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 Perthに来てから約三週間目。ホームスティは4週間しか頼んでいなかったため、ホームスティを出た後の住まいを探す必要があった。アパートを借りる、という方法もあるが、それは、長期滞在向け。私は、どのくらいPerthにいるかも決めていなかったため、「シェア」を探すことにした。シェア、とは、簡単に言うと、寮のようなもの。一軒家を何人かで住み、ガス、水、電気代などを割り勘するのだ。部屋は別々だが、トイレやお風呂を共同で使う。シェアのほうが、安く住むことができる。

 ジャパニーズレストランに行けば、掲示板にたくさんのシェアメイトを募集している紙がはってある。そこで見つけたシェアメイト募集の内容は、私にとって、すごく条件のよいものであった。早めの行動が、大事なため、早速電話をかけ、下見に行く約束を取り付けた。

 実際に下見に行き、住まいも、場所も、値段等の条件も、この上なく満足いくものであった。が、ただ一つ気になったのが、オーナーである、Paulのことだった。40歳の男性。未婚。とても優しそうな人で、日本にも、仕事で何度も行くらしく、少し日本語を話せた。とても優しそうな人だ、と思ったものの、その日にいきなり下ネタの話題が上がったことが気になった。下ネタ、といっても、そんなに下品なものではなく、日本で彼が出会った、娼婦の話とか、新宿の話であったが、なんとなく、いやな気はした。

 翌日、Paulから連絡があり、私ともう一度話がしたいとのこと。つまり、たくさんの応募者の中から、私を選んでくれた、ということだった。もう一度、お会いしませんか?朝の9時に、街にあるカフェで待ち合わせしましょう、とのことだった。

 「なんで、朝の9時からカフェで???」と、正直思った。ホストファーザーも、「少しおかしいね」といっていたが、せっかくのチャンス、逃すことはないと、少々不安ながらも、約束の場所へ出かけた。

 一時間ほど話をしたあと、Perthを案内してくれるとのこと。半日ほど、Perth周辺の町や、ビーチを案内してくれ、お昼ご飯をいっしょにした。...と簡単に書くと、「すごいいい人!いいじゃん!」って思うかもしれませんね。しかし、実際の私は、少々違和感を覚えていた。最初に会った日の話題に、Sexに関することがあったことが、違和感を覚えた理由の一つ。もう一つは、やたらと体に接触してくることであった。もちろん、日本人と違って、西洋人のボディタッチは、コミュニケーションの一つであり、いやらしい意味などないことはわかっている。わかっていても、なんとなく、素直に受け入れられない気持ちがあった。

 ここは日本ではない。信じられるのは自分だけ、という気持ちが、心にあった。いくら治安がよい街だと言っても、気持ちのゆるみが、とんでもない方向へと走らせることもある。と、なんとなく、心にいつも、バリケードをはっていた。そんな私には、どうしてあったばかりの私に、こんなにも無防備に親切にしてくれるのか、彼が何を考えているのかが、わからず、少々困惑していた。

 Paulは、次々と私をさまざまな催しに誘ってくれた。「きょう夕食をいっしょにしないかい?」「明日は何をしてるの?」「火曜日の夜はみんなでディナーに行くから、君も一緒にいこう」と。とりあえず、明日の日曜日に、日本人の女の子を連れて近くまでピクニックに行くから、ついてくるかい?というお誘いを受けることにした。

 そして迎えた日曜日。Paulがいま一緒に住んでいる日本人女の子の、友達、という女の子が二人とPaulで、ドライブに出かけた。私にとって、初めてのシェアの経験。やはり、一緒に住む人は、どんな人なのかが、気になるところであった。Paulと現在一緒に住んでいる子達とは、いままで話すことができなかったため、初めて日本人の子に、彼の人となりを聞く事ができる!と思っていた。そして、一人の女の子に、「彼はどういう人なの?何でこんなに親切なんかな?」と、何の気なしに、たずねたのだった。私の目でみて、彼は親切だし、一緒に住んでも大丈夫だ、と思っていた。が、やはり、実際に彼を知る人から、話を聞いてみたかった。ホストファミリーも、日本人の子が来るなら、聞いてみたほうがいいよ、といっていた。

