渚 水帆の小さな童話 No.4






 ゆにちゃん



                     なぎさ 水帆 作



 おばあちゃんの田舎へ向かう列車は、がたんがたんと音を立てながら南へ走っています。

 ゆにちゃんの家は5人家族です。

 お父さんとお母さん、2人のお兄さんとゆにちゃん。


 4人掛けの座席には座りきれないので、1番年下のゆにちゃんが3車両の列車の中を 元気に走り回っています。

 ゆにちゃんが行くところ行くところ、列車の中では笑い声がおこる。

 ゆにちゃんのほんとうの名まえは優似子と書いてゆにこと読む。

「ゆにちゃん」と呼ぶと、いつもわあっと顔をくしゃくしゃにさせて喜ぶ。

「どういういみなの?」と聞くとかならず。

「ユニコーンって知ってる?」と、逆にゆにちゃんに聞き返される。

「ユニコーンっていう一角獣のお話でね、行くところ行くところでみんなを幸せにするの」

 とくいげに話すゆにちゃん。


「一角獣ってどんな動物か知ってるの?」

 とたずねると、ピンクのスカートのポケットから白い紙を取り出して、緑のクレヨンで、さっさっさと描いてみせる。

「角のある翼の生えた白いお馬さんなんだよ」

 ふふふっと笑って走り去っていく。

 すると、決まって優しい風が吹いてくる。

「ゆにちゃんかわいいね」

 乗客はみんな、笑顔でゆにちゃんを見送る。

 ふり返って小さい手をばいばいとするゆにちゃん。

「またもどって来るって」

 せまい車両をなんどもなんどもあちこちで一角獣の絵なんて描いてみせながら往復している。

 ゆにちゃんのお兄さんたちが、

「ゆにちゃんそんなに走ったらあぶないよ」

 と声をかけた。

 うんと笑って答えるゆにちゃん。


 ゆにちゃんが次に足を止めたのは、学校が終わって帰省とちゅうの女子学生の前。

 三つ編みがよくにあって、せいけつな感じのするセーラー服のその女生徒は読みかけの本を閉じて ゆにちゃんに微笑みかけた。

「おねえちゃん、こんにちは」

「こんにちは」

 にこっと小さな太陽のように笑うゆにちゃん、麦わら帽子が風で横にゆがんでいる。

 おねえさんは、ゆにちゃんの帽子をちゃんともとにもどして水色のリボンをきちんと結んであげた。

「ありがとう」

「どういたしまして」

 おねえちゃんを不思議そうにじーっと見ているゆにちゃん。

 せっけんのようないい匂いがしてそばを
はなれたくないようだ。

 おねえちゃんが小さなポーチから苺のキャンディーを取り出してゆにちゃんにくれた。

 笑顔でキャンディーをうけとるゆにちゃん。

「ありがとう」

「どういたしまして」

 列車がゆれるたびに、がたんとゆにちゃんもゆれる。

 だんだんとまぶたが重くなってくる。

「つかれちゃった? 」

 こくんとうなずくゆにちゃん。

「かわってあげるね」

 おねえちゃんが席を立って小さなゆにちゃんにかわってくれた。

「ありがとう」

 座り込むと、ゆにちゃんはすぐに眠りの国へと旅立ってしまいました。

 夢の中では、緑の草原に青い風が吹いていて、背中に白い翼の生えた馬の背中に乗った ゆにちゃんは、おとぎの国へと飛んでいきました。

 お父さんとお母さんが「ゆにちゃん」と遠くから呼ぶのにきがついて目覚めると。

 もおおう列車は終着駅についていました。


「よく眠れた?」

 おねえちゃんの優しい笑顔と、お父さんお母さんの顔、2人のお兄ちゃんの顔がゆにちゃんには 重なって見えました。


「うん」

 大きなのびをして起きあがると、列車の窓の外にはおばあちゃんが迎えに来ていました。

「ゆにちゃん大きくなったね」

「おばあちゃん、大好き」

 おねえちゃんが手をふって「ばいばい」と最後に言ってくれた。

「ありがとう、おねえちゃん」

 おねえちゃんが別れぎわに1枚のカードをくれた。

 そこには一角獣の背中に乗って空を飛ぶ
ゆにちゃんのすがたが描かれていました。

「わぁい!」

「大切にしてね」

「うん」

 とうなずくゆにちゃんの後ろでは、おばあちゃんがおかえりと笑っていました。




                                     おわり






千尋さん作


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