≪黒衣の看護婦:福助二世版:第一章≫<深夜の魔界整形>
by 福助二世
「、、、、早島さん、、これが、、、、、早島さん、、これが、、貴女の新しい
『顔』になるのよ、、、貴女の新しい『顔』になるのよ、、、」
{ふぐうっふうぅぅぅううぅぅぅぅ、、}
「うわあぁっはああああぁぁぁぁ!!”!イヤあぁぁぁ!!!、、、、、、は?、、え?」
その自分の声に眼をさました早島看護婦がいる場所は・・・病室だった。換気の為にそうしたのだろうか、30cm程開けられた窓から吹き込む風に舞い上がったカーテンが、はたはたと早島看護婦の顔をなぜつけていた。
まだ夢の中にいるのだろうか?、、、早島看護婦は まるで自分の身体ではないよう
な、自然の目覚めの開放感とは全然違う気だるく重たい目覚めに戸惑いながらも、うろんな瞳で病室内を見回した。
サーーーージャラシャラシャラ
ベランダをささらう水音と窓から入り込む濃密な水の匂いに、外に目を移すと病室の窓の外は、漆黒の闇を切り裂く銀線が何本も降り注いでいる、、、
「雨になっちゃったのね、、それよりさっきのは夢?、、、今、、何時頃なのかしら?、、」
定まらない意識は、早島看護婦の思考を整理して一本化させるのに普段よりも時間を要した。腕時計はすでに深夜2時を示している、、、ナースセンターから出て数時間が経っていると言うのに、誰も早島看護婦を探しに来ないことも不思議だったが彼女にはまだ、それを感じるだけの余裕はなかった。
ピッピ、、、、、、ピッ、、ピッ、、、、、、、、ピッ、、、、、ピピッ、、ピッ、、、、
不規則なリズムを刻みながらモニターにオレンジ色のさざ波を走らせるコンピューター連動の医療器具の隣のベッドには、まくれ上がった掛け布団から静脈に点滴チューブの針を刺した青白い腕が見えていた。すでに絶命しているのか?その顔に被せられた白布の為に表情を見ることは出来ないが、コンピューターの自動生命維持システムは強制的に呼吸させているのか、時折その白布の口と鼻の部分がかすかに微動している。
ピカッ!!!
シャッ!カラカラカカラカラカラ、、ドシャアァァァァン
かなり近い距離に落ちたものか、耳をつんざく雷鳴に続いてツンとする電気接触のようなこげ臭い匂いが病室内に漂う・・・その雷鳴をさかいに一段と強まった雨足が早島看護婦の耳を蔽った。
ザァアァァァ、バシャシャシャシャ、、、ザアァァァァ
フシッ、、、フゥゥゥッ、、、、、、、、、、、、、
、、、、、、、、、、コー、、、、、、、、フシュー、、、、、、、、、コー、、、、、
置き忘れられた唇、、、、まさにそんな表現が当てはまる、、否!それ以外に形容のしようのない光景、、、、そうでなくても聞き逃しそうな小さな呼吸音とは別に、ベッドに横たわる女性の顔を蔽った白布に変化が起き始めたのを目撃して、やっと早島看護婦は事の異変を感じた。
どちらかというと乳色おびた白布の口の部分が、早島看護婦の観ている前で、それまでのあやふやな起伏から徐々にしっかりした輪郭を帯び始め、やがてその裏側から滲み出した紅色がはっきりした唇のカタチになって・・・・・・開いた!?
