シカゴの空港は超巨大なハブ空港。ガラスから光が降り注ぐ清潔な5つのターミナルは可愛い電車で結ばれている。乗り換えは明快(でも、遠い)。国内便のチケットは(恐らく世界一)安く、購入もすごく簡単。飛行機を移動の手段として徹底的に考えた結果、こういうシステムが出来上がったのだろうが、アメリカらしい合理性の極致である。
その中でもSOUTHWEST AIRLINESは、インターネット発券、全席自由席(つまり搭乗券なしの早い者勝ち)など、合理性を極めた会社である。こういうシステムにも随分慣れたつもりだったが、先日乗った「各駅停車」の飛行機には驚かされた。ポートランド(オレゴン)発、ボイジ(アイダホ)経由、ソルトレークシティ(ユタ)経由、フェニックス(アリゾナ)経由、ダラス(テキサス)行き、と約1時間間隔で都市を繋いで行くのである。飛行機は手軽な足なんだなあ、と実感。
一方、成田空港では何時も憂鬱になってしまう。遠い(都心から2時間以上)、高い(空港利用料)、使いにくい(狭い、わかりにくい、便数少ない、古いor古臭い)と3拍子そろい、日本の玄関と呼ぶには恥ずかしすぎる(実際、アジアのハブとしては落第しているし)。チケットも高いし、日本では飛行機に乗り込むまでが既に大旅行である。これに加えて、東京(と大阪など)以外の人は、羽田に飛んでから東京のホテルに前泊し、それから成田に移動する訳で、時間とお金がかかってしょうがない。何とかならないものか?
でも、アメリカの飛行機&空港で許せないものが一つだけ。それは「不味すぎる食事」である!さすが、食文化の劣悪なアメリカ!日本の方がはるかに良い! 空港の脂ぎったピザ、味の抜けたコーヒー、そしてトドメは機内食である。私はマイレッジのためにUNITED AIRLINESをよく使うが、もう匂いだけでうんざりである。おまけにアメリカ人の添乗員は、過剰な笑顔で迫ってくるので、余計に萎えてしまう。唯一の解決策は、マイレッジ提携他社を使うこと。しかし、AIR FRANCEがパートナーを解消しているとは今日まで知らなかった…マイレッジ大損。でも、機内食がとても美味しかったから許す。
98年5月14日:ロンドン到着
ヒースロー到着は2pm。タクシーでかけつけて3pmの打ち合わせに出席。コンサルタントのプレゼンテーションは素晴らしかった。ディスカッションも盛り上がる。ダスティン・ホフマンに似たコンサルタントはブリティッシュ・アクセントが格好よい。 しかし、眠すぎる。時差に加えて飛行機の離着陸が多すぎる。世界を股にかける仕事、というのは一見格好よさそうだが、やはりしたくない。
お世話になっている友人T夫妻宅、は典型的なロンドンの郊外住宅地。道の狭さ、左側通行、家の大きさなど、どことなく日本と似ている。魅力的な商店街を見かけると、ここなら住んでも良いかなあ、と思ってしまう。友人T夫妻は、1歳になるお子さまMちゃんの相手に大忙し。
とにかく疲れているので、気の利いたことは書けそうにない。今日は寝ることにしよう。おやすみなさい。
98年5月15日:コスモポリスは楽しい
昨晩ビールを飲み過ぎたのと、時差ぼけで必要以上に早く目覚める。出勤するTと一緒に地下鉄に乗って都心へ。車内は新聞を読みふける人々で一杯。日本人がやけに多い。アメリカで片道15分のバス通勤に慣れた体には、40分の電車通勤は「都会へ仕事しに行く」感じがして新鮮。
今日のヒアリング先、政府のロンドン出先機関GOLはテムズ川沿いの展望の良いオフィス。周囲には建物が高密度に延々と続いているが、川や緑が潤いを与える。 都市計画局長Joyceは、典型的な「政府の優秀なプランナー」。ブリティッシュの発音でテキパキ明確にやり取りが進む。こういう切れ者の女性がきちんとした役職についているのは素晴らしい。続いて彼女の紹介で、同機関の開発資金担当のLucyと話す。私より少し年上だろうか?柔らかい物腰の中にしっかりしたプロ意識が見える。こういう知的美人には、アメリカでお目にかかったことは殆どない。男女の区別(差別ではない)のある国ならではか? ともあれ、先方も研究テーマに関心をもってくれたようで、2人合計で約2時間のヒアリングと意見交換は成果大。幸先の良いスタートである。
オフィスを出ると睡魔が…。広場でサンドイッチを食べた後、川辺でスケッチや昼寝しようか?とも思ったが、再び夏のような暑さの中を歩き出す。ロンドンは6年前に3日来ただけなので、見たいものが多すぎるのである。 どうでも良いが、ロンドンは美人が多い。人々の服装もパリッとしているし、変な人種間の緊張感も感じられない。本当にコスモポリタンである。以前に来た時にも感じたのだが、この街のペースは私には非常に心地よい。
お、フランクシナトラ死去が夕刊の見出しに。 しかし、昼下がりだと言うのに、戸外でビールを立ち飲みしながら談笑しているオフィスワーカーが滅茶苦茶多い。イギリス人も人生をエンジョイする術を心得ているようだ。こういう光景を見ると、働き過ぎのアメリカ社会が可哀相に思える。あれだけ働いて生産性が上がらないなら、もっとメリハリをつけて息抜きすれば良さそうなものだ。これは日本にも言えそうだが…友人Tは毎晩残業で帰宅は遅い。
