福助伝説:昭和20年(1945)4月
昭和20年(1945)4月
Mrナグモの率いるジャパニーズNAVYのタスクフォースが宝石の名前のついた島を黒煙につつんでから早3年が過ぎ、東洋の島国と その島国を取り巻く環境は、大きく変化していた。
たおやかな黎明をかき散らして飛び立つ褐色の戦闘機ゼロ戦、公式書類上、漢字の「零」をゼロとは読まない為、正式には「零戦」(れいせん)と呼称される、第二次大戦の日本海軍の戦闘機・・・・・・・・には、往時の勇士の面影はすでになく、機体の軽量化の為、銃弾はおろか機銃そのものが撤去され 操縦するパイロットの技量も、かろうじて飛び立つ事は出来ようが、確実に着陸出来るかどうか、誰も保証できない程、劣悪になっていた。
唯一、それが戦いを目的としている事を明確に示す証拠は、その胴体に針金で直接
くくりつけられた500キロ爆弾であろうか。
それでも彼らは こう呼ばれた。
名誉ある海軍(陸軍)特別攻撃隊 少年飛行兵 と・・・
「なにが名誉の志願兵やねん。志願する者、一歩前へ!て そない大声で言われて
前に出ん者は 非国民やの 不忠者だの ボロクソ言われて、出ん訳行くかいな。」
「こらっ!タドコロ 声が大きいっ!キサマ飲み過ぎだぞ!」
「しゃかわしぃ、声がデカイんは 親からのもらい物じゃい。モンクあんのやったら
憲兵隊でも特高でも 呼んだらええわい。ゼロ戦の胴体に500キロ爆弾と一緒に
くくりつけたるわ。それとも戦果確認機で憲兵隊に機銃掃射してこましたろか。」
ピシャっ!
「気持ちは わかるがいい加減にしろ!」
ヴウウウゥゥゥー、ヴウウゥゥゥゥゥウウゥゥゥゥゥゥー、ウウウウゥゥゥゥゥー
「空襲警報、発令〜空襲警報、発令〜、○○方面より、敵B−29の数機編隊、
帝都上空に進入、非難せよ、ただちに非難せよ」
酩酊に力をかりて傍若無人に振る舞う同年兵の頬をビンタする少年兵士の頬にも
又、一筋の涙が伝わり落ちたのを合図にしたかのように空襲警報が鳴り響いた。
「こない言うたら誤解されるか知らんけど、わし おまはんの事 大好きゃねん。せやからな、どない身体が不自由になったかて かめへん。生きていてほしいんや。」
ヴウウウゥゥゥー、ヴウウゥゥゥゥゥウウゥゥゥゥゥゥー、ウウウウゥゥゥゥゥー
「空襲警報、発令〜空襲警報、発令〜、、非難せよ、ただちに非難せよ」
「うおおおおぉぉぉぉううぅぅぅぅぅうう、ひいいぃぃぃぃぃいんんんん わし、わし、、、幼なじみのおまはん、死なしとうない、、、こんなアホな戦争なんで始めたんやあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、、」
こんな光景など、活字にならないだけの事で、ほぼ どこの特攻基地でもなかったと
は言えない。そして又・・・
「、、、午前10時17分、、、ご永眠です。」
戦時下であろうとなかろうと出産と死亡は分け隔てなく ふりそそぐ。両者のわずか
な差は前者は予測可能だが 後者は突発的な場合もある、、と言うことであろうか。
ジリリリリリリリリ、
そして ドラマは、ある海軍航空隊の基地にかかってきた一本の電話から始まる。
「もうし、こちら帝国海軍○○航空隊 !」
「ああ こちら 女野山村の町役場でありますが、そちらに 皆川良一と言う兵隊さん
は、おいででありましょうか?」
「皆川良一はおるが、本日は外出中である。皆川が?」
「は、おいでなさる、、、それでは間違いないとは存じますが上官の方に、お伝え願いたいのでありますが、皆川良一さん、お亡くなりになられました。」
「!な、、何、、そのまま、そのまま待て。おい お前の名は?名前はなんと言うか
?」
「はぁ、わたくしは、この女野山村で村長をしとります ニイヤハマと申しますです
が・・・」
「くそ、またか・・・・・そのまま、そのまま待て!」
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舞台暗転:帝都下の歓楽街
皆川上飛曹 事故死数分前
Virrrr,Bicyn!
