住民の多くが生命財産の不安を抱く中で、自社の金儲けしか考えない、身勝手な見解である。東急不動産の体質が良く現れている。全国で国民の不安、被害者の嘆きが天を圧しているというのに、東急不動産は自己の異常さに気付くこともないようである。
アーバン武蔵小金井は1999年1月に都多摩東部建築事務所(当時)が建築確認をし、同年12月に完成した(「東急の物件でも偽造判明 都が建築確認」共同通信2005年12月8日)。構造計算書の作成日は1998年12月10日である。これまでに判明した偽造物件の中では最も古い(「東京・小金井の賃貸マンションも偽装 最古の偽装物件」朝日新聞2005年12月8日)。
構造計算書偽装の発端に東急系の関与があることを疑わせる事実である。姉歯元建築士も「偽造は98年ごろから60件前後やった」と証言した(「<耐震偽造>「98年から60件」証人喚問で姉歯元建築士」毎日新聞2005年12月14日)。東急系マンションの偽装が初期のものであることは間違いない。
世紀東急工業が設計を委託した木村建設(熊本県八代市)が構造計算を子会社の平成設計へ下請けに出し、さらに姉歯事務所へ孫請けに出していた(「世紀東急工業が建設のマンションで偽装判明」日本経済新聞2005年12月8日)。木村建設に発注した理由について、同社は「工期が短いと評判で、試しに使った」とする(「東急系でも耐震偽造」東京新聞2005年12月8日)。木村建設やまして平成設計など聞いたこともないところを、東急ともあろうものが何故使ったのか。
偽装発表の翌日、世紀東急工業の株価は下落した。2005年12月9日の主な値下がり銘柄として紹介される(「9日東京株式、日経平均反発・前日のジェイコムショックをほぼ吸収・落ち着きを取り戻す」テクノバーン2005年12月9日)。「8日に東京都小金井市の賃貸マンションで姉歯元建築士による耐震強度偽装が見つかったと発表した世紀東急工業は商いを伴い3日続落」(「耐震偽造の波紋広がる、トーアミなど耐震関連は軒並み高、マンションで偽造発覚の世紀東急は続落」株式新聞ダイジェスト2005年12月9日)。
「アルス町田ブライシス」(神奈川県相模原市上鶴間本町)は東急不動産株式会社及び株式会社明豊エンタープライズを売主とし、東急リバブル株式会社を販売代理とする。建築確認番号は第ERI05004007で、偽装を見抜けなかった検査機関の日本ERIが建築確認を担当した。2005年11月中旬販売開始予定としていたが、11月20日にモデルルームを閉鎖した。
マンション建設地では建物が建設途中の状態である。アルス町田ブライシスマンションギャラリーに電話(0120-109-504)で問い合わせた人の話では販売中止の理由は説明されず、今後も「未定」とのことであった(2005年11月26日)。
東急リゾートが販売代理のレアージュ箱根湯本もイーホームズ確認物件である(eHo.05.A-673-31(平成17年6月3日付))。
名義だけ貸して、工事監理に行かない設計事務所も多い。意匠専門で東京都江東区に事務所を構える井本雄・一級建築士は、意匠の専門家にはチェックのノウハウがないことが多く、「計算内容までは見ない」という(根本太一「耐震偽造 1級建築士、その実態 分業進み収入格差」毎日新聞2005年12月7日)。
管理組合向けのマニュアルにも「構造計算については外部委託されている場合があるので、管理組合等で保管している構造計算書に記載されている設計者名が該当する者でなくても、念のため問い合わせることをお奨めします」と記載されている((財)マンション管理センター、(社)高層住宅管理業協会、マンション管理士団体連絡会「ご自分のマンションの耐震性を確認したいマンション管理組合の皆様へ」2005年12月2日)。
居住者が販売会社・東急リバブルに下請業者を確認したが(2005年11月18日)、一ヶ月近く経過しても回答はなされていない。東急不動産からも同じく何の連絡もない(2005年12月12日現在)。但しWebサイト上では「姉歯とは一切関係なし」との「死に物狂いの否定文書」を掲示している(「ゼネコン、不動産業界の潔白宣言」日刊ゲンダイ2005年12月9日)。マンションによっては、不動産会社や管理会社から住民に事件との無関係性を即座に告知してきたところもある。このようなところで企業のリスクマネジメント力が問われている。
