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■ゲーム分析とは
近年のテニス競技におけるストロークなどの技術的発達に伴い,
それを活かす高い戦術能力が勝敗を分けるカギとなってきている.
一方でテニス競技におけるゲーム分析というと,
サービスの確率やストロークのエースあるいはミスの数など,
いわゆる量的(デジタル)情報が多いのが現状で,
テニス競技におけるゲーム分析は,いまだに確立されていない.
1999年筑波大学大学院「プロフェッショナルスポーツ戦略論」の講義では,
元サッカー日本代表コーチ小野剛氏が講師であった.
実際に世界の現場で用いてきたサッカーのゲーム分析の理論を学び,
テニス競技におけるゲーム分析の未熟さを痛感するとともに,
テニスにおけるゲーム分析を考えるいい機会となった.
そこで,テニスの競技そのものの本質や戦術を根本から見直し,
ゲーム分析の比較的確立している
日本サッカー協会や日本ラグビー協会におけるゲーム分析を参考に
テニス競技独自のゲーム分析について考えてみた.
■テニスのゲーム
テニスのゲームは,3セットで平均1時間半,
5セットでは5時間以上続くこともあるが,
実際のプレーヤーがボールを打っている時間は,
芝のコートでは総時間の約7 ー8%,
クレイ(土)では約30%とされている.
1ポイントを獲得するまでに男子で平均1.1ー3.4 回
のラリーを行うが,女子では1.8ー5.0 回と多い.
その中には必ずサービスとレシーブが含まれているため,
非常に短いラリー数でポイントが決まってしまう.
つまり,サーブやリターンなど最初に行われるショットの善し悪しが
ポイント獲得に影響を与えているのである.
テニスコートの大きさは普遍であり,走る距離を大きく制限している.
直進できる最長距離は約14 mであり,
ボールを打つごとにコート中央部へ約3ー7 m移動する.
1ポイント毎に3回のラリーがあるとすると,平均14ー15 m走っている.
3セットマッチでは誤差は大きいものの,平均1800ー2200 m走っている.
したがって,体力トレーニングを行う際のテーマは,
「無気的持久力トレーニング」が中心となる.
■テニスのゲーム分析
テニス競技は,多様な局面が瞬時かつ連続的に起こるので,
野球のような記録(定量)型の分析をして,
ある特定の局面を切り取りデータ化しても,
次に同じような局面でデータが活きるとは限らない.
実際のトレーニングで活かすとしても,
多様な局面の中のほんの一部をパターン化するだけになる.
また,陸上競技などで行われる動作分析型の分析によって得たデータをもとに,
理想的とされる動作を何度も繰り返すという競技とも異なる.
したがって,テニスのゲーム分析においては,
「なぜ,そのミスをしたのか?」
「この局面では,あっちに打った方が良かったのでは?」
といったようなことがキーとなる.
この「なぜ」という部分には,「見る人の眼」が極めて重要で,
従来からコーチの資質の一つとして捉えられてきた.
しかし1,2人のコーチの主観的な「眼」だけを頼りにするのではなく,
客観的な情報も取り入れ,選手に最適な形に加工し,
賞味期限の短いうちにフィードバックすることが必要である.
そこでゲーム分析のプロセスのムリ,ムラ,ムダを省き,
ゲーム分析をひとつの過程(「ゲーム分析システム」)
としてとらえる方が効果的かつ効率的である.以下にその概要を示す.
■テニスにおける分析項目
・テニス競技そのものの分析
・世界レベルの分析
・自プレーヤーの分析
・相手プレーヤーの分析(スカウティング)
・自プレーヤー,相手プレーヤーのギャップ分析
・ルール改正の分析
・環境要因の分析
■ゲーム分析システムの手順
1. 撮影準備
2. 現象を追うためのツールの準備
3. 現象の把握
4. 現象の評価
5. 選手へのフィードバック
6. ゲーム分析システムの見直し→発展へ
■ゲーム分析シート
ゲーム前
・相手プレーヤーの身体情報
・環境情報
ゲーム中
・相手プレーヤーの身体情報
・プレーの特徴
・環境情報
ゲーム後
・ゲームのスコア,ゲーム時間
・勝敗を分けた境界線はどこであったか
・勝因・敗因は何か
・プレーヤーのゲーム達成・満足度,疲労度
・ 監督・コーチの総合的な評価
■テニスのゲーム分析の実践
1999年11月14日に東京の有明コロシアムで行われた
全日本テニス選手権大会の女子シングルス決勝のビデオを分析対象として
「ゲーム分析システム」を用いて分析を試みた.
