<出でよ 人形遣い>(番外:二世の葛藤)
by 福助二世




もう移動したの。・・・ここが・・・彼女が我に帰った時、手足の拘束は厳重なホッグタイから解放されてはいたが、手足、別々のシンプルな緊縛拘束に変わっていたにすぎない。唯一の救いは、寝心地のよいリラックスチェアに その身を沈めていた事だったろうか。


「牧瀬くん、ここまで君を引っ張り込んでいて悪いんだが、まだ君に「隠れ家」の場所まで教える訳には いかない。なに、君が今度、眼を覚ました時には私の「隠れ
家」の中さ。いいかね、何も怖がる事はない。怪盗の名を欲しいままにしている俺の言う事ではないが、、、、、いいかい、不安かも知れないが俺を信じろ。」


牧瀬は思い出してきた・・・・あのマンションで、臨時教師の女性に変身したままの「二世」は、肩にしたバッグからポリエチレンフィルムの袋に入った布を出すと、牧瀬のあごをぐいっと掴むようにして猿轡の上から その布を顔に宛がった事も・・・

そして何重もに重ねて嵌められた猿轡の布を通して、甘い刺激臭が牧瀬の神経に染み渡りそのまま昏睡の泉に沈んで行きながら、不思議な事に一カケラの恐怖も持っていなかった事も・・・・


「ようこそ、、、我が隠れ家へ」

「うんんんっっっっっ」
 
その声に、彼女はまだ猿轡を嵌められたままの顔を左右に振ってあたりを見回した。

白檀だろうか、それとも麝香?えもいわれぬ高級な お香の香りがどこからともなく
漂うその室内は、彼女が知っている「福助」の、どの隠れ家とも違う独特の雰囲気があった。派手に明るくもない、かと言って薄暗いというのでもないまるで清んだ湖底のような間接照明に浮かび上がる室内には拘束され、言葉を封じられた哀れな姿でリラックスチェアに その身を沈めて横たわる彼女と、それを見守る男性の姿があっ
た。

「俺はまだ迷っている・・・・今ならまだ間に合うからだ・・・」

「・・・・・・」

「最初は純粋に君の身辺調査だけが目的だった。ただ・・・・」

「・・・・?・・むむん?・・・・」

「君の意思を確認してライバルではないと確認した頃には、俺の中に不思議な感情が湧き上がっていた・・・・」

「・・・」

「なぜ、この俺が、、人の心や信頼などと言う物を一切信用しなかった筈の俺がそんな気持ちになったか・・・・それは君があまりにも純粋だったからだ!」


「?!!!!」

「間違うな!それは亡くなった君の姉に対する復讐心の事ではない。君はその眼で見た筈だ。君があれほど苦労した「真剣な復讐」も、この福助組にかかったら、あっけなく処理出来る事を。

そして それはこの福助組の手にかかったら、すべて「利益」を目的としたビジネス
として実行され、「怨み」とか「復讐」などという湿っぽい個人の理由などとは無縁のだ。」

「うっ、ふっくふん、うっううううっ」

「泣くな!君を責めているのではない。
俺は君が俺と知り合い、俺が教えてやった「変身」の為のノウハウを驚く程の速さで吸収して行くのを、この眼で見た。君は俺が出した課題をなんなく克服し、「変身技術」だけなら、下手をしたら この俺ですら見抜く事が出来ないまでに成長した。」

「だが、君がー「変身」に取り組む姿からは、実の姉の復讐という目的だけではな
く、まるで自分をこの世から消し去りたいとでも言うような情念が俺には見えた・
・・・・どうだい?違うかな?」

「うっ!くっふふうう、、、」

「やはりな・・・・俺の六感にひっかかったのは、まさにそこだったのさ。事実 こ
の俺だって似た様な体験の持主だ。こんな体験をした事の無い人間にいちいち説明して理解を求めるなど、鯨に空を飛ぶ訓練をするより難しいのだよ。」

