Tran-DS
The Side Story of Tolled Armor Tran-D
Chapter 4: Ragnus Heavy Industries
part7

「まったく、無理するから」

真沙緒はフェナの手に包帯を巻きながら愚痴をこぼした。
ステファンのレーザーブレードを握った時に出来たやけどはかなりひどく、所々うんでいた。
それを気にせず、キーボードを打ったフェナの手はぼろぼろになっているのは当たり前である。

「フィオもほったらかして・・泣いていたわよあの子」

さっきから小言を連発する真沙緒の態度はまるでティーンエージャーをしかる母親みたいだった。
それに対しフェナは無言に外を見つめるだけであった。
言っていることを聞いていないとわかると、真沙緒はため息を吐いた。
実際瀕死の状態からフェナはすごいスピードで回復している。
数日で歩くことが出来るだろうと医者は言っていたが、真沙緒は明日にでもフェナは歩き回るだろうと察していた。
包帯を止め薬箱をしまうと真沙緒はフェナの側により顔を覗きこむ。
相変わらずの無表情で無口のフェナはただほかに何かを考えているかのように外を見ている。

「はあ」

ともう一度ため息を吐くと真沙緒はテーブルの上においてあったバッグからラップトップを取り出した。
それを壁のコンピューターターミナルにつなげると電源を入れた。
HDDが機動する音がして、ラグナスのシステムにそれはログインした。
真沙緒がいくつかコマンドを入力するとそこに二機のTAのシルエットとデータが表示された。

「艦長からもらったトランゼスS、トランゼス、Tran-Dのデータよ。本当に動き回れるまでこれでがまんして」

フェナは関心がないかのように外をただ見ているだけである。
イルヴィ−ヌで見たフェナはどこかにいったようで、初めてハインラインに来たときと同じになっていた。
反応がないのであきれたか真沙緒は荒々しくジャケットを着た。
それについているロゴをみてフェナははじめて反応を示した。

「それ・・・」

「うん?ああ、これ?私たちが配属されたチームサテライトのものよ」

「私たち?」

「ええ、貴方と私そしてフィオも」

迷惑そうな顔をフェナがする。
その顔にくすっと真沙緒がわらうと部屋を後にした。
ドアが閉まるとフェナはずるずると力が尽きたかのようにベッドに横たわった。
顔は真っ青・・・・いかにも疲れている顔だ。

「ちょっと無理しちゃたかな・・・」

というとフェナはすぐに目を閉じ寝息を上げはじめた。
ラップトップのファンのモーターがただ静かに回っていた。

○ これでどうしろっていうの!という顔でミアは目の前のデータとにらめっこをしていた。
いつのまにか彼女のコンピューターに入っていたデータ、それはトランゼス、トランゼスSとTran-DSのものであった。
とりあえず宇宙用Tran-DのTran-DSに興味がわきそれの詳細をアクセス。

「ええと、宇宙用Tran-DS・・・スラスターとバーニアが多くなってバックパックも派手になっているなぁ」

シルエットと機体スペックを読みながらミアはコーヒーをすする。

「TVS搭載・・・・・TVS?」

聞きなれないシステムを見てもっと詳しいことを調べるとミアは声をあげた。

「こんなものTAにつかえるの??」

パイロットにかかるGなど機体の間接への負担、TAにこれほど悪い条件をだすシステムはミアは初めてであった。
だが、その代わりに信じられないほどの機動性がうまれる。

「・・・・・ふうん、遠距離兵器がメインか。白兵はと・・・・うわ・・・ひどい」

もし、グラプリングに出ていたら一回戦まけだということがすぐに分かった。
うーん、と少々考え、ミアはTran-DSをいじり始めた。
キーボードを叩く音がしばらく響く。
実行のキーをうつ音がするとちりちりという音を立てながらコンピューターが解析を始めた。
しばらくかかりそうだったのでミアは背伸びをした。
その時黄色と白の大きなものに彼女は襲われた。

「な!!」

大きな音を立てながら彼女は椅子と共にひっくり返った。

「いててて、こら!ラーズまた逃げてきたの?!」

まるで「そうだよーん」と言っているかのようにラーズと呼ばれた大鳥は鳴いた。
そして大きな翼をはばたきながら通路の奥の方へと逃げていった。

「こら!まてぇーー!」

ミアは大きな声をあげながら彼を追いかけはじめた。
コンピューターが解析を終わらせたとき、Willのロゴが出現し

-Thank You for your Cooperation-
(ご協力ありがとうございました)
といい、結果をとりデータを消したことはミアが傷だらけになってかえって来たとき初めてわかったのである。



