Pandora's Box... I don't read the bible much, but I do know of a young girl named Pandora who opened the sacred Box... In it was all the bad things in the world. She has released chaos.... And I can't help thinking, did I open the sacred box as well?...
Blank
by Lilinpo



Part 10








オレはワクワクしながらフリーウェイに入る。
―もし当たっていなかったら― …
と、不安を抱きながら頭の中で今までの情報を整理する。

‥‥ああ‥‥、聞くの忘れた‥‥。
オレは左手でハンドルを握りながら、もう片方でさっきの公園の案内書を取り出す。
確実に話を揃えておかないと‥‥。
オレは携帯のダイアルを押す
「あ、グラントさん。オレです‥ブライアントです‥。…はい、さっきは済みません‥‥。いえ ちょっと思い当たることがありまして。‥‥‥はい。‥あの日、銃声が鳴った後 どれぐらいの間地面に伏せてました?‥‥‥‥‥はい―」

これで ニックを救えるかもしれない‥‥。



〉〉〉〉〉〉〉〈〈〈〈〈〈〈




オレがノックもせず ニックの…元オフィスに入ると、グレイは少し驚いた顔をするがすぐにデスクの上の書類に視線を戻す。
「‥‥諦めたんじゃなかったのか?」
オレは‘ハァハァ’と息をしながら微笑む。高校の陸上部以来だ‥‥あんなに走ったの‥‥。
「Excuse me sir!! 済まないグレイ、‥‥追い付かなくて‥‥」
はあはあ、と今にも倒れそうな太った男がオレを追い出そうとする。
「いや、いい。ありがとな マイケル」
グレイが苦笑しながら頭を振る。マイケルと呼ばれた男は手を上げ汗を拭きながら出て行く。
オレは彼を視線で追い、椅子に座るのを見ながらドアを閉める。
‥‥大丈夫か‥あの人‥。
「ぜんそく持ちの部下を殺す積りで来たのか? 坊や」
オレは今だに苦笑しているグレイに振り返る。
『‥‥ああ、悪いことしたな‥オレ』と思いながらも、笑顔を隠せない。ドアに凭れながらニヤニヤとアホみたいににやけているのだろう。
「‥‥何だ?」
それを不気味に思ったのか グレイが変な顔をする。
「車‥‥。ニックの車‥‥。まだヴァルに返していませんよね?」
グレイは探るような目でオレを見ながら首を振る。
「いや、まだだが‥‥。」
「見せて下さい」
オレは真っ直にグレイの目をみながら言う。少し睨む様な感じで…。
オレの強い意志が伝わったのか、グレイはうなずきながら「連いて来い」とコートを手にする。



ニックの車は21分署の近くにある大きな倉庫に眠っていた。 ってゆーか倉庫の中には何十台もの自動車が並んでいた。
「ここで待っていろ」
グレイは倉庫の中心にある小さな部屋に入って行く。オレは言われた通りニックの車の前で待つ。
『‥ここって‥‥。』
オレは一度ニックから聞いた事がある。容疑者/被害者が使ったと思われる自動車を証拠として保管されている倉庫が21分署の近くにあると‥。
『‥‥ここの事だったのか‥‥』
オレは回りの車を観察する。窓ガラスが割れてるもの、車体が傷付いているもの‥‥。
『‥‥でも、…ここは‥』

「ほら」
オレは声に振り向き鍵をキャッチする。目でそれを確かめながら再びグレイを見上げる。
「‥‥どうしてここに ニックの車があるんですか?」
ここにある自動車は皆、証拠に使われる為に保管されている。裁判で披露する証拠‥。被害者が自殺なら保管する必要が無い筈だ。
グレイはオレの思考を読んだのか、少し面倒臭そうな口調で応える。
「他殺では無くても、現場に唯一あった被害者の所有物だ。‥色々手続きが必要なんだ。‥‥それが同僚のなら 尚更…」
オレはうなづきながらドアを開ける。嘘だと分かっていたがグレイを不機嫌にさせると話を聞いてくれないかもしれない。だからそれ以上オレは追求しなかった。

「‥‥警察が来た時、車のエンジンは掛かったままでしたよね‥」
オレは運転席に座りエンジンを掛ける。静かだった倉庫に エンジンの音が響きわたる。
「…ヘッドライトが付いていたからな」
グレイがコートのポケットに手を入れる。
「ヘッドライト付けるのにエンジンは必要ないでしょう?」
オレはドアを閉めヒーターを付ける。冷たい空気に身がブルっと震える。窓を少し下げながら続ける。
「ヒーターも全快で、窓が曇っていた所為で車内が全く見えなかったそうです」
「何故それを?」
グレイは初めて興味を示した様な声で聞く。
「第一発見者‥パークレンジャーのグラントさんの助手から聞きました」
「助手?」
どうやらグレイも初耳の様だ。そりゃあ、そうだ‥‥。どの新聞にもサリバンのことは一切載っていなかったのだから。
彼は手を口元に当て何か考え事をしている。オレは暫し情報を飲み込む時間を与え 再び口を開ける。
「‥‥その助手がドアを開けようとしたもののロックされていて、結局中をチェック出来なかったそうです」
「警察が道具でこじ開けた所、車内には何も無かった」
グレイは付け加える。彼も多分、この可能性を考えたのだろう。だが警察が駆けつけるまで車は密室状態。それはもう、諦めるしか無いだろう‥‥。

