お堅い職業も、ハメをはずす
さて、以前、銀行員時代の話を書いたら、これが面白いといろんな人から言われた。
やばい話がいろいろあるので、差し障りのない事だけかいたつもりだが、部外者からみれば、結構笑い話になってしまうのかな。
銀行にも、いい人はいたし(完全に、銀行員性悪説になってるなぁ)、あまり迷惑も掛けたくないので、前回の話で最後にしようと思ったし、本当に面白い話はまだ書けない。
でも、少しずつ小出しにしていきましょう。無難な話から(ああ、本当は公にしたら
新聞記事になりかねない話も、一杯あるんだけどねぇ、書きたい。。。)
そんじゃ、行きます。まずはお偉い人の飲酒運転事件だあ。
銀行というのは、基本的に支店あってこその組織です。本部で仕事している人は、当然ごく少数で、大抵は支店でキャリアをつむもんです。
支店というのは、ものすごく細かいマニュアルがあって、不正や放漫経営が起きないように、検査部が立ち入りで定期的に規定違反がないかをチェックしていますが、所詮カルチャーとしては、支店長をお殿様とするユニットであります。
銀行員になったら、誰もが支店長の椅子にまでは行きたいと思うもんです。却って本部組織では、常に顔色を伺わなければならない上役がいる一方で、支店長は基本的に毎日お山の大将として過ごします。特に海外に出ると、まったく本部の目が届かなくなるので、はめを外すひとは、相当はずしてます。
一応、業績に対する評価は、厳しいものの、普段なにやっていてもわかりゃしないという世界ですね。海外だと、さらに羨ましいポジションがありまして、駐在員事務所長というのは、なかなかいいもんです。銀行業を営む許可がないわけですから、業績ノルマなんてのは、ない。仕事といったら、情報収集活動だけです。言い換えれば日々追われるような仕事は殆ど持っていない。海外生活を満喫するには、最高のポジションでないでしょうか。最近、銀行も厳しい状況になり、海外拠点のリストラで、役に立っていない駐在員事務所は閉鎖しているようです。
私が、デュッセルドルフ支店にいたとき、同じドイツにフランクフルト駐在員事務所ってのがありました。これも結構暇そうな、拠点でして、そこの所長はなかなか遊んでいたそうです。ある時、デュッセルドルフ支店で会議があり、その所長が一泊二日で、やってきました。
翌日に用事はないし、車で2時間ちょっとの距離ですから、普通は日帰り圏なんですけど、、、、、
さて、その夜は、会議の後打ち上げで、皆でのみにいったようです。私みたいな、下っ端には声がかからなかったのですが、翌朝出社すると、支店長や課長達が、コソコソとやっています。
一体何があったのかなあと、耳をダンボにして聞いていた話の断片から、以下判明。
この所長さん、泥酔してしまいましたが、車で来ていたので、ホテルまで運転して帰るという無謀な試みをしたのです。千鳥足で車に乗り込んだそうですが、他の連中も酔っているので、誰も構いもしない。
その後、所長は、土地感のない、デュッセルドルフで道に迷い、あちこちを暴走し、挙げ句の果てに建物に激突して、車は大破という大事故を起こしてしまいました。
当然、深夜の街で大騒ぎを起こした所長は、警察に連行されて、取り調べを受け、身元引受人として出頭するように、副支店長はたたき起こされたとか。
ドイツの事情に詳しい方だったら、これが如何に恐ろしい事かご存知でしょう。ドイツの飲酒運転に対する罰則は、非常に厳しいのです。
免許停止か取消しはもちろん、罰金はその人の収入に応じてきまります。
金持ちも、貧乏人も、罰の痛みが同じになるわけで、ある意味では公平な制度ですが、私の聞いた話では、給料の三ヶ月分の罰金だそうです。
銀行の海外駐在員事務所長なんてのは、腰をぬかさんばかりの高給取りですから、ベラボーな罰金だったろうなと思います。
その後でも、病院に通って精神鑑定を受けさせられたりして、とにかく大変なのです。だから、一般的には、日本の企業駐在員で、飲酒事故などを起こしたら、もう強制送還ものです。
この所長さん、どうにか関係者に口封じをして、揉み消しをうまく図ったようで、本店の人事部にばれた様子はなく、駐在を続けて、数年後に任期を終え帰国いたしました。
ところが、この話後日談があります。銀行の海外支店長、事務所長ともなれば、社有車(当然、メルセデスベンツのSクラスかなんかですね)に乗って(ついでにいえば、住居も高級アパートメントや豪邸を社宅として、家賃全額銀行もちね)ます。
ヨッパラッテ大破させた、車もその社有車です。
飲酒運転の事故なんてのは、当然損害保険の対象からは、外されています。壊した車もそこらの安物じゃなくて、超高価なやつですから、これの費用もすごかったでしょう。
さすがに社有車だから、そのまま隠せるわけもない。
私の勤めていた銀行は、実名は出せませんが、いわゆる旧財閥系の大手都市銀行でありまして(そう書いたら、もう4つしかないよなぁ)、社有車は同じ財閥グループの、XX海上火災で保険を掛けていました(そう書いたら、あと3つしか残んないよう)。
そうです、所長は、このXX海上に(ああ、実名書きたいなあ)圧力をかけまくって、保険で求償させてしまったツワモノです。
当然XX海上としては、堪りません。ある時、このXX海上の人が、あの△△銀行の●●所長だけは人間としてゆるせん、とぼやいていたのを人づてに聞いて、私はあの時の事故の話の記憶が蘇って一致しました。
後日談は、それだけでなく、もう一つ続きがあります(ここからがおもしろいぞー)。
この所長は、日本に帰国してから、泣く子も黙る、「検査部」に配属になりました。
検査部は、少し前述しましたが、銀行内の不正を摘発するための組織ですから、受ける側にとっては、すごーく恐い存在で、必ず抜打ちで来ます。
他の業界の人には、信じられないでしょうが、海外の支店であろうと、ある日突然朝出勤すると、5-6人の部隊が立っていて、書類をひっくり返して調べるのです。もう、マルサが来るような感じです。この検査については、また別の章にして、いずれ書きましょう。この検査で、支店が悪い評定がくだされたりすると、人事査定なんかに相当影響を持っているので、みんなびくびくしてます。
ここで、勘の良い人は、もう判りましたね。そうなんです、ある日この、お騒がせ所長が検査部の立ち入りで、デュッセルドルフ支店に、検査隊長として突然乗り込んできました。もう、お笑いですね、顔みただけで、私はおかしくてたまりませんでした。
デュッセルドルフ支店の駐在員も、その間、いろいろ人事異動で面子も変わり、当時のお騒がせ所長の、武勇伝を知る人も少なくなっていましたが、「へへ、俺は知ってるぜ、あの3年前の事件を」。もし厳しい検査講評をつけるなら、「あの事件の事ばらしちゃうもんねぇ」と、私は先輩と、せせら笑っておりました。
今日の話は、このあたりでおしまい。銀行シリーズは、描かれたモデルとなった本人から抗議がくるまでは、まだまだつづくぞー。
さて、次は第五話で「無能」と表現させていただいた、N副支店長、今度はあなたの話をしようかなあ?
読んでますか?そうです、あなたが嫌っていた、あの反抗的な朝倉です!はは、お中元まだ受け付けてますよ。 (Aug.23.97)
©1997
copyright Hiroyuki Asakura