Tran-DS
The Side Story of Tolled Armor Tran-D
Chapter 2: UES Heinlein
part5

赤い光が宇宙へと伸びている。
その先端に戦艦があり、その線を伝いにその船はその惑星、いや、惑星の衛星に近づいていく。
ガイドビーコンであるそれは、ゆっくりと高度を降ろして来るハインラインを指定された港へ導いた。
エルファ星の月、その陰面には光をちらちらさせているものがある。
その形は、まるで蜘蛛の巣のようであった。
ハインラインはゆっくりとその中心部へと降りていく。
ブリッジの空気は緊張感で充満していた。
いくら降下が自動化されたとはいえ、何が起こるかわからない。
すぐに対応できるようヒュート少尉は、常に指をスラスター制御キーの上におき、いつでも動けようにしていた。
降下中の船は、いきなり高度をおろして下りるわけには行かなく、配置されているガイドビーコンをキャッチして月を二、三回回ってから降りるのだ。
その数が数隻になると、タイミングが微妙になり、失敗するとほかの船が遅れるということが起きる。
もちろんガイドビーコン無しの降下は可能だが、自力で月の裏側まで移動しなければならないので時間と燃料のむだである。
パシュ!という音と共に、最終降下進路を制御するトラクタービームがハインラインを捕らえた。
指定されたハッチの口が開き、ハインラインはそこに滑り込む。
降下最終プログラムが起動し逆噴射がかけられ、重い音ともにハインラインは着陸した。
リアクターの活動停止し、ブリッジのクルーは安心の一息をする。
次の瞬間、通信合図がなり、それはスクリーンへと出された。

『ご苦労だったな、フォルスリング大佐』

「提督!」

その顔をみるや、ブリッジにいる人間はすべて気を付けながら敬礼をした。
白髭がよく似合い、いかにも軍人を思わせる彼、シュターン提督は、物静かにブリッジの人間を見渡した。

『君から届いた報告書を読ませてもらった、後で私の所へあの二人つれてこい』

「承知いたしました!」

自分の身体が少し震えてる事をフォルスリングは気が付いた。
普通はオペレーターが挨拶をするはずのところに地球連邦エルファ防衛軍総司令がでたのだ。
しばらく沈黙が続くと、シュターンはにこやかに微笑んだ。

『まあ、そう固くなるな。ハインラインの修理が済むまで乗り組員には上陸の許可をする、いや、命令にしておこう』

「ありがとうございます!提督」

『では、後でな、フォルスリング大佐』

「はっ!」

通信が切れ、再び緊張から開放されたクルーは席に沈んだ。
ちょっと頭を抱えるしぐさをしながらフォルスリングは岬少尉の方へと顔を向けた。

「あの二人を私の部屋へ呼んでおいてくれ」

「はい」

だれなのか言われなくても分かっていたかのように岬少尉は、艦内放送で二人を呼び出した。

「残りの乗組員は作業終り次第上陸する事を許可する」

ブリッジのクルーの顔が明るくなった事を確認するとかれは艦長室へと向かった。
彼にとっては休みはまだまだ先であった。



スクリーンにTAのシルエットと共に数字など並んでおりウインドーがいくつか開いてある。
その一つでTAが二機戦っている。
数時間前に行われた模擬戦である。
それを軍専用の下着のボディースーツだけを着た女性が机の上に足を乗せ、腕を組みながら見ていた。
髪には水気があり、それを後ろに束ねてある。
組んでる右腕に白い筋が通っている赤いカンがある。
彼女は何度も何度もその戦闘の記録を再生してその様子を見る。
表情からして何もなかったかのような顔をしていたが、その様子をみるとしたらその模擬戦について不愉快なところがあるということはあきらかであった。
しばらくして、ピピー!と言う音がして、Wileのロゴが別なウインドーで開かれる。