「‥‥どうして ニックは、エンジンもヒーターも掛けたまんまなのに ドアをロックしたと思います?」
グレイは溜め息を付き、オレから視線を外す。まるで、それだけの為に呼んだのかとでも言いたそうに。
「…心理学の博士号を肩書に持つプロファイラーによると、‥‥自分を追い詰める為だったらしい。‥‥自ら車に戻れなくして、自殺しか道が無いと考える様に‥‥。‥‥‥これで終わりか?」
グレイは身を翻して呆れながら言う。
「俺は今とても忙しいんだぞ、坊や。‥‥‥もう他にないなら鍵を―」
その瞬間、‘ガシッ’と車のドアがロックされ 開いていた窓も‘ウィィィン’と上がっていく。
グレイがビクッと止まり車に振り返る。オレはグレイの困難した顔を見て少し得意気な気分になった。
「‥何をした?」
オレがエンジンを切りドアを開けると、グレイが近寄って来た。
「オートロックシステム。…そのプロファイラーの博士号、取り上げた方がいいんじゃないですか?」 オレは鼻で笑いながら首を振る。自ら逃げ道を塞いだだと? 何も知らない癖に良く言うぜ。
「‥‥2、3年程前 ニックが付け加えたんです。‥ドアを閉めてエンジンが掛かったままだと2分後に作動する仕組みになっています‥‥」
オレはキョロキョロ車内を探る。もしオレの勘が当たっているなら‥‥。
「‥‥何故、ニコラスがそんなシステムを急に?」
グレイは呟く様に尋ねる。多分、‘何故ニコラスが自分に隠し事を?’とでも言いたいのだろう。
「‥‥オレも不思議に思って聞いてみたけど、ストレートな答えは貰えませんでした。‥‥多分、…ヴァルの安全の為だと思います。…窓も防弾ガラスだし‥」
オレはコンコンと窓を叩く。本当に急に設置したシステムだからオレも首を傾げた。
でも良く考えてみると、ニックは警官で いつ何が起きても可笑しくない。そう、仕事をしている時でも、‥‥ヴァルと買物に出掛けてる時でも…。

「‥グラントさんに聞いてみたけど、銃声が鳴った後助手と二人で地面に伏せ、何も聞こえなくなってから グラントさんは警察に通報、助手のサリバンさんは滅多に使わない銃を鍵のかかった机の引出しから取り出していたそうです。‥‥オレが見た限りニックの車から、‥‥そのベンチまでの距離は100メートル‥」
オレは話しながらバックシートへ移動する。胸に僅かな期待が広がっていく。
「―グラントさんとサリバンさんが外に駆けつけたのは 銃声から最低2、3分掛かっています。‥‥それぐらいならあのマイケルさんでもベンチから車に余裕で歩けます…」
オレはグレイを見上げるが、彼は運転席をじっと眺めている。
『‥‥この男聞いてるのか?』
オレは顔を顰めてそう思っている時、彼がオレに振り向き‘続きは?’と表情だけで尋ねる。
‥‥すっげ〜 見下されてる様な感じでムッとするが、聞いてくれてるだけでも有難いと思わなくてはならない。
「‥‥‥犯人は絶対この車の中に隠れていた‥。‥‥サリバンさんが車を調べた後、10分以上もの間誰も監視していなかったんです。‥‥‥二人はずっとニックの傍で脈を計ったり血を止めようとしていて‥‥。警察が駆けつけたのは銃声からもうすでに13〜5分経っていた…」
オレはシートの隅々を丹念にチェックする。 何か、‥‥‥絶対何かが…。
「‥‥‥‥‥‥‥それで、今 何をやっているんだ?」
グレイは運転席に乗り込み尋ねてくる。彼も可能性が見えてきたのだろう。
オレは四つんばいで、おまけにケツを上げた状態だが 気にせず目を光らす。
「…‘何’とは分からない‥‥。‥‥けど オレもバカじゃないし、貴方も長年警官をやっている。オレの話は全部空想の世界‥‥。決定的な証拠が無いと意味が無い‥‥‥。オレだって それぐらい分かります」

「‥‥証拠もない推理なんてアマチュアな小説家でも買わないよ」

そうだよな、サイモン。あんたの言う通りだ。
だからオレは、全員納得出来る様な証拠を―。
オレはシートからドアに視線を移した瞬間 固まる。
「‥空想の世界だが、可能性は有る。‥‥これだけあればなんとか捜査を許可して貰えるだろう‥‥」
「‥あった」

オレは呟く。
‘何?’とグレイが聞く。
「…あった‥‥‥‥‥‥‥‥ 、犯人はいたんだ!!」
ニックは自殺なんかしてない!!
震えながら、グレイにドアの小さな取っ手を指す。そこにある 僅かな証拠。
「‥‥‥血痕?!‥」
グレイは車から飛び出し ポケットから携帯を取り出す。


『ニック!‥‥‥‥‥‥ニック‥‥一体誰が、‥‥‥‥…』
オレは今だに震えが止まらない身体を抱き絞め、シートに凭れる。
―自殺ではなかった喜びと、…他殺であった怒り―
どっちの所為で震えているのかも分からないまま、オレは目を閉じる。


「‥‥ニック‥」
ニックの匂いが微かに残る中で…。
















Part 10:
End


Back  top