Tran-DS
The Side Story of Tolled Armor Tran-D
Chapter 6: The End and a New Beginning
Part 20
『ねぇ・・・』
「はい?」
『静か過ぎない?』
真沙緒は先ほどからある嫌な予感をアーリーに告げた。
「そうですね」
『それに連絡があった部隊がまだこない。どう見てもおかしい』
アーリーはどう答えるのか困った。
自分はこの状態を本当はどうも思っていなかった。
女性の勘なのか、TA乗りとしての経験からなのか、真沙緒はなにかを感じとっている。
アーリーはそれがちょっとだけうらやましかった。
情況をみて判断する能力。
彼はそれが無かった。
グラプリングで優勝したってそれは結局与えられた場所での戦い。
彼女のように戦場をTAで経験したものとは違う。
本格な戦闘は宇宙でしか見てないという彼女ではあったが、軍の訓練というのはリアルな情況を作り出す。
無数のバリアブルをいれ、パイロット達は自分でそれに対応していく。
アマチュアのグラプリングばっかりやっているアーリー。
いつだったか・・・フィリスが言った言葉を思い出す。
『ハードの力に頼ったパイロットなど、ラグナスでは必要としていないのですよ』
では自分はどうなのだろうか?
Tran-Dを与えられ、それでグラプリングで勝利してきた。
ハードに頼っていない。
そう言いきれるのか?
自分は今なにをしている?
改良されたTran-Dに乗っている。
あの時の相手だって、結局ハードの性能でなんとかなったようなものだ。
「くそ・・・」
アーリーはコントロールステッキを握る手に力を入れた。
『どうしたの?』
「え?」
『なにか迷ってる』
「い、いや、そんなことは・・・・ないです」
『迷っているんでしょう?』
「は、はぁ」
『年上の人にそんなことを言われると困るんだけど・・・』
「え”?!」
『くす・・・。もしかしてしらなかった?』
「あ、ああ」
『あははははは!』
真沙緒の笑う声がしっかりと聞こえる。
反論しようにもアーリーはなにも言えない。
『それじゃ、なにかな?』
からかっているとしか思えないが、今の声は真剣そのものだった。
「俺…、なんか情けなくて…」
『なにが?』
「簡単なことですよ。フェナさんと真沙緒さんはすごいことができるのに、自分は・・・」
『なーんだ。そんなこと?』
「そ、そんなことって!」
『ふう。 じゃあ言うけど、あなた自分が今の機体を乗ったときのデータ・・・みたことある?』
「い、いえ」
『ふーん。もしかして今までのことは自分の腕じゃなくて機体のおかげだとおもっているとか?』
「そ、そうです」
『やっぱりね』
「え?」
『内緒にしていくれるなら話す』
「はい」
『本当ね?』
「はい!」
『うん、よろしい。 今、フェナが乗っているTran-DSz。あの接近戦用のパターンとか戦闘システム、だれのデータが基本になったか分かる?』
「え?あの人の・・・」
『まさか…。彼女はほとんど接近戦なんて経験なかったのよ。もともとTran-DSは長距離兵器のテスト機だったんだから』
「…」
『それをあなたのTran-Dのデータを見て、後模擬戦をいくつか見て、彼女、私にそのデータを取り寄せていたのよ』
「まさか!」
『そのまさかよ。あの機体の接近戦の基本モーションプログラムはあなたの動きをベースにしているの』
「…」
『あ、信じてないでしょう?なんでフェナがミアさんを引き入れたかわからない?』
「そ、それって」
『うん、ちょっとずるい手だけどね』
「そんなこと…」
『うぬぼれる恐れがあるから、黙っているということだったんだけどね。 あなたはTran−Dの性能を、いえ性能以上の力をだしていたのよ』
「は?」
『そんなのを見て資料にしない人っているかしら? 現に私の機体だってそれがあるのよ?動かしやすいってありはしないわ』
