光降る街の隅で
Dancing with the Evil King
「お邪魔虫ですか…私は…」
「そりゃあ、リーナスから見たらそうじゃないの?」
ラルフォンはまだ笑っている。ディファンは、リーナスの走り去った方向に目をやって、小さくため息をついた。
「ラルフ様も満更ではないのでは?私から見たら、リーナスのことを気に入っているように見えますけどね」
ラルフォンは、ディファンの言葉に笑うのを止め、腕を組んだ。
そんな事を言われるとは思わなかった…というのが、本音だ。
「どうして、そう思う?」
「ラルフ様…あのリーナスに向けて、術を放った事がないじゃないじゃないですか」
ディファンのいう事ももっともである。そう、ラルフォンは腐っても魔王。魔力だけでは、誰にも負ける事はない。その彼が、リーナスに対しては術を放ったことがないのだ。リーナスから、逃げる時でさえ。
「この際、くっついてしまえばどうですか?あそこまで、慕われているのですし」
それだけは嫌だ…という言葉を飲み込んで、ラルフォンは、ディファンを睨み付けた。
冗談にしても、それはあまりにも質が悪すぎる。
他の人間や間族ならまだしも、リーナスだけは駄目なのだ。
もちろん、ディファンも、ラルフォンの気持ちを知っているからこそ、そんなことを言うのだが。
「お前な…リーナスは…勇者だぞ…一応。…それに…二十歳になっていない子供だ!」
「そういう貴方も、まだ四十にもなっていない子供です。人間の年齢になおしたら、あのリーナスとほぼ同じ位でしょうが」
ラルフォンは、思わず言葉に詰まった。
ディファンを苦手とするのは、何もリーナスだけではない。
彼の主であるラルフォンでも、ディファンのことは苦手なのだ。
何しろ、ディファンは、ラルフォンにもっとも年齢が近いといっても、ラルフォンの二倍は多く生きている。それに、天性からの性格もあるのだろう。ラルフォンは、どうしてもディファンに勝てないのだ。
「…で、何の用なんだ?今回は」
ラルフォンは、話題を変えることにした。これ以上、リーナスの話をしていたら、体がもたない。
「はい、今回も最初はいつもと同じです。…いい加減、吟遊詩人など辞めて、城にお帰りいただけませんか?」
いつもと同じ言葉に、ラルフォンは、いつもと同じく、首を左右に振って否定を示す。
それは、予想されていた事だったからだろうか、ディファンはにやりと笑った。
嫌な笑み。何かを企んでいる笑みだ。
「ならば、私がお供します」
一瞬、ラルフォンにはディファンの言葉が理解できなかった。いや、頭が思考することを拒否したのだ。
たっぷり五分の時が経って、ラルフォンはディファンの顔を見上げた。
「お供…って?」
「大臣やらなにやらのお偉いさんの命令なんですよ。ラルフ様はまだまだお若いし、城に閉じ込めて置くわけには行かないだろう。だから、私がラルフ様をお守りしろって」
ディファンは、一度言葉を切り、ラルフォンの反応を確かめた。
思ったとおり、ラルフォンは不機嫌そのものといった表情を浮かべている。
「ま、言い出したのは私ですけどね。適任者も私だけでしょうし。…それとも、何か文句でも?」
文句など大ありに決まっている。しかし、ラルフォンはそのことに関して異を唱えることは出来なかった。ここで異を唱えたところで、百倍の嫌味が降ってくることは分かりきっている。
無駄な労力を消費するくらいなら、涙をのんで、現実を受け入れるしかないのだ。
「お前がついてくるんだったら、俺が何の為に城をでたのか、わからないじゃないか」
ラルフォンの呟きももっともである。
彼は、口煩い教育係から逃げ出す為に、城を出たのだ。
自由になりたかったというのもあるし、人の住む世界が好きだ…というのもある。
だが、それ以上に、ディファンとの時間を少しでも減らす為だったのだ。
今でさえ、いつもラルフォンの様子を身に来るのが、鬱陶しいと思っていたところに、今回の事である。
四六時中、ディファンの顔を見ていなくてはいけないと考えると、嫌になってくる。
だからといって、城に戻る気は毛頭ないのだが。
「それでは、リーナスのところへ挨拶に参りましょうか?」
「は?ディファン、お前…何を?」
ラルフォンは、慌てて顔をあげた。しかし、目の前に立つ、ラルフォンより頭一つ分背の高いディファンは、ラルフォンの問いを無視して、ある一方の方角を睦めている。
「おや、丁度いい。あちらから、来てくれたようですね」
ラルフォンがディファンの視線の先に目をやると、リーナスの怒りに打ち震えている顔が飛び込んできた。
思わず目を背けたくなるほどのそれに、ラルフォンは思わず後ずさりをする。しかし、後ろには壁が立ちはだかり、ラルフォンが逃げ出すのを許そうとはしない。
「これは、どういう事よ!」
長い距離を走ってきたのだろうか。リーナスは肩で息をしながら、ディファンに黒い鳥を投げつける。
ディファンは、足元に落ちたその鳥を見下ろすと、口元に笑みを浮かべた。
伝言鳥…式の一種であるそれは、魔族がメッセージを伝えるのによく使われる。
式の描かれた紙に、メッセージを吹き込み、メッセージを吹き込まれた式は、鳥の姿となって空をかけていく。
ラルフォンは、二人を交互に見詰め、そしてディファンの足元の伝言鳥を拾い上げた。
内容は聞かなくとも分かっている。
リーナスの神経を逆なですることが得意なディファンの事である。普通のメッセージを入れたわけではないだろうが。
ラルフォンは、心の中で深くため息をつき、伝言鳥を式に戻す。
黒い鳥は、一枚の紙切れに変化した。
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