きらきら光る朝日を背に受けて、ラルフォンは大きなあくびをした。
本当ならば3時間程で森を抜けることができたはずなのだが、数分歩いては疲れた、とリーナスが言い、また数分歩いてはリーナスが疲れた、と言う。
そんな事を繰り返しているうちに、あたりはすっかりと暗くなり、村についたのは昨夜遅くの事だった。ラルフォンが顔を軽く拭いて食堂に行くと、一足先に食堂でくつろいでいたディファンの姿が目に入ってきた。
リーナスやローラの姿がない事から、彼女達はまだ眠っているのだろう。「おはよう、よく眠れたかい?」
ラルフォンが顔を出すと、恰幅のいい中年の女性が明るい声をかけた。
「はい。おかげさまで」
「そりゃあよかった。今すぐ朝食の用意をするからね。お兄さんと一緒に待っているといいよ」どうやらこの女将さんは、ディファンとラルフォンが兄弟だと思っているらしい。
ラルフォンは苦笑した。見ると、ディファンも同じように苦笑している。
ラルフォンはしばらく考えて、女将さんの言葉通りディファンのテーブルをはさんで前に腰をおろした。「早いな。相変わらず」
「誰かさんと違って繊細ですから」
「……野宿を平気で出来る奴の、どこが繊細なんだか」ディファンは軽く笑った。それに対しては否定も肯定もしないつもりらしい。
「精霊は?」
ディファンが思い出したように尋ねてくる。
「リーナスと一緒。まだ寝てるんじゃないのか?」
どうしてそんな事を訊くのだろう、と訝しげに眉を寄せると、ディファンは右手を顎に添えると、小さく唸った。
「あの精霊、何です?」
質問の意味がわからなくて、ラルフォンはますます縦皺を増やす。
何、と言われても、光の精霊の子供、としか答えようがなかった。「ラルフ様はまだお若いのでご存知ないとは思いますが……」
唐突にディファンが言葉を紡ぐ。ラルフォンは少し首をかしげながら、黙ってデイxファンが次の言葉を紡ぐのを待った。
「あれはただの精霊ではありません」
「と、いうと?」
「わかりません。……ただ、精霊の気配がしません」問いかけようとして、けれど、ラルフォンは話を中断せずには居られなかった。
リーナスとローラの姿が視界の端に見えたからだ。
リーナスは、ラルフォンの姿を見つけて、嬉しそうに駆け寄り、続いてディファンに目を向けて、顔を顰めた。「なんで?どうして?どうして私のラルフがあんたと二人きりで仲良くお話してるわけ?」
「それは、私はラルフ様の忠実な僕ですので」いつもの調子で返すディファンに、ラルフォンは呆れたため息をもらした。
先程の、真剣なディファンの姿はそこにはない。
いつものように、からかった笑みを口元に貼り付けているディファンの姿があるだけだ。(何がなんだか、さっぱりわからんっ!)
自分は魔王なのに。といじけて心の中で呟いてみる。
魔王なのに、わからない事が多すぎるのだ。
誰もが、自分から真実を遠ざけようとする。その事実を思い出して、ラルフォンは思わず顔を顰めた。
――まだ、魔王様は幼いですから。
だから、知らなくてもいいのだと、城に居た頃に何度も言われた。
「タイミング、悪すぎ……」知らずのうちにこぼれたラルフォンの呟きは、幸い誰の耳にも届いていないようだった。
TAKO TAKO PAGE
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