光降る街の隅で
Dancing with the Evil King
「私、呼んでいないよね?」
リーナスが不思議そうに問う。
ローラは、勇者を守るべく前魔王に遣わされた魔族である。
しかし、だからといって、ローラはリーナスと常に行動を共にしているわけではなく、呼ばれるまでは、勇者の実家で、リーナスの母親とおしゃべりをしていることが多い。
その為、リーナスが呼ぶか、リーナスに危険が迫らない限り、こうやって、姿を現す事はないのだ。
「魔王様に呼ばれましたから。魔王様が魔力を乗せて名前を呟けば、何よりも強い召喚になるのですよ」
リーナスは、感心したようにラルフォンを見詰めた。
今まで、ラルフォンが魔王であるとは知っていても、どれほどの力をもっているのかは、全く知らなかった。
だけど、今、ここでローラに説明されて、魔王という存在が、どれほどのものか、ほんの少しではあるが、わかったのだ。
「魔王様、お久しぶりです。もう、30年近くになりますか?」
ラルフォンは、肩をすくめて見せただけで、具体的に答えようとはしない。
その事に触れられたくないというラルフォンの気持ちに気付いて、ローラは、それ以上、何かを言うのは止めることにした。
「ディファスも元気そうね」
「…ディファンです、母さん。一人息子の名前を間違えないで下さい」
ディファンは呆れたようにため息をつく。
しかし、それもいつものことなのだろう。それ以上、何かを言う気力もないようだった。
「…ローラ……?……息子って…どういう…事?」
リーナスは、額に脂汗を浮かべて恐る恐る尋ねる。
ローラが何かを喋ろうと口にした瞬間、意地の悪い笑みを浮かべて、それを遮ったのは、言うまでもなくディファンであった。
「どういう意味って、そういう意味ですよ。ま、頭の悪い勇者様には理解できないかもしれませんけどね」
ラルフォンは、額を押さえて、あさっての方向を向いた。
その横で、ディファンが馬鹿にしたようにリーナスを見詰めている。
リーナスは恐る恐る、ローラに顔を向けた。
ローラはただ微笑んでいた。
何も言わず、否定も肯定もしない。
しかし、それが全てを肯定しているように見えた。
よくよくローラとディファンを見比べてみると、二人は確かに似ている。
女装がよく似合うだろうと思えるほどの、ディファンの整った顔立ちは、確かにローラから受け継いだものだろう。
栗色の髪も、そして栗色の瞳も、ディファンとローラは全く同じだ。
決定的に違うことといえば、きっと性格だけであろう。
いつも優しげなローラとは、まったく正反対の性格を持つディファン。
きっと、そうでなければリーナスでも、二人が親子であることはすぐに気付いただろう。
「ねぇ…ひょっとして、ラルフも知ってたの?」
「…わざわざ言う必要はないと思っていたんだけど…」
突然、矛先が自分に向いて、ラルフォンは頭をかきながら、リーナスの問いに答える。
しかし、目線を合わせることはしなかった。
今のリーナスは猿と同じだ…本能がそう告げる。
きっと、目を合わせると、襲い掛かってくるに違いない。
ラルフォンが、ディファンとローラの事を、わざわざ伝える必要がないと思っていたのは、事実である。
何しろ、ディファンとローラは似すぎるほど似ている。
一目見て、二人が親子であるという事実に気付かない人間がいるとは思っていなかったのだ。
「ところで、ディファス」
「ですから…ディファンですと…何度言えば……」
ディファンがローラに目をやって、困ったように呟く。
しかし、ローラの耳には全く届いていない様子で、ローラはただ微笑んだだけで、先を続けた。
「ダーリンは元気かしら?」
ラルフォンの顔が引きつった。
ダーリン…の言葉だけは、何度きいても慣れる事はできない。
自分の母親が、父親の事をダーリンと呼んでいたら、きっとぶっ飛ばしていたに違いない。
しかし、幸いな事に、ラルフォンの父親は、ラルフォンが物心つく前に亡くなっており、両親が仲むつまじく会話をしているのをきいたことがない。
ラルフォンは、深呼吸をして気持ちを落ち着けると、そっとリーナスをみやった。
リーナスは、何故か『ダーリン』には大きな反応を見せず、自分を無視されている事が嫌なのか、不機嫌そうにローラとディファンの会話に耳を向けている。
きっと彼女は、慣れているのだろう。
ラルフォンは、一人で納得する。
リーナスの母親もそういう人なのだから。
「父さんなら相変わらずですよ。私がラルフ様のお供として、しばらく人の世界で暮らす事になったときくと、嬉々としてましたよ。それを口実に、母さんに会えるって」
「まぁ…。ダーリンと会えるなんて…ディファスってば、なんて親孝行な息子なのかしら」
ローラは、ディファンを抱きしめ、嬉しそうに踊りだす。
ローラが、そういう性格であることを知っていても、ラルフォンは思わずため息をついた。
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