姉歯建築設計事務所による偽造物件のほとんどはイーホームズ株式会社が建築確認を代行した。当初発表の偽装物件21棟のうち20棟がイーホームズで、その後の調査で26棟がイーホームズであることが判明した。朝日新聞のまとめでは2005年12月15日までに偽造が確認された81物件のうち、イーホームズが建築確認した建物が35件ある(「イーホームズも捜索へ、見逃しの経緯解明 捜査本部方針」朝日新聞2005年12月16日)。
「姉歯建築設計事務所」(千葉県市川市)は下請け等で建物の構造計算を行ったが、耐震に関するプログラムを意図的に変更し、強度などが低くなるよう設定したとされる。姉歯建築設計事務所がイーホームズに提出された構造計算プログラムの出力データを再計算したところ、偽造が行われたことが確実であることが判明した。加えて、偽造された構造計算に基づく設計によって、そのまま施工された場合、構造上耐震性に大きな問題がある可能性が高いことも判明した。建築基準法は新築の建物について、地震などに対する構造上の安全を確保するよう義務付けている。
イーホームズ側は定期的なチェックで偽造を発見したと主張するが、本審査を手抜きしている会社が過去の事例を再チェックすることは考えられない。ましてや見逃した偽造を見つけることもあり得ない。構造計算書類の再点検が日常業務として行われているのであれば、ここまで拡大する前に露見していた筈である。新入社員研修でサンプルとして入力して偶然見つかったとする見解も出た。
小嶋社長を悪者に仕立て上げることで自らを被害者ぶろうとする魂胆が明白である。小嶋社長に脅されて公表を見送ったのが事実なら、イーホームズにはコンプライアンスがないということを自ら示したも同然である。圧力という言葉は、警察が暴力団から圧力を受け、怖くて逮捕できないと言っているようなものである。住民の生命の安全を考えれば一刻も早く公表すべきであるにもかかわらず、不動産会社の恫喝に影響を受けてしまったならば検査機関として失格である。
建築基準法の省令では、「認定書」がある場合には、計算書類の検算を省略できるが、イーホームズは、「「利用許可書」で実質的には認定書に事足りる」と勝手に解釈し、認定書がないのに勝手に検算を省略していた。構造計算書の審査にかかわった同社の確認検査員全員が同様の判断をしていた。国土交通省では違法な手順が社内で常態化していた疑いがあるとみている(「強度偽装、イーホームズに国交省立ち入り検査」読売新聞2005年11月24日)。
「姉歯建築設計事務所から出された書類に大臣認定書などがなかったにもかかわらず、点検を省いていた」(「検査機関、手続き不備」朝日新聞2005年11月19日)。「書類に認定番号がない場合、検査機関は審査を省略せずに綿密に点検する必要があるが、イーホームズが怠っていたため、不正は見過ごされた」(「耐震不足なぜ見抜けぬ」朝日新聞2005年11月19日)。
偽造物件「コンアルマーディオ横浜鶴見」(横浜市鶴見区小野町)は構造計算書の偽造だけでなく、構造図も杜撰であったことが判明した。構造図は、鉄筋や柱の数が構造計算書に比べて少ない所、多い所が入り乱れ「めちゃくちゃな内容」であった(横浜市建築調整課)。計算書と構造図の食い違いは「通常の検査で分かる」(同)としており、イーホームズの検査体制が改めて問われる(堀智行「<耐震偽造>計算書に加え構造図もずさん 検査体制問題に」毎日新聞2005年11月26日)。
イーホームズは偽造物件について中間検査や完了検査も実施したが、鉄筋の不足など不備を見つけられなかった。「建築確認時の書類審査と異なり現物を確認するため、鉄骨の量が少ない点などに注目すれば不備を発見できた可能性はある」と指摘する建設業界関係者もいる(「着工後検査でも発見できず 耐震強度の偽造問題」共同通信2005年11月21日)。
国土交通省は「正規の体裁と異なる書類で、簡単に見破られたはず」とする(「<構造計算書偽造>国交省が民間検査の監視機能強化へ」毎日新聞2005年11月18日)。「認定書や図書省略の範囲の確認など、法令通りの審査をしていれば偽造は防げたはずだ」とも語る。イーホームズが「巧妙」と表現する偽造の手法についても「プログラムの改ざんなどと違い、単純で稚拙なものだ」と話す。
読売新聞が分析を依頼した一級建築士は「巧妙どころかあからさまな偽装。検査機関などの専門家が気づかないとは考えられない」と話す(「姉歯の計算書「一目でわかる偽装」、専門家が指摘」読売新聞2005年11月24日)。
