Tran-DS
The Side Story of Tolled Armor Tran-D
Chapter 2: Elpha
part4

クレーンのフックが被弾されたTran-DSのバックパックひっかけ引っ張りあげる。
重い金属音と共にそれははずされた。
もうひとつのクレーンが別なバックパックを運びそれを指定された位置に下げる。
ロックを確認する音がした。
同時にコクピットにシステムチェックが行なわれ、「OK!」と表示された。

「気分はどう?」

-I feel better now-

「あなたはどうですか?」とはWileはフェナに問わなかった。
艦長と話した後、フェナは格納庫へ行きTran-DSの修復作業に手を貸していた。
まだ、「完全に信用できない」といわれたフェナには常にMPの目が付いている。
ついた時にはWileは少々ご機嫌ななめであったが、修復作業は思うより早く進んだ。
右手も修復され、新しい武器もいくつかメニューに追加された。
フェナはそれらのスペックを読み、気に入ったものをTran-DSの兵器データベースに入力していった。
それに応じWileもそれらを有効に使える装備パターンを叩き出していた。
しばらくして格納庫の立ち入り禁止辞令は解除され、作業は元に戻っていた。
しかし、作業所ではなかった事はいうまでもなかった。
人だかりがTran-DSの足元で、機体のことや、フェナのことで騒いでいる。
そんな連中を見ながら、フェナは修復されたセンサーで、格納庫を見た。
そのため頭部が少し動いている事が外からみればわかる。
Tran-DSの反対側のベッドにはトランゼスSが収められ、 一人の整備員がコクピットを覗くような形で頭をハッチの中に入れていた。
向こうの頭部も動いており、Tran-DSが動いている事に気が付いたかように通信が送られて来た。
何気なくそれを受けると通信ウインドウに真沙桜の顔が現れた。

『どうですか?調子は?』

にこやかに微笑みながら真沙桜がたずねた。
つられてか、フェナも少し明るい顔をして返事をする。

「まあまあです、零少尉。トランゼスSにはなれましたか?」

『一応ね・・・でもまだ一度も出したことがないから、本当はどうなのかわからないけど」

『ちょっと、零少尉!こんな会話、外ででもできるでしょう?!』

トランゼスのハッチに顔を入れていたランが割り込んでくる。

『出来ない会話だからこうしてるの!』

『しょうがないな、可愛い少尉のためになぐられます』

『ありがと、あとで何かおごってあげるね』

こんな会話を聞きながら、フェナはあきれたかのようにため息をすると、Wileに装備設定のシュミレーションをやらせた。
でもやっぱりフェナが思うような結果がでない。
原因はデータ不足とWileが推測してきた。

『あ、すみません』

「・・・・・・」

あやまりながら真沙桜は話をもとに戻す。

『それでですね、私の機体と勝負してみませんか?』

いきなり挑戦状を突き出すような発言を真沙桜がする。
しかしそれは悪意などは全くなく、彼女の素直な気持ちであった。

Tran-DSを見たときにこれこそが彼女が求めていた機体だと感じたのであった。
性能を自分で試してみたいと思うのも無理もない。
それが許されるはずがないので、自分から敵になって性能を見極めようと思ったのであった。

『少尉ぃぃぃ!!』

『あなたはだまっていなさい!』

泣き出すような顔をしたランを真沙桜はだまらせた。
トランゼスSがTran-DSにかなわないとは一目瞭然である。
それでもやろうと言った真沙桜にフェナはちょっとあっけにとられた。

『本当にやらせてくれるわけないから、バーチャル世界でのものになるけど』

「やりましょう」

少し考えてからフェナは答えた。

『わかりました!すぐに準備させます!!では!』

『少尉ぃぃぃ!』

外からも聞こえるランの悲鳴と共に、うれしくてたまらないような顔をした真沙桜が通信ウインドウから消えた。
フェナもその準備にすぐに武器、パターンの設定をしはじめた。
「初陣」のときと違い格闘と中距離戦用へとTran-DSは設定されていった。