-Data Compiled-

「・・・・・・」

それを合図にフェナは足を下ろし、キーボードを叩き始めた。
回転するTran-DSのシルエットの側に数字が動き回る。
ウインドーの開く効果音が時々なり、スクリーン上にウインドーがあっちこっちに動く。
瞬きもせずフェナの目はスクリーンを凝視し、手が異常な早さでコマンドを入力していく。
しばらくして、フェナ大きな動きとともに最後の実行キーをした。
ちりちりと言う音ともにTran-DSとトランゼスSに関するデータの解析結果が出てきた。
それをしばらく見て、フェナはため息をする。
Tran-DS基本性能がトランゼスSに遅れを取っている事が判明されたのだ。
フェナ自信のことは関係なく、トランゼスSの方がよりよくパイロットの能力を引き出していたのである。
グランプリング等でTeam Satellite(チーム・サテライト)のことTran-Dが実戦で手にした情報がよりよい機体を誕生させた。
Tran-DSの場合、地球本社がそういうデータの集め方を認めず、常に軍との協力上の模擬戦が行われていた。
それでフェナが持つ能力を発揮するため、上層部の反対を押し切りAIのWile E. CoyoteとTVS(Thrust Vectoring System)が採用されたのである。
色々な事が考えられるが・・・・フェナはTran-DSをゼロから再設計する事を決めた。
それをするにはまずエルファに降りなければならない。

「Wile、Tran-DSを地上用に再設定するにはどれぐらいかかる?」

宇宙用のTAを地上で動かすと言う事はそのBIOSを書き直さなければならない。
普通にやれば数時間はかかる作業である。
しばらく沈黙した後Wileは答えを出してきた。

-If we use Tran-ZSS's main BIOS, it shouldn't take that long-

「どれぐらい?」

-Estimated time about 2 hours, due to configuration settings for the TVS-

「わかった、すぐにとりかかって、私もすぐに行く」

-Roger-

Wileのロゴは消え、フェナも立ち上がり背伸びをする。
伸び仕切ったところで内線の合図がなった。
スクリーンにより、受信のキーを押すと岬少尉の顔が出た。

『フェアランス少尉、艦長がお呼びです、至急艦長室へいらしてください』

「わかった」

といいフェナはいきなり線を切り、制服を着はじめた。
「なによあれ!」と岬少尉が大声で叫び、ブリッジの人間をまた驚かせたことはフェナは知る由もなかった。



MPが二人、三人の前を歩きながら通路の奥へと案内した。
パルスライフルをしっかり構えながら、決まったペースで進む。
所々に監視カメラがその姿を捉とらえている。
やがてある扉に着くと二人は通路の行く手を塞ぎ、一人はドアを開けてそこで立つ。
三人は無言にそこに入った。
ドアは静かに彼らの後ろで閉じられた。
内側に木が張られてるため、二回ぐらい軽く跳ね返りその音がその部屋に響く。

「フォルスリング大佐、以下二名到着いたしました」
フォルスリングは敬礼をしながら、奥の机に座っている人物に報告をする。
白髪の男性はただ無言に彼の机を背に、外の様子をみている。
壁一つを取っているその窓から着艦する船や発進する船が見える。
時々周辺の警護に当っているTAと戦闘機の小隊がスラスターを吹かしながら頭上を通る。
RA社のTAハイ・ランツ、その名の通りランツを主の武器としたその機体は、現在地球連邦宇宙軍の主力TAである。

「フォルスリング大佐、君は何故上官の命令を無視してあの空域に残った?」

男は彼らに向き直しながらフォルスリングに尋ねた。

「そのことはもうすでに・・・・・」

「私は君から直接聞きたい」

「は、私が個人的に中村准将の命令に不信な点があったと思った為です」

この人には嘘は通らない・・・そう思ったフォルスリングは報告書とは違う本当の理由を言った。

「ほう?どういう点だ?」

「一番気になったのが、あの機体を受け取るはずの我々を差し置いてその受け渡しが済んでいたという事です」

「軍の陽動とは思わなかったのか?」

「それは・・・ありえません。 フェアランス博士と合流地点を決めたのは他でもない私なのですから」

「ふむ、なるほど」

-こんな話、私が聞いていていいのだろうか-

フォルスリングとシュターンの話を聞く真沙緒はふとそう思った。
目をフェナにやると、彼女はただ無表情に話を聞いている。
いや、聞いてないかも知れない。
表情をあまり見せない彼女が考えていることを察するのは無理だ。