朝日新聞が依頼した一級建築士も「前後半の数値が違うから、丹念に数値を追っていけばチェックできるはずです」と語る(「「地震の力」を小さく入力 姉歯事務所の構造計算書」朝日新聞2005年11月22日)。
佐藤賢典・建築Gメンの会理事は「本来ならあるべき認定番号が今回の構造計算書にはなかった。「改ざんしています」と自らいってるも同然なのに、これまでなぜチェックできなかったのか」と呆れる(「髪型も偽造 姉歯一級建築士「ゴミ屋敷に愛車はベンツ」」週刊文春2005年12月1日号28頁)。
木村一彦・仙台都市整備センター常務は「資格と知識を持った者が自分の目でデータを追えば、たいていの間違いは分かる」と語る(「耐震強度偽造“審査の鬼”どう見る 木村一彦氏に聞く」河北新報2005年12月7日)。
一連の問題が発覚する12日前の11月5日付で、公認プログラムであることを示す「認定書」の添付の有無や、計算書の左上に印字される英数字八桁の「認定番号」などを確認するよう定めるマニュアルを追加していたことも判明した。イーホームズは2005年10月の社内監査で姉歯事務所の構造計算書の偽造に気づいており、問題発覚後、責任追及を免れるために手順を追加した可能性もある(「イーホームズ、検査の9割で手順無視」読売新聞2005年11月26日)。
姉歯建築士はイーホームズの審査の甘さを指摘する。「イーホームズは検算すれば簡単に見抜ける偽造も見逃していたので、チェックが甘いと思った。イーホームズ以外の会社はチェックが厳しく数字は変えていない」(「「コスト削減、圧力感じた」姉歯建築士一問一答」読売新聞2005年11月18日)。「ノーチェック状態だった」とも語る(「天声人語」朝日新聞2005年11月19日)。
姉歯建築士は以前、必要な鉄筋量を10%ほど減らした構造計算書を作成し、イーホームズに提出した。当然、イーホームズ側から変更を求められると考え、差し替え用の計算書を準備していた。しかし、イーホームズが変更を求めることになく承認したため、チェックの甘さを感じたという(「耐震偽造 「取引先から圧力」 建築士、現金渡し受注確保」産経新聞2005年11月24日)。
実際に姉歯建築士は以前確認申請していた日本ERI(東京都港区)のチェックが厳しいとの理由で、イーホームズに変更していた(「「イーホームズがいい」=民間検査機関を変更−姉歯建築士「チェック厳しい」と」時事通信2005年11月20日)。これは姉歯事務所から建物のデザインを請け負っている設計士が千葉県船橋市内で記者会見し、明らかにした。国土交通省も上記事実を把握しており、姉歯建築士がイーホームズを選んだ理由に注目している(「姉歯建築士「イーホームズがいい」・検査省略狙う?」日本経済新聞2005年11月21日)。
別の関係者は「最初は巧妙に改ざんした計算書で試し、審査が甘いと判断すると、次からは改ざん手口を簡略化し鉄筋量も大胆に減らしたのでは」と指摘する(「巧妙偽造で審査試す?簡単手口と使い分け」東京新聞2005年12月2日)。
姉歯元建築士は「イーホームズの質疑は単純な内容ばかり。(確認申請の中身を)見ていないというのが実情だと思う。あえて申し上げれば、検査機関にはプロがいる。見てわからないのはおかしい」と証言した(「耐震偽装三者三論」朝日新聞2005年12月15日)。
「姉歯証人が証言した「偽装の手口はプロが見れば分かる」はずなのに、なぜ検査機関が見抜けなかったのか疑問は多い」(「耐震偽装証人喚問/真相・核心に迫れたのか」東奥日報2005年12月15日)。
「姉歯元建築士から「審査が通りやすいというか、見ていないのではないか」と、その存在意義まで指摘された検査機関の問題も深刻である。民間だから甘いのか、そもそも検査方法に根本的な欠陥があるのか、早急に検討が必要だ」(「偽造証人喚問 「ぐるみ」の疑惑は強まった」毎日新聞2005年12月15日)。
「プロが見抜けないのはおかしい」とまで言われた確認検査機関の在り方も問われなければならない」(「【耐震偽装喚問】また疑惑が広がった 」高知新聞2005年12月15日)。「検査機関の驚くべき倫理観の欠如とチェック機能の喪失ぶりと言える」(「証人喚問 「偽装の構図」闇の深さ」中国新聞2005年12月15日)。
姉歯元建築士は鉄筋の量を減らすことを強要されていたと証言する。「仕事の九割が木村建設だった」姉歯氏の立場にしてみれば「鉄筋を減らさねば今後仕事を回さないぞ」という言い方でも、一線を越えるのに十分な圧力だろう(「耐震偽装喚問/全体像解明し責任追及を」神戸新聞2005年12月15日)。