居住者が江東区建築課構造係に電話して相談したところ、「構造計算書の名義が姉歯建築設計事務所でなくても、姉歯建築設計事務所が作成した可能性はある」とし、設計業者に直接確認することを助言された(2005年11月25日)。
株式会社昇建築設計事務所(03-3811-8981)に電話し、アルス東陽町の下請業者について問い合わせた(2005年11月25日)。最初は「下請業者は使用していない」と否定した。監理報告書の構造設計担当にアトラス設計の名前があることを指摘すると、「意匠は自社だが、構造はアトラス設計が担当した」と改めた。昇建築設計事務所が発注者としてアトラス設計を下請業者として使用したことも認めた。即ち最初の回答は誤りだったことになる。アトラス設計以外の下請業者及び孫請業者の有無については不明のままである。
東急リバブル問い合わせ内容(2005年11月18日) アルス東陽町の設計下請業者について問い合わせ アルス東陽町の設計業者について問い合わせます。私は2003年6月に貴社の販売代理でアルス東陽町の売買契約を締結しました。 アルス東陽町の設計・監理(元請)はSHOW建築設計事務所ですが、確認したいのは下請け業者です。ご存知の通り、下請の建築設計事務所が構造計算書を偽装した事件があり、ホテルが営業中止になるなど大きな影響を及ぼしています。偽装建物は21件が判明していますが、全ての建物名までは明らかにされていません。また、21件というのも現在、判明している限りです。一方、偽装物件21件中20件の建築確認を代行したのはアルス東陽町の建築確認検査機関であるイーホームズ株式会社であることが判明しています。 そのため、アルス東陽町の設計・監理の下請け業者名についてご回答お願いします。 もし御社で把握していないのでしたら、施工業者への確認をお願いいたします。 ご回答は、他の入居者にも見せたいので、できましたならば文書でお願いします。 また、お願いばかりで恐縮ですが、10月9日、10月15日、10月22日、10月30日、11月3日、11月5日、11月13日と問い合わせさせていただいている別件のアスベスト使用の件についてもご回答お願いします。 |
竣工図書は「網入型板ガラス(Dタイプ:2F洋室)×1、網入透明ガラス×6」と記述する(株式会社SHOW建築設計事務所「建具表-2」2003年1月31日)。これによれば、網入型板ガラスは二階だけなので一枚、網入透明ガラスは六枚となる。二階以外の三階、四階、五階、六階、七階、八階の各居室で六枚である。しかし、実際は二階と三階が網入型板ガラスで、四階以上が網入透明ガラスである。
また、竣工図では洋室の三つの窓の大きさは全て同じである。しかし、実際に測定すると幅に差異がある。西側の窓は幅51cmであるのに対し、真中の窓は幅50cm、東側の窓は幅51.5cmと区々である。
2005年7月18日 東急アメニクス御中
はじめまして。××と申します。
2005年7月31日
お世話になります。 |
本来、建築物に関しては、設計段階で建築確認がなされ、その後の施工段階で中間検査、完成後に完了検査が行われる。中間検査とは工事段階での検査であり、最低でも一回は実行される。工事の金額や規模によっては複数回の検査が行われる。工事の規模によっては中間検査は書類の検査だけでも数日かかる。現場の検査も二週間近くを要する。検査担当者が要所要所の検査を行い、建設材料が搬入されるその都度、強度や耐性をチェックする。場合によっては工場まで出向いて建材の検査を行うこともある。
しかし、イーホームズにおいては名目だけの形式的な検査であったことをうかがわせる。「完了検査の際、建物内に入らず、外観だけ見て検査済証を交付した担当者もいた」と話す検査員もいる(「民間検査、甘い実態…「早く通すところが繁盛」」読売新聞2005年11月24日)。どこまでキチンと調べたのか疑わしい。時間をかけて調査しなければならない項目が、不十分な調査で終わっていることも考えられる。
