<出でよ 人形遣い>6(アジトの夜)
by 福助二世
血のような夕焼けを通り過ぎ、鴉の濡れ羽色を連想させる漆黒の闇を切り裂いて疾走する一台の車。これがもし日中であれば、その車窓からは 始まったばかりの紅葉が黄緑から黄色に向かうもの、燃立たつような真っ赤な炎を想わせる木々と針葉樹のグリーンの入り乱れた自然のコントラストが一面に広がっていたのだが、、、
そんな、何もかも忘れて吸い込まれてしまいたい程の、自然の描く抽象画の山腹に、二世のアジトのひとつはある。
「おいおい、こんな時間に警察の検問かい、、、、」
「・・・・・おや?おかしな検問ですわね、、 事件発生による道路封鎖でもなさそ
うですねパトカーは一台しかいないし、こんな場所でこんな時間に「ねずみ取り」ですか?」
明滅するパトランフに照らされて、路肩にまるで幽霊のように浮かび上がった婦人警官の誘導で、車は路側帯に入って停車した。
「はい、こんばんわ。お酒は飲んでませんね?免許証を拝見します。」
事務的にそう言う婦人警察官に、二世は免許証を提示しながら
「おまわりさんも大変ですわね。、あら!」
バタっ
「ごめんなさい、手が滑ってしまって、、拾ってくださいます?」
事もあろうに、二世は免許を拾いあげようと、とっさにしゃがみ込んだ婦人警官の頭を狙うかのように車のドアを勢いよく開け放った。
ガシャッ!ドゴンッボブン
ブロロロウゥゥオウゥゥ
「あ!あっつっっつ!な、キュビュウウウゥゥゥゥウウ、何を、ビュジジザジ
ヤャャャ、、、」
ピーピリピリピリピーーー
「その止まりなさい!、、、止まれっ!」
別な婦人警官が警笛を吹きながら、走り出した車の前に飛び出して制止しようとす
る。左右に大きく広げた両手で車を抱きしめるつもりなのか、止められると信じて・・・
「甘いっ!」
キュキュキュキリリリリリー
ブァドゴドゴッ、、、ベゴッガググン、、バボッグン
ザッサアァァァァンン、、、コン、コンコンコロロロロロン
「キャ!、、、二世?!、、、、、、」
キ、キキュウ
検問突破・・・・
公務執行妨害・・・それも制止する婦人警官を跳ね飛ばしてまでの・・・・
由希は二世のこんな無計画で傍若無人な行動を見た事はなかった、、、
「、、、二世、、、彼女、、、死んだんじゃ、、、」
「かもな。ただし こいつらが本物の人間でしかも本物の警察官だったら俺は間違い
なくそれだけで無期懲役だろうけどな、、まぁ、あれを見てみろよ。」
ヂヂヂヂヂ、、、バチバチバチバチ、、
「はぁ!あむうぅ、、、、、首が!、、、、く?くび、が燃えています、、人間じゃあない?」
「な!、マスクそのものは、うちのより、かなりオソマツだが中身は、ほら、そこの道路中にバラバラになってすっ飛んでるだろ。サイボーグなのさ。」
「ううううん、、、これライバル、、が?」
「残念でした。フェイスマスクは別物だけど、これは 二代目が開発中のミュートボ
デイさ。この車もデフォルメしちまったし、、婦人警官っても悪くはないね。」
二世は道路につっぷしている婦人警官スタイルのサイボーグをパトカーの後ろに引っ張って行ってから、自分だけ さっさとその制服に着替えてしまった。甘紺色のスカートとジャケットにスカイブルーの制服に着替えた二世は、ポカンとしたままの由希のところに戻った。
「ねぇ?牧瀬・く・ん? バックシーム入りのストッキングを穿いて勤務してる婦人警官なんてセクシーでしょう?でも君の制服、、そこで二代目のオモチャと一緒に燃えちゃったのよね、、、そ、、れ、、に、、」
「それに?なんですか?それ以前に嫌です、そんな「牧瀬くん」なんて呼ばれ
方、、」
「あはははは、そりゃ仕方がないさ。君はこいつらが偽者だって解らなかったんだからね。俺はすぐに解ったのにだぜ?」
「あ、、、ワタシ、、、」