姉歯元建築士は下請という弱い立場で、発注側からの違法な要請を断り切れなかったものと思われる。そのため、専門家がチェックすれば容易に見抜くことができる偽装を施した構造計算書を作成した。イーホームズら検査機関が偽装を見抜いて建築確認申請を差し戻してくれれば元請けも諦めてくれるものと考えていたと想像される。しかしイーホームズは偽装を見抜かず、建築確認されてしまった。
再三に及ぶ注文が法律の基準を満たさないことを確認申請で立証しようとした姉歯元建築士の願いは砕かれた。その結果、違法な鉄筋削減も建築主・施工者・元請設計者らによりコスト削減策として正当化されてしまった。偽装は続けられ、被害は拡大した。家を失いローンだけが残る被害者のことを考えれば姉歯元建築士に同情の余地はない。但し、敢えて姉歯建築士の視点に立てば偽装を見抜かなかったイーホームズの杜撰さに怒りを抱くのも無理はない。
イーホームズ株式会社は無反省にも、読売新聞の取材に対し、「偽造は巧妙で、簡単には見破れないものだった。当社としては適切な業務を行っていたと思っている」と強弁する(「検査機関、ずさん計算書を見落とし…耐震強度偽装」読売新聞2005年11月18日)。しかし、イーホームズの審査が杜撰なものであったことは明白である。
イーホームズは自ら検査能力の無さを表明したにもかかわらず、何の謝罪もしていない。イーホームズは「検査でミスはあったが、本質的な問題ではない。検査は適正に行われており、当社に過失はない」と強弁する。イーホームズ従業員は日本語も覚束ないようである。ミスがあったのに検査は適性に行われたと主張する。単なるミスで20棟分もの偽造書類を通過させたとでも主張したいのであろうか。適正な検査が行われたとは思わないのが自然である。発覚後に国土交通省が二十数棟の再計算を数日間でこなしているところから考えても、真面目にやればすぐに分かる筈である。
本来なされる筈のない建築確認を根拠として費者はマンション購入を決意した。金融機関も不法な建築確認を根拠に購入者たる住民に住宅ローンを融資、つまり信用を供与してしまった。もし違法建築と判明していれば、金のやり取りは建築主(ヒューザー等)と建設会社や設計士の間、つまり業者同士だけで終わっていた。建築確認が通ったということが、金融機関にファイナンスを可能にさせ、住民が購入することを可能にさせた。つまり被害を一般人にまで広げてしまった。
マンション住民は権利回復・被害救済のために、もう少し冷静に権利関係の流れを見つめ直す必要がある。問題は確認検査機関と国交省にある。姉歯やヒューザーを高みから見物している場合ではない。更なる問題は善意、悪意問わず、結果として耐震基準に満たしていないにも関わらず、判を押され、完成している建物が姉歯物件以外にも多数あることである。
偽装を見抜けなかった検査機関イーホームズの罪は重い。イーホームズのWebサイトではトップページに「安心して暮らせる21世紀型の住環境に貢献します」と記載されいる。厚顔無恥な企業である。イーホームズにとっては耐震基準を満たさず震度五で倒壊する建物が21世紀型の住宅のようである。イーホームズならば、それでもOKらしい。
イーホームズは「偽造は巧妙」と弁解するが、確認すべき物の確認を怠った者に主張する資格はない。イーホームズも偽装の片棒を担いでいたのではないかと疑いたくなる程、チェックが杜撰である。杜撰な審査しかできないイーホームズが建築確認を代行した建物では不安で仕方がない。
危ないのはイーホームズの建築確認物件である。建築確認番号が「eHo」で始まるものがイーホームズの物件である。イーホームズが検査した物件は入念な再確認検査を実施すべきである。姉歯建築士が関係した設計を全て再調査するだけでなく、イーホームズが確認した建物も全て調査すべきである。「国の指示を受けた自治体や検査機関は一斉点検して、きちんとデータを示さねばなるまい」(「天地人」東奥日報2005年11月19日)。
イーホームズが検査した物件に消費者から厳しい目が向けられることは当然である。検査機関がイーホームズの物件と別の機関の物件があれば間違いなく別の機関の物件を選択するだろう。検査機関の信頼性が失われたというのは、大きな問題である。別の機関に、再チェックを依頼し、証明する必要が売主にある。