「零少尉!」

「は、はい!」

シュターンに呼ばれ現実に戻された真沙緒は目を前に戻した。

「トランゼスSをどう思う?」

「いい機体です」

「それだけかね?」

「それだけです」

「そうか」

真沙緒のあまりにもあいまいな答えにフォルスリングはあっけに取られた。
以前格納庫で聞いた話でもするのかと彼は思っていたのだ。
真沙緒自信も自分が言った事に付いて内面おどろいていた。
もうすこし言いたい事はあったかもしれないが、いまは何故かそれ以上はでなかった。
そしてシュターンが顔をフェナに向け同じ質問をしようとしたとき、答えはもう出ていた。
フェナは顔を左右に振っていたからである。
それだけで納得したのか、シュターンは机に付き、ラップトップで何かを簡単に入力した。

「提督、一つお聞きしてよろしいでしょうか」

「うむ」

「中村准将は・・・」

「彼は・・・君の船を追ってあの空域へ向かったが・・・・それから連絡がつかん」

「私の船を「追う]?」

「君があの空域にいるのが彼に取っては不都合だっようだな・・」

「何故そんな・・・・・そうか」

フォルスリングが答えにたどり着いた瞬間、視線はフェナに集中した。

「Tran-DS・・・・彼にとってそれが・・・」

「じゃあ、あの爆発の原因はフェナにあるんですか?」

真沙緒は同じ決断にたどり着き、フェナの船がその後に現れたことに気付いた。

「ちょっと違うが・・・」

「その通りです」

いままで沈黙していたフェナが発言をした。

「でもなんで?!」

真沙緒の目に涙が溜まりはじめ、決して長くない爪が手に食い込むほど拳に力が入る。
仲間が多く死んだ原因はフェナにある。
この事が真沙緒にフェナに対して憎しみを生ませた。 「私が船が入ったゲートのすぐ側で自爆シークエンスに入っていた戦艦の反応炉を狙撃したから、爆発はゲートに流れ込み・・・ゲート内の戦艦はシールドもないに等しいからその船も消滅・・」

「それで目的地が決められているゲートが開き、そこへその力は消滅もせず進み、針が刺さった風船から抜ける空気みたいに周辺の空間を破壊したというわけか」

フェナの説明をシュターンが終らせた。

「でもなんでそんなことを?」

「攻撃を受けたのはこっちで、私は反撃をしただけ・・・」

「そこまでしなくても!何人死んだと・・・・!」

「零少尉、やめろ」

「し、しかし!」

口論を続けようと思っていた真沙緒だったが、フォルスリングにきつい目で見られると引き下がった。
フェナはなにも言わず、無表情に真沙緒を見ていた。
泣き出すのをこらえる為、真沙緒は口を手で押さえつけている。
沈黙がしばらく続く。
それを割ったのがシュターンであった。
「二人には二機のTAと共にエルファに降りてもらう」

「え?!」

フォルスリング並びに真沙緒が驚きの声を上げる。

「ハインラインが修復完了した後、直ちに発進して二人をエルファにシャトルで送れ」

「しかし、何故ですか?」

「ラグナスに彼女たちを保護してもらう」

「何故、我々では・・・・」

軍で守れば十分ではないかとフォルスリングは言いたかった。 「中村准将はここではかなりの影響力をもっている。彼女たちをここにいては変えって危険だと私は思うが」

「零少尉が降りるのは、トランゼスSのパイロットだからですか」

フォルスリングの一言に、シュターンは無言に頷くと二人の女性に目をやる。

「何が起きるか分からん。エルファへ向かうさい、ハインラインの同級アインシュタイン級を5隻護衛に付けさせる」

「わかりました」

「以上だ、二人とも直ちに準備に掛れ」

「はい!」

三人が敬礼を退室しようとしたとき、

「あ、フェアランス少尉、君にはまだ話がある」

「はい」

シュターンがフェナを呼び止めた。
真沙緒とフォルスリングは一度フェナの顔を見ると退室した。
部屋は二人だけになる。
シュターンは立ち上がるとフェナのすぐ側まできて手を彼女の肩におき、