アルス東陽町は2003年9月竣工、8階建て27戸のマンションである(事業主・東急不動産株式会社、施工・株式会社ピーエス三菱、設計監理・株式会社昇建築設計事務所、株式会社SHOW建築設計事務所とも表現する)。
アルス東陽町の建築確認は康和地所株式会社により、民間検査機関「イーホームズ株式会社」(東京都新宿区、代表取締役藤田東吾)によってなされた。建築確認申請は2002年8月になされた(eHo第A-289号)。手続は康和地所から委任を受けた株式会社SHOW建築設計事務所・武内久が実施した。委任状の日付は2002年7月24日となっている。
建築確認番号は度重なる設計変更により三回も出されている。
eHo第A-289号、2002年8月12日付
eHo第A-289変号、2002年12月3日付
eHo第A-289変2号、2003年2月21日付
eHo第A-289号の確認検査員は佐藤忠である。eHo第A-289変2号の確認検査員は佐々木和彦である(イーホームズ株式会社作成、東急不動産宛「建築基準法第6条の2第1項の規定による確認済証」2003年2月21日)。設計住宅性能評価もイーホームズが実施した。建設住宅性能評価は取得していない。
10月22日、康和地所からイーホームズ株式会社に事業主変更届が出される。変更理由は土地売却、変更期日は10月22日、変更後の建築主は東急不動産株式会社である。
2003年3月14日、イーホームズ株式会社により、中間検査(2003年2月21日付建築確認)が実施される。確認検査員は佐藤忠、補助検査員は高村利昭である。立会者は株式会社SHOW建築設計事務所・名倉敬、山下洋史である。中間検査合格証は検査日当日に発行された(イーホームズ株式会社作成、東急不動産宛「建築基準法第7条の4第3項の規定による中間検査合格証」2003年3月14日)。
9月4日、工事監理報告書がイーホームズに提出される(イーホームズ株式会社宛「建築基準法第12条第3項の規定に基づく工事管理報告書」2003年9月4日)。監理報告書であるが、報告会社は施工会社の山下洋史・東京建築支店工事第二部所長となっている。監理のいい加減さを物語るものである。
同日、イーホームズ株式会社により、完了検査が実施される。確認検査員は本島司朗、補助検査員は小山勝宣である。立会者は名倉敬、山下洋史である。確認済証は検査日当日に発行される(イーホームズ株式会社作成、東急不動産宛「建築基準法第7条の2第5項の規定による検査済証」2003年9月4日)。
9月8日、イーホームズ株式会社から東急不動産にエレベータについての「建築基準法第7条の2第5項の規定による検査済証」が交付された。確認検査員は向山賢である。
イーホームズは検査日当日に中間検査合格証や検査済証を交付するが、消防署の検査結果通知書では日付が検査日から約2週間後になっている。検査は2003年9月3日に実施し、通知書の日付は9月16日である(東京消防庁深川消防署長作成、東急不動産宛、検査結果通知書、2003年9月16日)。
グランドステージ藤沢が購入者に引き渡されたのは2005年10月28日以降である。その前日の27日に、民間の指定確認検査機関「イーホームズ」の藤田東吾社長がヒューザーの小島進社長に対し、姉歯秀次・元建築士により複数の構造計算書が改ざんされた疑いを伝えていた(「偽装知りながら引き渡す?ヒューザー専務らを都が聴取」読売新聞2005年12月15日)。
東京都は宅地建物取引業法に基づき、ヒューザーの幹部らから事情を聴いた(2005年11月15日)。偽造を知りながら説明しなかった宅建業法違反の疑いがある(「<耐震偽造>ヒューザーを聴取 東京都」毎日新聞2005年12月15日)。違反行為が確認されれば行政処分を検討する(「都がヒューザー幹部を聴取 偽装認識し、引き渡しか」共同通信2005年12月15日)。