イーホームズはWebサイトで「当社の調査では姉歯設計が構造関与した以外の物件では偽造は発見されていません」と発表したが、疑わしい。偽造公表後、早い時期に発表しており、キチンと調べた結果なのか怪しい。「やっぱり、ありました」になる予感がする。審査が甘いと姉歯建築士に評価された会社である。他からも誤魔化されている可能性は高い。検査機関が発見できないのだから、多くの偽造が転がっていても全く不思議ではない。
同社は2004年度、構造計算が必要な建物の建築確認を約2000件行ったが、構造計算に詳しい確認検査員は本社に1人、全社でも2人しかいなかった。デザインなどを担当する検査員を合わせてもわずか22人。国土交通省では、「正確な審査を行うには少なすぎる」とする(「イーホームズ、検査の9割で手順無視」読売新聞2005年11月26日)。
建築業界では「イーホームズはどこよりも審査スピードが早く、甘い」との噂が既にたっていた。何も審査していないのだから。早いのは当然である。ごまかしが横行する検査機関である。国交省の聞き取りに対し、検査スタッフの多くは「計算過程はほとんどチェックしていなかった」と明かす。一連の問題発覚前にイーホームズが検査の実施状況を記録する台帳の管理の不備を国土交通省から指摘されていたことも判明している。
民主党の長妻昭「次の内閣」国土交通担当は「イーホームズの確認検査員29人のうち24人が地方自治体のOBだ」と指摘する(「国交省OBが検査機関に天下り、民主・長妻氏が明かす」読売新聞2005年12月4日)。杜撰な偽造も発見できない手抜き検査で給料が貰えるのだから、これほど楽な勤めはない。
先に実施した立ち入り検査の分析を待って処分手続きに入るが、杜撰な審査による26棟もの偽装見落としが判明しており、厳しい処分は避けられないと判断した。確認検査機関の指定取り消しは初めてである。同省は、立ち入り検査の分析がまとまり次第、イーホームズに処分を通告し、弁明書の提出を受けて最終的な処分を決定する。
イーホームズは2003年2月から2005年10月にかけて、姉歯事務所が構造計算を請け負ったマンションやホテルの建築確認を行った際、必要な検査を省略した。建築基準法に適合していれば書類に印字されていたはずの認定番号がないことも見落としていた。国交省への「見落とし」の報告でも杜撰な点が明らかになっており、同省では、同社の審査状況に問題があったとして業務内容を詳しく調べる(「国交省、検査機関「イーホームズ」を立ち入り検査へ」読売新聞2005年11月24日)。
国交省はイーホームズに対して、偽造が発覚した経緯や耐震強度が不足していた物件の構造計算書の審査方法などについて、確認書を送付した。確認書では11月22日までの回答を求めていた。
2005年11月24日午前10時頃、国交省建築指導課の担当官三人が四階にある確認検査本部を中心に検査した。午後は担当官を13人に増員して審査の経緯を詳しく調べた(「イーホームズ立ち入り検査=確認審査で不備見落とし−耐震強度偽装・国交省」時事通信2005年11月24日)。
立ち入り検査は、25日未明まで続いた。日付をまたいで行われるという、行政官庁の立ち入り検査としては異例の長さとなった。国交省によると、イーホームズが扱った建築確認の物件数が非常に多く、その中から不適切な審査が行われているものがないかどうか、構造計算書などを一つひとつチェックしているため、検査に時間がかかるとする(「「イーホームズ」立ち入り検査、未明まで続く」読売新聞2005年11月25日)。
国交省は25日も引き続き検査を行う(「建築主3社からきょう聴取=瑕疵担保責任など確認−耐震強度偽装問題で・国交省」時事通信2005年11月25日)。都内や横浜、大阪、仙台市にある同社の各支店についても立ち入り検査を実施する方針である。イーホームズ側は「業務は適正に行われた」との主張を繰り返しており、支店にも検査に入ることでさらに審査方法の実態を調査する(長谷川豊「<耐震偽造>イーホームズの支店にも立ち入り方針 国交省」毎日新聞2005年11月25日)。
国交省は審査が適切に行われれば、構造計算書の偽造を見抜くことは可能だったとみており、立ち入り検査で業務実態を確認した上で、指定取り消しや改善命令などの処分を検討する(「イーホームズ立ち入り検査 国交省、行政処分へ」共同通信2005年11月24日)。杜撰な業務実態の解明を急ぎ、建築基準法に基づき、指定取り消しも含めた厳しい処分を行う方針である。偽造を見逃した背景には同業者と比べ杜撰な審査態勢があり、適正な審査をしていれば偽造を早期発見できたとする(「手続き守らず審査簡略化 イーホームズ、検査で判明」共同通信2005年11月27日)。