「まだ少しアドリブには弱いみたいだな。教えてあげよう。このパトカーだけでもバレバレじゃないか!ほらパトカーをよく見てみな。」
「え?パトカーですか?見ていますよ、車載装備も、こちらのデジタルチェックで確認して警察無線の周波数まで間違いない本物で、、それに ちゃんと『静岡県警
察』って、、、、書いてあるけど。え?『静岡県警察』・・・」
「やっとピンと来たの偉いが、そう!ここは「箱根」はまだ、神奈川県内なのさ。静岡県警の管轄じゃない。」
「・・・・・・」
「まずナワバリが違うんだ。でも、それだけじゃないぞ。まだ婦人警官なんて全国の半分の警察にしかいないし、この「神奈川」じゃ婦人警官のみのパトロールユニットは、白バイ隊以外には 編成されちゃいないんだ。」
「さてと そろそろ出発しようかね、このパトカーも処分するのか、借りて来た車検
場に返却するのかは知らんが、遅くなると二代目が苦労するだけだろうし、オモチャの回収もしなきゃならん。」
ヂッヂヂヂヂヂヂチィチチチチ、、、
「さすが二世、よく解ってらっしゃる、、それにしてもせっかくのサイバーアンドロイドも、その程度で壊れるようじゃ、FSBもロシアも対した事はないなぁ、、元KGBの科学プロジェクトの産物だって言うから期待してたんだけどな、、、
「二代目?、、F S Bって、あんた. ロシア連邦保安局まで潜り込んでなにしてんだい?たしか俺のデーターファイルに『ラングレー』から拾ってきた「人間型戦闘機」の資料があるから、後でコピーしておこうか?」
「おお、ぜひ頼む、助かるよ、、、ふうん『ラングレー』にそんな良い情報
が、、、ってコラ!ラングレーって米国中央情報局、つまり『CIA』の事だろ!二世こそ何してんだい。油断も隙もないんだから このやろ!」.
「あはははははは、お互い様さ、それより二代目も例の物、オペには間に合うんだろうか?どっちみち立ち会うんだろ、じゃ後で。」
二代目との簡単な会話を終えた二世は、ピップホルスターから黒メッキの手錠を取り出すと由希の両手を背中に回して手際良く施錠してしまった。由希は自分の見落としを認めているのか黙ったままで それを受けとめている。
「しかし二代目も大胆って言うか、、、いかに中身が機械だとは言ってもなぁ、乗用車の抱擁を受け止めるダメージはハンパじゃないぜ。ロシアの科学者も可哀相だよな。さぁ由希にはペナルティだな。」
二世は呆れたように言いながら、その両手首を拘束している手錠のチェーンに捕縄を回し首輪状にして巻いて両腕と連結してしまった。それまでの所用時間は由希が数回の瞬きをする程度でしかない。
「牧瀬・く・ん・?猿轡はどういたしましょ?してもらった方が良いんでしょ。にしても縄の量が少し もの足りないかも・・・・ね。ほら、女装が似合う 変態の可愛いこちゃんお口をあけなさい。」
はふうゅ、もごふっ、
チチチャキ、カキッ、、あっ・ぁぁあぶ、
ポゴッ、、、ギ、ギシュ!ほっ?あっぁぁ
由希、、、その名前は寒夜に、のんのんと降り注ぐ「新雪」に由来するのではないだろうか・・二世はフェイスマスクを取った素顔の由希の顔を見詰めながら 用意した猿轡の手を止めて 自問自答した。(こいつ、、マスクも良いが、、この素顔も悪くないんだが、、いや!そうじゃない。こいつが不細工だったら、フェイスマスクは只のボロ隠しでしかなくなる。それでは女怪人は成立せんのだ。)
由希の見事なプロポーションは、それがドールスキンのボティスーツで作られた人工の女體姿で、その中味は青い性に戸惑う少年だとは、だれにも解りはしない、、、二世は自分の脳裏に浮かんだ考えを振り払い、その少年の両頬を鷲掴みにして、西洋ナシのように割り開いた口の中に、布を詰め込み、その上からボールギャクを宛がうとボールの両端のストラップを思い切り引き絞っていた。