「おう!危ないっ!、、おい感電しちまうぜ。おいったら下の海軍さん!電線が切れちまったんだ!」
電線の点検に来ていた電気技師その大声は、遊郭の一角からの嬌声に
掻き消された。
「大尉さ〜ん、今夜はありがとうございましたぁ。、お気をつけてねぇ」
「うむ、愉快だった。また、、」
「ねぇ?社長さん、この間の中尉さんに、綾奴がよろしくお伝え下さいって、そう申していたと、お伝えくださいましね。」
戦争成り金と参謀将官の癒着など今更騒ぐ事でもなかろう。帝都には悲惨とあだ花の色と臭いが染み込んでいた。時 ”昭和19年”その代表的象徴、遊郭界隈は、淫靡な嬌声があふれていた。
ビシャン、ビリリリリリリリリリリリリ、キシャーーーン
バチバチバチバチバチ
「きゃーーーーぁぁあああ」
「お、あ、、あぐふっ、、」
「おい!、、まただ、、。」
遊郭の電飾に負けじと、漆黒の天空に輝く、見る者の心を突き刺すかのように細く
尖った三日月の照らし出した光景は 嬌声の幻影の中に ふって沸いた地獄であった。
その月光のおぼろな光の中に、天に向けて 突き出された右手の先からブスブスと、
こげた臭いを伴なった煙がユラユラと立ち昇っていく。かつての 戦人の刺す様な狩人
の視線は今、輝くを失い白濁して鈍っていた。
感電死、、、即死であった。。。。
かたわらの、、、いかにも好色そうな年配の将校に寄添う和装の女性。そして、その2人を送り出す高級女給、、、、その違和感の集約が、皮肉にも今が 戦争の真最中である事を一瞬だが忘れさせた。
数人の男達が黒塗りの乗用車から飛び出すと、その現場に向って脱兎の如く駆け寄って行った。
「くそーっ、またか、、、しかも今度も間違いようのない、、切れた電線に触れての事故、、我々 憲兵隊の目の前で、、、」
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またか?・・・・その つぶやきの意味は、、いや、それ以前になぜ特攻隊員に
憲兵隊の尾行が?・・・その答は、暗転する舞台が教えてくれよう。
ここ大本営の一室では、複数の士官服の者達が苦渋の表情を隠そうともせず
頭を抱えていた。
「皆川上飛曹、外出中に感電して死亡、、、これで 海軍は30人名ですか・・・」
「うむ。すでに陸軍でも20人、全員が出撃前の特別外出で宿泊地で・・・・」
「それも憲兵隊の報告によれば、死因に自殺の痕跡なし、全員が突発的な
事故か自然死とは・・・・」
「暴れ馬を留めようとして蹴られて即死・・・」
「溺れた子供を助けようとして・・・」
「毒蛇に噛まれて・・・」
「遊郭の二階からの転落・・・」
「貨物列車が脱線して その下敷き・・・」
「なかには「毒ハチ」に刺されて、と言う例もありますが、憲兵隊と軍医の調査の結果体質によるもので、自殺などではありませんでした。」
「ええい!もう良い、そんな検死報告を読み上げたところで何も解決はせん。」
「はっ」
「なぜだ!特攻隊員だけが なぜ こうも事故死するのか!外出などは一般兵の方が
はるかに多いのだぞ。」
「かと言って 外出禁止などという訳にも行きません。それこそ暴動に・・・・」
「く、、、くそっ すでに内密に特攻前の外出者には 必ず憲兵の尾行をつけておったというのにか、、よし、かくなる上は1名、従兵をつけろ。いいな。復唱はどうした!」
「はっ・・・特攻前の外出者には 必ず1名、従兵をつけるよう指示いたします。」
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舞台暗転:何やら化学実験室のような場所/声のみ