国交省の立ち入り検査(2005年11月24-25日)では、イーホームズが建築確認をした10階以上のビル約500件のうち、姉歯建築士が関与していない98件の構造計算書を抽出。このうち、90%以上にあたる89件で、建築基準法に違反していた。公認プログラムに関する「認定書」が構造計算書に添付されておらず、本来は計算過程の審査を省略できないのに、これを省いていたという。この結果、計算過程がチェックされずに承認されていた。
同社の構造計算担当の検査員や補助員など計6人は同省の事情聴取に対し、当初は「すべての計算過程をチェックしている」と説明していた。しかし、その後の個別の聞き取りには、いずれも「実はほとんど見ていない。一級建築士が公認プログラムを使って構造計算しているのだから、問題があるとは思わなかった」と回答した(「イーホームズ、検査の9割で手順無視」読売新聞2005年11月26日)。
東京都渋谷区の構造設計事務所社長は、イーホームズにも情報提供した。イーホームズは「担当者が再度確認したが問題はなかった」として偽造個所を特定できず、問題を重視していなかったと証言する(「<耐震偽造>イー社、告発重視せず 情報提供の社長証言」毎日新聞2005年12月1日)。
イーホームズ担当者は「最初は指摘の意味がわからない様子だった」という(「「こんな図面通ったら大変」偽装通報者、1年半前に指摘」朝日新聞2005年12月01日)。約一週間後に返ってきた答えは「チェックしたが、おかしくない」である(「イーホームズ、偽装指摘取り合わず」読売新聞2005年12月5日)。
構造設計事務所社長は「イー社も、あんな稚拙な偽造はすぐに見抜けるのに。緊迫感がなかったのか」と憤る(種市房子「<耐震偽造>必死の告発、反応鈍く 空白の1年半に憤り」毎日新聞2005年12月1日)。「すぐにおかしいと感じた」と言っており、イーホームズは相当無能か、あるいは悪くとれば偽装を知っていながら、とぼけたものと考えられる。
隠蔽情報の物件の建築確認をしたのは「日本ERIと聞いている」と述べた(「参考人招致 イーホームズ社長証言「姉歯偽造で隠蔽」」産経新聞2005年11月30日)。責任転嫁を図ろうとする魂胆が明白である。これに対し、日本ERIの鈴木崇英社長らは記者会見で「藤田社長の発言は事実と違い、法的対応を検討する」と反論した(「耐震偽造 「公表前にヒューザー圧力」とイー社長 衆院委」毎日新聞2005年11月30日)。
イーホームズは翌日になると同社Webサイト上で「真偽について事実確認をしていない」との文書を公表した(2005年11月30日)。このコメントについて、日本ERIの鈴木崇英社長は「不誠実な対応で、個人的には非常に不愉快に感じている。刑事告訴を検討している」と話す(青野昌行「“ERIが隠ぺい”、「情報の真偽確かめていない」イーホームズ社長」建設総合サイトKEN-Platz 2005年11月30日)。真偽不明な情報で他の検査業者を平然と非難する藤田社長は無責任極まりない。
大手検査機関の日本ERIはイーホームズに刺される形で、偽装設計見逃しを認めた。「実際、藤田イーホームズ社長の発言を裏付けるかのように日本ERIが検査を行った案件でも偽造の疑いのある物件がでてきており、姉歯建築設計事務所の構造設計偽造問題の闇はついに民間の建築確認最大手企業にも波及してきた格好だ」(「日本ERIがストップ安売り気配、政府は「隠蔽疑惑」問題を調査の方針」テクノバーン2005年11月30日)。
耐震偽造が判明した建物は2005年12月5日時点で57件に増加した(「耐震偽造被害/支援の「格差」が気になる」神戸新聞2005年12月7日)。国土交通省が発表した途中経過(2005年12月13日)によると偽造物件は17都府県の計70件に増加した(「基準半分未満、新たに6物件=耐震強度偽装70件に−国交省まとめ」時事通信2005年12月13日)。
その後の国土交通省発表(2005年12月15日)では73棟に増加した(「構造計算書の改ざん73棟に…国交省発表」読売新聞2005年12月15日)。国交省発表(2005年12月16日)では17都府県75棟に増加した(「<耐震偽造>新たに2棟確認、17都府県75棟に 国交省」毎日新聞2005年12月16日)。
