Tran-DS
The Side Story of Tolled Armor Tran-D
Chapter 6: The End and a New Beginning
Part 22
光は突然現れた。
それを不思議に思って見上げた人もいた。
しかし、すべて一瞬にして終わった。
空から光の柱が現れた。
それは容赦ない力で地に撃ちこまれた。
その瞬間、周辺のすべての生物が消滅させられた。
光の柱はしばらく地上に立っていると、急速にその高さを失って行く。
そして柱の先端が地上と接したした時、ドンという鈍い音がすると当時に巨大な衝撃波、いや、青白い火の壁がその地点から広がっていった。
それは街のビル、交通機関、車、住宅地をかなりの速度で通り過ぎる。
その後、街というものはすべて粉々に砕かれていった。
爆発は起こらない。
それは何故か。
すでに火の壁が超高温で焼いてしまったからである。
大きな街は、5分もしないうちに真っ白な野原に姿を変えた。
こうして、ある街が消滅したのである。
その映像を見せ付けられたフェナはそこは始めから街が無いものだと思い始めた。
それだけ、綺麗さっぱり消えていたのだ。
「すばらしいでしょう?」
フェナはただいやいやと頭を左右に降った。
どうしようもないのか?
こんなとき、あの人はどうしただろうかと思う。
(?)
なんでそんなことを思うんだろう?
フェナはふと、頭を両手で押さえた。
なにかが抜けている。
いや、抜けているのではない。
本来有るはずのないものがあったのに、それが今はない。
なんで?
フェナ自分がかつていた自分のもう一つの体へ目をやった。
しかし、そこには首に繋がっていた筈のケーブルが床に転がっているだけで、体はなかった。
「後方もなく粉砕する。後で移住するにはたしかに使えるわ」
「!!」
そこにいる者は全員驚いた。
特に驚いていたのは、フェナだった。
(あの声は・・・)
「でも無駄にエネルギーが必要だし、なにも残らないほど焼かれると、しばらく死の世界。機械の世界にするにはいいけど、私はいやね」
(まさか)
「緑がないとなると、この星は死の世界になる。後先を考えない馬鹿がつくるようなものね」
(でも…)
「誰だ!!」
ステファンは、今自分を馬鹿にしている声の主を見つけようとするが、なにせ周りには顔が同じな者しかいない。
「ここよ」
その声はステファンの真後ろから聞こえた。
振り向いた瞬間、なにか彼の顔に叩きこまれた。
「ぴぎゃ!」
情けない叫びと共に、ステファンは吹っ飛ばされた。
それに対して、他の者が動こうとするが。
「動かないで!」
その命令に彼女達はぴくっと震え、言われたとおり動かない。
「き、きさま・・・」
「うふふふ、始めまして」
「なに?」
そこに、ぼろぼろになっているはず、抜け殻になっているはずのフェナのもう一つの体が立っていた。
その体が発した声と口調に合う人物をフェナは一人しか知らなかった。
「かあさん?」
「お久しぶり、フェナ」
フェナと呼ばれたそのとき、フェナの目が熱くなった。
肩が震えだした。
「泣くのは後にして…」
相変わらず厳しいこという、フェナの母親、フェリス・フェアランスであった。
「貴様は死んだはずだ!」
「そう!死んだわ。あなたのせいで木っ端微塵にされてね」
そういいながら、彼女はステファンに近づき彼の腹に思いっきり蹴りを入れた。
「ぐふぁあ!」
「お礼を言うわ。わが娘の体を大事にとっておいてくれてありがとう」
もう一つ蹴りを入れる。
「ぐお!…く、気がついて…」
「それはそうよ、わが娘なのですもの。あの時、7年前、彼女の亡骸を見るとあるものが無いんのだもの」
「??」
「首の後ろにあるはずの母斑が」
その言葉を聞いてステファンは一瞬驚愕の表情を現した。
しかし、すぐにいつものの冷静な顔に戻る。
「くくく、しかし、この情況をどうするつもりですか?」
腹を押さえながらステファンは立ちあがった。
「フェナを返してもらうわ」
「あははは!どうやって?あなたは一人ですよ?」