「ふう」

真沙緒はヘルメットをはずしながら一息をいれた。
汗が出ているため、髪が顔に密着している。
束ねていた髪をおろし頭を左右にふる。

「はい」

ウォーターボトルをサテライトの作業服を着た薫が差し出した。
ありがとうというと真沙緒は喉を鳴らしながら飲みはじめる。
ラグナス重工セカンドファクトリィ。
ここの闘技場で真沙緒は模擬戦を終わらせたところであった。
勝敗は別にあるわけではないが、採点がついていれば真沙緒の勝利とはいえなかった。
自分と相手のTAはぼろぼろになっており、それを見てメカニック立ちは頭を掻いていた。

「あんたもなかなかやるね、ひさしぶりに燃えたわ」

相手をしていたもう一人の女性パイロットが話し掛けてくる。
真沙緒も楽しかったと言うかのように微笑みながら頭を軽く下げた。
相手の女性・・・ 『ガルトスの閃光』と知られるグレナディア・エルミーニャである。

「あんたがTran-DSのパイロットかい?」

いきなり聞いてくるグレナディアに真沙緒はかんたんに頭横に振った。
そう、とグレナディアがいうと目をさっきまで使用していた機体をみた。
少々なめて真沙緒にかかったため胸もところに大きなへこみがある。
小手調べでいこうとして彼女がナックルショットをうとうと踏み込んだとき、真沙緒が思いもしない反撃をしたため自分が一発まともに食らったのである。
世界は広いと彼女はこの時、肌で感じた。
その後は冷静に対応し、互角の戦いを繰り広げた。
その結果、両機のトランゼスはぼろぼろ・・・整備員を泣かせるような状態にさせたのである。
三人はだまったままそれぞれの飲み物を飲んでいる。
沈黙がしばらく続く。

「おお、おお、派手に壊したもんだぜ」

沈黙をわったのはその場に現れたリックであった。
三人は返事はしない。

「まったく、美人が三人沈黙か?空気がおもくなるぜ?」

「アーリーはどうしたんだ?」

グレナディアが口を開いた。

「やつならもうあがったよ」

そのあっけない答えにグレナディアはため息をついた。

「あの、アーリーさんて、あのTran-Dの?」

薫が興味深そうに尋ねる。

「うん?ああ、そうだが」

Tran-DSとトランゼスSの根拠となった、Tran-Dのパイロットアーリー・ラグフォード。
軍でもその名を知らない人は少ない。
あるグラプリングで彼の戦いぶりに見て感動した真沙緒の顔を薫はよく覚えている。
真沙緒が一層訓練に身を入れた理由は彼だと薫は分かっていた。
はやくその人とやってみたいと真沙緒は思っているに違いない。
少々嫉妬心をもちながら薫は真沙緒の顔を見た。

「?」

その心が見抜けなかったのか真沙緒は不思議そうに薫を見つめ返す。
口は相変わらずウォーターボトルのストローに付け水を飲んでいる。
その心境を見抜いたのかグレナディアが吹き出した。
そのため薫の顔は真っ赤になり、両手で顔を伏せる。
それをみてリックも吹き出した。
二人が笑う中真沙緒は首を傾げる。

「もう知らない!!」

おこったのか薫はぷいと振り替えり、ほかの場所へと歩きだした。

「薫!!」

真沙緒はそんな薫を呼び止めるが無視される。

「あんたも大変ね・・・」

二人の関係を見抜いたかのようにグレナディアが発言をする。
そ、そんなんじゃありません!という顔を真沙緒がするが、それは返って二人を笑い続けさせた。
図星なのか真沙緒はおどおどしてしまう。

「ぷくくく、・・・・今日はもう無理だから追いかけな」

リックが真沙緒にいう。
だからそんなんじゃないってば!と真沙緒は言いたかったが、言えない。
顔が真っ赤になる。

「ま、これからもよろしく!あんたのおかげでこれからが楽しくなるよ」

グレナディアがいうと更衣室に向かい始める。
まったく・・・と思いながら真沙緒は水を飲み干した。
そして自分も更衣室に向かおうとした時・・・・

「今夜いっぱいどうだ?」

とリックがナンパしているかのように真沙緒を誘った。



『わあああああ!大きな水たまりだーー!』

フィオが海を初めて見る人間の発言をいう。
実際本当の海を見るフィオにとって無理もない発言ではあった。

「ねぇ、彼女ぉ、お茶しない?」
「君ラグナスの人?君みたいな人がいれば職場は幸せだろうね」
「わたしと夕焼けのドライブにいかないかい?」

というようなナンパの発言にうもれ、フェナは日焼けし筋肉を見せ付けようとする男に囲まれていた。
無理もない話であった。
すらりとした体に男がみて唸りを上げるような半透けている白いドレスを着たフェナが無表情に砂浜を歩いている。
そこに着いた時、その格好をしたフェナを見て何十人の男が一瞬のうちに彼女を囲い誘い続けた。
それらを無視し、フェナは楽しむフィオを眩しく見つめていた。
こんなこと自分にあったのかとふと思った。

