沖縄本島最北端に残された大自然の宝物
(1月1日 名護〜やんばる・辺戸岬〜那覇)





 明けて平成16年を迎えた元旦は、沖縄本島最北端の辺戸岬を目指す。といっても全部自転車だと走行距離が100キロを超えてつらいので、名護から辺戸名まで行きは片道輪行し、路線バスを利用する。


 沖縄のバスというものは、また独特の世界である。名護のバスターミナルは、監獄のような灰色の壁に囲まれ、入口の案内も小さく白地に黒字で書いてあるだけで、旅客の正面玄関というより、従業員用裏口といった感じがする。壁には、会社の定款がそのまま拡大コピーして貼りだしてある。乗り場案内はペンキが消えかかり、色あせたデザインだ。バスターミナルといっても営業所と一体化したような感じで、事務所が全部ガラスごしに覗けるような開放的な構造になっている。ゴミが無造作に袋ごと積み上げられて、その向こうで従業員がのんびりと談笑している。乗客の姿は、ほとんど見かけない。

 「国鉄」「お役所」「共産主義」とか、そんな単語が浮かんでくるような世界だ。あえて座標軸を設定すれば、「民間の活力」「最新流行」「ディズニーランド」「お客様へのサービス第一主義」といった要素の、対極にくるのだろう。このような世界が堂々と存在しているのも、また東京から遠く離れた沖縄らしいといえるのだろうか。

 バスは中古車が多く、東京では十数年前に姿を消したような古いタイプのものが現役である。沖縄は、バスマニアにとっては聖地といえる場所らしい。

 大きな自転車を持ち込もうとしても、運転手の人は親切だった。型どおりにダメだと断られたり、不愉快な顔をされることはなかった。ただし運転士はのんびりしていて、始発ターミナルなのに、悠々と10分くらい遅れて発車した。早く起きたので居眠りしているうち、終点の辺戸名に着く。






 ここから北にはもう大きな集落はない。名護から北は「やんばる」と呼ばれ、都市化や観光開発はほとんどなされず、原生林と美しい海が広がるところだ。行く手には、海に沿って国道58号線が坦々と伸びているのみである。ただそこに道があるからペダルをこぎ続ける、そんな気分だ。旅ももう3日目で、足腰には疲れが出てきて痛みを覚え、今日はあまり無理して走りすぎないほうがよいなと思う。

 そして、沖縄本島最北端の辺戸岬に到着した。店も人家もほとんどない過疎地域の景観は味わい深い反面で、自転車で走っていると不安にもなるが、ここは食べ物屋もあり、観光客も多いので、ほっと一安心する。海の向こうに与論島の島影がうっすらと浮かんでいる。あちらはもう鹿児島県で、1972年の沖縄返還前は「外国」だったのだ。

 しばらく休憩してから出発し、本島の東側の海岸線に沿って走る。沖縄本島は標高が最高でも503メートルで、険しい山は少ないのだが、道路はかなり起伏が多い。しかも、一気に上った後に爽快な下りがある峠越えと異なり、少しずつ上ったり下ったりが続くので、達成感も少ないし、むしろ心身の疲れは大きい気がする。

 人の手があまり入っていないやんばるの地は、まさに大自然の楽園だ。エメラルド色の珊瑚礁の海はいっそう鮮やかで、木々の緑は濃くシダやヤシのような亜熱帯の植物がうっそうと茂る。美しい海岸線沿いにも、小さな海の家が1軒建っている程度で、景色を乱す人工物はほとんどない。








 山を越えて再び島の西側を走る国道58号線に戻り、南下して名護を目指す。こちらの道は起伏がなく、しかも北からの軽い追い風を受け、スイスイと進んでいく。途中の「道の駅」で購入した沖縄産の黒砂糖の大きな塊を頬張る。強い甘さも、ペダルをこぎ続け、「ガソリン」を消費している身にはとても心地よい。

 名護までの道のりを走り抜き、自転車を解体して、那覇行の路線バスに乗る。大きな輪行袋を座席に乗せて、景色のよく見える一番前の席に座ると、若い運転士がフレンドリーに話しかけてきた。やや失礼な言い方をすれば、どこか途上国のバスのような気さくさである。2時間余り、夜の国道58号線を走って、那覇バスターミナルに到着した。



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