銃を構えて睨み付くフィオが目の前にいた。
息があらく、体中がいたいのか、もう一本の腕で肩をかばっている。
「よくも・・・よくもよくもよくもよくもよくもぉおお!」
反応できる前にフィオはフェナを銃の柄で殴った。
「・・・」
鉄の味がフェナの口の中に広がる。
口を吹きながらフェナは立ち上がった。
そして一気にフィオに近づいた。
ぱん!という乾いた音が通路の中に響いた。
しかし自分を見ているのは睨め付けるような目ではなく、泣く寸前の目だ。
フェナは精いっぱい涙をこらえていた。
頬を伝うほど、目は濡れており視界がぼける。
だがここでフィオに涙を見せるわけにはいかない。
「なんで!なんでそんな目でみるの?!私はあなたを殺そうとしるのよ・・・!」
まただ。
「私をやらないと、いつまでも・・・ぐ・・私は・・・・」
フィオの発言に矛盾が生じてる。
「ごほごほ・・・・ううう・・・」
やっぱり、とフェナは確信した。
コンフィデンス・バーンが当用されているのだ。
しかし、その効果が完璧にフィオを支配してない。
なにか、彼女の奥で抵抗しているのかもしれない。
普通なら、与えられた命令、誘惑に支配され、その先にある快楽にたどり着くまでどんな手を使って指名をより遂げようとする。
そして、それが失敗したときは死しかまっていない。
だから、だからフェナは・・・。
「撃ちなさい」
「え?」
「私を殺しなさい」
フィオは困惑した表情をした。
だがそれは一瞬だけ。
苦しんでいる様子もすぐに消え、変わりに不適な笑いが生まれる。
「ふふ・・・そう・・・・」
ドン!
「・・・!!!」
べき。
衝撃を食らった瞬間、なにかが砕かれる音がした。
ドンドンドン!!
パルスガンから発射される光弾はフェナを地に倒れることを許さなかった。
血肉が焼かれるにおいが鼻につく。
それが自分のものだとフェナは気がつかない。
銃声がとまったとき、体中から煙をあげ血を長すフェナがたっていた。
次の瞬間口から大量に黒っぽい液体をはきだし、フェナは崩れた。
どす黒い血の池が床に広がっていき、銀髪を黒くそめていく。
「はは!あはははは!!」
達成感におぼれフィオは笑い出した。
「やった!や・・・・」
だが喜びも束の間。
急に体中に痛みが生じる。
息ができなくなり、体がはげしく震えだした。
「うぇ・・・げぇーーー!」
腹の中身が逆流し、口から吐き出される。
「う、うがぁああ!」
頭が割れると思わせる頭痛が襲い、息が止まる。
達成感の変わりに心は絶望、自己嫌悪、罪悪感、悲しさ、寂しさという負の感情にいきなり包まれた。
目から涙が流れ、鼻から血。
いきなりの変貌に体が耐えられなくなり、フィオは白目をむきながら、フェナと同じく床に突っ伏した。
(こんな…、私は…フェナを…。幸せになるはず…)
だが自分が今感じているのは寒さだけであった。
暖かさを求めていたのに、寒い。
何故、何故、何故?!と心の中で絶叫しながらフィオの目に闇が訪れた。
息が止まる。
二人とも動かない。
死んだかのように。
その時である。
Tran−DSzのコクピットハッチが開き、シルフィードが飛び出してきた。
「くぅーん」
フェナとフィオに近づき、なんとか二人を助けようと仰向けに倒すとその片足を彼女たちの上においた。
爪を立てると爪の先から針が現れた。
それを二人の体に突き刺し、透明な液を注入しはじめる。
シルフィード自身から二人へ大量のナノマシンが流し込まれる。
そのナノマシンはすぐに血流を利用し、二人の体の修復にかかった。
このためだったのかもしれない、フェナがシルフィードをコクピットに閉じたのは。
Calamiteにも一切手を出すなという命令をだしておき、すべてが終わった時にハッチを開けることにしていた。
しばらくして、フェナの指がぴくっと動いた。
ゆっくりと目を開けるとシルフィードが顔を嘗め回していた。
「ありがとう・・・」
といいながら体を起こそうととするが、動けなかった。
全身打撲、肋骨が折れて、内臓破裂もおこしているらしい。
動けるまではもう少し時間が必要だった。
痛みをこらえなんとかフィオのそばにいく。
フィオの口は大きく開き、目は白くなっていた。
無残としかいいようがない。
「薬の効果は排除しても、改造のほうにはまだ手を出さないで・・・」
「わう」
わかっているようにシルフィードは答えた。
「ごめんね・・・。こうするしかなかった」
涙がたまり、それが自然に頬を伝う。
口が震えだし、泣き声をあげたくなった。
「ごめんね・・・ごめん・・・ごめん」
何度も何度もあやまる。
許してくれなくてもいいとも思う。
小さな声で泣き、フィオの顔を覗き込む。
そのとき、ぴくんとフィオの口元が動き、息の音が聞こえる。
「よかった・・・」
とりあえず、生命を取り留めた。
精神的のほうはどうだろうか。
いくら体を直しても、精神が回復してくれないとどうしようもない。
フェナは手を伸ばし、フィオの手をとろうとした。
だが・・・。
「ふふふ、感動的ですねぇ」
その声を聞いた瞬間フェナの体は凍り付いた。
「やっぱり失敗しましたか。 ふふふ、計画どおりです」
「!?」
「くっくっくっく。そんなに驚かなくてもいいじゃないですか。 いや驚いてくれないと困るかな?なんといったって恋人との再会ですからねぇ」
「計画ってどういう意味なの?!」
「ふふふ、動けないのに抵抗はしないほうがいいですよ。 というかすでにできませんね。くくくく」
「質問に答えて!」
「簡単なことですよ。あなたがここにおびき出すために餌として使った・・・ということです。もちろん他にも色々楽しませていただきましたが」
「あなたって人は!」
立ちあがろうとフェナは心見たが体がまだ動かない。
フェナの行為をみてステファンは彼女の背中を踏む。
踵で圧力をかけ。
「ぐあああああ!」
「動かないでといったはずですよ?」
「ぐるるる!!」
「あなたですか。まったく犬畜生のくせに私に傷を追わせるとは。その罪は万死に値します」
パン!