「でもあなたも一人よ」
「なにをいっているんですか?」
「もうすぐわかるわ」
その時である。
静かだった機械音が急に激しくなったのである。
フェナのカプセルの液体が取り除かれていった。
「げほ!!」
肺に溜まった液体を吐き出そうとフェナは膝付いた。
そしてカプセルの扉が開いた。
その瞬間フェナの体はすぐにフィオのほうへと向かおうとした。
が、彼女の足はすぐに止まった。
「き、きさまぁああ!!!なにをやった!」
ステファンはコンソールでなにやら大急ぎで操作していた。
「なにって、みれば分かるでしょう?」
フェリスが飽きれた声で言い放つ。
「う!」
その光景はフェナ自身にとってあんまりいいものではなかった。
すべてのカプセルが赤く光っており、その中にいる自分の顔をもったもの達が「溶けて」いっているのである。
悲鳴もない、苦痛の表情もない。
ただ、蝋人形みたいに溶けていっているのだ。
すべてが終わったとき、すべてのカプセルには透明な液体しか残っていなかった。
そして、周りにいた、フェナもどきの数々も服をのこして、生物材料のスープとかしていた。
「くくくく・・・あはははははは!!私の美しい作品達が!」
「作品?あなたにとって彼女たちはそれだけだったの?!」
「そうですよ!私のかわいいかわいいペットだった」
フェリスは頭を押さえた。
「本来の目的を忘れてなにが、ペットよ」
フェリスは吐き捨てるようにいう。
そして音も立てずにステファンに近寄るともう一回、拳で殴り飛ばす。
ステファンは悲鳴を上げることも出来ず、何回か転がると白目を向いて、動かなくなった。
「ふん」
鼻でけなすと、フェリスはフェナのほうへ向き直った。
「か、かあさん・・・」
フェナは自然に彼女に抱き着いていた。
涙が止まらない。
フェリス、いや正確にはフェリスが入っているフェナの体がやさしくフェナを包んだ。
「あら、あら。相変わらず泣き虫ね」
「ごめんなさい、ごめんなさい」
「なにをいっているの?半分こうなったのは私のせいでもあるのだから」
7年前、よみがえったフェナに感情というものが消えていた。
フェナの精神そのものから、なにかが欠落していたのだ。
そこにフェリスは自分自身のコピーを入れていたのだ
そうすると、フェナが人形としてではなく、いつもののフェナに戻ると信じて。
しかし、結果はそううまくいなかった。
フェナはそのまま、感情を見せず、ただ人形のように動いていた。
フェリスはそのことでかなり落ちこんだ。
どのようにしたら、フェナは元に戻れるのかと考えあぐねた。
その答えは、やがて自分で姿を現した。
「でも、あなたがこんなに早く母親になるとは思っていなかったわ」
そういいながら、フェリスは溶けて消えたフェナもどきの服をとり、フェナに着せた。
べたべたして気持ち悪かったが、今はそうはいってられない。
「え?」
「ふふ、あの子でしょう?」
そう言われてフェナははっと思い出したようにフィオに駆け寄った。
そしてしっかりと抱いてやる。
フィオはまだうつろな目をし、なんの反応も示さない。
それでも、フェナは彼女をしっかりと抱いてやった。
自分の胸に彼女の頭をおしつけ、鼓動を聞かせようとした。
そうしたら、フィオが自分が死んでないと感づいてくれるかも知れないから。
フェリスは、二人に近づき、フィオを色々と調べ始めた。
目をあけてみたり、胸に耳を当てたりしている。
しばらくそうしてから、フェナを見た。
「大丈夫。安静していれば戻るわ。ただあなたがしっかりと傍にいないとね」
「うん」
フェリスはにっこりと笑う。
その顔をみてフェナはまた涙を流し始めた。
「でも、あなたもとんでもないことをやったものね。本当に死んだらどうするつもりだったの?」
本当は死ぬつもりだった、とフェリスは分かっていた。
正気に戻ればフィオが戦いつづけてくれると信じて。
フェナはいったいだれに似たんだろうと思ったりした。
(あの人にはそんなところはないから、やっぱり私かしら?)