「いやはや 軍令部も ここまで来ると、なりふりかまいませんな。」
「マッタクテ゜ス。ココマデ軍部ガ 石頭ダトハ 想像モシマセンデシタ。」
「では計画はどういたしましょうか?中止ですかな。」
「ソレデハ何ニモナリマセンヨ。タシカニ 今マデヨリ少シ苦労ハ シマスガ方法ハ
アリマス。手伝ッテイタダケマスカ。Mrしきしま?」
「もちろんですとも。Drハインリッヒ。そうこなくてはね。ただ、、」
「ワカリマス、、Mrしきしま、、、デスガ特別攻撃隊員ノ全めんばーヲ助ケルノハ今トナッテハ不可能ナノデス、、、」
「わかっております。それに特攻隊員の全員を助けても・・・」
「スデニ オ互イノ祖国ハ、多クノ犠牲ヲ出シテイマス。私達ノシテイル事ハ、根本的ナ解決デハナイ・・・」
「それでも私達は やらねばなりません。助けられるなら、たとえ1人だけでも」
遠ざかる足音とともに舞台上、静寂
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暗転:某海軍航空隊
「タドコロ、まだ右足がそんな状態で悪いが皆川の妹が遺骨を引き取りにきておる
んだ、貴様、面会してやってくれんか。面会所に待たしてあるんだが。」
「わかりました。皆川は自分の戦友で ありますから。こんな 足の骨折ぐらい、どないもおまへん。それより軍医殿、自分はいつ頃になったら 特攻に参加できまんのやろ?」
「その事は後にしろ。その元気で まずは戦友の遺族に会うのが先だ。若い娘だから
といって、松葉杖を忘れるんじゃないぞ。」
「はっ、タドコロ一飛曹、皆川のご遺族に面会してまいります。」
ガラ、ガラララララ
「し、、しつれいします。皆川上飛曹の妹さんは どちらでありますか?」
「はい私です、タゴトロさんですか?兄が大変 お世話になっておりましたそうで。」
面会者で ごったがえす面会所で それはむしろ 彼女の方からタドコロの姿を認めて
よってきた事で・・・・呆気に取られるほど簡単に出会うことが出来た。
「お怪我の方はずいぶん よろしいんですか?50番(500キロ爆弾)の点検中に懸架装置が外れて足に爆撃を おうけになったんでしたわよね。」
「えっあっいや、、奴はそんな事まで妹さんに・・・・」
「綾乃、、と申します。タドコロさんも名前でお呼びになって下さい。その方が兄も喜びますので。」
「は、、はぁ、、で、、、では、、、いやその」
「ふふふ 戦闘機の操縦は予科練でも ピカイチなのに まだ女の人には弱いんですね。あっ、これ たしかタドコロさんの好物でしたわよね、まだ作り慣れていないので 美味しくないでしょうけれど、よろしかったら・・・・」
そう言うと綾乃は、手にしていた風呂敷き包みをテーブルにおいて タドコロの方に ついっと差し出した。
「これを自分にでありますか?あけて見てもいいでしょうか?」
「はい、どうぞ。ふふふっ恥ずかしいですけど・・・」
ばかっ
「おおおっ、こりゃすごい。」
さぞや重たかったであろう。それは重箱にギッシリと詰められた ボタモチだった。
「見掛けだけは、、、でも、、味の方は自身がございませんけど、、あまりジロジロみないで、はやく やっつけちゃってください。」
「こ、、これを、皆川、、いえ、お兄様の墓前にではなく、自分の為にでありますか?こ、、光栄であります。つつ、、、つつしんで 頂戴いたします。」
あっという間、、まさに その言葉通りのタドコロの喰いっぷりであった。数分を待たずして、その重箱は空になろうとしている、、、