五年後には、何も起きていなくても柱や梁が折れ曲がる恐れがある(「強度偽装マンション、2棟は自壊の恐れも」読売新聞2005年11月20日)。専門家は「上の階が落ちる可能性がある」と指摘する(「暗転「上の階が落ちる」」読売新聞2005年11月29日)。
財産どころか生命まで危険に晒す建物である。現実に倒壊する前に発覚したのがせめてもの救いと言える。専門家は「補強の入れようがないし、建て替えも容易じゃない」と語る(「<耐震偽造>専門家「取り壊すしかない」」毎日新聞2005年11月22日)。
「何十年ものローンを組むなどしてマイホームを購入した住民らの怒りと不安は察するに余りある」(「耐震強度偽造 許されない背信行為だ」徳島新聞2005年11月11日)。「不安と怒りは頂点に達しているだろうが、それ以前に信じられないという気持ちでいっぱいに違いない」(「国原譜」奈良新聞2005年11月25日)。
「見かけは立派なマンション、ホテル。しかし、中の鉄骨などはか細いもの。強い地震でビル倒壊の危険をはらむ。マンション購入に大枚払った住民はたまったものではない」(「天地人」東奥日報2005年11月23日)。
東京都墨田区の11階建てマンションの一室を2005年1月に約4千万円で購入した人は「半端じゃない大借金、多額のローンを抱えて・・・・・・悔しい」と怒る(「ローン抱え「悔しい」」朝日新聞2005年11月19日)。
都内下町の偽装マンション住民は「怖くて眠れない。家族を想うと仕事も手につかない。なのに、姉歯やヒューザーたちは“安全な場所”でぐっすり眠っているかと思うと、正直腹立たしい」と嘆く(「「やっぱり安過ぎたかも」居住者500世帯がローン難民に」週刊文春2005年12月1日号30頁)。
偽装物件の一つ「グランドステージ住吉」の八住庸平・管理組合理事長は「検査機関の確認が、存在意義もないほどずさんだったと、がく然とした」と話す(「耐震偽造 証人喚問見た住民は「無責任」「真相隠してる」」毎日新聞2005年12月15日)。
不安を募らす住民からは、業者だけでなく自治体の対応についても「緊迫感がなく、消極的だ」と非難が相次いだ(「倒壊危険マンションで説明 「自治体対応遅い」と非難」共同通信2005年11月20日)。「民間に委託するシステムを作ったのは国であり、国の責任は最も重い」と行政に対する不満や怒りが大きい(「所有会社、住民の退去要請=「命と財産を守って」−耐震計算偽造問題で説明会」時事通信2005年11月20日)。
近隣住民も倒壊の恐怖に脅えることになった。マンション外壁から自宅の塀まで50cmしか離れていない家もあり、住民は「いつ建物が崩れてくるか、不安でたまらない」と訴える(「<耐震偽造>近隣住民が悲鳴 「いつ崩れてくるか不安」と」毎日新聞2005年11月25日)。大地震が起きた場合、損害は偽装マンション住民に限らず、耐震基準に満たない建物のある都市そのものに、甚大な被害を及ぼすことになる。
希望する住宅の抽選に漏れた住民は年の瀬も迫り、「退去を迫られても行き場がない」と困っている(「<耐震偽造>「環境変えず余生を」条件かなう転居先少なく」毎日新聞2005年12月15日)。
「コンアルマーディオ横濱鶴見」管理組合役員は「一番悲惨なのは住民が出て行って、マンションを取り壊したあと、建て直しのめどがたたずに、それで終わりになってしまうことです」(「耐震偽装 被害者の年の瀬」朝日新聞2005年12月17日)。
転居先の家賃無料化を打ち出した神奈川県内では転居が進む一方、家賃補助が決まらない東京都内では転居が進んでいない。自治体の対応により、転居の進ちょく状況に格差が出ていることも明らかになった(「強度偽装分譲マンション、85%246戸が転居できず」読売新聞2005年12月14日)。
東京都は、強度不足から転居を求められた分譲マンションの住民への支援策として、公営住宅か民間住宅を問わず、移転先の家賃の3分の2を補助するものの、残りの3分の1については自己負担とすることを決めた(「家賃3分の2補助、強度不足で退去の住民向け…東京都」読売新聞2005年12月16日)。
自治体の足並みがそろわない現状に対し、北側国交相は閣議後会見(2005年12月16日)で、「分譲マンションの建て替えまでは相当な期間がかかる。ぴたっと一致するのは無理かもしれないが、家賃補助額や期間において、結果として自治体間で格差が生じないよう国としても努力を続ける」と述べた。