警視庁と千葉、神奈川両県警の合同捜査本部は、姉歯元建築士が関与した物件を何の説明もなく入居者に引き渡した行為は、顧客への重要事項の説明を義務付けた宅地建物取引業法(宅建業法)違反の疑いがあるとの見方を強めている(「偽装問題伝えず引き渡し ヒューザー、宅建業法違反で捜査」共同通信2005年12月16日)。
不動産業界には似たような話が転がっている。建築業界の人による「手抜き工事は至極当然に行われている」との意見はネット上ではよく見受けられる。設計上は問題なくても、施工時点で問題が起こる可能性もある。表面化していないだけで、偽造している業者は他にも存在するだろう。「耐震偽造計算をしている設計事務所が一社摘発されると、同じことをしている事務所は最低三十社はある」(「ノミの法則」中国新聞2005年12月9日)。
本当に業界全体の総点検のようなことが実施されたら大変なことになる。第二、第三の姉歯建築士が出てくるかもしれない。業者は販売どころではない。表向きは皆、他人事のような顔をして報道の嵐が去るのをひたすら待っている。裏では連日、トップを交えて社内会議で悪人探しに必死だろう。
構造計算書偽造事件により、消費者のマンション購入マインドの冷え込みは確実である。購入見送りやキャンセル続出は必至である。安全基準が示されなければマンションは買えない。金融機関も建築資金や住宅ローンの貸し出しに慎重にならざるを得ない。
耐震強度偽装問題に関心を持つ人は90.3%に達し、現在の住まいの耐震強度に不安を感じている人は44.3%であった(「マンション住民の4割、耐震性に「不安」 ネット調査」朝日新聞2005年12月13日)。
マンション購入予定者が契約を見合わせる動きが広がる可能性があり、2006年のマンション販売は竣工時で平均で80%程度に低下、20%の在庫が発生する可能性がある(「耐震強度偽装問題、06年名目成長率を0.57%程度押し下げも」ロイター2005年12月13日)。2007年以降も建築基準法の厳格な適用などで販売価格が上昇、マンションブームは戻らない可能性が高いと予想する。
建築基準法が改正されても、購入者が安心できる条件に整備されるまでには最低でも半年間はかかると指摘する。対策として、万一問題が発生した場合の資金的な確約を挙げる(「来年のマンション販売戸数、耐震偽装問題で36%減に−未来予測研」日刊工業新聞2005年12月13日)。
不動産経済研究所のアンケート調査によると、全国の大手や中堅の不動産会社のうち約六割が耐震強度偽装問題によりマンション市場に悪影響が出ると予測する(「6割が市場に悪影響予想 主要不動産会社への調査」共同通信2005年12月13日)。
2005年11月の首都圏のマンション発売戸数は、前年同月比2.3%減の7939戸となり、四カ月ぶりに前年割れとなった(不動産経済研究所発表、2005年12月13日)。国土交通省が姉歯秀次元1級建築士による耐震強度偽装問題を公表したのは11月17日である。同研究所は「公表後あまり時間が経過しておらず、基本的に(大きい影響は)なかった。ただ長期的に影響はあるかもしれない」と指摘した(「11月マンション発売減少」共同通2005年12月13日)。
中堅の賃貸マンション開発会社「リビングコーポレーション」(本社・東京)は12月14日に予定していた東証マザーズへの上場を一時延期すると発表した(2005年12月5日)。投資家の判断を誤らせる懸念があるとして、上場に合わせて予定した新株発行と株式売り出しも当面中止する。国土交通省による調査経過など外部環境を考慮して、改めて上場を目指す(「リビングコーポなど2社、耐震偽装の影響で上場延期」日本経済新聞2005年12月5日)。
不動産投資信託(REIT)の上場を目指すエルシーピー投資法人は、12月21日に予定していた東京証券取引所への上場を延期すると発表した(2005年12月5日)。構造計算書の偽造問題を受けて運用資産を再確認する。今後の上場時期は未定である(「エルシーピー投資法人 J―REIT上場延期」週刊住宅新聞2005年12月6日)。株式にあたる投資口の新規発行や売り出しも中止する(「強度偽装の余波、株式・不動産投信の上場延期相次ぐ」読売新聞2005年12月5日)。
