YTさんの個室



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<アマさん雇用顛末記2>

午前中は隣の雇用主は留守のようで、留守番がてらジョシーは息子の子守りを手伝ってくれていたようである。家内も丁度退屈を持て余しており、暇つぶしの都合の良い話し相手になったらしい。当時やや育児ノイローゼ気味になっていた家内は、ジョシーのお陰で大分“精神的”に楽になったようである。彼女は昼間の彼女の自由になる時間の間に息子をよく散歩に連れて行ってくれた。余程遊ぶのが楽しいのか、歩くのが好きなのかは不明だが、一度散歩に出掛けると1時間は帰って来ない。その間に家内は子供と離れて気分をリフレッシュでき、息子も散歩の後余程疲れているのか、良く昼寝をする。

すぐに家内の“小言”が目に見えて減った。

『アマさんを雇ってみようかな・・・』と思い付くのにそう時間は掛からなかった。家内と私は同時にそんな事を考えていた。『住み込み』は少し抵抗があるので、取り敢えず『通い』で、ジョシーに誰かいい人がいれば紹介してくれるよう頼んでおいた。

次の月になると、ジョシーは約束のように毎日ウチに来て息子と遊んだり、たまに部屋の掃除まで手伝ってくれるようになった。その頃には家内も相当ジョシーと仲良くなっていたので、時折いろいろな彼女の『身の上話』(後述)を聞かされたようである。時々泣きながら話す事もあったそうだ。家内は大変同情し、『もし“隣”とのアマさん契約期間が終わったら、ウチで働いてみない?』とジョシーに提案したところ、彼女は大喜びして、大変乗り気だったようだ。もちろん『住み込み』アマさんである。

しかし、この提案がその後お互いの“首を締めていく事”になろうとは、その時一体誰が考え付いたであろうか・・・。

夫婦の会話もジョシーが話題になることも殆ど毎日であった。正直言ってこのアマさんは英語が下手で(我々ももちろん人に自慢できる程のレベルじゃないが・・・)彼女とのコミュニケーションは容易ではなかったが、彼女から聞いた話を総合すると以下のようであった。彼女はフィリピン人で、3歳の息子をフィリピンに残して出稼ぎに来ているようである。旦那はタクシーの運転手だったが既に亡くなっており、仕方なくマレーシアまで出稼ぎに来ている・・・確かこんな話であった。

彼女の口から、よく雇用主に対する不平、不満が出た。毎日虐待されていると一生懸命訴えていた。雇用主が彼女の事を信用せず、何かモノが無くなれば真っ先に彼女が疑われ(実際は隣んちの悪ガキが“犯人”である)、何かにつけて彼女に辛く当たるのである。洗濯機が壊れても直してもらえず、ここ数ヶ月間家族全員の洗濯物を毎日“手”で洗っているらしい。その為身体の調子がすぐれないそうだ。毎日、雇用主との口論が絶えず、よく大声で言い争いをしている事を同じフロアに住んでいる住人はみんな知っている。

そう言えば、最初彼女を見た時に感じた『若々しさ』は既に消えており、見るからにげっそりと疲れたような風貌になって頬もこけているように見えた。彼女の風貌を見る限り、何の疑いも無く彼女の訴えは全く正当であるかのように感じられたのであった。隣の中国人は信じ難い程“非人間的”で“鬼畜”のようで、相当な“悪人”のようである。彼女にいたく同情した家内と私は、ついには彼女に『友情』のようなものすら感じていた。何とか彼女を助けてあげたい、と心底思った。そこで出たのが家内のジョシーに対する『上記提案』である。これは全く自然な流れであった。


つづく
                       By.YT

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