光降る街の隅で
Dancing with the Evil King


一応、遠まわしに、お前とは話したくない…といって見せても、それが効果ないことは、悲しい事に、ラルフォンにもよくわかっていた。
何を言っても、きっと彼女は自分の意志を貫いてくるに違いない。
明らかに正しい事ではないと判っているもの以外には、驚く程しつこいのだ。
二年間、飽きもせず、ラルフォンを追い掛け回している事実が、何よりの証拠だ。

「美人で、とても弱い人だ…母上は。とても優しい人で、母上が怒ったところを、俺は見たことがない」

彼女の美貌は、魔族中の男性を虜にする程のもので、前魔王と結婚するまでは、毎日百通以上、ラブレターが届けられていたそうだ。
ラルフォンの父親も、その中の一人だったらしく、それが縁で二人が結ばれたとも聞いている。
本当の事は知らないが、それは限りなく事実に近い話なのだろう。
それはともかくとして、二人が心から愛し合っていたという事は、ゆるぎない事実である。

「いいなぁ。うちのお母さんは、普段は優しいけど、怒ったら怖いよ〜」

「自分にそっくりな性格をしている娘のことが、心配なんじゃないのか?…どっちにしろ、お前のことを考えてのことだろ」

「…ラルフのお母さんは?」

リーナスが不思議そうに尋ねてくる。ラルフォンは、しばらく宙を見詰めていた。
いつの間にか、ローラとディファンも話しを止め、好奇心いっぱいのリーナスとは違って、心配そうにラルフォンを見詰めている。

「…俺は、母上に名前で呼ばれたことがないんだ」

ラルフォンは言って、口元に笑みを浮かべた。

「おかしな話だろ?だけど、生まれてから何十年も経つけど、その間、一度も母上の口から俺の名前が呼ばれるのを聞いたことがない」

ラルフォンという名前は、母親からではなく、ディファンから学んだ。
ディファンがいなければ、自分の名前が何なのか、わからないまま生きていたかもしれない。
幼い頃は、どうして母親が自分の名前を呼んでくれないのか、わからなかった。
だが、今はなんとなくだがわかる。
きっと、自分を亡き夫と重ねてみているのだろう。
だから、極力「あの子」や「可愛い子」で終わらせるように話し、必要があれば、「魔王」と呼ぶ。

「…それが不幸だというなら、それは違うぞ。俺の母上は、それ以上に…どういうのかな…あくの強い人なんだよ。息子の俺ですら、親子であることを否定したくなるような…。少女趣味っていうか、大人になりきれていない人っていうのか…」

「確かに、お美しい方なのですけどね…」

ローラが小さくため息をついた。
そのため息に、ラルフォンも苦笑を浮かべた。
いつもフリルのついたピンク色の洋服を着た母親に、「私の可愛い子」と呼ばれるのはたまったものではない。
魔族としては幼くても、そう呼ばれて素直に返事が出来る程、子供ではないのだ。

「大体、母上はディファンと並んで、俺が苦手とする人物だからな。家出の原因も、半分は母上だし。……朝起きて、最初の挨拶が『母上様、おはようございます。今日も相変わらずお美しいですね』だぞ」

流石のリーナスも、その言葉には思わず閉口してしまった。
確かに、それは親子が交わす朝の挨拶ではない。
普通の親子が交わす朝の挨拶というものは、いくら丁寧であったとしても、精々『おはようございます』くらいのものであろう。

「なんか、おかしいよ〜、ラルフの家族って」

「だから、そう言ってるだろうが!」

ラルフォンは脱力して、その場でしゃがみ込む。
リーナスから逃げることの出来ないわけが、少し判ったような気がした。
彼女は、あまりにも似すぎているのだ。傷付くのが嫌で、会わないでいようと決めていた人に。
彼女も、母親の話をしたときに、同じ反応を示したな…と、ふと懐かしくなる。
今、彼女に会えば、彼女はどんな反応を示すだろう。
そして、再会した時、自分は平静でいられるだろうか。
今まで生きていた四十年近い人生の中の、たった二年間だけの思い出。
そんな小さな思い出は、彼女の心の中では、きっと大昔の気にとめる必要のない些細なものかもしれない。
しかし、ラルフォンにとって、それはとても大きなものだった。
おそらく、これから長い時を生きていこうとも、忘れることのない、大きな思い出。
それは、きっとラルフォンにとって初恋と呼ぶものだったから。
目の前のリーナスを見ていると、どうしても思い出してしまう。
初めて会った時に、笑いかけてくれた幼い勇者の笑顔を…初めての友達を。
ま…とにかく…しばらくは、このままでもいいか…。
ラルフォンは、しゃがみ込んだまま、青空を仰いで苦笑した。



・・・・・・



とりあえず、第一部終わりましたが…いかがだったでしょう。
ラブラブ度が低いのは、第一部だからです(笑)
第二部は…長くなりそうです…
お付き合いいただければ幸いです

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