
「あそこにいるのが、僕の父親と、この国の『王子様として発表されている王女様』のお父さん」
 さっきまでは、必要もなかったので気にしてはいなかったが、確かに城門の前には二人の男性の姿がある。周りの兵士達が気にとめている様子がないところからして、日常茶飯事の事なのだろう。
「ところで、エイジュ、何の用?誤解が解けたんなら、早々に魔精界に帰ったのかと思ってたけどね」
「ん……?ああ、俺はシャルと厚い友情を築き上げることにした!親友だ!親友になるのだ!」
 シャルは無表情で俺を見やった。
「親友なんて要らないけど、僕」
 それどころか、友人ってのも必要ないよ。
 シャルは尚も続けた。その言葉が本気っぽくて、俺は思わず絶句する。
 そうか、シャルは友人に恵まれていないんだな。なんて、かわいそうなんだ!だったら、真の友情を俺が教えてやらねばなるまい。
 俺は、自身に親友と呼べる人物がいない事は、頭の片隅に追いやって、ぐっとこぶしを握り締めた。
「……厚い友情、ねぇ」
 ふいにぽそりとキールが呟いた。
「厚い友情とはいうけど、それって果たしてどれぐらいの厚さなんだろうねぇ」
 そりゃあ、もう、何人でも崩せない程の……
 シャルが無言で、城門の前にいる二人を指差した。どうやら、二人は言い争っているようだ。
「何?」
「きいてりゃわかる」
 シャルのぽそりとした呟き。俺は黙って、城門の前に二人の会話に耳を傾けた。

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