銃声がなり通路の中を響く。
そしてシルフィード、いや、シルフィードだったものは大きく空中に舞い通路に叩きつかれた。
赤いものがそれから流れ出した。
「シルフィード!!」
「ふん」
「く!」
「さて、お二人に来てもらいましょうか」
ステファンが顎で合図すると人が何人も現れフェナとフィオを担ぎだし始めた。
「面白いものを見せてあげますよ」
「Calamite!」
フェナは叫んだが・・・、Tran-DSzは動かない。
-Unable to Comply. Unable to Confirm-
「くっくっくっく」
「な?!」
「あはははは!そいつは破壊しろ!」
ステファンの命令に答え、扉が二つ開きそこから白銀のキラードールが現れた。
そしていきなりTran-DSzに発砲した。
PDSがそれを塞ぐが、Tran-DSzは動かない。
なんで動かない?!と叫ぼうとしたとき、フェナは自分とフィオをつれていくものたちの顔をみた。
「???!!!」
「ふふふ・・これではあれもどうしようもないでしょう?」
「く! Calamite! パターンD! コード FαF! Execute!」
「無駄といっているのがわからないのですか?」
ステファンは苦笑しながらフェナを見るが、その笑みはすぐに消えた。
-Roger, Passcode Confirmed. Executing PPattern D-
「なに?」
何故か今度はCalamiteが答え、襲ってくるキラードールに対し、動き攻撃を仕掛ける。
「ふん」
顎で再び合図をすると人影が動いた。
「Calamite、Self Destruct Sequence Code FαF Execute」
フェナと同じ声がしその命令を言い伝えた。
しかし・・・。
-Unable to Comply. Passcode incorrect-
「ふん」
ぼぐ!
「あぐ!」
「あなたは本当に気が強いですねぇ。仕方がありません。あなたの主がだれなのかもう一度教えなければならないようです」
「げほ!」
フェナの口の中に再び鉄の味がする。
傷ついている肋骨を狙ってステファンは殴ったのである。
その痛みでフェナの視界が黒くなっていった。
「いやいや、なにせ7年ぶりですからねぇ。楽しみです」
7年ぶり?
どういうことだろう?
それにこの人達はいったい。
聞き出すことが出来る前にフェナは気を失った。
○
おかしい。
決死の覚悟で突入したグレナディアが最初に思った言葉である。
敵の姿がどこにも見えない。
センサーによると中心がこの扉の向こうのはずなのに、それを守るべきものの姿が見えない。
グレナディアにとって敵が襲ってくるほうを願うばかりだった。
これでは君が悪すぎるのもいいところだ。
ちょっと脱力感を感じながらグレナディアは周囲を警戒した後プラズマソードを構えた。
そして最後の扉・・・と祈りながらそれを引き裂いていく。
ゆっくり、ゆっくりと円を描いていく。
ここまで隠されていた扉をいくつ破ってきたかわからない。
だから今回は本当に最後にしてほしかった。
ガコン・・・。
静かな音で切り開いた扉が倒れていく。
そしてそこには、一つの狭い部屋があった。
なにもない・・・?