シティにやってきた。Ludgateというオフィス開発の写真を撮っていると、映画に出てきそうなガードマンに、撮影許可を取るように注意される。結構うるさい。 そして、飛び込みで市役所の都市計画課へ。対応してくれたMarkは、私と同年代の熱血漢タイプで、汗をかきながら一生懸命説明してくれる。英国紳士の中にも「泥臭く熱い」タイプがいるのを見られて何だか嬉しい。 さらに足を延ばしてBroadgate、Lloyd's HQといったバブル期のオフィス開発を回る。どちらもふんだんにお金をかけているが、かけかたが効果的な前者は素晴らしい外部空間である。しかし、後者は建築関係者には評判が高いが、利用者や市民には結構不評らしいのも頷けるほど、「デザインし過ぎ」で周囲から浮いている(こうしてみると、同じ建築家によるポンピドーセンターが、意外としっくりパリに馴染んでいるのはすごい)。お金はある時に賢く使わねば。
足が棒になったので、「シアトル・コーヒー・カンパニー」というカフェで休憩。イギリスでシアトルがブランド名になっているとは驚き。 その後、大学の大先輩でもあるSさんに連れられて寿司屋へ。板前さんも、給仕さんも、お客さんも、店の内装も完全に日本である。 感動的に旨い! ロンドンでこんなに美味しい寿司を食べるとは予想していなかった。Sさんによれば、イギリスの食事はここ10年ほどで格段の進歩を遂げたそう。明日以降の食事も楽しみになってきた。
家に戻ると疲れが吹き出してベッドにバタンキュー。 これを書いているのは翌朝5am! まだ時差ぼけ。ちなみに、昨晩、ものすごい夢を見た。岡田監督が出てきて「アルゼンチン戦は名波と服部のダブルボランチで行く。山口はサブだ。」と言ったのだ(笑)。
98年5月16日:憧れのウェンブリーへ
バークレーの恩師の忠告、「視察中は週に1日は何もしない日をつくること」を守り、今日は予定なく過ごす。 早朝に昨日の日記を掲載した後、再び眠りに… 起きると11時。腹が減ったので、T夫妻&Mちゃんと郊外のパブへブランチ(彼等はランチ)へ。飲み屋とファミリーレストランを足して、さらに子供の遊び場がくっついたようなところ。周囲は皆、ビールを飲んでいる。天気も良いし、さぞ美味しいのだろう。私はサラダとコーヒーにする。 お日様の下でボーとするのは本当に久しぶりで嬉しい。アメリカの窓のない陰気な郊外型バーとは大違いだ。 どうでもよいが、サッカーのユニホームを着ているおやじが異常に多い。黒白の縦縞は地元のチームか?ガキはサッカーボールを蹴っているし、「フットボール」の国に来たことを実感。
ランチ後、Hampstead Garden Suburbへぶらぶらと散歩に行く。「ロンドンの代官山」とTが呼ぶ商店街はナイス。皆、屋外で昼下がりのコーヒーまたはビールを楽しんでいる。中層の建物が道路ぞいにびっしり並んだ空間は心地よい密度。でも、アメリカ人は(というよりオレゴン人は)好きでなさそう。さらに住宅地の奥へ進むと、超巨大な豪邸が並ぶ。車寄せは出入り口が別々で、玄関が見えない家も。理想に輝く田園都市は、今では上流階級とヤッピーばかり。でも、ここに住んだら楽しそう。
街で見かけるヨーロッパの車はコンパクトで素晴らしい(道路も狭いが)。ルノー、プジョー、MG、フィアットなど、アメリカでは見かけないものが多いし、VW、サーブ、ベンツ、ポルシェなども勿論いる。日本車とアメ車は少ない。 贅肉がぶよぶよしたアメ車は格好悪くて本当に嫌になる。次に買うならゴルフか?
その後、サッカーの聖地ウェンブリースタジアムを見に行く。95年に日本代表がイングランドと激戦を繰り広げた「あの」ウェンブリーである。Tシャツでも買おうかとミーハーに徹する。しかし、スタジアムは遠くからはオンボロに見える。「いやいや、中は素晴らしいはず」と言い聞かせて接近すると、警官がいっぱい溢れていて物々しい。道路も一部封鎖されていて、スタジアムに近付けない。どうやら、試合が現在行われており、試合後のフーリガンを警戒しているよう。英国のフットボール、おそるべし。
さっさと家に帰り、裏庭でのんびりとスケッチを楽しむ。 夕食は素晴らしい手料理&ワイン。 ああ、久しぶりにのんびりした良い安息日だった。
98年5月17日:まちづくりオタク
Tの運転で最近のプロジェクトを中心に街を見て回る。 退屈なKing's Cross駅の隣にあるSt. Pancras駅は宮殿のよう。やっぱり駅は風格のある方が良い。街の顔である。 休日の静かなシティでは、改めてオフィスビルの総量、てんでバラバラなデザイン、そして建設現場の多さに感動する。道も狭い。これらを全て満たす街は、他に東京しか思い付かないし、正直両者には似た魅力がある。きっと、ここで働くことになっても、自然にとけ込んでしまうような気がする。 それでもロンドンでは東京ほど乱雑な感じがしないのは、全て同型のタクシーと赤い2階建てバスが、「ロンドンらしい風景」をつくりだしているからだろうか?それとも、「外国にいる」という心理がプラスに働くのか?
