今日は台湾の立法委員(日本の衆議院に相当?)、台北市長、台北市議員の同日選挙投票日。中でも台北市長選が一番注目を集めている。今回は民進党の現職市長「陳水扁」と国民党若手のホープ「馬英九」の一騎討ち(正確にはもう一人「新党」からの候補がいるが、「新党」内部のゴタゴタのせいか今一つぱっとしない)。
用語解説:新党
3年ほど前に「現地化=台湾化」を進める国民党が分裂してできた、「中国人」意識の維持を目的とするミニ政党。しかし具体的な政策の主張は国民党とたいして変わらないか、「反対のための反対」のみ。日本の自民党から別れた某党のようなものか。内部でゴタゴタが絶えない点もそっくり。
現職市長はこの任期中「オートバイのヘルメット義務化」、「赤線廃止」、「ゲーセン・パチンコ屋追放」など多方面に渡って革新市政を実行し、また目立ったスキャンダルも無い(皆無とは言わないが…)ためにおそらく留任するだろうとは思うが、不安定要因として「統一・独立問題」がある。現市長の所属する民進党はもともと台湾独立を訴えてきた政党で、人口的に台湾の多数派を占める福建系台湾人が中心になっている。したがって蒋介石と共に台湾に渡ってきたいわゆる「外省人」など大陸との統一を主張する人々や、また福建系台湾人の文化的ヘゲモニーに不満を持つ客家系などのマイノリティーからしばしば反感を買っている。以前客家系の集会で、現市長の席次が対立候補の馬英九より下だったのはこの典型的な現われだろう。こうした人々の不満は現市長の具体的な政策に対するものではなく、むしろその所属する政党が標榜している国家観に対する反感と言うべきではある。こうした抽象的問題が市長選のようなローカルな場に持ち出されるのは、台湾では「国家の在り方」についての国民的コンセンサスがまだ出来ていないためだろう。
さて対する馬英九はここ数十年来の国政レベルでの与党国民党の若きエリート。台湾南部の貧農出身で庶民らしさを売り物にしている現職市長と違い、スマートなルックスとさわやかイメージで若者の心を捉えようと懸命である。またCMなどでは「民俗融和」を打ち出し、暗に現職を福建系優先だと非難している(現職は公開での演説の際「台湾語(福建系語)」で話す事が多いので、それを母語としない人々が不満を懐いても無理はない)。1945年以来30年以上「中華民族(実態は漢人)」のヘゲモニーのもとで他のエスニシティーを圧迫していた国民党が何を今更、とは思うが、漢人意識の強い客家系住民などには十分アピールしているようだ。しかしアキレス腱としては年齢が若く経験不足と見られがちだと言う事、それと台北市はもともと民進党の勢力が強いと言う事か(現職市長が農家出身のせいか民進党は「田舎の政党」と見られがちだが、実際には都市政党。田舎での地縁・血縁を利用して強固な票田にしているのはむしろ国民党の方である)。
以上の観察から、台北市長選に限れば現職有利と見られるがどんなものか。ただどちらが勝つにせよ、現職市長が敷いた「市民本位の効率的な行政」という路線は変更が出来ないだろう(現職の行った政策そのものに関しては馬英九も真っ向からは攻撃していない。その末端での施行方法について論難するにとどまる)。今後に残された問題は、やはり「国家の在り方」に関する国民的コンセンサスの形成か。このコンセンサスについては来年3月の総統選挙である程度明らかになるとは思うが、実際のところ大半の台湾人は「現状維持」を選択するだろう(台北市長選が話題になっているのは、「現状維持」のためには「現状変革」を訴える政党の候補に投票しなければならないため。日本でもそうだが、ナショナルな政策とローカルな政策はまだまだ不可分のようだ)。まあ私にとっては台北の道路が平らになれば、それで良いんだけどね。
(以上の文は12月5日午後5時=開票前に書かれたものです)