ユーゴスラビア
Apr.23.99

ユーゴスラビア【Yugoslavia】


現在ユーゴと呼ばれ、フランスで、昨年のW杯サッカーに出場していたのは、いわゆる、セルビア・モンテネグロ共和国の総称。

その前の大会では、もっと大きな国だった。

ティトー大統領の時代には、それ以外に、クロアチア、スロヴェニア、ボスニア・ヘルツェゴビナとマケドニアから成る、バルカンの大連邦共和国だった。

民族的にも、文化的にもまとまりのない、この共和国を分裂から防いでいたのは、冷戦構造だった。

米ソ対立の深かった時代にも、アメリカのソ連への警告は、「ハンガリーやチェコに、戦車を派遣しても黙認してきたが、ユーゴだけは手を出すなよ」という、ものだった。

アドリア海は、軍事上重要な地区だったし、ユーゴだけは、NATOに対立する、ワルシャワ条約機構軍に参加せず、第三勢力として、アフリカアジア諸国との、関係をむしろ模索していた。


いってみれば、冷戦下ですら、NATOは、ユーゴに対しては、銃口を向けることはなかったのに、今回はイキナリ強硬手段に訴えた。

NATOの、今回の空爆は、きっと良い結果を、残さないと思う。と、先月のこの項で、書いた。

やはり私の、予想した通りの展開になってしまった。

空爆開始から、一ヶ月が経過したが、どちらも勝者のいない戦い。

犠牲者の数だけ、毎日増えて行く上に、予想を上回る難民問題が発生して、NATOもなすすべもなく、膠着状態に、陥ってしまっている。

脅しをかければ、ミロセビッチ大統領も、話し合いの席につくだろうと、最初はたかをくくっていたようだが、NATOの今回の読みは、非常に甘かったとの、謗りを免れられないであろう。

セルビア国内では、むしろNATOへの、反感が増長され、ミロセビッチの支持体制には、揺らぎはない。

イラクのフセイン大統領が、国内からの、支持を固めているのと同じ現象だ。

この程度の展開は、私にも予想できたから、NATOの作戦部隊のブレーンの、おつむの程度は、たいしたことはなさそうだ。

今度は、中立体制をとってきた、モンテネグロにも構わずに、爆弾を落としはじめた。

無抵抗中立の相手に、対して、ユーゴ連邦の構成共和国というだけで、爆撃するのは、ばかげている。

国際社会の常識で、許される話しではない。

しかし、NATOの国防相会議では、モンテネグロから、セルビアへの、石油輸送ルートを爆撃するこを、決めたという。


NATO側も、今回の作戦が、予想以上に苦戦になっている事を、認めつつある。

NATO加盟国の国内の、世論も、次第に懐疑的になりつつあり、英国でも"indepent"とか、"guardian"なんかの、主要紙は、NATOの暴走と、非道徳性を、非難する社説を掲載しはじめている。

いよいよ、ここに来て、NATO地上軍の派遣の可能性も、高まってきた。

当然陸上戦になれば、NATO軍側の犠牲者も、相当出ることになるだろう。

いままでは、ゲーム感覚で爆撃を続けていたNATOも、陸上戦に入り、実際に犠牲者が出てくるようになれば、世論の反対に屈せずには、いられないだろうと思う。

陸上軍の派遣は、いまのところ、NATO内でも、意見が別れていて、合意が取れていない。

しかし、相変わらず、国連を無視した、軍事活動を続けている点では、許されるべきでない。