フレンチカフェでランチ後、テムズ川の南岸をゆっくり探検。ここは交通の便も悪いし、観光客は少ない(正直言って、見るものも殆どない)。でも、何故か日本人夫婦に、「三越はどこですか?」と尋ねられた。 川沿いには住宅を中心とした再開発が多く、延々と高級コンドミニアムが続く。物凄い数だ。どれも値段が高く、この地区の以前の住人であった低所得者達は、どこへ追いやられてしまったのかが疑問である。歴史的な倉庫の再利用はうまくやっているが、よく見ると古いレンガを外壁に貼っただけの新築も結構多い。それでも、見栄えも居心地も十分素晴らしい。特に、Butler's Wharfでは、お金のある時に賢い投資をやっていると感心。Canary Wharfとは対極である。
一見似たようなウォーターフロント開発でも、年代毎の思想の違いが顕著で面白い。(当時の)近代性を前面に主張する70年代、バブリーで勘違いした「デザイン」の多い80年代、人間の快適さを考慮した空間を演出し、また住宅を多く取り入れた90年代、といった感じ。この傾向はアメリカでも日本でも同じだろう。 建物のように一回作ってしまうと何十年も存在し続けるものは、時代の変化に取り残されると無惨である。設計者や開発者の責任重大。そして勿論、プランナーのも。
しかし、どこを見ても戸外でビールを飲んでいる奴が多い(今日は快晴なので上半身裸の奴が目につく)。その割にデブが少ないのは、普段が粗食なためだろうか?アメリカのように「歩く脂肪」といった不健康な巨体は全然見られない。 ちなみに、イギリス人はアメリカ人より身だしなみに気を使っていると初めは感じていたが、どうやらそれは「気のせい」だったようだ。先入観だったか?
さらに、Millennium工事現場、Chelsea、Stockley Parkなどを見て回った後、帰宅。結構疲れたし、日焼けしてしまった。 夕食後、Tさんの愛娘Mちゃん(1歳6ヶ月)と遊ぶ。甥姪と遊んでいたせいだろうか、若い女性(というより子供!)には結構受けが良いのだが、今回も気に入られたようでMちゃん御機嫌。T曰く「精神年令近いからネ」。童心がわかる、と言いなさい。 今日は、まちづくりオタク的な一日だった。明日はロンドン最後の日、少しミーハーもしよう。実用を兼ねて(朝晩は結構涼しい)、West Endでウィンブルドンかチェルシーのトレーナーでも買おう。
98年5月18日:ロンドン締めくくり
朝、いきなり電話でアポを取って、まちづくりのリーダーシップを取っている民間主導の3セク「London Pride Partnership」にヒアリングに行く。出てきたJohnの肩書きはExecutive Directorでびっくり。要点は簡潔かつ的確、話し上手で親切。さすが民間人である。 これでロンドンのヒアリング希望先は全て網羅できた。やっぱり英語で意志の疎通ができるのはものすごく楽だった(British EnglishとAmerican Englishは随分違うが、慣れれば十分通じ合えた)。飛び込みもできたし。でも、このペースで他都市も調査できるかどうかははなはだ疑問。次の訪問先パリが最大の関門になりそう。
公園でサンドイッチを食べた後、Eurostarを見にWaterloo駅へ。予算&時間が許せば、パリへは列車で行きたかった… その後、Canary Wharfへ。世紀の大失敗都市開発は、経済状況が好転したため思ったより人が多い。そして工事現場だらけ。一方、「オフィス空室あります」のサインはあちこちに見られる。 しかし、歩いていて気持ち良くない。巨大なビルに比べ公共空間が貧弱、かつ設計が悪すぎる。東京の臨海副都心、横浜のみなとみらい、神戸のポートピア/六甲アイランドなどに通じるものがある。 こういうのを見ると、臨海副都心開発は中止して良かったなあ、と思う。
ビッグベンまで戻ってスケッチで息抜き。表情が細かい建物だけに、細部の描写に時間がかかって、おまけに出来は不満足。大後悔。もっと大雑把にさっさと終わらせれば良かった。息抜きして疲れていてはしょうがない。
家に戻り資料&荷物整理。集めたパンフや書籍が山積みで、Tに郵送を依頼。 ロンドンは今回の調査では、刺身のツマ程度のつもりだったが、予想外に大充実してしまった。ホテルではなく友人宅に泊まれたのが大きかった。 さあ、明日は早起きしてパリへ飛ぶのだ!
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