仙台市建築指導課によると、この工事業者は宮城県亘理町の「カップリング圧接」。偽造物件5棟は青葉区の2棟と宮城野、若林、太白区の各1棟で、7〜12階建て。建築主は野村不動産が4棟、大和ハウス工業が1棟。このうち、青葉区と宮城野区の2棟は分譲を終え、既に住民が入居している(「鉄筋業者、溶接強度データ偽造…仙台のマンション5棟」読売新聞2005年11月25日)。
この業者は、試験機関の県産業工業技術センターが試験を実施したように見せ掛けて1棟につき2〜3割のデータを偽造していた。この業者は「工程がきつく検査の時間が取れなかった」と説明している(「大手ゼネコンも鉄筋の強度データ偽造」日刊スポーツ2005年11月25日)。
府は11月に確認申請書類の審査だけで、これらのホテルについて「改ざんはない」と発表していた。しかし、構造計算プログラムを使って再審査したところ、改ざんが見つかった。両ホテルは府からの要請を受け、12月2日から営業を休止した。ともに鉄筋コンクリート造、地上8階である(青野昌行「大手ゼネコンの施工でも偽造、京都のホテルで」建設総合サイトKEN-Platz 2005年12月4日)。
大阪市は2005年11月24日に「安全性は確保されている」と公表していたが、JR西日本の子会社で、ホテルを運営するジェイアール西日本デイリーサービスネットが専門機関に依頼して調査したところ、構造計算書の改ざんが見つかった。同ホテルは12月5日から営業を休止した(「大林組の施工でも偽造、鹿島に続いて大手で2件目」建設総合サイトKEN-Platz 2005年12月4日)。
北側国交相は記者会見(2005年12月9日午前)で鹿島と大林組の偽装見逃しについて、「非常に残念だ。日本を代表するスーパーゼネコンが、関与した物件について下請けではあるが、偽装を見抜けなかった。なぜ見抜けなかったのか聴かせていただかなければならない」と話した(「「スーパーゼネコンがなぜ」国交省、鹿島・大林組聴取へ」朝日新聞2005年12月9日)。
構造計算書偽造は殺人未遂である。地震が起きて建物が倒壊すれば、人が死ぬことは分かりきっっている。新潟中越地震なみの地震が起これば倒れてしまうと分かっている建築物 を平気で建てるとは、人命を何と思っているのだろうか。目先の己の利益を優先して、他の人の生命財産を無視する精神構造はどこから来ているのだろうか。経済優先の社会が歪んだスペシャリストを作り、それが社会につけとして返ってきた。
「人命よりも自分の収入や業界の要望を重視するようなやり方には、強い憤りを感じる」(「耐震性の偽造/「命の重み」を知るべきだ」神戸新聞2005年11月19日)。
「古代バビロニアのハンムラビ法典には「大工の建てた家が倒れて家の主が死んだら大工を殺す」という条文がある。建築は人命を預かる仕事だという緊張感が、古今を問わず求められている」(「命を脅かす犯罪だ」朝日新聞2005年11月19日)。
日本国、日本人、日本社会への世界の信頼を失墜させる問題である。大事における日本政府の無策ぶりは世界各国の失笑を買っている。外国人の日本製品・技術に対する高品質神話を崩壊させることになる。
徹底的な責任追及がなされるべきである。「入居者や住民のために緊急策を肩代わりする形の自治体や国は、建築主らの責任を厳しく追及していくべきだ」(「素早い支援はいいけれど」朝日新聞2005年12月7日)。「何よりも公的資金を使う以上、業者の責任を棚上げしたままでは国民は納得しない」(「耐震偽造住民支援策 業者の責任追及も急げ」徳島新聞2005年12月8日)。
「グランドステージ東向島」がある墨田区では、「責任を問うべきはヒューザーやイーホームズ。税金を使ってほしくない」とする意見が大勢を占めている(「耐震偽装への税金投入批判、被害住民悩ます中傷も」読売新聞2005年12月18日)。
「設計事務所の職業倫理が問われるは当然としても、責めを負うのはここだけだろうか。元請け・下請けの関係、検査機関、行政の責任…解きほぐすべき課題は多い」(「小社会」高知新聞2005年11月22日)。金融機関がローンを組む場合、マンションを担保にして貸し付けるわけだが、担保物件の資産価値を徹底的に見極められなかった責任もまた問われなければならない。
