Tran-DS
The Side Story of Tolled Armor Tran-D
Chapter 6: The End and a New Beginning
Part 14
狭いコクピットの中でアーリーは忙しくTran-Dの設定を行っていた。
戦場まで後少ししかない。
ラグナスを発進してから、トイレと軽い食事意外はずうとこのコクピットの中だ。
果たしてあそこではなにが起こっているのか。
退去する戦艦の様子を見ればこの先はどんなものかある程度想像できた。
アーリーもかつてキラードールの群れと戦ったことがあった。
しかし、キラードールという人型兵器に対抗する武器はエルファ防衛軍にはなかった。
無駄とも感じながら彼は戦友達と必死に抵抗したのだ。
その中にあの人もいた。
戦車をうまく扱い、キラードールをしとめていった彼女。
いま、その彼女が戦っている場所に自分も向かっている。
足手まといになってはだめだと自分に言い聞かせながらアーリーは作業を続けた。
「アーリーさん、システムチェック完了です。 異常ありません」
ハッチの上からチェックリストを胸に抱いたフィリスが報告をしてきた。
了解といいながらアーリーは戦闘用パターンのチェックをした。
すべて自分がこの機体に関ってから作ったパターンばかり。
はたしてそれをうまく使えるかどうかアーリーは自問する。
なにせ、いままでは一体のキラードールの相手をしてきた。
複数の相手に自分はどう戦うのだろう?
「あの…?」
「あ、な、なんでしょう?」
「……」
フィリスはなにか思いつめた表情でアーリーを見つめていた。
アーリーはそのまま彼女を見つめ返した。
彼女がなにをいいたいのか、その顔をみて分かった。
(無事に帰ってきますよね?)
そういう顔だった。
そんな顔を見たくない。
だから…。
「大丈夫ですよ。 自分でぼくをスカウトしたんでしょう? 自分の判断に自信をもってください」
フィリスはその言葉を聞くと一瞬目を丸くした。
しかし、それも束の間。
「ええ、信じてますよ」
なにを?という質問はしなかった。
再び沈黙が二人を訪れた。
なにげに二人はお互いの距離を小さくし始める。
アーリーは自然に手をさし伸ばそうとした。
『恋人の真似はこの一件が終わってからしてほしいな』
見ていたのか、リックの声が二人の間に割って入ってきた。
そのため二人はめるで催眠術から起こされたかのように反射的にお互いに背中を見せた。
(あの野郎・・・)
とアーリーは思いながら、差し出そうとしていた手を引っ込んだ。
フィリスはチェックリストのボードを胸に力いっぱいに抱き、耳まで顔を赤くしている。
「あ、あのそれじゃ、私…」
「あ、ああ」
頭を掻きながらアーリーはコクピットに座りなおした。
最終チェックをさえ、コクピットを閉じようとした時だった。
「アーリーさん!」
フィリスがもう一度ハッチの中を覗いた。
「は、・・・・・・!!!」
返事をしようとした時、アーリーの額に柔らかい物が触れた。
「それではがんばってきてくださいね!」
顔をさらに赤くしているのか、フィリスはアーリーの答えを待たずに、外側についているハッチの開閉スイッチを押した。
暗闇がアーリーを一瞬にして包みこんだ。
しかし、それも一瞬。
ハッチが閉まったため、システムが起動状態に入った。
Please Enter Your Password
「Tran-D 起動!」
Password Accepted
Initiating Start Sequence
Evetoll 01 "Tran-D.α"
Fairlance [E_TRON] System Activated
Checking Systems........All Green
Stand Up System "emeralda" start
Life Support.......Online
Sensors............Online
Weapons............Online
All Systems Nominal
Loading Weapon and Attack Pattern Data...Complete
リアクターの鈍い音がコクピットに伝わり、Tran-Dに火が入ったことを教える。
起動シークエンスが終わったと同時にTran−Dの両目が一瞬光る。
「リック、後どれぐらいだ?」
『ああ、もう少しなんだが…』
「が…?」
『向こうが歓迎してくれるようなので…』
なので、と終わった瞬間、アーリーの体は急に傾きはじめた。
同時に振動が襲いかかる。
「おい!」
『お出迎えだ!なんとか届けてやるから、おまえはいつでも出られるようにしておけ!!』
外がどうなっているのか、アーリーは見えない。
しかし、状況が悪くなっていることはたしかであった。
そして、今、輸送機の外には虫達が弱い獲物を発見したように襲ってきた。
小さい爆発が輸送機の周りでおこり、機体を揺らしていた。
さすがリックというべきか、直撃はなく、輸送機は確実に島へ近づいていった。
虫達がそんなことを許すわけがなく、撃ち落せないならまた違う手を出してきた。
そしてその行動はある程度成果をあげた。
バカン!