「久しぶりだな・・・あれから7年か?」

といい、それに対しフェナは小さく頷いたのであった。



アインシュタイン級の戦艦が6隻月の重力圏内を同時に離脱していた。
強襲用空母戦艦と設計されたこのクラスは、軍の最新なものであり艦隊の旗艦として配備されていてもおかしくはない。
また戦闘能力が高いため、一隻で独立した行動もとれるのである。
通常のカタパルトが使用されているエクセル級とは違い、アインシュタイン級には2基のリニア・カタパルトが装備され、TAの連射出が可能となった。
そのためTAと戦闘機を両方扱えることが可能になった。
艦載機はSF-231スターレイピアで、TAと対等に戦えるように設計された機体である。
宇宙と大気圏内の同時活動が可能なこの機体も単独で大気圏突入もでき、状況に応じる為、翼は通常の後方向きの配置と前方向き配置の配置ができる。
かつて地球の空母で活躍したF-14 Tomcatとその跡継ぎになったF-19の二機をカップリングさせた機体ともいえる。
そしてスラスト・べクタリングを利用し機動性はかなりあり、急な動きができるのである。
そのスラスト・べクタリングをTAに付け、進化させたものがTran-DSのTVSである。
月の重力圏を離脱した6隻は、ハインラインを中心に円形を造った形で月の引力を利用してエルファに向う。
ハインラインの格納庫ではTran-DSとトランゼスSと各機の装備をシャトルに積み込む作業が行われていた。
運送用のTAベッドが二つ繋げられ、タンスに入る服のように二機が収容された。
最後のコンテナが収められ、シャトルのハッチが閉ざされた。

『エルファ到着まで後13時間です、第一警戒態勢を維持してください』

薫とは違うオペレーターの声が格納庫に響いた。
空気が気迫でぴりぴりしてクルーに取っては、一分がまるで一時間のように感じはじめていた。
訓練はしてきたが、もし戦闘状態に入れば彼らに取ってはこれが初めての実戦になる。
こういう時に緊張で仮眠を取れない者もいて、食堂でコーヒー等を要求する者は少なくはない。

「休んでおけといわれてなかった?」

話し掛けられた女性はゆっくりと顔を上げる。

「真沙緒・・・・」

薫はそっと話し掛けてきた相手の名前を言った。
真沙緒は片手に持っているコーヒーマグをテーブルにおき、薫の向かい側の椅子に腰をおろした。
マグのなかにはコーヒーではなく、ティーバッグが浮いている。
対して薫のマグにはぎりぎりまでに黒い液体が入っており、いくつか水滴の後がありこれが何杯めのコップなのかわからない。
「それ、何杯目?」

真沙緒が少し怒った口調で薫に聞いた。

「知らない・・・・」

目が赤い薫が今にも倒れそうな声で答える。
ため息をすると真沙緒は薫のマグをとり、変わりに自分のマグを握らせた。

「それ、飲んでみて」

言われるままに薫はそれに口をつけた。
ふんわりとした香りがそれをよりよく飲みやすくしている。
胸があたたかくなりそれが次第に全身へ回った。
まるでコーヒーのカフェンを打ち消すかのように薫は眠気に襲われる。

「こ、こら!ここでねるんじゃないの!」

「・・・・・・・」

食堂のテーブルで眠ってしまいそうな薫を真沙緒は手を貸しながら、薫の部屋に連れていった。
部屋に入ると薫はそのままベッドに倒れ込んだ。

「上着!・・・って聞こえてないか」

しょうがなく、真沙緒は薫の上着と靴を脱がした。
そして簡単に薫に毛布をかけ、彼女のポニーテールを降ろした。
手で簡単に髪をといてやり、ベッドから離れようとしたとき真沙緒が離れるのを感じたのか、薫は真沙緒の手を掴んだ。

「・・・・」

真沙緒はそれに抵抗せず、薫の側に腰をおろし、頭をなでてやる。
やがて深い眠りに入った薫は自然に手を離した。
その手を毛布の下にしまうと、真沙緒はそっと薫の頬に口を当て、静かに自室に戻った。
エルファ到着まであと10時間であった。

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