『母親らしいことして上げられなくてごめんね』

リキュールで母親が言った一言が頭を横切った。
自分といっしょにいるときいつも楽しそうなフィオをみて、フェナは自分はどうだったのであろうかと思ってしまった。
目覚めた時には母親と名乗る人に自分は育てられた。
いや、研究の対象となった。
毎日行われる検査、模擬戦・・・・
感情が消されたフェナになんの不満はなかったが、その人は常に自分のご機嫌を聞いていた。
なにか欲しいか、実験がつらくないとかいつも聞かれていた。
フェナは首を縦に振ったことはなかったがその人が見せる態度が不思議であった。

『フェナーー!水がしょっからーーい!!』

海水をがぶっと一気飲みしたフィオが歪んだ表情で叫ぶ。
それがなぜかおかしくフェナはくすっと笑う。
その笑いがあまりにもかわいく、彼女を囲んでいる男のむれは見とれてしまう。
鼻の下を伸ばしていた彼らが我に返った時フェナはフィオのそばに駆け寄っており、顔に付いていた砂をおとしていた。

「あ、あの・・・お子さんで?」

一人がおどおどと聞いてきた。

「・・・・・・・・ええ」

しばらく考えてからフェナはフィオを我が子と認めた。
それを聞いたとき男達の顔は真っ白になった。
そしてまるで敵から逃げるような鳥みたいに砂浜へと四散する。

ばしゃばしゃと水しぶきがあがりフェナとフィオはお互いに水をかけてた。

『やったなー!この!!』

フェナに負けんとフィオがせいっぱいに海水をすくいフェナはほうへと投げる。
フェナも大きな笑顔を見せ対抗する。
白いドレススカートは濡れており、さらに透けてた。
その下にある物を期待して男どもは目をこらすが、残念。
フェナは下に白いボディースーツを着ており、肝心なところがみえない。
まるで戦争の敗者かのように彼らは首をさげ、ほかの獲物をさがそうとする。
残った数人はただフェナの笑顔だけで満足しておりに二人を見続けた。
岸に戻ってはサンドキャッスルを作るなり、波から逃げてたり二人は楽しんだ、まるで本当の親子みたいに。
しかし子どもは大人より数倍のエネルギーをもっていると言うことを実証するかのようにフェナは力尽きた。
砂の上で大の字で倒れる。
砂が髪と交じりあう。
その上にフィオが体を降ろす。
フェナの胸に頭をおき、枕のようにする。

「いた!」

ちょうど新しい傷にフィオが頭をおいたため痛みが生まれ、フェナの顔が歪んだ。

『あ、ごめん!』

申し分けなさそうにフィオが顔を上げた。
フェナは顔を横に小さく振るとフィオの頭を再び自分の胸の上に寝かせ頭をなでた。
フィオは気持ちよさそうに足で砂と降りげる。
二人はしばらくそのままじっとしていた。
やがて日が暮れはじめ、太陽が海に沈みあたりは真っ赤に染まる。

『わあああ・・』

きれいだねというフィオにフェナは小さく微笑む。
今日は楽しかったと正直にフェナはおもった。
帰ろっかというフィオに同意しフェナはフィオと共に波を足に当てながら町へと向かい始める。
その時、

「中尉?」

と自分を呼んでいるかのように男の声がする。
聞き覚えがある声だ。

「フェアランス中尉!!!!」

え?とフェナが振り替えるとそこには若者が信じられないと言うような顔で自分を見ている。

「い、生きていたんですか?!」

半泣きそうな顔で彼は自分を見ている。
その顔を認識したときフェナの頭のなかで白いひかりと共にいろいろなイメージが浮かんできた。
目の前の男といっしょに戦車にいるところ、いっしょに食事をしているところ、唇を重ねているところ。
そして同じ床に寝ているところ・・・・・・

「う!!!」

両手で頭を抱えフェナはひざに付く。
なにかの記憶が蘇るかのように。

「フェ、フェアランス中尉!!ほんとうにそうなんですね!?」

男はフェナの肩を掴み揺らす。
そしてまるで深い記憶の中から掘り出したかのようにフェナは目を半開きにし、その男の名前をよんだ。

「アーリー・・・?」
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