「構造計算書偽造事件は、直接その行為に手を染めた人だけではなく、設計から施工に至る過程に関与した人々の匿名性を隠れみのにした不作為によって生じたといってよい」(野城智也「「家歴書」付け住宅流通を」朝日新聞2005年12月17日)。
「利益追求のためコストダウンを至上命題とする建築主や施工・設計業者、偽造を見抜けなかった国指定の確認検査機関…。建築確認制度そのものが問題をはらんでいる」(「不正の構図解明せよ」沖縄タイムス2005年12月7日)。
全部が全部、責任を背負う立場にあるのに、全員が逃げ腰、及び腰である。発注する民間企業も、設計・検査を受注する民間企業も、それらを監督する官庁も他人事であるような顔をして、責任のなすりあいばかりである。
「ほかの機関や人間に責任を押し付け、自分は保身を図ろうとする。こんな無責任な人物が、人の生命や財産を守る住まいの建築にかかわっていたとは情けない限りだ」(「耐震強度偽造/真実はどこにあるのか」神戸新聞2005年11月30日)。
当事者が他人事のように振る舞い、互いに責任を押しつけ合う様子に被害者が憤り呆れるのは当然である。「グランドステージ茅場町」管理組合理事長は記者会見で「責任のたらい回しばかりで、あきれ、がっかりしました」と語る(「「偽装の原点」募る怒り」朝日新聞2005年12月15日)。
「建設業界に身を置くプロたちが、これだけ多くの偽装に気づかなかったことのほうが考えづらい。もし本当に知らなかったというのなら、職責を果たしていないのではないか。責任のなすり合いになっていて見苦しかった」(「責任感のなさが見えた」沖縄タイムス2005年12月15日)。
地震国日本で耐震強度偽装問題を起こしながら自らの保身を図る人達には企業人になる資格はない。「責任のなすり付け合い、トランプのババ抜きゲームを終わらせるには断固とした姿勢を示すしかない」(「ウソの証明」山陰中央新報2005年12月11日)。
「「建築確認」の重みが、どれほど認識されていたのか。「検査機関」の役割とは何なのか。無責任な弁明を聞けば聞くほど、そんな疑問がわいてくる」(「耐震偽造質疑/これでは構図が見えない」神戸新聞2005年12月8日)。
木村建設(熊本県八代市)の木村盛好社長は「専門家である姉歯建築士の計算結果と確認審査機関の審査結果をそのまま信じてしまったことが原因」とする(「木村建設社長圧力「全くない」」産経新聞2005年11月25日)。
伊藤議員はマンションの一部を建築した「ヒューザー」(千代田区)の小嶋進社長を、問題公表前に国土交通省幹部に引き合わせていた。鶴見区のマンション「コンアルマーディオ横浜鶴見」住民は「ニュースを聞いて耳を疑った。そんな人は(議員を)辞めてもらいたい」と憤る(「耐震偽造 政治家介入「裏で何を」 住民がヒューザー批判」毎日新聞2005年11月26日)。
自民党の武部勤幹事長は2005年11月26日、この問題について「事実なら不用意極まりない」と伊藤元長官の行為を批判した(「ヒューザー社長 公表2日前、伊藤元長官が国交省幹部に紹介」産経新聞2005年11月27日)。伊藤議員は自民党住宅調査会長を辞任する方向とされる(「「自民は業界寄り」批判」読売新聞2005年11月29日)。
民主党の鳩山由紀夫幹事長は「国交省への仲介はあっせん利得と言われても仕方ない行為。既得権益に守られた甘えの構造は徹底追及する」とする(「民主 審査マニュアル整備を要求」西日本新聞2005年12月7日)。
「だから、責任追及や、実態調査・公表は抑制すべき」との主張と理解せざるを得ない発言である。国民の安全を犠牲にしても業界の利益を優先する姿勢を露骨に表明する。「業界寄りだ」との批判が噴出している(「「自民は業界寄り」批判」読売新聞2005年11月29日)。