姉歯建築士が偽造を認めていなかった物件でも偽造が判明している。姉歯建築設計事務所は過去10年間に22都府県で計194件の構造設計にかかわっていた(千葉県調査)。その後、姉歯秀次建築士がかかわった建築物は、計201件に増加した(「「姉歯物件」201件に拡大=偽装36件、近く耐震性確認−国交省」時事通信2005年11月28日)。
ホテル「京王プレッソイン五反田」(東京都品川区)も構造計算書偽造が判明し、2005年11月21日から営業を中止した(「耐震強度偽装、新たに都内のホテルも」読売新聞2005年11月22日)。
ホテル「パークイン平塚」(神奈川県平塚市、11階建て)の強度が不足しており、姉歯建築設計事務所(千葉県市川市)が担当した構造計算の数値が偽造されていた可能性が高いことが明らかになった(「「姉歯」関与、平塚のホテルも偽装?」読売新聞2005年11月24日)。
1998年11月に着工したとされるホテルなど2棟の鉄筋量は、最も鉄筋量の少なかった「姉歯物件」を下回っていた(「木村建設施工のホテル、姉歯以外の9棟も鉄筋量不足か」読売新聞2005年12月16日)。北側国交相は「『姉歯』以外に、鉄筋が非常に少ないものがあると判明した。木村建設のしかるべき方からよく事情を聴きたい」と述べた(「鉄筋少ない物件、他にも 国交省が調査へ」朝日新聞2005年12月16日)。
姉歯(あねは)建築設計事務所による耐震データ偽造問題で、横浜市保土ケ谷区のマンション「レジーナ和田町エスタシオン」(六階建て)の構造計算書に偽造された部分があることが判明した(2005年12月5日)。横浜市が、千葉県が通告した姉歯建築士が関与した建物を調査して発覚した。マンションの元請け設計は井上建築企画研究所(東京都渋谷区)で、イーホームズ(東京都新宿区)が確認検査業務を担当した(内橋寿明「<耐震偽造>新たに発覚 横浜・保土ケ谷区のマンションで」毎日新聞2005年12月5日)。
耐震強度偽装問題で、東京都練馬区は姉歯建築設計事務所が構造計算した物件を再計算した結果、同区栄町の分譲マンション「ロセットROSSET江古田」(鉄筋5階建て)で偽装が判明したと発表した(2005年12月9日)。 建築確認したイーホームズ(東京・新宿)から同区が構造計算書などを取り寄せたところ、普段の状態で梁にかかる力の値が実際の半分で計算されていた。一部の柱や梁で鉄筋数が基準に満たず、建物の重みで梁などにひび割れが生じる恐れがあり、補強の必要がある(「東京都練馬区でも分譲マンション1件の耐震偽装判明」日本経済新聞2005年12月9日)。
イーホームズ及び世田谷区による問題発覚後の再検査で偽造はないとされていたが、世田谷区は2005年12月12日に構造計算書が偽装されていたと発表した。耐震性は建築基準法に基づく最低基準の34%しかなく、震度五強の地震で倒壊の恐れがある。その後の調査で姉歯秀次元一級建築士が構造計算書に加え、構造図も偽造した疑いの強いことが判明している。
グランドステージ千歳烏山は、ヒューザーが建築主で、エスエスエー建築都市設計事務所が設計を担当。施工は木村建設である。民間のイーホームズが建築確認をし、2003年5月に完成した(「東京で新たに1件強度不足 ヒューザーのマンション」共同通信2005年12月12日)。
イーホームズと世田谷区が問題発覚後の再検査でも偽造を見抜けなかったことに対し、入居者から「あまりにずさん」と非難の声が上がっている。再調査でも偽造を見抜けなかったことについて、区は「もっと慎重に調査すべきで、混乱させて申し訳ない」と住民側に謝罪した。しかし、入居者の30代の主婦は「一度は問題ないと言われたのに。こんな耐震性では転居するしかなく、区の対応は許せない」と怒りが収まりそうにない(「<耐震偽造>世田谷のマンション、姉歯氏が構造図も偽造か」毎日新聞2005年12月12日)。
京王プレッソインではコンサルタント会社「総合経営研究所」の指導を受けていたことが判明している。構造設計は姉歯建設設計、設計は平成設計、施工ははるばる熊本に本社を置く木村建設と、何れも実績も知名度もない各社が担当した。検査機関はイーホームズである。このため、偽装の背後に京王電鉄グループとの癒着を疑う指摘がなされた(山岡俊介「耐震偽造問題ーー京王電鉄グループと総研との間に癒着はなかったのか?」ストレイ・ドッグ2005年12月2日)。
鉄道業界は同業者間の競争は少なく、悪しき慣行も含め、横並び意識が強い。東急電鉄、京成電鉄、小田急電鉄、京浜急行電鉄、京王電鉄が揃って元暴力団幹部で右翼団体幹部の関係するゴルフ場・宅地開発会社「酒々井開発」に出資していたことが判明している(「OLC出資の右翼関連企業、私鉄大手5社も出資」読売新聞2005年6月20日)。