『こ、こいつら!!体当たりし始めたぞ!』
前とは比べられないほどの衝撃が機体を襲いはじめた。
虫達は容赦なく輸送機に体当たりし始めたのである。
みるみるうちに機体のところどころがくぼみが出来始める。
『く!速度がおちてきている!このままじゃ…!!』
アーリーは下唇をかんだ。
いまは自分はなにもできないのかと叫びたかった。
しかし、それは無駄であることも同時に分かっていた。
だから、リックの腕を信じるしかない。
衝撃が襲う中、アーリーは自然とコントロールステッキを握る手に力を入れた。
そして今度はいままでとは比べ物にはならない振動が襲った。
機内の警報がなり、格納庫は赤い光が点滅し始めた。
『エンジンが!!』
リックは悲鳴に近い声で叫んでいた。
おそらく虫がエンジンに突っ込んだんだろう。
輸送機にある四つのエンジンの中のひとつが炎を上げながら燃えていた。
真っ黒の煙が一筋の線を戦場の空の上で描く。
しかし、それで虫が猛攻を止めず、衝撃が止まらない。
このままでは…。
いままで輸送機が破壊されていないのが奇跡に近い。
果たしていつまで持つかはわからない。
再び先ほどと同じような衝撃が機体を襲う。
エンジンがもう一基やられたのであろう。
リックの叫びが通信機から伝わってくる。
そして、絶叫に近い声が通信機から聞こえてくる。
「これでおしまいか・・」
アーリーは目を硬くつむり、これから自分を襲う落下感と最後にこの世から自分を消す衝撃に備えた。
しかし、それはいくらまっても来なかった。
『こちら、ハインライン所属レイピア隊! 民間の輸送機がこんなところでなにをやっている!』
この声を聞いたとき、アーリーはとっさに神に感謝した。
おそらく、無謀に戦場に突入してくる輸送機を見た戦闘機が不審に思って近づいてきたのであろう。
機体を襲っていた衝撃は嘘のように病む。
『そういうことだったら、そこまで送ってやるよ!!しっかりとついてこい!』
リック、いや、フィリスが事情を説明したのか、レイピアのパイロットは輸送機の護衛に付くといった。
そして、また時間がぜぎ…、暗かった格納庫に外の光が広がり始めた。
『悪いが、おまえを下ろしたら、俺達はすぐにここから脱出する』
申し訳なさそうな声でリックがいう。
「それでいいさ…。後はおれが仕事をしてくるまでだよ」
『ああ…。言わなくても分かっているだろうけど…』
「はいはい」
『お兄ちゃん!がんばってきてね!』
ミアの応援の声と共に格納庫に警報がなった。
赤かったクレーンの光はグリーンに変わり、Tran-Dは徐々に後ろへと加速していった。
そして、ハッチから放り出されたとき、アーリーの瞳には広大な島の姿が映されていた。
○
狭い通路。
そしてその通路がぐにゃぐにゃと続く。
壁のひとつをたよりに進んだら、ぜったいに出口にでる。
そういうこと昔いっていた人をグレナディアはいまう怨んでいた。
「く!一番機!援護をしつつ進め!」
暗い狭い通路は待ち伏せにとって最高の条件であった。
グレナディアの部隊は進入したのはいいが、ナビゲーターは何故かいかれてしまい、迷っていた。
「このあたしが、こんなところで!」
叫びながらグレナディアはトリガーを引いた。
それに答え、自分がのっているTran-ZSが装備している機銃が咆哮と閃光をあげ、角に隠れようとしたキラードールに命中した。
とっさにグレナディアは同じく角に隠れた。
次の瞬間爆風が通りすぎた。
しかしすぐに通路に移動しない。
機体の手を出すと、そこから細い線が現れ、角のぎりぎりのところでその先端が伸びる。
カメラがついているそこから敵影らしきものは映されなかった。
前進!という命令を器用にTAの指で隊員に出す。