「うふうう?」

「こんな人間なんて生き物は 口ではどんなに偉そうな事を言った所で、どこかにコ
ンプレックスやトラウマの一つや二つ背負ってるもんさ。多分、この俺だってそうだろう。」


「!、、、、」

「まして、君のようなデリケートな奴はもっと余計なプレッシャーを強烈な+αとして背負っちまってる。それは牧瀬、お前が優しすぎるだけの事だ。今回にしても、お前に優しさが見えなかったら、この隠れ家なんかには連れては来ない。間違っちゃいけない。世の中にはそんな気持ちを持った、、、否!そんな気持ちを持っている君からこそ 君を必要とする者がいるんだ。、、くそ、俺とした事が、なんて事を・・
・」

「いいか?後1分、、間もなく君を拘束しているすべての拘束具は溶けて消える。それはそのロープや猿轡だけではない。今、君が身に着けているすべての衣類と下着類、そして変装のパーツもすべてだ。その後、君には3つの選択肢が用意されている。それは君の後ろの3つのドアのどれかを選べば良い。ドアの中味はテーブルの上のファイルに書いてあるから、良く読んで選び給え。それでは」

キシュウウウン、、、ガゴン
カツコツカツコツ、、、、
ガゴッキシュウウウンン、バドン

男の、、福助二世?、、の声がと切れて自動ドアの開閉音とともに、部屋を出て遠ざかる靴音を耳にしながら牧瀬は後を追う事も、声をかける事も出来ずにいた。だがその数秒後、!

はらっ、、はらはらっ、ほろっ、、ふぁさ、、
ぱらぱらぱらぱらぱらぱら
はらららら、はらっはらはらはらはらっ

どう表現したら良いのか、まさに「溶ける」、、そう言うしかない、、今、少年「牧瀬」の全身を包んでいたすべての物が、まさに陽光に溶け崩れる淡雪のように次々に消えていったのだ。

「きゃ!」

軽い悲鳴をあげて、その胸を両腕で隠しながら床にしゃがみ込む牧瀬の姿には、少年といえども「男性」を感じさせるものは どこにも見えなかった。彼女はそのままの姿勢でテーブルまで行くと、そこに置かれたファイルベーパーを読んだ。

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「青いドア」の奥には、君の元いた世界に戻る為の用意が揃っている。君は用意された学生服を着て、そのままこの屋敷を出るだけで良い。明日の朝には、その衣類に染み込んだ薬品が、君の皮膚から染み込み、この数ヶ月の記憶を消してくれる。


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「赤いドア」を選んだ君は、逆に元の世界に戻る事は出来ない。君は今の世界との交流を一切切り捨ててこの二世の教育を受けてもらい「仮面」を被った生活を送ってもらう事になる。 それはもしかしたら「二世の為の生きた人形」としての人生になる
かも知れない。

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「黄色いドア」の向こうには何もない。君がどちらの選択もしなかった場合、その部屋でも、ここの部屋でもかまわないが、君は餓死するしかない。

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今、私は、これ以後の「牧瀬少年」の消息を入手出来ずにいる。
だが

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宛:由希

柏木奈々緒が新たに開発した人工被膜の情報を奪取せよ。
ある事件が元になり、傷心の上、自暴自棄となり不良化した
女子生徒に変装し、まずリックに接近せよ。

なお、柏木奈々緒は かなり手強いので返り討ちに会い
どのような辱めを受ける事になっても当方は 関知しない。

by F2
PS:
前回の成功報酬は本日、そちらの指定口座に入金した。
今年の誕生日は※※※※※※※※※
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偶然にせよ、こんな間違いメールを受信したのは、つい数時間前の事だった。
二世の奴、どうも最近、この二代目とペアを組まないと思ったら、こういう事
かい。
<出でよ 人形遣い>(番外:二世の葛藤)
<完>
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