そんなボールギャグの猿轡を嵌められ、夢うつつになって放心する由希の視線と二世の視線が宙で一つに絡んだ瞬間 2人は石膏像のようにその場に凍り付いた・・・・
・・
ヂヂヂヂヂチーチーチーチーチー
「こちら二代目、間もなくガラクタの回収に入る。間もなく現場到着、、、二世?取り込み中か?、、、、」
「こちら、すでに準備完了っ!これよりアジトにむかう!以上!」
二世が交信を終えた時、由希の顔には、大人しやかな少女の表情を刻印したフェイスマスクに蔽われ、由希の言葉は二世には届く事はなかった。
・・・・いくぢなし・・・・
「さあてと、少し時間を食い過ぎたわね。急ぐわよ。お腹も減ってきたし早く美味しいものでも食べたいからね。」
チカッ、チカッ、チカッ、チカッ、チカッ
フアァァァン、フアァン ファン ファン ファン
屋根の上で赤々と明滅する散光式赤色灯と、高鳴るサイレンをBGMにして二世と
由希の乗ったパトカーは道路に躍り出ると、すぐに速度を上げて闇を切り裂いていった。
由希の行手に待ち構えている未来とは?その内容は、まだ二世にしかわからない。
速度をあげたパトカーは、二世によって用意されたある施設(アジト)に向ってい
た。それは一見するとリゾートホテルの様にも見えるコンクリートの大きな建物だったがそこにたどり着くまでの私道とゲートの出入りは、途中偽装されて数箇所に設置されたOP・・・・(Observation Point).監視哨iによって厳しく管理?監視?されていた。
その施設の敷地は、かなり広く、外からは中の様子は一切伺う事は出来ない。二世達は第1ゲートから数分かかって地下駐車場に車を乗り入れたが、車を降りた時、なぜか二世は人が変わったように 不機嫌になっており、地下駐車場の壁にある内線電話に飛びつき、イライラしながら相手が出るのを待った。
「私だ!SSD責任者は大至急、地下駐車場に集合せよ!遅れた者はその場で
Special Self Defenseの資格を剥奪する! 」
滅多に見せる事のない二世の怒りを目の当たりにして、震え上がったSSD要員は一目散に地下駐車場に駆けつけた。<二世がこのように怒りの感情を剥き出しにした時は本気だ!>彼らはその事を本能で感じ取っていたのだ。だか゜?だが二世はいったい何をそんなに怒っているのか?
「これで全員だな。そのまま聞け!」
まるでどこかの基地の格納庫か大型の流通倉庫のような広さの下駐車場に不思議な光景を見る事になる。傭兵を連想させる屈強な体躯と意思強固を表す表情の男性警備責任者を震え上がらせているのは、彼ら以上の体躯や容貌などではない、、、、年齢は24〜5歳それも、どちらかと言うと大柄ではなく 清楚なイメージの女性、だがそんな風情のチャーングな女性の口から地響きのように轟いたのは、まぎれもなく二世の罵声だった。
「たるんでる!今夜の警備の生ぬるさは何か?」
「このアジトが敵に襲撃されて KIA を出したい者?手をあげよ。俺がこの手で、
Killed In Action.戦死者にしてやるぞ!ただし自衛隊や警察のような公務員ではないのだから、John Doeとして「身元不明の死体」扱いだ!」
いかに挙手を求められても そんな事に手をあげる馬鹿はいない、そして居並ぶ全員
は二世の怒りの理由を知った。
「肝心の警備がこんな調子では、HUMINTと呼ばれる人間によるスパイ活動.など簡単ではないか!諸君のようなプロが、HUManINTelligenceの影響と被害を知らない訳ではあるまい。」
「は!熟知、、しておる、、つ、、つもりであります、、」
「なら聞こう、この私をなぜフリーパス状態でここまで進入させたのか?あんなカタチばかりの簡単な IDチェックのみでは、HUMINTを歓迎しているようなものだろう?違うかな?」
.