「は、はあ」
正直どう答えていいかアーリーは分からなかった。
自分の腕がそんなに高いものだとは思わなかった。
いや、思えなかった。
だってそれならば、あいつだって。
『簡単にいうと、あなたの動きに機体がついていってない。これが本当のところかしら?あなたも思っているんでしょう?物足りないって』
図星だった。
Tran−Dはたしかに早い。
しかし、自分的にまだなにかが足りないというのが正直なところだ。
「そうですね…」
『ふふ。今あなたが乗っている機体はフェナがあなた用にチューンしたものだから結構行けるとおもう。ただ、急いでやったものだからまだまだと彼女はいっていたけど』
なにか引っかかっていたものが取れたような気分だった。
しかし、実感がない。
「実感がないんだけど」
『あるといけないから、彼女は伏せておいたのよ』
一本取られた。
そんな感じだ。
あの人はいつも一歩先をみていた。
そうアーリーは感じる。
『ふふ、自信が出た?』
「ああ」
『しっかりしないとフェリスさんにふらるよ?』
「え?ちょ、ちょっと!」
「あははははは!フェナの妹だからねぇ・・・。がんばってくれたまえアーリー君」
通信はそこで切れた。
本当にこの女性は年下のか?
とアーリーは疑いたくなる。
まるで彼女は姉のような人に思える。
『チャーリー部隊と合流します』
艦隊への報告として真沙緒の声が響く。
そのとき。
『ガ・・ピ・・・ガガ・・・に、・・にげろ』
「おい!どうした?!」
『や、やつら、強すぎる・・・・』
通信が途絶え、ノイズしか伝わってこない。
「・・・・」
アーリーは息を細めて周囲を警戒した。
「真沙緒さん!」
『うん、いるわね』
そのときである。
物陰からTran−ZSが動いている姿見えたのは。
「??」
しかし身長がちょっと高い。
あんなに高かったか?と疑問に思った瞬間それは姿を現した。
Tran-ZSの機体。
それには間違いないが、手足はなく頭部が胴体についただけのものであった。
そしてそのコクピットブロックには手があった。
手先を真っ赤にし、コクピットブロックを貫いたままになっている手。
その持ち主が姿を現した。
白銀の機体。
キラードール。
それはコクピット貫いたまま手にかざし姿を現したのである。
「「!!!!!」」
真沙緒とアーリーはその姿を見て言葉を失った。
背筋が凍る。
情況はさらに悪化した。
その一機の後ろに同じように無残な姿をしたTran-ZSのパーツを持ったキラードールが何十機と現れたのである。
アーリーの頭はまっしろになった。
通信機からはただ悲鳴の声で命令を出すオペレーターの声が聞こえていた。
『全機撤退!艦隊は急速に高度をあげてください!繰り返します…!!』
○
眩しい光が目に当てられ、フェナはゆっくりと目を明けた。
見覚えがない天井。
いや、天井は見えなかった。
まるで闇が自分の上に漂っているように見える。
「お目覚めですか?」
「!!」
その声を聞き、フェナは体を跳ね上げようとした。
しかし、なにかに縛りつけられており、顔だけがあがることになる。
「ふふふ、おかえり」
ステファン。
彼はにやにやしながらフェナを見下ろしていた。
だが、彼の目だけではない。
ほかに自分を見ているものがいた。
「な・・・」
「ふふふ・・・」
自分が自分をみていたのである。
鏡ではなく、本当に自分が自分をみているのだ。
それも何人も。
「く・・・」
「おっと違いますよ」
なにが違うのか。
自分が何人もいる。
同じ顔、同じ体、同じ髪。
これが・・・クローンでなければなんだというのだろう。
「彼女達は全員あなたそのものです」
「なにを!」
「いえ、正確に言えば、あなたの子供ですね〜」
目を丸くするフェナ。
その表情を楽しんでいるようにいやつくステファン。
そしてなんの反応も出さない彼女達。