 Swan valleyという、ぶどう園がたくさんなるところへ行き、いいお天気の中、サンドイッチをほおばりながら、いいお昼を過ごしていた。が、話が進んでくると、またもPaulが、Sexに関する話をし始めた。「俺はいままで、こんなやつとやったぜー、えへへへへー」みたいな、下品な話題ではない。Paulは、仕事でいろんな国に行っているため、いろんな国の性文化についての話だった。が、それでも私にとっては、うんざりする話であった。真昼間からする話では、ない、と私には思えたし、会ってまだ3日もたってないような間柄で、する話題ではない、と思った。そういう気持ちが、態度にも表れ、辟易していた。それをみていた、日本人の女の子が、Paulにこういった。「彼女が、あまりいい顔をしてないわよ。私たちは、一緒に住んでないからいいけど、彼女は、これから一緒に住むのよ。不安になるわよねぇ。あなたのこと、いい人だけど、なんでこんなに親切なのかしら、なんていっていたわよ」と。

 Paulは、驚いた顔をし、「そんなこといったのかい?」と、笑顔でいっていた。そのときはまだ、事の重大さに気が付いていなかった。

 日も傾き、帰ることになった。私以外の女の子は、家より近い場所に二人で住んでいたため、私より先に家につき、車の中で私とPaulの二人だけになった。唐突にPaulがこういった。

「君は、僕の家には住めない。」
何のことか、はじめはさっぱりわからなかった。が、Paulの顔から笑顔が消えている。ただ事ではないと思った。
「君は、○○ちゃんに、僕がどうしてこんなに親切なのかわからない、といったそうだね。どうしてそんなことをきくんだい。○○ちゃんは、僕の友達だ。どうして僕に直接聞かずに、○○ちゃんにきいたんだ。それに、僕はただ、君がこちらに来て寂しいだろうと思ったから、親切にしただけだ。」

 彼は、心から親切にしていただけだったのだ。それを「どうしてこんなに親切にしてくれるのかわからない」と、彼にではなく、彼の友人に尋ねたことを、ひどく怒っていた。そして、人から親切にされたときは、感謝をするべきだ、と。私は、悪気があってそういう発言をしたのではない、と、必死になって説明した。「もちろん、あなたのことを親切でいい人だと思っている。そして、感謝もしている。ただ、どんな人なのか、知りたかったから、彼女に聞いただけだ。それに、性の話をお互いがするには、私には、時間が必要なのだ。」と。が、英語で自分の気持ちを100%伝えられるはずもなく、激怒している彼を説得することはできなかった。「僕は、ただ、親切にしてあげただけだ。犯罪者でもないし、強姦者でもない。性の話も、僕はオープンにしたい。それが君にとって、不快を感じるのなら、僕にとっても不快だ。そして、僕がどんな人なのか知りたいのなら、僕に聞くべきだ。」と。

 確かに、彼のいう事は、もっともだ。そして、私は、もちろん、感謝をしていた。が、私の中に、彼への嫌悪感があったことは、間違いないし、これから一緒に住む人について、「どんな人なのかしら?」と、彼を知る人にたずねることは、はたして悪いことであろうか?

 結局、話をしたものの、彼の怒りを静めることはできず、彼の家に移り住む話もなくなってしまった。ホームスティ先に帰り着き、大泣きした。家に移れなかったことが悲しかったのではない。彼にうまく自分の気持ちを伝えられずに、彼を傷つけたまま、誤解をされたままわかれてしまったことが、悲しかった。

 なんだか、うまくかけません。この文章を読んで、「親切にされたのに、素直に受け止めなかったほうが悪い」と、感じる方もいるかもしれません。しかし、起こるべくしておこった出来事かもしれません。彼は、ただただ、親切にしていた。が、あまりにも親切すぎた、というか、あまりにもフレンドリーすぎた。そして、私は、心にバリケードをもともと持っていた上に、性に関する話が、よりいっそう、バリケードを高くしていた。もし、何もなく、彼の家に移り住んでいても、結局同じような出来事が起こっていたかもしれない。もしくは、もっとお互いを分かり合える時間があれば、彼とはもっといい関係をもてたような気もする。

 スティ先に帰り着き、わけを説明しながら、涙をこらえることができなかった。そんな私を優しく迎えてくれた、スティファミリーの存在が、たまらなくうれしかった。結局、その晩にもう一度彼に電話をしたが、結局、自分の気持ちをうまく伝えられないまま、もう二度と彼とは連絡をしていない。

 今回のことで、一人の人を傷つけ、私のことを誤解されたまま、わかれてしまったことが、いまでも心に引っかかっている。そして、人間関係の難しさ、というものを、痛切に感じさせられた。「もっと、こうするべきだった、ああいえばよかった」という後悔のようなものは、いまは心にはありません。ただ、傷つけてしまったことだけが、これからもずっと残るでしょう。そして、もう二度と、こんなことは繰り返したくない、と思っています。

 読み返してみても、あんまりうまく書けていません。ほんとに、いろんなことがありました。全部を書いても、うまく伝えられないと思います。ただ、こんなことがあった、ということを知らせたいために、このページを作ってみました。


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