反応はここから出ているはずだった。
しかし・・・どういうわけか、温度は低い。
「なんなんだよ、いったい」
頭を掻く仕草をし、なにがどうなっているか理解しようとする。
そんなとき。
ぴぴ。
「うん?な、なんだって?!」
部屋に生命反応ありということが報告された。
部屋は暗く見えない。
グレナディアはソードを構えながら赤外線フィルタをかける。
いままでは温度が高すぎて意味が無かったから、切っていたのである。
部屋を簡単にぐるりと見まわすと、部屋の角にうずくまっている人間の形した熱反応があった。
ライトをつけ、それに近づく。
罠?と思うのは無理もない。
気を失っているのか、動きはない。
グレナディアは銃の弾薬確認をするとTran-ZSを方膝につかせ、ゆっくりと降りた。
そして二つの影に近づいた。
一人がもう一人をかばうように覆っているようだ。
「う!」
グレナディアは口に手を当てた。
それは二人がなにも着ておらず、皮膚が焼けただれたようになっていたからである。
「お、おい!」
一人を揺さぶるが、反応がない。
当然のことかもしれない。
放射能の火傷なのだから。
こんなとき、人というものはそれがどんな人間、敵だろうと、味方だろうと救いの手を差し出す。
グレナディアもそんな人間だった。
コクピットに戻り、急いで医療キットを取り出す。
そして、対放射能応急処置を行う。
この時代、核エンジンなど、核融合エンジンだので事故が起こらないわけがなかった。
放射能の影響によってもたされる人害があるわけだが、医療もそれに対処して時代だった。
ざっと見ただけで、二人は死に至るほどは浴びていないようだった。
しかし、一人のほうはほかに外傷があるようだったので、生命反応が弱い.
「まずい…」
グレナディアはその人の容態が良くないということが分かり、なんとか二人を運ぶ出すほうほうを考えた。
しばらく考えたのち閃く。
コクピットに戻り、つんでいるMKVI弾頭の箱をはずす。
そして、その中にある弾頭を取り出す.
「さて、これをどうするか・・・。あ、そうか」
もともと内部から進入した理由が破壊目的だ。
それなら、ここに設置すれば相手にかなりの打撃を与えられるかもしれない。
そういうことならとグランディアは弾頭を設置し、タイマーをかける。
そして、二人をなんとかその箱にいれる。
対放射能装備になっているこの箱ならこの部屋を出たときでも問題ないだろう。
箱を閉め、ここからどうやって出ようかと考えていたとき、壁のひとつが動きはじめた。
「げ!」
急いでコクピットに入り、ハッチを閉める。
放射能警戒モードにし、出口に戻ろうとするが・・・。
『ふはははは!かかりましたね』
「なに!」
『あなたもそこで死んでください』
壁が開きそこには反応炉らしきものが現れた。
びーびーびー!
放射能のレベルが致死に値するものだと教えられる。
「く!」
反射的にグレナディアは医療箱から対放射能の薬を投入した。
これでなんとかなるかもしれない。
しかし・・・。
「し、しまった」
自分のうかさにグレナディアはあきれた。
このレベルの放射能だと弾頭も無事にすむわけがない。
このまま爆発したら、自分も一たまりもない。
タイマーを切らないといけない。
しかし・・・。
「ど、どこだ?!」
上をみたとき、それは扉と共に収納庫へ姿を消した。
「くそおおおおお!!」
びーびーびーびー!!!
アラームが装甲が熱でとけ始めていることを示した。
まんまと敵の罠にはめられたのだ。
なにか、なにか・・ほかに手は無いのかと脳をフル回転にする。
そして閃く。
天の助けともいっていい。
核の事故、放射能の対処に対してTAも装備されているものがある。
「ええと、なんだっけ?ああ、もう、こんなときに!!しっかりと覚えておけばよかった!!」
TAの動力は核をつかっていない。
グラプリングではほとんどそんな心配がないので、グレナディアはいつもあんまり気にしてなかった。
たしか、ハインラインに便乗したときも研修という形でそれをやったことはあった。
それを気にしなかったことを今グレナディアは後悔した。
「あ、これだ!」
パターンを入力するとTran-ZSは指を差し出した。
そしてその先から白い、雪みたいな物質が放出された。
それが放射能をだしているものを覆う。
ピピ!
放射能がだんだん低くなっていることが表示され、グレナディアは一安心した。
しかし、まだ、ここから脱出することが判明していない。
「くう〜」
頭を抱え再び考えこむ彼女。
そんなときである。
『ガが…全機!警戒…して…ガが・・・』
通信?
「な、なんで?!」
外からの通信を受け取れる。
これはどういうことか・・・。
どこかに外に繋がっている場所があるということがわかる。
雪みたいな中和財を噴きかけながらTran-ZSを中心へと歩ませた。
そのときモニターに移った画像をグレナディアは自分の目を疑った。
蒼い空と雲があったのだ。
「あ、あははは!!」
それを見て彼女はつい笑いを上げた。
今自分が中和財を噴きかけているものの上に何かがあったが、それをTAがよけて進むほど十分な隙間があった。
中和財をたっぷりと中心に降りかけるとグレナディアは器用にその青空に綱っている「筒」を登り始めた。
距離ではジャンプを二、三回すれば出られるだろう。
そしてそれを実行に移す。
ジャンプを繰り返し、Tran-ZSは確実にその青空に向かって進んでいった。
『くくく・・・・』
通信機を伝い発せられた不適な笑いは彼女の耳には届いていなかった。
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