[こ、、れ、が、、、貴女、の、、新しい、、『顔』に、、、なるのよ、、、]
「きゃあああぁ!?、、、、おふぉうぁあぁふっふうぅぅ!!!!」
早島看護婦の悲鳴は途中から呻き声にトランスしたが、それはもちろん彼女自身の意志などではない。まるで壁から生えてでも来た様な腕が早島看護婦の口を封じると、それを待っていたようにベッドに寝ていた女性が、かけられていた布団と顔の白布を剥ぎ取って幽霊のように起き上がった。
「ひっ、ひぃふあうぅぅふいいぃぅぅむうん」
『ふふふふふ・・・素直に驚いてくれるのは嬉しいんだけど、少しやかましいかな。』
{早島さん?ここは病院なのよ。あまりやかましいと他の患者さんの迷惑なのは解るわよね。先輩からのアドバイスとして、念入りな猿轡を嵌めてあげますからね、大人しくするのよ。}
「ひっ?、、あなふぁ、、ふを、、うううん、、荻野センパふあぶっおふうぅむん?」
{あらやだ?マスクが外れちゃったわ、、もう、、早島さんがそんなに暴れるんだもの。貴女の顔をもらうまでは内緒にしときたかったのになぁ。。。うふふ、、そんなに暴れるんじゃ可哀相だけど手錠も嵌めておきましょうね。}
猿轡を嵌めようとする幽霊のようなサンノミヤと、羽交い締めから逃れようとして、早島看護婦が もがいた瞬間、彼女を後ろから押さえつけている女性の顔に手が触れてかけていたマスクが床に落ちた。そのマスクの下から現れた顔は、早島看護婦の想像を大きく超えていた。
それは数日前に交通事故で亡くなった筈の、早島看護婦の先輩、荻野主任看護婦だったのだから。その荻野主任に後ろ手に手錠を嵌められた早島看護婦だったが、、だが早島看護婦の驚く事はまだあった。まるで幽霊のようななりで彼女の口に猿轡を嵌めようとしているサンノミヤと言う患者が自分の顔を掻き毟るように爪をたてると・・・・。
ムリュ、ミリミリミリ、ペリパリリリ
ビュヨヨッパリリリリッ
『荻野さん、、、いいえ もう早島さんよね。良いじゃない、どうせ時間の問題だったんだし遅かれ早かれ サンノミヤ令嬢としてアタシ達の監視下で生きる事になるんだしね。』
早島看護婦の顔を被り、本物の早島早紀を羽交い締めにする女性に諭しながら、自分の顔を引き剥がす「女性患者サンノミヤ」はやはり黄泉の世界の住人になってしまっているのか、その引き剥がされた皮膚からは一滴の血も滴ってはこない、、、だが!
読者はすでに予見していることであろう、その科学の皮膚の下から現れたのは、まぎれもなく生きた女性、、あの看護婦長その人だった。
今や看護婦 早島早紀は、妖しの世界の蜘蛛の網にかかった、いたいけな獲物でしかなかった。白い看護婦服のスカートからこぼれるナースストッキングに包まれた脚を惜しげもなく さらして、どんなに暴れて抵抗しようと2人の魔手から逃げる事は出来ないのだ。
「ぐふうぅぅん、ああっあふっ、、 」
『まだしばらくは病院内にいてもらうんだから猿轡はしっかりしておかないとね、本当は麻酔注射の方が簡単なんだけど、貴女も事情を知っておきたいでしょうからね。』
すでに早島看護婦の大きく開けさせられた口の中にはぎっしりと包帯が詰め込まれ、その上を巾の広いメディカルテープが唇を中心にして交差して何重にも張り重ねられ、話声どころか呼吸までが危うくなっていた。
「ふむうぅぅ、うごっ!ふぐうぅぅぅ、、むふうぅぅぅぅう!!」
『ほらね、ふふふふふ・・・念入りに嵌めてあげたでしょ。でも、まだこれからですからね、、楽しみにしているのよ。貴女の新しい「お顔」、、被せてあげたらもっと美人になれるわよぅ。ふふふふふふ。待っていらっしゃいな。』
早島看護婦の鼻から漏れる押し留める事の出来ない鳴咽にも、何の感心も同情も見せずに、嬉々として何かの準備をする婦長の後ろ姿を睨みながら、悲鳴を上げたくとも、早島早紀の舌の動きや息の流れは口いっぱに押し込まれた包帯とメディカルテープに遮られて呻き声にしかならない。
そんな早島看護婦の呻き声に触発されたのか、ニセモノの早島は用意していた真っ赤なロープを握り締め、彼女を身動きできない様に縛りあげようと舌舐めずりをしていた。