民主党の前原誠司代表は千葉市内での講演で武部発言を強く批判した(2005年11月27日)。「徹底的に調査することが政治の責任だ。誰を目線に(置いて)政治を考えているのか」(「自民幹事長を批判=耐震強度偽装問題で前原氏」時事通信2005年11月27日)。
「逆ではないか。まさに人の命が軽んじられてこういう問題が起きている。いったい誰を見て政治を考えているのか。安心、安全を図ることが本来の政治の責務であるにもかかわらず、それができていないのがいまの自民党だ」(「「誰を見ているのか」 前原代表が武部発言批判」共同通信2005年11月27日)。
自民党の渡辺具能議員は40分の持ち時間中、30分以上を自分の発言に費やした。「姉歯氏にもっとしゃべらせるべきだ」「なぜこの議員を質問者に選んだのか」と抗議されている。「質問した議員側の切り込み不足は否めない。質問するより自らの考えを延々と述べる姿もあった」(「耐震偽装喚問 国会はなお解明努力を」信濃毎日新聞2005年12月15日)。
「久しぶりの証人喚問で、各党の「追及力」も注目されたが、自民党は余りにお粗末だった。まさか、業界批判を遠慮しているのではあるまいが、材料も乏しく、演説のような話をだらだらと続けられては時間の無駄だ。その分、質問時間を野党に配分した方がましだった」(「偽造証人喚問 「ぐるみ」の疑惑は強まった」毎日新聞2005年12月15日)。
自民党の武部勤幹事長はニッポン放送のラジオ番組に出演し、自民党の証人喚問について陳謝した(2005年12月16日)。「自民党の質問は酷かった」と問われ、「まったく同感。ほんとに申し訳なかった」と答えた。「喚問なんだから、相手から引き出さなくちゃいけない」と追及の甘さを認めた(吉沢龍彦「自民の質問ひどすぎた」朝日新聞2005年12月17日)。
国土交通省などのこれまでの調査で、建築士のモラルの低下をはじめ、規制緩和で始まった民間検査機関の建築確認体制の杜撰さが判明した。「国民の貴重な財産と安全を確保する制度が、気付かないうちに機能不全を起こしていた」(「耐震偽造 広がる被害対応急げ」中国新聞2005年11月27日)。「規制緩和で「官から民へ」の流れがあるが、チェック機能は十分であったとはいえない」(「居住者の安全対策迅速に」沖縄タイムス2005年12月1日)。
民間検査機関ではどうしても検査が甘くなる。「建築主や代理人である設計事務所の立場が強過ぎると、民間機関が厳密な審査を行うのは難しくなる」(「確認検査機関/偽造見抜く目持ってこそ」神戸新聞2005年11月25日)。
民間機関にとって申請者は料金を払ってくれる顧客に相当し、強く検査できないのが実情である。民間検査機関は確認件数をこなすことしか考えていないとも言われる。確認申請を出す時に「ダメなら他行くからいいよ」と言えば黒も白になるくらいと言われる。検査が緩い機関ほど儲かる仕組みである。
民間検査機関には、建設会社や住宅メーカーが出資した会社が多い。多くの民間検査機関は建設会社の資本が入っている。建設会社や住宅メーカーからの出向者も少なくない。要するに自社の物件を身内の検査機関が確認することになる。設計する側と審査する側が仲間であれば、公平な検査を期待することに無理がある。
ある検査機関の建築士は「実際に行われているかどうかは別として、建築主側が簡単な審査を望めば、建築主と検査員のなれ合いで手抜き審査になってしまうこともあり得る」と話す(「見逃し次々 民間審査の中立性に疑問の声 耐震強度偽装」朝日新聞2005年12月8日)。
国交省幹部は「厳格な審査を行う機関は敬遠さえ、早く通すところが繁盛するようになってしまった。制度的矛盾があった」と認める(「民間検査甘い実態」読売新聞2005年11月24日)。周辺住民が日照権等を巡り反対する建物でも、行政機関が間に入る前に、建築確認を済ませてしまう例も報告されている。
マンションは、その製造過程が密室で、身内だけの世界で行われる。それだけに安全性を維持するための防波堤として建築士と検査機関による誠実な業務遂行が求められる。しかし実態は、なれ合い・もたれ合いの状態で、互いのチェック機能が働いていない。欠陥建築問題は前々から存在しており、欠陥設計もあると考えるのが当然である。しかし検査機関はあり得ないことが起きたとして気付かなかったとしている。