この大会は,日本では最高峰の大会ではあるが,
世界がマーケットであるテニスにおいて,
世界へのステップの一つとして位置づけられている大会でもある.
決勝は,当時世界ランキング122位の浅越しのぶ選手と,
世界ランキング260位の井上青香選手で行われた.
この試合は,浅越選手が攻めてバックハンドのストレートで決めてくるところを,
その代償として空いたスペースに井上選手が浅越選手のフォアハンド側である
クロスに切り返せるかがポイントとなると思われた.
ゲームの序盤から,思い描いたシナリオ通りに試合が展開された.
両者ともにストローク力が高く,ストロークで相手を左右に振っていたため,
ゲームの波が交互に行き交った.
6-6のタイブレークに入ると,浅越選手はタイミングも合ってきたのか,
井上選手の弱点であるセカンドサーブを攻め始め,
その後のストロークで有利に展開し,第1セットを7-6で取った.
第2セットに入ってからも浅越選手は井上選手のサーブに対して
サービスライン付近で構え,プレッシャーをかけ続けた.
そのため,井上選手のストロークの精度に欠ける場面が多くなり,
結果的に第2セットも浅越選手が6-3で奪って勝敗が決定した.
勝敗の分かれ道は,第1セットの6-6の場面から
浅越選手がレシーブから主導権を握ったため,本来の自分のプレーを発揮し,
逆に井上選手は自分のプレーをさせてもらえなかったことであった.
つまり,井上選手は自分の得意なショットをほとんど出せずに終わったのに対し,
浅越選手の得意なショットであるバックハンドのストレートで決める場面が多かった
ことが結果となって現れたものと思われる.
井上選手はそのバックハンドのストレートをラケットに当てることさえ
できないほど,浅越選手のストローク力に圧倒されていた.
しかし,浅越選手は完璧なプレーをしていたわけではなかった.
確かに,最終的にはバックハンドのストレートでポイントを重ねていたが,
1ー2本手前の段階でストレートに打てる場面が何度も関わらず
打つことができなかった.おそらく,そういう早い展開でポイントを
決めることに関しての判断力がまだ備わっていないものと考えられた.
テニスのゲームは,1980年代に比べるとスピード化,パワー化が進んでいる.
その要因として,
・技術の変化(オープンスタンスなどによる打球の際の強いからだの回転),
・ラケット素材の変化,プレーヤーのポジションの変化(よりベースラインの近く),
・攻撃的なプレー,体格・体力の向上(男子平均187.5 cm,女子平均173.5 cm )
などが挙げられる.特にサービスのスピードでは,
男子では時速190ー210 km,女子でも160ー185 kmに上がってきた.
■テニスにおけるゲーム分析の今後
ゲーム分析のためには,まずテニスそのものを
よく理解していることが前提となる.
しかしテニスのゲーム分析の研究は,ほとんど行われていない.
そのため,上に挙げた「テニスの分析項目」に関するデータを収集し,
データベースに蓄積することが必要不可欠である.
さらに重要なことは,常にデータを収集しようとするアンテナをはることである.
つまり,テニスあるいは他競技の指導者との情報ネットワークをつくり,
最新の情報に耳を傾けていく姿勢が大切である.
したがって,新たなコーチの資質の一つとして,
テニスに限らず様々な競技の情報収集を素早く行い,有効な情報を選び,
デジタルな情報をフィードバックするためにアナログ情報に変換して
テニスに応用することがこれから重要となってくる.
一般的に,日本のテニスコーチでゲームを記録している人は少ない.
裏をかえせば,日本テニスにおけるゲーム分析システムは
いまだに確立されていないことになる.
さらに,世界に通用するプレーヤーを輩出させる役割を持つ日本テニス協会は,
勝つための情報戦略が欠けているのが現状である.
また,ジュニアを育成するためのしっかりとしたシステムも確立されていない.
つまり,世界を目指すためのビジョンがない.
世界を知るためには,世界レベル,日本レベルのゲーム分析を行い,
それらのギャップを把握しながら選手を育成していく必要性を強く感じているし,
テニスカフェのチームは,そうした活動を積極的に行っていくつもりである.
<参考文献リンク>
「楕円進化論」日本ラグビーフットボール協会強化推進本部編.ベースボールマガジン社.1998.bk-1|amazon.co.jp
「クリエイティブサッカー・コーチング」小野剛.大修館書店.1998.bk-1|amazon.co.jp
「ショーンボーンのテニスコーチングBOOK」リチャード・ショーンボーン.ベースボールマガジン社.1999.
bk-1
|amazon.co.jp
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