精神がないような目をしている。
「どういうことか知りたいようですね」
「フィオは・・・?フィオはどうしたの?!」
「ああ、彼女でしたらあそこですよ」
ステファンの目が隅の方へいく。
そこにはオレンジ色の毛玉があった。
それがフィオだということにフェナはすぐに気が付けなかった。
壁にもたれかけ、体を丸くし、なにかぶつぶつといっている。
「フィオ!」
「・・・・・」
フィオは反応しない。
ただ、体を抱きながらぶつぶつ言いつづけていた。
フェナのところからフィオの目は見えないが、それは大きく開いていた。
涙が止まらず、目も泳いでおり、この世にはいないという感じだ。
「使い物にはなりませんから、後で始末しておきます」
「そんなこと!」
「許さない・・ですか?」
そう言った瞬間、鈍い音がした。
「あぐ!」
ステファンの拳がフェナの腹に深くめり込まれる。
「あなたはまだ自分の立場を理解してないようですね」
もう一発叩きこまれ、フェナの口から赤いものが含まれている黄色の液体が漏れ出す。
ステファンは何度も何度も拳を同じところに叩きこんだ。
そのたび、フェナの口がこぼれだし、その度それが赤いものとなっていく。
「う、うぐ・・」
「これはこれは、なにかが破裂しましたかな?」
込みあがってくる血が止まらず、フェナは息ができないほどに血を吐き出していた。
「さてと・・・・。その体はもう不用ですね」
え?という顔でフェナはステファンを見上げた。
くく、とステファンは笑うと、そばにある捜査パネルといじった。
「いやぁ、あなたを探すのに7年もかかっちゃいましたよ。まさか、あのような手で逃げるとはね」
ステファンが顎で合図をすると他の「フェナ」たちが動き出した。
他のパネルを捜査し、残りはフェナの頭を押さえつけた。
なにが始まるのか。
「ああ、ご自分では覚えてないのですね。くくく。いま思い出させますよ」
その言葉と同時に、ステファンの後ろに扉が左右に開きはじめた。
蒼い光が一斉に放射され、フェナは顔を背けた。
低い機械音が聞こえ始めた。
目が慣れはじめ、フェナは上を見た。
「いかがですか?」
「あうぅ」
フェナはそう答えるしかなかった。
今、彼女が目の前にあるものを見た者があったら同じように反応するだろう。
無数とも言える蒼く光る筒、カプセルが並んでいる。
その中には自分と同じ顔をしているモノが入っていた。
赤子の形、子供の形、そして成人したモノ。
しかし、ステファンが今前に立っていて姿が見えないカプセルが一つあった。
それもほかのものとの光り方が違うものだ。
なんだろうと不思議に思っているとき、フェナの頭はおさえつけられ、首の後ろがいじられる。
パシャという低い音がし、さらに小さな機械音。
「い、いや」
ぱちぱちという音がち、配線みたいなものがフェナに接続されていく。
「やめて・・!」
「『あなた』をつくるのには、あなたの卵子が必要でしてねぇ。でもその女性の体に魂みたいなものが抜けるとその卵子にも人格というものがないんですよねぇ」
腕を組みながらフェナを見下ろす、ステファン。
「それで遊ぶのもつまらない」
「や!」
フェナはなんとか逃れようと首を降りまわしたが、ほかの「フェナ」に押さえられた。
接続の作業が続けられる。
「ふふ、女性とは不思議なものです」
ウィーンという音で接続が終わったということが知らされた。
「さあ、見なさい。あなたが帰るべき場所を…」
フェナは見ないようにするが、髪が掴まれ頭を持ち上げられた。
そこには赤く輝くカプセルの中に、長い長い金髪の髪を流す、自分の姿があった。
「あ、ああ…。うわああああああああああ!!!!」
悲鳴を上げた瞬間フェナの視界はノイズが入ったテレビみたいになり、ぷっつりと消えた。
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