「は、、そ、それはその、、二代目殿が交信していらしたのが我々の目の前、、でありましたので、、、」
「お前はNSAを知らないのか?米国国家保安局では世界中のあらゆる通信を傍受. し
ている組織を?そのNSAのアンテナ・サイトは この日本にもあるんだぞ! 」
二世の怒りの理由はもっともだろう、NSA−National Security Agency. 米国国家保安局で解読不能な暗号などないのだから。
「電話・FAX・その他の地球上の無線全部の傍受が可能.、しかも、NROの偵察衛星も導入していると言うのに、、あんな暗号など奴等がその気になったら簡単に解読されて、こんなに変装したスパイが侵入するのは赤ん坊の手をひねるより簡単ではないか!」
「第1ゲートから最終ゲートまでの「LTDシステム」がすべて解除されていたようだ
が理由はなぜか? まさか全部のレーザー照準器がトラブルだった訳でもあるまい?この調子では、おそらく NOE要員もヘリ待機などしておらんのだろうな。どうだ?」
呼び付けられた警備責任者達は言葉もなく下を向いていた。彼らはここがF−Groupの最重用拠点であり、その警備を任されている責任者なのだ。
【LTDシステム】が解除されていると言う事は敵に対して、レーザー誘導で敵を追い
かけるレーザー誘導ミサイルを発射出来ないという事であり、ミサイルは意味を失
う。
そしてNOE要員がたるんでいると言う事は、ヘリコプターで地形を這いずる程の超低
空で地形匍匐飛行して敵を発見するという、本来はレーダー対策の為,に開発された
「Nap Of the Earth」を二世の考案によって生み出した防御システムの崩壊を意味していた。
つまりそれは 初代の意思を受け継いだ二代目と二世が心血を注ぐ、このアジトが丸
裸になった瞬間でもあったのだ。
「そ、、それは、、本日は、二代目と二世が常駐され、お2人の出入りも頻繁
で、、、」
そんな火に油どころかニトログリセリンを注ぐような警備責任者の説明で二世の怒りは治まるはずもなかった。普段であればこんな理屈の通らない説明など絶対にしない冷静な警備責任者なのだが、初めてみる二世の烈火の剣幕に、いたたまれずに、つい口にしてしまった良い訳だった・・・
「うつけ者!だとしたらライバル組織なり、公安関係者にとって最高のチャンスではないか!公安と言っても、これまでの日本のような甘いものではないのだぞ。
第一、今,お前達の前でこうして怒鳴り散らしている この俺が、本物の「福助二世」だと、どうして解る?いったい誰が本物だと断言できるのか!!!?」
「う、、、、く、、」
「あぐうう、、」
「し、、しかし、、」
「それ、、は」
二世は整列したまま絶句するしかない警備責任者に一瞥を与えて、さらに続けた。
「警備班長、それから他の者もだ、日本の代表的な公安機関の名前をあげられる
だけここで言って見ろ。」
「は!警察庁、、、警視庁、、、機動隊、、、自衛隊、、、内閣調査室、、、国家公安委員会、、、」
「やめろ!もういい、、、、」
二世は露骨に呆れた表情をフェイスマスクの上に表しながら、彼らの後ろに回ると、未だ車中に取り残されていた由希に駆け寄り、由希の顔を蔽っていたフェイスマスクを外しながら言った。
「由希!猿轡を取ってやるから日本の代表的な公安機関の名前を この木偶の坊ども
に教えてやれ!言えるだけ言ってみろ。研修で学んだ筈だ。」
「あふっ、、けほっ、、」
猿轡を外して・・・由希に背を向けるような形で整列する警備責任者に聞こえてし
まっただろうか。由希は一瞬、気恥ずかしさで気が遠くなりそうだったが、そんな事はとても、二世に言えるものではない。そんな弱気の自分を心の中で叱責し、疲労と戦いながら、由希は研修で教わった「組織名」を答え始めた。
「すみません、、まず内閣情報調査室【警防査察部】、、、警察庁の対テロ部隊.