5機のTAが組んでいる部隊。
グレナディアを中心に前方に二機、後ろに二機。
もちろん、狭い通路であるため、十分な間を取って進む。
内部情報もないのに、指定の場所へ行って、弾頭を設置し、離脱。
無謀な作戦である。
だから、腕の立つ、かつ立候補したものしかこの作戦に加わってない。
だが、五隊につき5機。
キラードールの巣であるかもしれないのに、この数ではとも言いたくなる。
それに今はナビゲーターがいかれているため役に立たない。
TAに付いてオートマッピング機能だけが心の安らぎになっている。
進んでいる先になにがあるのかはわからないが、進んできた道はしっかりと記録されていた。
おかげで帰り道だけは分かる。
弾頭の爆発前に出られるならの話だが。
胸の高鳴りが収まろうとしていたとき、前方から何かが光った。
「く!」
とっさに前方の二機がシールドを構えた。
光はシールドを捕らえ、その衝撃で一機が床になぎ倒される。
『くそ!!』
パイロットは舌打ちをし、機体を立てなおそうとするが、最初の一撃を追うようにもう一発が襲う。
火花が飛び、その機体の足が吹き飛んだ。
無事だったもう一機は闇雲に兵器を撃ちまくっていた。
弾丸が、壁、天井にあたり、その光が通路先にあるものの姿を照らした。
二機のキラードール。
「またか!」
いいかげんいらいらし始めたグレナディアの体は脳が考える前に動いていた。
「グレナディア!」
グレナディアは聞く耳が持たないように敵機に突っ込んだ。
その動きを予想していなかったのか、前に立っていたキラードールは一瞬たじろいだ。
その隙をグレナディアが見逃すわけがない。
勢いに任せて彼女はTran-ZSの鉄拳をキラードールの顔面にたたきこんだ。
もちろんそこで終わらない。
拳はあまりの勢いのため、キラードールの頭部を貫いた。
グレナディアはそのまま配線か、何やらを掴ませ、キラードールを振りまわした。
反撃をしようともう一機のキラードールが胸に隠されていたバルカンを砲を放つ。
グレナディアは捕らえたキラードールの体をうまくふりまわし、弾丸を受け止めた。
自分がなにをしたのか気が付いたキラードールは一瞬攻撃をやめ、一歩さがった。
また、隙を作っているところを見たグレナディアはそのまま思いっきり頭部がないキラードールをもう一機の方へ放り投げた。
爆発がおこり、それがさらにもう一機のキラードールの足止めになった。
スラスターを前回にするとグレナディアはプラズマソードを装備した。
鈍い衝撃音がし、グレナディアの機体はキラードールの反対側で動きを止めた。
キラードールはゆっくりと振り向き攻撃を与えようと腕を振り上げた。
しかし、動きはそこでとまった。
次の瞬間、キラードールの体はある一線上でずれ始めた。
そして火の玉と化した。
『なんというむちゃをするんだ!』
通信機から怒鳴り越えがした。
自分はMKVI弾頭をつんでいて、やられたらどうなるかはわかるだろうとお説教が始まる。
こんなときにお説教はないだろうとグレナディアは言いたかったが無視した感じで再び進みはじめた。
そのときである。
『こ、こちら、だ・・・5・・・い!』
『て・・・・げき・・・うけて・・・いる!』
『うわあああ!!』
部隊の一隊がピンチに陥ったようだった。
「どうした!おい!」
グレナディアは通信機に怒鳴ったが変じは帰ってこなかった。
そしてそのとき、周りが揺れ始めた。
「ま、まさか!!」
叫んだときにはすでにおそく、揺れと先ほどのキラードールの爆発で地盤が弱くなってしまった通路が音もなく崩壊した。
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