「規制緩和で適正な手続きにほころびが生じているなら、民間検査機関の業務の見直しも求められる」(「耐震強度偽造 他に背信はないのか」中国新聞2005年11月20日)。「審査結果に対するチェックの強化など、具体策を示さなければ、信頼は取り戻せない」(「耐震強度偽造 こんなでたらめが なぜ」信濃毎日新聞2005年11月25日)。
建設・不動産業界においては比較的、法の隙間をつけばよいという者が現れやすい。建築に関する日本の法律は性善説により作られているが、グローバルスタンダードに則り、性悪説に基づいた考えに直すべきである。
自民党の片山虎之助参院幹事長はテレビ朝日の番組(2005年12月11日午前)で、耐震データの偽造を民間検査機関が見逃していた問題に関し、国や地方自治体が指定した民間の全検査機関を調査し、適正と判断した機関だけを再指定すべきだとの考えを示した。「民間の指定(検査)機関を、能力と意欲があるかどうかもう一度全部点検する必要がある。再指定というか、それは国民の安心につながる」(「民間検査機関の再指定を=耐震偽装問題で片山自民党参院幹事長」時事通信2005年12月11日)。
国土交通省は、民間確認検査機関のビューローベリタスジャパンが、構造計算書が偽造された横浜市のマンションで、住宅性能評価書を交付していたと発表した(2005年12月7日)。住宅性能評価を受けた建物で偽造が見つかったのは2000年の制度創設以来初めてである。住宅性能表示制度の信頼性にも疑問符が付いた(「住宅性能評価でも偽造見逃す、ビューローベリタス」建設総合サイトKEN-Platz 2005年12月8日)。国交省は、全国108の性能評価機関に再点検を指示した(「「性能評価」でも偽装見逃す 民間検査機関」朝日新聞2005年12月7日)。
国民の不安の広がりを抑えるためには、耐震性検査の費用の全部または一部を負担してでも、マンションなどの安全性を政府が確認する必要があると判断した(「国が48検査機関を格付け、問題審査は全棟検査実施へ」読売新聞2005年12月4日)。これにより、悪徳不動産業者や不良建設会社が淘汰されることを希望する。国のチェックにおいても検査員を買収して、更なる不正行為が行われることのないよう、注視したい。
姉歯事務所は「コスト削減のプレッシャーがあった」と話しており、建設費を抑えたい施主の依頼が偽造の原因となった可能性がある(「<ニセ耐震>施主の依頼が書類偽造の原因か」毎日新聞2005年11月18日)。
姉歯建築士は「業界の全体的な風潮の中で、コストを安くしなければならないとの意識があった。悪いことをやっているとの認識はなく、忙しすぎて感覚がまひしていた」と述べた(「建築士、1カ月前まで偽造 「悪いという認識なし」」共同通信2005年11月18日)。
建築設計実務者の13%が、「コストダウンの要請などで、脱法行為を犯してしまうほどの強いプレッシャーを感じたことがある」と答える(「13%が「脱法行為を犯すほど強いプレッシャー感じた」設計実務者緊急調査」建設総合サイトKEN-Platz 2005年12月13日)。
建築基準法上、構造計算書は元請けの設計業者の名義で作成されるため、設計業者に偽造の認識があったかどうかにかかわらず責任が生じると判断している(「耐震設計偽造 国交省、月内にも刑事告発 姉歯建築士と6設計業者」産経新聞2005年11月21日)。
経済同友会の北城恪太郎代表幹事は記者会見(2005年12月6日)で、耐震強度偽造問題に関連し「建築基準法違反の罰則が最高50万円の罰金と言われているが、不正に対しては抑止力が働くぐらいの厳しい制裁が必要だ」と述べ、罰則を大幅に強化すべきだとの考えを示した(「不正には厳しい制裁を 耐震強度偽造問題で北城氏」共同通信2005年12月6日)。
やばくなったら自己破産というのは、不良建設会社の常套手段である。木村建設も自己破産し、ほとぼりが冷めたら手形を買い直して、新たに違う会社名として出発することを企図していると思われる。