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悲鳴とも叫び声ともとれない、奇妙な声が響いたのは翌朝の事であった。
静かに朝食を口に運んでいたリシャは、その手を思わず止めてカールスに目を向ける。その視線に気が付いて、カールスは優しく微笑した。
「どうかした?リシャ」
「何か声がしなかったか?」
カールスは僅かに首を傾げて、小さくかぶりを振った。そのまま、何事もなかったかのようにサラダにフォークを突き立てる。
再び、奇妙な声が響く。
「カールス……」
「ん〜……聞こえたかもね」
「カールス……今の声って、もしかしてスコアが起きてこない事と関係あったり……して……」
乾いた笑みを浮かべながらカールスを上目遣いに見上げると、カールスは何やら含んだ笑みを浮かべた。それだけで、リシャには全てが分かってしまう。スコアがあの奇妙な声をあげているのだ、と。
少し考えるように黙り込んで、カールスは後ろを振り返った。そこには給仕を務めていたテイルの姿がある。
「……テイル」
「何でしょう」
「あの部屋、だけど……あれって、どういう部屋なわけ?」
ぴくり、とテイルの顔が引きつった。リシャはわけもわからないままカールスとテイルの顔を交互に見つめる。
「カールス様……ご存知なかったのですか?」
「どうやら、私は無知らしい」
リシャはひくりと顔を引きつらせた。カールスの優しい声に、どこか冷たい響きが含まれていたからだ。
「……本当に、ご存知ないので?」
「くどいね、テイルは」
本気でカールスが知らないと見たのか、テイルはごくりと唾を飲み込み、カールスの顔近くに自分の顔を近づけた。
「……出る、んだそうですよ」
カールスは呆けた表情で、まじまじとテイルを見つめた。リシャもカールスと同じように、テイルの顔を見つめる。
「出るって何が?」
「出るといったら、当然幽霊です!幽霊!」
ぐっと拳を握り締めて、テイルが叫ぶように声をあげる。どうやら既に、その話の原因となったスコアの存在は三人の頭から抜け落ちているようだった。
「幽霊?」
リシャは首を傾げた。
「幽霊って、何の?……誰の?っていうべきか……」
今度はカールスが首を傾げる。
「それは、三代目とリゼット様の……」
テイルが言いかけた時再び、奇妙な叫び声が響いてきた。テイルは口をつぐみ、声の響いてきた方向へ目を向けた。
「私、見てくる。幽霊って見てみたいし!」
おもむろにリシャが立ち上がると、テイルが慌てて声をあげる。
「リシャ様っ。では、お供いたします」
慌てて出て行くリシャとテイルを見送って、カールスは再びサラダにフォークを突き刺した。
「幽霊ね。ま、これで、彼も出て行ってくれるでしょ……」
何食わぬ顔で、再び朝食を摂りながらカールスは僅かに微笑んだ。
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