渚 水帆の小さな童話 No.1
「ピアノの国の物語」
渚 水帆 作
大きな白い橋がありました。
それは真っ白で留め金は真っ黒で、どこまでも果てしなく続いていました。
そこには5人の家族が住んでいました。
ずんぐりむっくり、小さいけど頼りになるお父さんサムと品があってつつましやかな、
お母さんのホウ、背が高くて痩せっぽっちの、1番上のお姉さんミディ、
優しくて家族の人気者の2番目のお姉さんリン。
そして、1番年下のちびっこエイミー。
みんな仲良く暮らしていました。
ある日のこと、小さなエイミーが、
「この橋の向こうには何があるんだろう」
と、いつものように言い出しました。
サムお父さんとホウお母さんは、首を傾げました。
「何があるんだろうね」
みんなで、遥か彼方まで続く、真っ白な橋の向こうに目を向けました。
「行ってみようか」
「行ってみようよ」
それぞれのリュックに、三色のハムサンドに紅茶の瓶をつめて出発!!
ぴかぴかの靴は、はじめはカタンカタンと高らかな音色を立てていましたが、
だんだん低くて落ち着いた音色に変わりました。
「ずいぶん歩いたね」
「そうだね、エイミー」
ちょっとひと休み、と歩くのをやめた時に橋の向こうからこちらに歩いてくる人影が見えました。
ひとり、ふたり、さんにん、よにん……ごにん!! エイミーの家族と同じ5人です!
近づいてくるともっとはっきり見えました。
エイミーと同じ年頃の小さな男の子と2人の背の高いお兄さん、
エイミーの家と同じ、ずんぐりとしたお父さんと上品なお母さん。
「はじめまして」
「一緒に踊りませんか」
お互いになんだか初めて会った気がしなくて、すぐに仲良くなりました。
それぞれのパートナーと手をつないで、みんなで同時に踊りはじめました。
踊りの大好きな家族でしたから。
エイミーの家族の靴からは、高い音色のメロディーが、
男の子の家族の靴からは低いメロディーが鳴り響きました。
お母さんとお姉さんたちがお父さんを飛び越して上手にステップを踏みます。
お父さんは力強いメロディーを奏で、笑顔が行き交います。
エイミーと男の子は見つめあいながら、ずっとぐるぐる回っていました。
1人で踊っている時よりも、家族と一緒のほうが楽しくて、
そして今日みたいにたくさんで踊っている時のほうが数倍楽しく感じました。
メロディーは響きあって、ひとつのきれいな曲となってどこか遠くの国へと流れていきました。
「そろそろ一緒に食事はいかがでしょう」
サムお父さんが言い出して、みんな笑顔で準備にかかりました。
「踊りつかれましたね」
「ごはんがおいしいですよ」
三色のハムサンドはとてもおいしくて、紅茶がたくさんふるまわれました。
空を見上げると虹が架かっていました。
おしまい