-You're smiling-

「笑ってるぞ」とWileはとっさに口にする。

「え?」

Wileにいわれるまで気がつかなかったがフェナは自分がいつもと違う表情を出していることに気が付いた。
頬が熱くなりフェナはまるで恥ずかしがる少女みたいに両腕で顔を覆い、体丸くなる。
もしWileに戦闘以外の事について考える事ができていたら、「変な所で感情がでたな」と言っていたかもしれない。
そんな事が格納庫で起きていたころ、ハインラインはダカウの調査を終わらせ、やっとエンジンの修復をすませた。
今は、エルファ本部への帰還準備をすませ、まもなくジャンプをするのであった。
ジャンプ準備が整った時点でハインラインは、ダカウにトラクタービームをかけ、数秒後、ゲートを開く装置を射出した。
前方に青い渦巻きが現れハインラインはダカウを引っ張りながらそれに突入した。
ダカウがゲートの入り口をクリアすると、ゲートは光とともに消えた。
しかし、ハインラインは、そのゲートが閉ざされた数秒後に新たなゲートが開き、戦艦が20隻ほど現れたことを知る由もなかった。
アクセル級が10隻と、エクセル級が9隻と、スタークラスター級の大型指揮戦艦1隻が戦闘配備でこの空域に到着した。
だが彼らの標的はすでになく、ばん!とコンソールを拳でたたく音が旗艦タツナミのブリッジに響いた。

『全艦、ハインライン追撃をジャンプ準備しだい再開する。第一戦闘配置をそのまま維持!』

中村准将と呼ばれるこの男は声を殺しながら指示をだした。
しかし彼の顔は怒りより焦りを現していた。

「エルファにたどり着く前に「あれ」を破壊しなければ」

再びエルファに向かうため反転を開始している艦隊をみながら彼はそうつぶやいた。



歓声が格納庫と食堂で歓声があがる。
口笛が響き、「おしいぃ!」とか「ああ、もうちょい!」という発言が飛び回る。
今、クルーの視線は近くにあるモニターか、作業中のウインドーに向けられていた。
そこに映っているのは、Tran-DSとトランゼスSの壮絶な戦いであった。
また歓声があがる。
その時ちょうど、スクリーンにTran-DSがトランゼスSにナックルショットをくらった瞬間であった。
しかし、特に効果はなかったらしく戦いは続いた。
二つの光が離れては近づき、時にはぶつかっていた。
プラズマソードがぶつかり合い、粒子が飛び散り、稲妻みたいな現象が二機の間に発生される。
作られた宇宙間で二機のTAがぶつかり合う中、ハインラインは亜空間の中を進みエルファに向かっていた。
格納庫では、二つのTAから数多くのケーブルが延び、センサー等につなげられ、それらはまた二機の間に設置された箱につなげられている。
それがまた艦のメインコンピューターにつなげられていて二機の戦闘をリアルタイムで再現していた。
その様子が各スクリーンなど見る事ができ、ジャンプ中の時間をつぶすいい手段となった。
ブリッジでもメインスクリーンに二人の戦闘が映し出されていた。
CGで作り出されている戦闘とはいえ、本物に近い資質だったのでビームが機体をかすったりしたときには火花などが飛び、リアルな戦闘を観戦者にみせた。
真沙桜はTran-DSとフェナ相手によく戦っていた。
できるだけ責める事にして、Tran-DSに長距離射撃の機会をできるだけふさいだ。
それは常に格闘戦を仕掛ける事になったが、Tran-Dの戦闘データがベースとなってるトランゼスSでは難しいことではなかった。
ただ最初にこのを機体を見たときの不満はまだ残っていた。
当初の意見・・・・・敵の意表を突く攻撃が出来ない。
これが今でも真沙桜の脳裏で響きわたる。
それを除けばトランゼスSは操作性、バランスなどTAハイ・ランツをはるかに超えていた。
パターン入力とその反応速度も真沙桜が満足するものであった。
そんな真沙桜の相手をしていたフェナは、知らない感情を経験していた。
心臓の鼓動が高鳴り、呼吸が早くなった。
しかし、怒りとか苛立ちはなく、変わりに「楽しい」という気持ちが湧いてきた。
フェナはこの「戦闘」を楽しんでいたのである。
あのキラード−ルと戦った時とは違う感覚であった。
それはハンデーとしてTVSを解除し、Wileのサポートを切ったためかも知れない。
そのため、同じレベルで戦うことができた。
TAの能力を引き出すではなく、パイロットの能力を引き出すTran-D系のTA。
真沙桜が、Tran-DSとくらべて性能が少し低いトランゼスSで、まともに相手できてる事はまさに彼女のパイロットしての適正が高いからである。
トランゼスSはただその能力をよりよく表現しようとしている。
フェナの場合はTran-DSがその役目を果たしている。
当初Tran-Dにバーニアとかスラスターを追加して、宇宙用に改良しただけのTran-DSは、フェナの、パイロットの戦闘能力についていけないことが判明し、何度か改良されていった。
そのためフェナの思うような機体には仕上がってはいたが、また不満を生むものを入っていた。
不満といえばTran-DSが、長距離攻撃を重視したことであった。
常に格闘戦に持ち込むトランゼスSに苦戦・・というか満足な対応ができていなかった。
格闘戦を避ける為に、Tran-Dにはない頭部バルカンとか、近距離の銃器オプションパーツが作られたといっても過言ではないだろう。
プラズマソ−ドで再び真沙桜が仕掛けてきた。
それに対応し、その攻撃をフェナは自分のソ−ドで受け止めたが、いままでのようにそれを受け流すことはやめ、今度はそれを押し返す。
予測していなかったのか、トランゼスSのの動きが止まり次の攻撃パターンに移れなかった。
そのすきをフェナは見逃さなかった。
すぐにバーニアを吹かし機体を横に倒し、スラスターを使った蹴りをトランゼスSの頭部へと叩き込んだ。
その衝撃でトランゼスSは、回転しだした。
そこへ頭部バルカンと右腕に装備した小型60ミリ口径のガトリング砲を連射する。
回転を止める余裕がなく、真沙桜はすかさずトランゼスSの頭部と胸を守る形で両腕を上げる。
弾丸と破片が飛び散る中、真沙桜は機体制御より次の攻撃を練った。
実際に起こる遠心力などを感じないからできる芸当ではあったが。
フェナは距離を置きながら、容赦無く打ち続ける。
残弾数が秒読みより早く下がっていく。
そして最後のパターンへと移ろうとしてフェナがトランゼスSに体当たりを食わせようとした時、真沙桜をプラズマソ−ドを突き出した。
フェナもとっさにソードを抜き、それを止め勢いにのせそのまま体当たりをしようとした。
それを予測したのか、ただ偶然になったのか、トランゼスSのソードは逆さまになった状態で受け止められた。
次の瞬間、鈍い効果音とともにTran-DSの頭部がつぶれた。
観戦者たちが見ているスクリーンには、トランゼスSの左膝がTran-DSの頭部にめり込んでる姿が映し出されていた。
スクリーンの映像が消えた瞬間、フェナは危険を感じ逆噴射をかけトランゼスSから離れた。
サブセンサーに切り替えている間にトランゼスSは体制を立て直し、Tran-DSに向かって突進していった。
回復した瞬間その姿をみたフェナは本能的にTVSの緊急起動パターンを入力しはじめていた。
だがそれが間に合わないと分かった瞬間、それをキャンセルし、別なパターンを入力しただした。
その時にはプラズマソードを両手で構え、突きをする体制をとったトランゼスSが突っ込んでくる。
そして、その次におきたことは観戦者にとっては長い一瞬であった。
右の方へソードへ構えたトランゼスSはそれをTran-DSのコクピットを貫こうとする。
それを止めようとTran-DSの左腕が上がるが、トランゼスSのソードはかまわずそれを貫き、定められた目的にその先端がのびた。
ソードは、深々とTran-DSの胸を貫いた。
そのさきはTran-DSの背中のバックパックをもつらぬき、推進剤の融爆をおこした。
それを見たものから悲鳴と同時に歓声があがる。
それも無理もなかった、Tran-Dの量産型がTran-Dより優れてる機体に勝ったのだ。
少なくともその一瞬だけはそう見えた。
その次にでたコンピューターのメッセージはこんなものであった。