純白の看護婦服の上から胸の上下にぐいぐいと食い込んでいく真っ赤なロープに、早島看護婦の猿轡の奥から吐息と鳴咽が漏れるが、ニセモノの早島はそんな事にもおかまいなしにヒジと二の腕にも縄を巻き付けていく。
『ほら、早島さん、、じゃなかったわ。サンノミヤさん出来たわよ。猿轡で膨らんだ頬でもサイズはぴったりだし、とってもよく似合うと思うの。ふふふふふ』
婦長はチャーミングだった早島看護婦の顔を驚く程に無残に変形させている猿轡を隠すようにして早島看護婦の頭から、用意した肌色の袋のようなフェイスマスクをスッポリと被せてしまって喜んでいる。
ブポッヘブプ、プリュリョ、、ベフベホッ、
ベポベベベリュ、、バリュリュュリュ
「う・・ううむんんんっっっ」
『 ほらほら、ここまできたら観念しなさいな。あぁら!とってもよく似合うじゃない。やっぱり骨格とか頭蓋骨の形状が似ていると違うわねぇ。アタシや荻野さんよりも凄くリアルよ。』
「!んんん、んふっうん、、、、ふーっうふう、」
早島看護婦は今、自分の頭と顔をスッポリと包み込んでいる物と、それに覆われた自分の顔を想像してゾッとしていた。それは悪夢などではない紛れも無くすでに黄泉の国の住人となり、この世には存在しない女性の顔に占領された早島早紀の心からの恐怖だった。しかも彼女の本当の顔は、そんな早島早紀の悲惨な姿を眺めて
妖魔の化身となって微笑んでいるのだから。
「今さら暴れたって遅すぎなのよ。少しばかり油断し過ぎだったんじゃなくって?アンタの正体なんて、こっちはすべて調査済みなのよ。・・・本当はね、このサンノミヤって患者が突然死なんかしなかったら、あなたには死んでもらったって良かったのよ。」
「・・むぐんうんぅぅぅぅっっ!!!!」
『そうよねぇ、サンノミヤさんが投薬ミスでショック死なんかしていなかったら、荻野さんもああして責任を取る必要もなかったし、早島さんもこんなステキな純毛のヘヤピースなんか被る事もなかったのよねぇ。。』
「!んんん、んふっうう・・ううむんんんっっっ」
「 あら?どうしたの?まだ すこし縄が緩いのかしら?」
縛られている早島早紀の瞳から明確に読み取る事が出来るのは、当惑と屈辱のこもった輝きだけだった。そんな彼女をからかうようにニセモノの早島が、その戒めをさらに引き絞った。
「ううううんん!むふっくむむぐっっ・・」
少しでも自由になろうと必死に もがきながら漏らす早島看護婦のかすかな呻き声と身体に食い込む縄のきしむ音が病室内に響く、、だが、厳重に縛られた真っ赤なロープは彼女の女體の上で微動するのみで緩む事はない。
「うむんんうんんっっ・・」
『じゃあ、移動しようかしら。ベッドに乗せてしまいましょ、早島さん、そっち側を持ってくれる?ベッドに乗せてしまいましょ。、ふふふふふ・・・サンノミヤさん、そこでゆっくりお休みしていてちょうだいな。』
「!んんん、んふっうん、、、、ふーっうふう、」
「あらあら早島さんったら、まだそんな声をあげて、、、でも、どんな大声を上げてもかまわないわよ。だってその猿轡なら苦しくて呻いているようにしか周りには聞こえないしね。」
緊縛と猿轡の拘束姿でベッドに身を沈める早島早紀、、、、そして婦長と共に その早島早紀に被虐と恥辱を強制している もう1人の女性、それも・・・・やはり「早島早紀」だった。
「ふうううぅぅ」
「婦長、、荻野さんには可哀相だったけれど、本部もうまい事を考えたものですね。」
『そうねえ、、薬を間違えてサンノウラさんを死なせてしまった荻野さんに責任を取らせたのは、たしかに可哀相だったけど、この病院の秘密を狙うスパイを利用して帳尻合わせをさせちゃうんだもの。』
「変装かあぁ、でもその特殊技術を応用したお陰で、この病院のグリーンクロス使用率がガタっと落ちたんですもの、人助けじゃないですか。、、この産業スパイも含めて。。」
『あははははははは、、、うまい事言うじゃない。この勝負、アタシ達がもらったような物かしら?あははははははは、、ねぇ?[サンノミヤ]さん?』
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