鵜飼俊丈・名鉄イン刈谷総支配人は「わずかでも不安がある以上、営業を休止して安全点検に専念するのがホテル業の努め」とする(「新たに4ホテル休業」読売新聞2005年11月24日)。三交不動産も「営業面での影響は大きいが、安全に対する責任はもっと大きい」と説明する(「何かあってからでは遅い」読売新聞2005年11月24日)。
姉歯建築設計事務所が構造設計を行ったとして、静岡県湖西市鷲津のビジネスホテル「くれたけイン浜名湖」(11階建て、126室)が11月25日から営業を休止すると発表した。運営する呉竹荘(静岡県浜松市)によると、同ホテルはイーホームズが建築確認を行い、2004年7月に開業した。
専門家に調査を依頼したところ、「偽造の疑いがある」とされたという(「静岡のホテルも営業休止へ…姉歯事務所が構造設計」読売新聞2005年11月25日)。「お客さまの安全を第一に考え休止を決めた」とする(「<耐震偽造>静岡・湖西市のビジネスホテルも営業を休止」毎日新聞2005年11月25日)。
市民の多くは「我が家は大丈夫だろうか」という不安に襲われたに違いない(高田浩之「信用の砦“倒壊”の責任は」読売新聞2005年11月24日)。「何しろこれだけの大問題。うちのマンションは大丈夫かと考えるのが自然だろう」(「一日一言」四国新聞2005年12月7日)。
「偽造への不安は、まだ名前が公表されていないマンションの住人とともに、全国のマンション購入者などにも広がっているのではないか」(「[耐震強度偽造] 一斉点検を早急に」沖縄タイムス2005年11月20日)。同様の問題が他でも発覚するのではないかと、分譲マンションに住む者としては、安心できない日々が続く。
「他の設計事務所でも同じような手抜きや偽造が行われているのではないかという建築確認の制度そのものについての不信感も強まっている」(渡辺智衛「欠陥マンション 信頼回復は国の責任で」福島民報2005年11月24日)。
実際、自治体や業界団体に相談や問い合わせが相次いでいる。蓄積されていた建築・不動産業界に対する不信が噴出した形である。社団法人「東京都建築士事務所協会」(新宿区、(電)03・5339・8288)では、職員が午前9時から午後5時まで、無料相談に応じている。
問題発覚後、「ウチのマンションは大丈夫か」といった相談が1日約60件あるという(「マンション住民に不安、建築士団体へ相談殺到」読売新聞2005年11月25日)。「来年入居予定だが、確認検査機関が(姉歯事務所の偽造を見逃した)イーホームズなので不安だ」という相談もある(「<耐震偽造>「ウチは大丈夫か?」 相談、問い合わせ殺到」毎日新聞2005年11月24日)。
目の前の危機に目をつぶってしまうような人は救いようがない。放置するしかない。しかし、自分が住む住居の危険を知ろうとし、何らかの対処をしたいと考える人に対しては、各方面からのサポートを行っていくべきである。
耐震強度偽装問題を受け、宮城県建築設計事務所協会と日本建築構造技術者協会東北支部、仙台建築構造事務所協会は、マンションの管理組合などを対象とした統一の相談窓口を設置した(2005年12月12日)。竣工図や構造計算書を預かって、偽装などがないかを無料で検証する。場合によっては、有料で現場確認も行う考えだ(「耐震偽装の不安解消 建築設計3者が無料検証」河北新報2005年12月13日)。
これだけ話題になっているのに、調査・確認はしても「当社の建物は大丈夫です。御安心ください。」と積極的に図面を出して安全性をアピールする会社はない。どこの会社も程度の差こそあれ、同じようなことをしていると考えるのが妥当である。住民の「一連の事件関係者とは無関係との説明が分譲会社からあったが、それだけでは不十分。耐震面で安心であることをきちんと説明してほしい」との思いからは乖離している。
大手不動産会社の広報担当者は「安全と言い切るのは、そう簡単なことではない」「1棟残らず大丈夫と言うには膨大な作業が必要」と語る(「業者 不安解消に懸命」朝日新聞夕刊2005年12月5日)。
ゼファーはこれまで分譲した物件について、姉歯建築設計事務所とは取引がなかったことを確認済みだ。今回、購入者や契約者に安心してもらう目的で、自主的な再確認を実施する(「分譲した全マンションの構造計算を再確認、ゼファー」建設総合サイトKEN-Platz 2005年11月30日)。