TA Battle Simulation
(TA 戦闘シュミレーション)
Battle No. 56 Results
(第56戦、戦闘結果)


Tran-DS........ Destroyed
(Tran-DS・・・・・撃破)

Tran-ZSS........ Destroyed
(トランゼスS・・・・撃破)


Time of Destruction
(破壊時刻)

Tran-DS........1:15:45:99
Tran-ZSS......1:15:50:00

これをみた者は真沙桜の勝利を祝うようなたいどであったが、それはすぐに別なものになった。
それは次にでたこのメッセージのためである。
Tran-DS Pilot Death Confirmed........1:15:40:01
(Tran-DSパイロットの死を確認・・・・・1:15:40:01)

TranZS-S Pilot Death Confirmed......1:15:40:01
(トランゼスSパイロットの死を確認・・・1:15:40:01)



シャワーの蛇口から熱いお湯が吹き出されている。
異常に熱いお湯だったので、シャワールームはサウナと化していた。

「うん・・・」

熱いお湯をかぶりながらそこには二人の女性の裸体が絡み合っていた。
口が重なっており舌まで絡み合っている。
おたがいの身体を手でなぞりながら首筋を噛み付いたり、胸をこすりあっている。
二人の側には制服と下着が一着脱ぎ捨てられ、すでにびしょびしょになっていた。