「・・・・・・!?、、、綾乃さん、、、今、、うっ、の、、喉に、、、詰まっ、、た、、、」
「あら・・・もう、貴様って奴は相変わらずなんだからな・・・・お待ちになって!」
タドコロはボタモチを喉に詰まらせながら、自分の耳を疑っていた・・・
今はなき戦友の遺族である妹は、可憐な風情と匂うような女性の魅力にあふれていたが、その口元から 先程からこぼれる言葉「50番」「やっつける」等など・・・戦友・・・まさに、英霊となった筈の戦友そのものだったのだから。
「はい、、お水ですわ、お飲みになって下さい。」
・・・初めて来た筈の基地の面会室だというのに、この女性はまるで 我が家のように給湯室の場所も知っている・・・それもタドコロには不思議であった。
「わたし、そろそろ おいとまいたします。あの、、今夜は駅前に宿を取りましたので、兄の遺品は後程、改めて・・・」
「は、そうでありますか。駅前というと 「吉岡屋」でありますな。それでは、
本官がお送りいたしましょう。」
「、、、、はい」
寄添うようにして基地に沿った駅前への道を歩く2人の姿は、まるで負傷した夫と
それを見舞う新妻のようにも見えた事だろう。
カルロロロロロロオォオオウゥウゥゥン
グウロオォオゥウウウゥゥゥウウンンンン、、、
クオオオォォォォオオオォォォオオォォォン、、、、、、、
カヴオ゛オ゛オ゛オォォォォオオォォォォンンンンンン、、、、、
「、、、小隊長機は アキシマか、、、2番機がツクバ、、3番機、、、スロットルのふかしが甘いのは タシロ、、、あれほど言ったのに、バカモノが!あれじゃ離陸は、、、、」
3番機失速 離陸失敗!パイロットも負傷している模様・・・救急班ー!
”飛ぶ”その為に最低限必要な、小鳥でも出来る技術すら まともに教わる時間もない零戦は、墜ちるように滑走路に胴着した。それを直前に看破したのは、、、タドコロ、、ではなかった。。。。
「あ、、綾乃さん、、、あんた?、、いったい?」
ヴウウウゥゥゥー、ヴウウゥゥゥゥゥウウゥゥゥゥゥゥー、ウウウウゥゥゥゥゥー
「ちょうど あの時も こんな空襲警報がなってしましたよね、タドコロさん、、
そしてこう言ってまくれた・・・
わし おまはんの事 大好きゃねん。せやからな、どない身体が不自由になった
かて かめへん。生きていてほしいんや。・・・って、、、」
「綾乃さん、、いんにゃ、、あんさん?!、、」
「今は綾乃、、、皆川の妹、、、迷惑でしょうか?」
「そ、、そないな、、そないな、、迷惑なコトあるかいな!」
カキッ
カチカチカチ
ヴウウウゥゥゥー、ヴウウゥゥゥゥゥウウゥゥゥゥゥゥー、ウウウウゥゥゥゥゥー
初恋は突然、思いもしなかったカタチで 私達の目の前に表れる事がある。
その初めての接吻は、けして淡いものでもレモンの味でもなかった、、、
ただ触れ合う 互いの歯の音が、不粋なサイレンによって掻き消されていく。。。
事故死した筈の皆川がなぜ?
謎の男2人の会話に込められた意味は?
そして不慮の死を遂げる特攻隊員達との関係は?
次回、(次回があればの話だけど)急展開の結末を待て・・・
(言い切って良いのか?)
なんか どんどん コンセプトが壊れていくよーな気がする・・・。
愛縛と猿轡はどこ行ったんよ。良いのか、つづけて・・・
福助伝説:昭和20年(1945)4月
<とりあえず完>
【二世編へ続く】
【二代目編へ続く】
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