とちょっと思って心の中で笑った。
短い沈黙が訪れ、二人はフィオを見た。
フェリスはなにも言わずに、フィオの頭をまるで自分の孫のようになでた。
しかし、やがて手を止める。
そして、再びフェナを見た。
今度は険しい表情で。
なにを言おうとしているのか、フェナにはわかっていた。
黙ってうなづき、フィリスとともに、パネルへ向かう。
「さて・・・やりますか」
フェリスは指を鳴らし、パネルを操作し始める。
なんで操作の仕方をしっているの?という顔でフェナは彼女を見ていた。
「簡単なことよ、『つながっている』間にここのことを全部ダウンロードしたの」
フェナの質問に答えながら彼女は操作を続けた。
フェナはもう一つ疑問をもっていた。
何故いま、彼女がかつて自分がいた体で動けるか。
答えは簡単だった。
自分がいなくなれば、自分の意識の奥にいた彼女が表に出る。
そうだと、体は彼女のものになる。
二重人格と同じことである。
表の人格がいなくなれば、裏の人格が体を支配するのだ。
ステファンにそれがわかっていなかった。
過去の自分がいたので本当は三重人格になっていたのだが、「彼女」とは通じたので人格は二つになったのである。
そして、今の体。
あの男のために、汚れたものだ。
7年前、どうにかして今フェリスがいる体に自分の精神を移し、逃げたのである。
そのため、今の自分の中にいた罪のない命が消えたが。
だが、そのことでフェナは気になることがあった。
何故、ステファンはあれほど、自分にこだわっていたのか。
フェリスがいった彼が忘れた本来の目的とは?
質問がどんどん出てくる。
答えはほしかったが、今は気にしているときでは。
この要塞をなんとかしないと、エルファの人は消滅する。
それをなんとしても止めなければならない。
「く!プロテクトが硬いわ」
作業をしているフェリスが愚痴る。
なんとか要塞を自爆させたいのである。
しかし、そうそううまく行かない。
ステファンは用心深いのか、一つ一つのコマンドにパスワードを入力するようにしていたようだ。
それを突破して要塞を沈黙させたいところだが、かなり時間がかかりそうだ。
手伝おうとするフェナをフェリスは制した。
「いまはその子のことを心配してなさい。私がなんとかするから」
フィオを抱く力が強くなる。
悔しさがフェナの胸に広がった。
見ていることしかできない。
だが、その間、色々話し合った。
「そういえば、あのアーリー君とは結局どうなったの?」
「か、かあさん!」
こんな話しをしながら時を過ごした。
対した時間ではなかったが。
フィオのこと、Tran-DSzのこと、いろいろ話した。
抱き付きたい衝動を押さえながら、色々話しつづけた。
フェナが一代決心してあることを提案しようとしたその時である。
「やった!!」
フェリスは嬉しそうに叫んだ。
プロテクトを破ったのだろう。
フェナも嬉しくなった。
これでなんとかなるだろうと。
しかし、世の中、それを簡単に許す物ではない。
部屋の奥から何かが光ったのだ。
その光から発せられた筋が、フェリスを捕らえた。
右腕が吹っ飛び、血飛沫が生まれた。
「がぁあああ!」
「かあさん!」
「く、くくくく。よくもやってくれましたね」
「う、うあ・・・」
腕があった肩を押さえフェリスは床にうずくまっていた。
フェナはフィオを連れて彼女の向かおうとした。
「くるんじゃない!あなたはフィオを連れてにげなさい!」
「で、でも!」
「ふふふふ」
ステファンはパルスガンを構えながら三人に近づいた。
そしてパネルについた。
「ほほう、見事です。しかし、これだと次の標的を決められます」
「や、やめ…」
「ふふふ!そうですねぇ、どこにしましょうか?」
ステファンはパネルを操作する。
瞬間、スクリーンが現れる。
そこには見覚えの町並みが広がっていた。
「トリエスタ…」
「そう!あそこです!我々に抵抗する拠点!それが消えればすべて終わりです!」
フェリスはその風景を見る。
一人の男の顔が脳裏に浮かぶ。
「あなた達の…」
すべてを分かっているようなそぶりでフェリスはいう。
しかし…。
「あ、その心配はいりませんよ。狙うのはラグナス周辺だけですから」
「く!」
「あーはははは!」
ステファンは作業にかかった。
止められない。
フェナはそう思ってしまった。
(とうさん!)
