銀行検査のお話
こないだのエッセイで、役立たずの大蔵官僚はくびにしろ、と書いたら、今日本当に大蔵大臣と、事務次官が辞めちゃった。私の発言の影響力は相当なものである(なわけないよな)。
まだ氷山の一角の感があり、とりあえず、検査官が二人逮捕された。
常軌を逸した、接待が、収賄として立証できるとは、大蔵の役人も驚いただろう。業界では、常識と考えられていたから、いまごろびくびくしている次ぎなる、被疑者が一杯いるだろう。
まあ、ビジネスの世界では接待は、別にどうってことない。ゴルフ接待、食事接待、私だって、仕事柄、その程度の接待は受けたりする。
しかし、大蔵と銀行の関係は、取引先と顧客という性質のものでなく、監督と指導を受けるものであり、コマーシャルな要素はあってはならない。
MOF担という、言葉が注釈つきで、新聞に載るようになったが、銀行内では誰でもしっている事だった。
私が銀行に入って、最初に配属された支店で一年上のK先輩がいて、おなじ寮にいたこともあって、飲みに連れていってもらったり、よく世話になった。
仕事もできる優秀な人で、私も一目置いていた。Kさんと私は、同じような時期に、辞令が出て、Kさんは本店の企画部門へ、私も本店の人事部へ転勤になった。
二人とも、寮も本店近くのところに移り、引き続き親しくさせていただいたが、Kさんはその次ぎは、大蔵省へ出向になった。エリートコースである。
銀行から出向するのは、大蔵だけじゃなくて、外務省や通産省にも出向はあった。いずれも、人も羨むエリートコースだ。なぜか、この任を受ける人は、東大卒ばかりだった。
今思うと、官庁のキャリアは東大OBが多いから、コネづくりには適任だったという事だろうか。こうした人達は、銀行に戻ってきてからは、本部の管理部門で登りつめていく。
私立大学卒の私には、こうした路線は、まったく縁のないコースで、ずっとKさんを羨望していたし、一緒に仕事していた、東大卒の同期のO君は、外務省に出向になった。
「駄目だ、このコースではとても俺は勝負できない」と早めに悟った私は、海外勤務を希望し、国際業務のノウハウをつけようと決めたが、ずーっと官庁に出向する東大OBグループには、コンプレックスを持っていた。
ところが、今回、大蔵と銀行の接点ににとうとうメスがはいった。
いまごろK先輩もびくびくしているのだろうか?まあ、MOF担というのは別にいて、大蔵に出向した人は検査官の接待なんかはする必要ないと、思うけど。
K先輩が大蔵に出向しているときに、大蔵省が如何に異常なところかを、たまに聞かせてもらったが、迷惑をかけるといけないので、その辺の話はここでは差控えておく。
大蔵省の銀行検査の、日程が事前に漏洩していたと、報道をされていたが、この情報をつかむのが、MOF担の重要な使命だった。
はっきり言ってしまうと、私の勤めていた銀行でも、検査日程は事前に流れていた。
Xデーは、数週間前から情報が流れ、どこの支店にやってくるかは、つかみきれていないようだった。
その都度、書類の整備を点検したり、顧客ファイルの中に、「見られてはまずいもの」が入っていないか、皆で深夜まで準備したもんです。
Xデーの前日には、机の施錠の点検をはじめ、想定問答の予行演習など、お祭りのような騒ぎでした。
朝出勤して、検査官が来ていないと、副支店長あたりが、あちこちに電話かけて「XXX支店に検査が入りました!」と情報を入手すると、皆ホッとしたり、拍子抜けしてしまったり、一喜一憂するイベントです。
今回の不祥事で、不正不良融資を見逃したりしたという事が問題になっていました。
融資の内容のチェックの為に、ラインシートと呼ばれる資料を、取引先毎につくります。これがすごーく、つくるのが面倒な資料で、記入方法が細かく決まっていて、手書きで丁寧に書いていくのです。
この資料をもとに、銀行側が検査官に説明し、大蔵分類とよばれる基準で、融資内容の採点をしていきます。
支店長や融資課長なんかは、如何に焦げ付いた貸し出しを、上手に説明するかに四苦八苦しており、このあいだ、まったく仕事になりません。
そういった状況を、ずっと見てきた私には、大蔵というのは、雲の上のような存在でしたから、こんなにあっけなく逮捕者が出、蔵相、事務次官辞任のニュースをみていると、まさに隔世の感があります。
ノーパンしゃぶしゃぶで接待しろってのは、笑っちゃいましたね。
©1998
Jan.27. copyright Hiroyuki Asakura