光降る街の隅で
Dancing with the Evil King




目覚めると、何故かディファンがいた。

気配を感じさせないように、極力魔力を抑えていたというのに、長年ラルフォンの教育係を務めてきたディファンにはわかってしまうものらしい。
ラルフォンは眠い目をこすり、ディファンに目を向けた。

「何です、それは?」

突然言われて目を落とすと、熟睡している光の精霊の姿があった。

これほど魔の力を露にしているディファンが傍にいるというのに、一向に目を覚ます気配はない。
それほどラルフォンを信用しているのだろうか。
ラルフォンは少し小首を傾げて見せた。

「光の精霊」
「可愛いこぶっても駄目です。……ラルフ様……貴方は間違いなく魔王様なのですからね」

迷子の精霊などひろうな、とでも言いたいのだろう。
ラルフォンは目の前でディファンを追い払うように右手を振って、勢いをつけて立ち上がった。
反動で、ラルフォンの竪琴がころりと転げ落ちる。

「ああ、そうだ。ディファン、昨夜おかしな奴に会った」
「ラルフ様よりもですか?」

ラルフォンはディファンをぎろりとにらみつけた。
こういうところが嫌いなのだ、と生まれてきて何度思ったかもしれない思いをそっと心の中で呟く。

しかし、ディファンはラルフォンのそんな視線を無視して、思慮深げにあごに右手をそえた。

「で、どういった?」
「神樹と守宝の存在を知っている少年」
「は?」

ディファンがここまで驚くわけも理解は出来る。
勇者の旅の目的というものは、一般には知られていないものなのだ。
ラルフォンやディファンは魔王とその一番の部下という立場上知っていてもおかしくはない。
そもそも、前魔王が勇者の旅を助けたというのは紛れもない事実なのだから。
しかし、その旅の目的を関係のない一般人が知っている事は絶対に有り得ないのだ。
だから、ディファンは困惑する。
そして、ラルフォンもその少年を警戒するのだ。

「関係者、ですか?」
「間違いなく」

ラルフォンの迷いのない答えに、ディファンはそうですか、と返したきり何も言わなくなった。
その沈黙が妙に気まずく感じ、ラルフォンは意味もなくあたりを見回す。
ラルフォンの足元では相変わらず光の精霊が深い夢の中に身をゆだねている。
少し離れたところで、リーナスもまたまどろみの中にいた。
幸せそうに眠るリーナスに少々腹はたったが、ラルフォンはあえて起こすことはしない。
中途半端に起こすと、寝起きの悪いリーナスに蹴飛ばされる恐れがあるためだ。
魔王ともあろう者が、一人の少女を恐れるのは問題があるとの自覚はあるのだが、リーナスの寝起きの悪さは半端ではない。
ともに旅を始めて数日でそれを悟って以来、ラルフォンはリーナスを好きに寝かすことにしていた。
どちらにしろ、リーナスの体内時計は正確らしく、あと数分ですっきりした顔で目覚めるはずだ。
ラルフォンはため息をついて、再びあたりに注意を向けた。
その顔が険しくなる。

「おかしいですね」

そう呟いたのは、先ほどまで姿の見えなかったリーナスに遣えるローラであった。

「……気配の事か?」

問うとローラは頷いた。
気配についてはラルフォンも不思議に思っていた。
本来ならば精霊の気配であふれているはずの森の中に、精霊の気配がない。
それは昨夜も感じたのだが、その時は精霊は暗闇を恐れるからだろうと、あまり深くは考えなかったのだ。
しかし、太陽が昇った今となっては、どう考えても不可解すぎる。

「目覚めて違和感を感じたので、あたりを見回ってまいりましたが……やはり、精霊の気配がないんです」
「……突然移動したのか、あるいは……存在を消されたか……」

おそらくは後者であろうと、ラルフォンは推察する。
精霊が移動することはままあることではあったが、今回のように何の印も残さずに移動する事はありえない。
精霊は集落で生活するものではあるが、その集落を離れて生活するものも居るため、その仲間達に何かの連絡を残すことが決まりとなっているのだ。

「神樹を狙うものやもしれません」

ディファンが声をあげた。

「神樹を守りし守宝が神樹をあがめし精霊に何かするとは考えにくいですし、誰と特定する事はできませんが、神樹の力を狙う者がやったと考えるのが一番しっくりくるかと」
「確かに。……おそらく、精霊は……」

ラルフォンは言いかけて言葉を切った。
光の精霊とリーナスが身じろぎをした為である。
二人の前で神樹と精霊の話はやりずらい。
いずれ話す必要もでてくるだろうが、今、いたずらに不安をあおることはしたくなかった。

「とにかく、守宝に会うことが先決か」

不本意ながら、昨夜あった少年の言葉に従うしかないわけだ。
ラルフォンは陰鬱なため息をついた。


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