自分を捨てた人ではあったが、母が愛した人、いや、いまでも愛している人だ。
そんなことは・・・。
その時である、吹き飛ばされた、フェリスの腕が目にはいったのは。
ブレスレットはまだ無事の用だ。
腕を掴み、中心になるクリスタルを押す。
針が収められていく。
それを自分の腕にはめて、再びクリスタルを押す。
針が再び伸びる。
痛みが手首に生まれ、ノイズが頭の中で響く。
しかし、それも一瞬。
ノイズが消えたところで。
フェナはクリスタルに向けて叫んだ。
「Calamite パターンS!!コードFΩF Execute!!」
-Roger-
懐かしく感じる声が答えた。
次の瞬間、その場所の入り口が爆発した。
ぼろぼろのキラードールが倒れた。
そして、そこに黄緑に目を光らせるTran-DSzが現れた。
入った瞬間ステファンに向けてバルカン砲が放たれる。
「うおおおおお!!!」
ステファンは弾丸の雨に襲われ、パネルは蜂の巣にされた。
パネルは吹き飛び、ステファンは爆発に巻きこまれた。
Tran-DSzは三人の傍に移動し、手を差し伸べた。
コクピットハッチが開いた。
「わん!」
「し、シルフィード!!!」
「わんわん!!」
シルフィードは大急ぎで三人に向かった。
フェナはフィオを彼に任せ、フェリスを連れていこうとする。
「わ、わたしはいいから、早くいきなさい」
「で、でも!」
「いきなさい!」
「そんな、やっと…。やっと会えたのに!」
「私はもうそう長くないわ」
出血多量、それに内臓破裂。
いくら、ナノマシンが体内にいてもフェリスの体はもたない。
しかし、フェナはあきらめられなかった。
やっと、やっと憎むことができなくなったのに。
まだ、いっぱい話したいのに。
だから、フェナは彼女を一緒につれていこうとした。
コクピットは狭いかもしれない。
だが、それでもいい。
家族がそろうのだ。
「わんわんわん!」
早く!というようにシルフィードは吠えた。
なんとか、辿りついたところ、フェリスがフェナが先に入れといった。
フェナは情況が情況だけに、言う通りにした。
その時である。
「どこへいこうというのですかぁああああああ?!」
ステファンの叫びが煙の中で響いた。
そして…。
一筋の光が煙の中を走った。
フェナにとってこれからおこることはすべてスローで見ていた。
伸びる閃光。
それに気付く、フェリス。
彼女に突き飛ばされるフェナ。
そして光を体を張って前に出るフェリス。
びしゃ。
何かがはじけた。
フェナの顔と言わず体と言わず、まさに全身に、生ぬるい赤い血と肉片が飛び散らされた。
残ったものは前かがみに倒れた。
それを掴もうとするフェナの手は閉じられるハッチでさえぎられた。
-Pulling Out-
「かあああああああさああああああああああんんんんん!!!」
フェナが絶叫を上げる中、Tran-DSzはその場を脱出した。
『あなたに何も母親らしいことはできなかった・・・』
「いやぁあああああ!!」
いつか自分にフェリスがいった言葉がよみがえり、フェナはただ、悲鳴をあげるしか出来なかった。
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