「あ・・・うん!」

片方がちょっと声を出すがすぐにそれを押し殺す。
息遣いが少々シャワールームに響く。
小柄の女性がせめていて、口を常に重ねようとしている。
彼女の身体はほっそりとしており、「骨だけか?」と思わせるような足をしながら胸はそれとバランスが取るかのように少々小さかったが、弾力は充分にあった。
ポニーテールをおろして肩まである彼女の濃い茶色の髪は、ぬらされて、その身体に密着していた。
時々、邪魔な前髪を後ろへとかき上げながら口と舌で知っている相手の身体を弱点をせめた。

「ちょ、か、かおる・・・」

彼女より10cmほど背が高く背中まである黒髪を頭に束ねた女性が抵抗しようとする。
美人スーパーモデル級と言えなかったが、乱れのない彼女の身体は町とかで男に顔を振り向かせるものであった。
お湯の熱さのせいか抵抗できず彼女はそのシャワー個室の壁に押し付けられた。
相手の娘は「攻撃」をやめず、今度は手を下へ下へと彼女の胸から腰へとなぞった。
そして下腹部をすぎ、前の方に動きさらに下へと行こうとしたときパシ!という音と共にその手の手首がつかまれ、その「進攻」はとめられた。
手を止められた娘の顔の前には小さな微笑みを上げ顔を左右に振る相手の顔があった。
『まだ、だめ』と言われてるのがわかった彼女は再び口を重ね腕を相手の首にまわした。
結構強く捕まれたのか、手首あたりがちょっと赤くなっていた。
相手も背中に手を回し強く抱いてくる。
長い長い間口を重ねた後、二人はやがておたがいを離した。

「はあ、・・・」

と満足な声を上げながら小柄の子はそこへ座り込んだ。
責めをうけていた方の女性は呼吸を整えようとしていた。
そして拳でコンと薫の頭をかるくたたいた。

「こら・・・・」

たたかれた所を押さえ薫が真沙桜の顔を見上げる。

「だって・・・」

そういうと薫は顔をおろした。

「あの時、本当に死んだとおもっちゃったんだもん」

頭ではシミュレーションだと分かっていても身体はそう思ってくれなかったと薫はつけたしかった。
あの時、つまりあのトランゼスSのプラズマソードがTran-DSの胸を貫いた瞬間、ブリッジではその反対の方向から見ており、その攻撃をよけたかのように見え、Tran-DSの右腕がトランゼスSのコクピットがある胸の部分にナックルショットをめり込ませた瞬間が見えたのだ。
そのアングルから見たものはみな真沙桜が負けたと信じた。
コンピューターからの報告と最後の瞬間のリプレイがあるまで相打ちだったことは判明されなかった。
その瞬間をみた時悲鳴を上げそうになった薫は口を押さえ、ブリッジを許可無しに飛び出し格納庫へリフトも使わずに格納庫へと走った。
しかしブリッジから格納庫まで15デッキもあり、そこへ着いたころには真沙桜はすでにシャワールームに行ったと伝えられ、息が切れてるのをかまわず真沙桜の後を追った。
半泣きそうな顔をしながら更衣室に飛び込んだところ、そこに真沙桜の作業服がおいてあった。
制服を脱がさずそのままシャワールームに飛び込んだ薫は真沙桜を見つけると飛びついた。
涙を止めることはできず、声をだして泣き出す所、すぐに事情を飲み込んだ真沙桜はやさしく口を重ねたのであった。

「制服どうする?」

おたがいの身体を洗った後、びしょびしょになった服を薫に渡しながら少し意地悪そうに真沙桜が聞く。

「あ・・・・」

少し困った顔で薫がそれをみたとき

『ジャンプゲート離脱まで後30分、総員配置に付いてください』

別の女性オペレーターがクルーに発表をした。

「私の作業服を貸すから」

薫にタオルを渡しながら真沙桜はそういうと更衣室にもどった。

「うん・・」

その姿の後を追いながら薫は髪を念入りにかわかした。

「はい」

今度は真沙桜にブラッシを渡され、髪を整えるとポニーテールにまとめた。
少々油と汗のにおいがする作業服を着た彼女は、制服に着替えた真沙桜といっしょに更衣室をでた。

「じゃ、またね」

「うん」

真沙桜はすぐにジャンプ・アウト(ジャンプゲート離脱)の準備のため格納庫へ戻り、薫は急いで自室で制服に着替えるとブリッジに戻った。
ブリッジに戻ったときは厳しくフォルスリングにしかられた事は言うまでもなかったが、ジャンプ・アウトまで上機嫌だったので、その態度に少々あっけをとられたとブリッジクルーがあとで話していた。

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