【特殊急襲隊】・・・警察庁外事特科【Interpol支援室】及び【特捜室】・・・
大阪府警の【百中】.・・・同じく大坂府警の警備部に所属する.【NBC初動措置隊】
・・・東京に戻って、、警視庁公安部機動捜査隊内の【NBCテロ捜査隊】・・・・ 同じく警視庁の【ゼロ科中】・・・・海上保安庁所属の【SST】、自衛隊市ヶ谷の【特種工作班】、同じく市ヶ谷の【青霧部隊】・・・・・こっこほっ、、次は
、、」
「よし そこまで!いいか!誰も一般的な都道府県の警察の事など聞いてはいない。
それ以外の代表的な組織の、ごく一部だけでも日本には これあるのだ。お前達は
こんな小娘にすら負けてしまって、よくもこのF−Groupのスタッフだと偉そうにしていられるものだな?」
二世はつくづく 初代の実力を思い知らされ、同時に自分では「二世」としての責任
など果たす事など不可能なのではないかと自信を失いそうになっていた。だが彼らの前でそんな事を言うわけにはいかない、、、二世は自分の弱気を振り払うように、さらに続けた。
「それだけではない!いいか!これから俺が言う組織名を覚えておけ。まだ 世界に
は国際刑事警察機構、通称インターポールを先頭にして、Night Stalkers・・IRA・・DEA・・DELTA FORCE・・DGSE・・DoD・・BMVg・・DSD・・比較的楽なには逮捕権を持たないEuropolぐらいなものだ・・・FAPSI・・FBI・・FSB・・・GCHQ
・・・GIGN・・・GSG9・・・まだあるが、キリがない。いいか!ここにいる者は今、俺が言った組織の所属国、行動作戦内容、規模を一つ残らず書き出して明日の20時までにレポートで提出するように。未提出の者はその場で解雇する。」
そんな事が何になるのか、、
二世は自分の中に沸き上がる寂寥感と戦っていた。二代目からの連絡で二世は知っていた。・・・・ここに居並ぶ彼らにしても、けして手抜きをしたり、楽をしようとしたのではない、、事実、彼らはこの数ヶ月、特に海外で起こった、極悪非道な信じがたい事件の直後からは自主的に臨戦態勢で職務に就いていたのだ、、、悪いのは彼らではなく、慢心していた自分自身ではないのか?
二世は自分を責めながらも、その職責を放棄する訳にはいかない
・・・・ここで立ち止まる訳にはいかない自分の立場を思い出して宣言した。
「この施設の警備体制はたった今から、最上級警備ランクにシフトする!期間は、俺と二代目が2人そろっての解除命令がおりるまでだ!その間は様々な書類作成やレポート作成は一切禁止する。いいか?そんな暇があったら体力を温存しておくんだ!この指令は、これの前に発令した いかなる命令にも優先する!デスミス!」
その命令が下された瞬間から施設の雰囲気は緊張感に包まれた。本来は一人一人が極めて勝れた能力を有する この「人材集団」の心から慢心と油断が消えたのだ。警備要員を中心とするスタッフは、待機と仮眠中のスタッフ以外、全員が自分の持ち場に付きそれぞれの役割を確実に 消化している。
オートドライブだった「LTDシステム」は予備待機システム以外のすべてが、マニュ
アルドライブと連動して四方八方に警戒の眼を配り、NOE要員は通常装備から戦闘装
備に衣更えして携帯火器や、ヘリ頭部の機銃にも すでに麻酔薬の詰まった実弾が
タップリと充填されたカートリックがセットされてハンガーで出撃に備えた。
今二世は残っていた精神力を振り絞って助手席の由希の拘束を解くと、そのまま
由希によりかかるようにして眠り込んでしまった。
6≪出でよ 人形遣い≫6<アジトの夜>
<完>
【前へ】
【続く】
【戻る】