光降る街の隅で
Dancing with the Evil King


その後、ラルフォンはどちらを応援するべきか苦悩し、そして一つの答えを導き出した。
とっとと逃げればいいのだ!
走り出そうとした瞬間、ラルフォンの足は凍りついたように動かなくなった。
ふと顔を上げると、ディファンの笑顔が目に飛び込んでくる。

「ラルフ様…逃げ出そうとしても無駄なあがき…。そうは思いませんか?」

冷たいディファンの声に、ラルフォンは硬直する。
この冷たい声と、そして満面の笑みは、ディファンが怒っているという事実を意味する。
彼が怒っているときに、ろくなことが起こったためしがない。

「ディファン…。ごめんっ。その…本気で逃げようとしたわけではなくてさ…」

しかし、ディファンはラルフォンをぎろりとにらみつけただけであった。
言い訳をしても、無駄だ。
その瞳が、そう語っている。
ラルフォンが、幼い頃から、もっとも苦手とする瞳である。

「ラルフ様、後でゆっくりとお相手してさしあげますから、今は私の邪魔などなさらないように、くれぐれもお願いできますか?」

ディファンは、にっこりと微笑みかけてみせる。 
しかし、彼の瞳は相変わらず氷のように冷たいままで、ラルフォンはあわてて頷くことしか出来なかった。
ラルフォンが、いくら魔王であるとはいえ、彼はまだまだ若い。
全ての術の半分くらいしか使いこなせないうえに、やはり経験が少ない。
その点、ディファンは魔王であるラルフォン程の魔力はなくとも、常に安定した魔力で、それなりの威力の術を使うことが出来る。
その安定のよさは、魔族の中でも一目置かれている程である。
つまり、現時点では、ラルフォンがどうあがいても、ディファンに勝つことはできないだろう。

「という事で、リーナスさん」

「わざわざ『さん』を強調しないでよ!お邪魔虫!」

「それでは、リーナス。こういう事です。分かっていただけましたか?」

説明もせずに、こういう事も何もなおだろうが、ディファンは全て説明したとばかりに、満足げに目を細めている。
それが、妙に癪に障るのは、やはり相手がお邪魔無視だからなのだろうか。
リーナスは、右手を強く握り締め、ひきつった笑みをディファンに向けた、 額にはくっきりと、青筋が浮き立っている。

「男同士っていうのは不毛じゃない!」

ラルフォンは、リーナスの言葉に頭を抱えた。

「ご心配なく。その点。ぬかりはありませんから」

ディファンも何を言い出すのか…。
ラルフォンは、涙を流しながらため息をつく。
しかし、そうしたところで、事態は一向にかわらないのだ。
ラルフォンでなければ、とっくの昔に現実逃避していたかもしれない。
いや、それは、発狂という形で実行されていたかもしれない。
しかし、魔王である吟遊詩人でもあるラルフォンの好奇心が、精神的な痛手に勝ってしまった。
二人の静かな争いの行方を、知りたいと思ってしまったのだ。

「私の方が、ラルフの事、想っているんだから!」

「私の方が、ラルフ様とすごした時間は長いのですよ」

それは、不可抗力だ…。
ラルフォンは、心の中で一人ごちる。
何しろ、ディファンは、ラルフォンの物心がついたt期から、ずっと側にいるのだ。
しかし、それはラルフォンが望んだわけではない。
「望む」という単語を知る前に、位置付けされていたのだ。
そして、ラルフォンが望もうと望むまいと、ディファンは、これからもラルフォンの近くに居続けるだろう。
それは、限りなく確信にちかい、予感であった。
ラルフォンは、ディファンとリーナスのやりとりを見て、ふと一冊の本を思い出した。
それは、随分前に呼んだ、同居の現実について熱く語っていたものである。
多少、ステレオタイプな本ではあったが、なかなか興味深いものであった。
その中の、一節が蘇ってくる。
『小姑は、嫁に対して心を開くことなく、いじめる事を生きがいにする存在である』
…ディファンは、間違いなく「小姑」となる存在だろう。

「とにかく、子供はとっととお帰りなさい。それとも、今戦いますか?」

「………………今は…戦わない。殺したい程、憎いけど」

リーナスは、ディファンを睨み付けた。
しかし、ディファンは、それに動じた様子もなく、不敵に笑っている。
それが、リーナスの神経を逆なですることを知っていて…である。
性格最悪。絶対に友達になりたくない人。…というのが、リーナスとラルフォンの共通する、ディファンの人物像だ。
そして、その最悪ぶりは、リーナスがいるときに遺憾なく発揮される。

「そう、素直にでられると、簡単に帰すのも、面白くないですねぇ」

ディファンが右手をゆっくりと動かした。
ラルフォンには、ディファンが何をしようとしているのか、すぐに理解できたのだが、止めるつもりはない。
どちらにしろ、足は凍り付いて動かないのだ。
その代わり、彼はある一人の名前を心の中で呼んだ。
その時、ディファンの術が完成した。


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